インターネットの世界には各々の情報機器(パソコンなど)を識別するために、「1.1.1.1」のようなIPアドレスと呼ばれる数字の羅列(ネットワーク上の住所のようなもの)が存在します。しかし、IPアドレスの数字のみでは、ユーザーにとって使いづらいため、IPアドレスと「baasinfo.net」のような文字列を紐付けてアドレスの可読性を向上させたのがDNS(Domain Name System)です。
実はDNSに類似したシステムが、パブリックチェーンでも提供されていることをご存じでしょうか。それがENS(Ethereum Name Service)です。今回はENSの概要に触れた上で、アドレスの可読性が向上すると、ブロックチェーンを活用するユーザーにどういったメリットをもたらすのかについて紹介していきます。
ENS(Ethereum Name Service)の概要
ENSはパブリックチェーンのイーサリアムを基盤に、2017年5月4日にローンチされたネーミングサービスです。ENSでは英数字のみで構成された複雑な暗号資産(仮想通貨)のアドレスを、簡単で分かりやすい文字へと変換できるサービスです。
例えばイーサリアムアドレスは「0xd8dA6BF26964aF9D7eEd9e03E53415D37aA96045」のように英数字で表記されていますが、ENSを用いると「vitalik.eth」のように、アドレスの可読性が向上します。また、ENSでは「.xyz」など、DNSと同じドメイン名を使用できる特徴があります。
アドレスの可読性向上がブロックチェーンユーザーに与えるメリットとは?
暗号資産アドレスの可読性が向上することの主なメリットは利用のハードルを下げ、暗号資産の利用に関するリスクを減らせる点です。
具体的に、ウォレット機能を提供するサービス「MetaMask(メタマスク)」などを通じて暗号資産の送金を行うケースを考えてみましょう。数十桁にも及ぶ英数字を正確に指定して、送金先アドレスへ資産を送っていく作業は回数が増えれば増えるほど面倒になります。
さらに、ブロックチェーンの性質上、アドレスを1文字でも間違えると、送金予定の資産のすべてを失ってしまうので細心の注意を払わなければなりません。実際に使う場合は送金先アドレスをコピペするケースも多いと考えられますが、その正しさを目視でチェックする場合は相応の手間がかかります。
実際に「アドレスのタイプミスで12000ETH以上が失われているかもしれない」という考察記事もあります。
参考:https://media.consensys.net/over-12-000-ether-are-lost-forever-due-to-typos-f6ccc35432f8
このようにブロックチェーンの持つ「いちど承認された取引の事後的な変更が極めて困難である」という性質ゆえに、ユーザーにとって大きなデメリットが生じてしまうケースがあるのです。
こうした暗号資産特有の使いにくさやリスクに対して、ENSを用いると上記のような送金ミスのリスクを、限りなく下げることができます。送金時にアドレス名(baasinfo.ethなど)をウォレットで入力すると、アドレス名に紐付いたアドレス(0x4f…….)が検索されるのです。
またENSでは、イーサリアムのアドレスだけでなく、ビットコインなどの主要な暗号資産のアドレスを紐付けられます。そのため今後はENSの普及に伴って、暗号資産を用いたサービスのUX(ユーザーエクスペリエンス)が向上するケースも増えていくことでしょう。
NFTクリエイターも活用するENS
実際にNFT(Non-Fungible Token)クリエイターが、ENSを活用している場面も見受けられます。その理由は、アドレス名をクリエイター名と同一にしたり、可読性を向上させたりできるからでしょう。NFTクリエイター名=アドレス名となるため、これまで暗号資産に触れてこなかった作品の購入者にとっても分かりやすいというメリットがあります。
関連記事:NFT(Non-Fungible Token)とは?基本と活用事例を解説
また他にも、イーサリアムの創設者であるヴィタリック氏は、公式Twitterアカウントにて、名前の語尾に「.eth」と表記しています。
このように、ENSで取得した名前をTwitter名に置き換えるユーザーも登場しています。また、ENS公式ページによると既に200以上のサービスが、ENSと統合されていると発表しています。
ENSオークションがOpenSeaで実施
2019年9月1日には、ENSのショートネームオークションがOpenSeaで実施されています。今回のオークションでは、3-6文字の英語名(bob.ethなど)が対象となりました。
ENSオークションの仕組みは、通常のオークションと同じです。興味を持った入札者が一定期間中に入札を行っていきます。そして最終的に、最高額にベットしていた落札者がETHネームと呼ばれるENS上のアドレスを獲得できます。
ちなみに上述したENSオークションとは直接、関係はありませんが、これまで最も高額だったENSは「darkmarket.eth」であり、 28,555 ETH(2017年5月当時のレートで約6.6億円)で取引されています。なお、DNS同様、ENSで人気のあるアドレスは、価格が高騰しているケースがあります。
ENSと米ウェブインフラ企業「Cloudflare(クラウドフレア)」がパートナーシップ締結
ENSは2021年1月14日に、米ウェブインフラ企業でDNSサービスなどを提供するCloudflare(クラウドフレア)とパートナーシップを締結しています。
クラウドフレアの公式ページによると、双方の狙いは、単にサービスのサポートを行うことには留まらず、今後、発展するであろう分散型ウェブと現存する技術の橋渡しを見据えて、今回のパートナーシップ締結に至ったようです。
参考:米ウェブインフラ企業クラウドフレアー(Cloudflare)がENSとパートナーシップ締結
まとめ
本記事で紹介したようにENSは、DNSが解決したアドレスの可読性向上というメリットをパブリックチェーンにも導入するサービスです。暗号資産の取引頻度が増えるほど、送金時のアドレス確認はコストになると考えられ、ENSはそのコストを低減するメリットがあります。
2021年6月現在では、まだまだ送金速度や手数料、プライバシーなどの問題から、企業を含めた膨大な数のユーザーを受け入れる基盤として不十分と考えられることがあるパブリックチェーンですが、そうした課題は将来的に解決される可能性が高いです(レイヤー2やクロスチェーン、プライバシー強化技術などの導入)。
仮により多くのユーザーがパブリックチェーン(およびアドレス)を利用することになった場合、利用ハードルを下げることは必要不可欠でしょう。ENSというサービスは単にミスによって資産を失うリスクを下げるだけではなく、UX向上において大きな役割を果たす可能性があるのです。
そして本記事でも触れたように、ENS対応のサービスは増え続けており、クラウドフレアのような既存のウェブインフラ企業との提携も発表されるなど、利用シーンやユーザー数は今度も増えていくでしょう。
ENSは2021年6月現在もエコシステムが拡大中であり、今後もNFTアーティストや業界からの新規参入をサポートする重要な位置づけを担っていくと考えられます。