広がるアグリテック、農業×ブロックチェーンの活用事例とは?

広がるアグリテック、農業×ブロックチェーンの活用事例とは?

はじめに

近年、農業分野でも積極的に先端技術が活用されており、IoTやドローン、AIと同様にブロックチェーン技術も導入されはじめています。

ブロックチェーンの活用方法としては、トレーサビリティの確保・高度化やそれにともなう農産物の産地証明、農家に対する支払いサイクルの最適化などが挙げられるでしょう。

そこで本記事では、農業分野における課題とブロックチェーン活用事例を紹介していきます。

農業分野における課題とブロックチェーン活用の可能性とは?

アグリテックが台頭、ブロックチェーンの活用事例も増加

近年、農業分野で新しいテクノロジーの活用が進んでおり、アグリテックと称されています。アグリテック(Agritech)とは、農業(Agriculture)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語です。

アグリテックの具体例としては、機械学習(AI)を活用した野菜の収穫ロボットが挙げられます。このロボットはケンブリッジ大学の研究チームが開発したもので、野菜の画像データを学習させたAIによって、収穫の可否を判断できるようにしています。その結果、野菜を傷つけずに切り取り、所定の場所に移動させられるロボットによる収穫作業の自動化が実現しました。

そのほか、重量10~20kgほどの農業用ドローンが、農薬の散布や野菜の種まきなどに使われる事例も見られます。またセンサーとの組合せも有効で、ドローンにカメラなどを取り付けて作物や土壌の観察などに利用することで、収穫量や品質の予測に役立てることも可能です。

アグリテックとしては上記のように、AIやロボット、ドローン、IoTセンサーの活用が目立ちますが、ブロックチェーン技術を農業に活用する事例も増えてきています。2020年には、1,000万ドル以上の資金調達に成功する企業も出てきました。

農業分野の課題は?キーワードはトレーサビリティの確保と高度化

農業分野においては、サプライチェーンにおけるトレーサビリティ(追跡可能性)の確保・高度化に、ブロックチェーンを活用するアプローチが有効であると考えられます。関係者や工程が多く、複雑化したサプライチェーンでは参加者間の情報共有に多くのコストが発生しますが、ブロックチェーンで構築された共有台帳を用いて情報共有・連携を行うことで、効率的な情報共有が可能です。

基本的に共有台帳の更新には、共有台帳のコンセンサスノードによるトランザクションの検証と承認が必要です。仮にサプライチェーンの主要な参加者(複数社)がノードを運用した場合、単独(あるいは少数)の参加者による不正は難しく、承認され台帳に書き込まれたトランザクションの事後的な改ざんも困難になります。

実際に農産物のサプライチェーンは国を越えて構築されているケースが多く、農産物が生産地から消費地に届くまでには農家や商社、ブローカー、銀行、税関、輸送業者、小売店などが多くの事業者が関与しています。

また、農産物が産地から消費地に届くまでの時間も輸入する国によって異なります。生鮮野菜の輸送では、海上輸送であれば1週間以上、航空輸送であれば1~2日ほど時間がかかるといわれているほか、農薬の残留率によって農産物の輸入が禁止されるケースもあるようです。

このような状況のもと、製品のコストや品質の不一致などによって、当事者が合意した内容と実際の取引に相違が生じ、トラブルが起きるケースも少なくありません。こうした農業分野での課題に対して、ブロックチェーンはトレーサビリティの確保・高度化という点で役立つのです。

実際にブロックチェーンは複数社間での情報連携に導入されており、貿易書類のデジタル化を行う「TradeLens」や衣料品メーカーなどが主導する「CHIP」などが事例として挙げられます。農業分野におけるサプライチェーンへのブロックチェーン適用も、アプローチとしてはこれら事例と共通していると言えるでしょう。

農業分野でブロックチェーンを活用するメリット

農業分野でブロックチェーンを活用する主なメリットは以下の通りです。

  • トラブルの原因や責任の所在を明確にできる
  • トレーサビリティの確保・高度化が消費者からの信頼獲得につながる
  • 小規模農家が融資を受けやすくなる

それぞれ見ていきましょう。

トラブルの原因や責任の所在を明確にできる

サプライチェーンの情報を可視化して追跡可能性を担保することで、農産物のサプライチェーン上で問題が起きた際に原因を特定しやすくなるほか、責任の所在が明確になります。

たとえば、食中毒などが発生した際の原因究明や対応を迅速に行うことが可能です。

トレーサビリティの確保・高度化が消費者からの信頼獲得につながる

近年、農産物(食料品)の産地や来歴の可視化に対して価値を感じる消費者が増えています。制度的にも「農産物の原産地表示」は後押しされており、たとえば日本では2017年より「原料原産地表示制度」が開始されました(加工品に使用された原料の産地を表示する制度)。

公表されている事例は少ないですが、実際に透明性の高い商品を消費者が好むことを示唆する事例もあり、たとえばフランスの大手小売チェーン「Carrefour(カルフール)」では、ブロックチェーンによって産地からスーパーまでの来歴が見える化された商品の売り上げがアップしたと報告されています。

参考:Carrefour says blockchain tracking boosting sales of some products

注意すべき点としては、「ブロックチェーンの導入=産地保証」という訳ではないことが挙げられます。ブロックチェーンは書き込まれたデータの改ざんを防止できますが、データの入力時点で人為的な産地偽装が行われると対応できません。

この部分に関してはIoTデバイスと連携させ、位置情報などを人手を介さず自動的に書き込める仕組みを構築することで、誤入力や改ざんリスクを最小限に抑えることが可能です。

小規模農家が融資を受けやすくなる

トレーサビリティが確保されサプライヤー間の取引が可視化されることで、信用力のない小規模農家であっても、融資を受けられるサービス開発が可能になります。

海外事例ではありますが、酒類メーカー大手の「AB InBev」はアフリカの農家に対して、自社のサプライヤーであることをブロックチェーン上のデータを用いて証明するシステムを導入しました。こうしたシステムによって、従来は銀行口座の開設が困難だった農家が銀行口座を開設でき、融資を受けられるようになります。

日本においても農業は収入の見込みが立てづらい業界だと言われており、ファイナンスの手段が増えるメリットは大きいと言えるでしょう。

農業×ブロックチェーンの事例紹介

ここからは農業分野でブロックチェーンを導入した先行事例を紹介していきます。

農産物プラットフォームを開発する1,000万ドル超を調達済みのベンチャー「GrainChain」

アメリカ・テキサス州のベンチャー企業「GrainChain」は、ブロックチェーンやIoTの活用によって、コーヒー豆や穀物などの農産物のトレーサビリティを担保し、農家に対する支払いを効率化するプラットフォームを開発しています。

プラットフォームは2019年にローンチされ、主として米テキサス州やメキシコ、ホンジュラス向けに展開されました。同プラットフォームはHyperledger Fabricで開発されていましたが、2020年3月にブロックチェーン企業Symbiontが開発するパーミッション型ブロックチェーン「Assembly」への乗り換えを発表されています。

なお、GrainChain社は2020年11月までに計1,070万ドルの資金調達を行っており、同年10月には大手決済サービスプロバイダ「MasterCard」との提携も発表しました。

農産物のトレーサビリティ担保、農家の収入増にも貢献

GrainChain社の開発するプラットフォームでは、IoTにより農産物の重さなどを測定してブロックチェーンに記録し、改ざん・不正が困難な共有台帳を実現することが可能です。

同プラットフォームは、これまで多数存在していた仲介業者を最小限に抑えて手数料を減らし、農家の収入増加に貢献しています。またバイヤーは、プラットフォーム上に登録された農家の中からより好条件の農家を選択できるため、より良い調達先を見つけるコストも削減できます。

StarbucksがMicrosoftと取り組むコーヒー豆サプライチェーンの可視化

「Starbucks」は2019年5月にMicrosoftと協力して、コーヒー豆のサプライチェーン・マネジメントにブロックチェーンを導入する取り組みを始めています。同システムは「Azure Blockchain Service」を利用して構築されており、パーミッション型ブロックチェーン「Quorum」を基盤としています。

構築されたシステムでは、小規模農家から輸送業者、製造工場、配送業者、販売店へとコーヒー豆が移動していく各地点で、IoTデバイスで読み取った情報をブロックチェーンに書き込み、共有されます。Starbucksの利用者は商品のバーコードをスマホでスキャンすることで、コーヒー豆を生産した農家や焙煎場所などの情報を閲覧できます。サプライチェーンの透明性や追跡可能性を向上させることで、フェアトレードやエシカル(倫理的)な消費を促進することが可能です。

Starbucksのコーヒー追跡アプリ(https://traceability.starbucks.com/)

その他にも農業分野にフォーカスしたプロダクトが存在

そのほかにも、オーストラリアのブロックチェーン会社「AgriChain」では、農産物のサプライチェーン管理にブロックチェーンを用いています。各ステークホルダー間で農作物に関するデータをリアルタイムで提供し、透明性とトレーサビリティを確保することが可能です。なお同社は2020年2月に600万豪ドル(約4.6億円)の資金調達を発表しています。

またIBMは、コーヒー豆をサプライチェーン上で追跡できるアプリ「Thank My Farmer」を開発しており、消費者が商品のQRコードをスキャンするとコーヒーの生産者を確認し、農家に対して追加の支払いができる機能を提供しています。

まとめ

関係者や工程の多いサプライチェーンが構築されている農産物は、そのトレーサビリティの確保や高度化が課題です。この課題に対してはブロックチェーン(およびIoT)の適用が有効と考えられ、実際に海外事例も登場しています。

また、サプライチェーンが可視化され、農家の取引実績が取得できると、農家に対する新たなファイナンス手段が提供できる可能性も秘めています。

サプライチェーンの合理化は時間のかかるテーマですが、その分恩恵は大きく、またブロックチェーンの活用領域として有望だと言えるでしょう。

参考資料:
Robot uses machine learning to harvest lettuce【アグリテック】ドローンなど最新技術で稼げる農業を実現! | ジブン農業
GrainChain Talks Blockchain For Farmer Payments
Q 外国からの輸入食品は、どのようにして日本に入ってくるのですか
消費者向けQ&A
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