日本円ステーブルコイン「JPYT」を開発するwoorthが目指すWeb3の世界観|woorth 代表取締役 中野泰輔|インタビュー

日本円ステーブルコイン「JPYT」を開発するwoorthが目指すWeb3の世界観|woorth 代表取締役 中野泰輔|インタビュー

はじめに

ブロックチェーンメディア「BaaS info!!」(バース・インフォ)では、ブロックチェーン業界で活躍する方々へのインタビュー記事を不定期で掲載しています。

※過去のインタビューはこちら

今回のゲストは日本円ステーブルコイン「JPYT」の開発を始め、Web3セキュリティツール「eagis(イージス)」をリリースするなど、“無限の価値を見つけて伸ばす”を目標にWeb3領域の事業を進める株式会社woorthの代表取締役の中野泰輔さんです。中学2年生の頃に暗号資産やブロックチェーンに興味を持ち、若干18歳で起業をはたした代表が目指すWeb3とはどのような世界なのか、将来のビジョンについて伺いました。

プロフィール
中野泰輔さん
株式会社woorth 代表取締役
2016年の中学2年生の頃に暗号資産と同時にブロックチェーンに関心を持ち、2021年10月、若干18歳にして“無限の価値を見つけて伸ばす” を目標にWeb3領域の事業を進める日本を拠点に活動するスタートアップを起業。日本円ステーブルコイン「JPYT」の開発を始め、ブロックチェーン開発、暗号資産ウォレット開発、NFT発行支援等のWeb3領域を包括したサービスの提供を行っており、今後はWeb3学習サービスなど複数の事業を新たに展開予定。2022年2月に米Microsoft社が提供するスタートアップ支援プログラム「Microsoft for Startups」に採択される。

日本円ステーブルコイン「JPYT」の発行やWeb3セキュリティツール「eagis」を提供する新進気鋭のスタートアップwoorth

──まずwoorth(ウォース)を起業するにあたり、どのような経緯でwoorthを立ち上げるに至ったのか、また前段階でどのようにしてブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)に興味を持ったのかを含めて、伺えますか。

自分がブロックチェーンや仮想通貨に興味を持ったきっかけですが、中学1年生か2年生の頃、まず金融だったり経済だったり社会のお金の流れの仕組みに興味を持ちました。そこからいろいろ調べていくうちに仮想通貨というワードをニュースで見たのがきっかけで、「仮想の通貨って何?」と興味を惹かれたというのが第一にありました。

その頃は、まだキャッシュレス決済や電子マネーが今ほど身近じゃなかったので、仮想通貨はQRを使って決済ができる、世界中の人とお金のやりとりができるという部分で魅力的に感じたのが最初にあり、そもそもどうやってその価値を生み出しどう担保しているんだろうという部分で、法定通貨や電子マネーとはまったく違うあり方だと、まず思いました。

それから、仮想通貨はブロックチェーン技術が活用されていたりなど、裏にいろいろ仕組みがあって発行・管理されているというのを知り、価値も上下するのだというところから、非常に興味を持ち始めました。

その後、自分でトレードを体験したり、いろいろなプロジェクトにも出会ったり、1年半ぐらい前にあるプロジェクトに携わらせていただく機会がありました。いろいろ知識を深めていく中で、自分で指揮を執ってプロジェクトを立ち上げたくなり、2021年10月に株式会社woorthを起業する流れになりました。

──ちなみに中学生の頃に経済に興味をお持ちになる以前に、プログラミングなどは既に触れられていたのでしょうか。

違います。自分はプログラマーやエンジニアではないので、どちらかというとその仕組みが世の中にどう影響を与えるのかという部分に興味を持ったという側面が大きかったですね。

──たまたま興味があった経済の中に仮想通貨が登場して、それに対しても興味を持ち始めたということでしょうか。

そうですね。最初は、単純な興味でどういう仕組みなのだろうというところから入っていったというのが大きいです。

──そのときに感じたものとして、ビットコインならその裏側にブロックチェーンがあるじゃないですか。その部分は、プログラマーやエンジニアの方は、これは技術としてすごいという印象を持つと思うのですが、中野さんはどういったところに魅力を感じたのでしょうか。

いろいろ調べていく上で、既存のものと比べて優位性があるところは自分も理解していったので、ブロックチェーン自体がすごいというのは自分でも思いましたし、金融や通貨とは相性がいいなと思いました。

その時点では、仮想通貨がここまで価値が大きくなるとは思っていなかったのですが、(当時も)仮想通貨の中には何千億円、何兆円という規模の時価総額がある通貨もあって、それが成り立っている仕組み自体もすごいと思いました。

そうした中で、一部では既存社会の独裁的というか、中央集権的な部分に反対する人もいて、そういう中で流通するお金があってもいいなというのはありました。

──中央集権的な社会構造という考え方は、普通はなかなか意識しないと思うのですが、そういう意識は仮想通貨に出会ったことがあるからですか。

ですね。「分散が正義だ」とそこまで思っている方ではありませんが、仮想通貨みたいなお金のあり方、こういう考え方があってもいいというのはあります。今まであまり問題視されなかった部分ですよね。

その分散という考え方のもとの一つに、国が駄目になったらその国のお金の価値も駄目になる解決策として仮想通貨が必要であるという発想がありますが、日本に住んでいるとそこまで危惧することではありません。しかし、世界を見渡すと経済が不安定な国はあって、そういう国では仮想通貨のようなお金のあり方も選択肢としてあるんだということを知ったのもすごく大きくて、そこに魅力を感じたり、新しい視点が持てたりして、金融や経済とブロックチェーンや仮想通貨は相性がいいという発見もありました。そういう価値観をいろいろと見つけていったという感じですね。

──いい視点ですね。僕らはやっぱりネットをやっていたり、デジタルを扱っていたりすると、ブロックチェーンのすごさは今までデジタルの世界にはなかったという視点を持ちますが、失礼ですけど中野さんがその視点を感じたのは中学生の頃ということですか。

そうです。中学2年生のときですね。

──ちょっと新しい視点の方が登場されたというような、印象ですね。そこからその起業するまでの話ですが、中野さんがエンジニアではないというお話ですけども、どういったお仲間と起業していく流れになったのかをお聞きしていいですか

最初はメンバーはいたものの、それこそ口約束みたいな状態で、自分の勢いや気持ちがいい意味で先行しちゃってて、ある意味見切り発車のような状態でスタートしました。そこで資金調達の部分だったりが決まっていく中で、組織作りを並行したっていう感じですね。創業後も自分の目標に賛同してくれた仲間がジョインしてくれたり、周りに支えられているなというのをいつも感じてます。

なぜ最初にステーブルコインの開発を目指したのか

──少しブロックチェーン周りのことについてお聞きしたいのですが、ブロックチェーンの存在を知って知識が高まっていく中で、最初に御社でやったのが、ステーブルコインのJPYTの開発ということでよろしいですか?

そうですね。会社として動く前の中学2年生か3年生のときに、ビットコイン自体を既存の決済や我々の普段の生活に落とし込むのは難しいと思っていました。

そこには二つハードルがあって、たとえばその仮想通貨を買うときに面倒なウォレットを準備しなければならないというハードルと、もう一つは日常使っている日本で言えば日本円などの法定通貨に対して価格変動がどうしても日々起きてしまうので決済通貨として使いにくいという部分、この二つあると思っていました。

価格変動が起きてしまう部分では、中2、中3のときからステーブルコインを自分で作ろうとしていました。決済として落とし込むためにはステーブルコインが必要だし、そもそも入り口という部分でみんなが使いやすいものとしてステーブルコインがいるなと思っていたので、会社を起業してやっと事業化できたという流れになっています。

──仮想通貨に関しては、手に入れて投資するという意味合いではなく、そもそも決済に使うという、いわゆる社会の仕組みの中で使うためにはどうしたらいいかというような考え方を持っていたということでしょうか。

そうですね。どちらかというとそれも二つあると思っています。

決済として使ってもらうというのも一つの手段としてあるんですけど、やはり投資も含めてその仮想通貨を買いたいという人たちの需要もあると思っています。現状は中学生や高校生が仮想通貨に興味を持ったとしても、未成年者は暗号資産取引所の口座を開設できないという点で、実際に触ってみることができないというのが問題だと思いました。

仮想通貨の送金だったり、実際買うという行為をやってみたりすることによって、仮想通貨に対する理解力、解像度が深まることはすごくあると思っているんですよね。

そういった部分で、現在のJPYCさんのように自家型前払式支払手段のような方法でステーブルコインを発行することによって、そこのハードルというのがなくなるだろうというのがあったので、決済の部分と仮想通貨を購入したいという入り口部分のハードルを下げるという二つの側面から、弊社ではステーブルコインを開発することを選択しました。

──今、お話に出たJPYCさんは、ステーブルコインとしてはちょっと他の国とは異質な前払式支払手段でやっていますが、中野さんたちもwoorthとして、そのまず自家型前払式支払手段という方法でJPYTを作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

自分の場合は(JPYCの)岡部さんのツイートを見たというのが最初です。現行の法律では日本でステーブルコインが発行できるとは思っていなかったので、まず海外で発行して持ってくるという方法しかないかなというかなり頭が固くなっていた状態のときに、岡部さんの「JPYCを発行しました」というツイートを拝見し、日本でもこの方法だったらステーブルコインが発行できるというのを知り、JPYCを追う形で法律が整備されている自家型前払式支払手段という方法を選択しました。そういう前例があるからこそ、自家型前払式支払手段という方法を選んだというのが開発の経緯ですね。

また、海外の場合を見ていると、ステーブルコインはいくつも発行されています。それぞれに用途があって、たとえばドル建てのステーブルコインを見ると、テザー(USDT)であったり、USDCであったり、いろいろ発行されていて、ユーザーはそれらを選択して使っているので、その状況を見ても、ステーブルコインは複数あっても問題ないし、対応するチェーンの種類や数という部分でも差別化できるので、そういったさまざまな要因から、JPYTをリリースする決断に至りました。

──最初に自家型で発行後、いずれは第三者型にも移行するお話を御社のブログで拝見しました。ここの部分はちょっと先走って質問することになりますが、第三者型を目指すことと、その前に状況としてJPYTを作ることになってブロックチェーンにバイナンススマートチェーンを選択されたのは、なぜそこにたどり着いたのかということを伺えますか。

自分がDeFiなどを触るにあたり、その入り口になったのがBNBチェーン(旧BSC、バイナンススマートチェーン)というのもあって、自分が詳しいというのもありました。

またBNBチェーンを使っている方と話していたら日本人が多いというのがありました。また、BNBチェーンを使っているPancakeSwap(パンケーキスワップ)などは日本人の流入が多いというのがあります。これらもBNBチェーンを選択した理由の一つです。

それともう一つがDeFi等を少額で使っている方が多いというのがありますから、手数料が安いブロックチェーンが必要でした。

またJPYCさんで発行する予定のないチェーンということもあり、そこを補う意味合いも兼ねて選択したというのもあります。この3つが要因でね。

自家型発行者:発行者から物品の購入やサービスの提供を受ける場合に限り、これらの対価の支払いのために使用できる前払式支払手段を発行しており、法に基づき財務局長等へ届出を行った者を自家型発行者という。発行している未使用残高が3月末あるいは9月末において、1000万円を超えたときは、財務局長等への届出が必要となる。

第三者型発行者:発行者以外の第三者から物品の購入やサービスの提供を受ける場合にも、これらの対価の支払いのために使用できる前払式支払手段を発行している者を第三者型発行者という。発行前に財務局長等の登録を受ける必要がある。

──そこはイーサリアムではないというのは、何か理由はありますか。

まず入り口としてイーサリアムのメインネットはガス代(手数料)が高くて普通の人はなかなか使わないと思うのですね。たとえば1万円分のイーサリアムを使いたい人が、送金やスワップを何回かするだけで2、3割がガス代で飛んじゃったみたいな。それはあまり良くないと思っているので、最初に対応させるのはBNBチェーン、その後はPolygonとかSolanaあたりかなと、手数料が安いチェーンを中心に考えていました。やっぱり初めての人には使いやすいチェーンを使ってもらいたいというのがあるので、イーサリアムは除外されるのかなと思っていて、そういった観点からですね。

そういったさまざまな要因から、JPYTをリリースする決断に至りました。

──そこから自家型でまず発行して、今、第三者型に向かってその準備されていると思うのですが、その後の将来的なビジョンとして、JPYTをどう発展させていきたいのかを伺えますか。

なるほどちょっとこれ大前提というか、まず結果からお話しさせていただきます。

まず、当局などからの発表資料内で、ステーブルコインの雲行きが怪しくなるような話題が散見されたため、今のところ一旦発行を中止しているような状態です。

やはりステーブルコインをリリースする中で、セキュリティは大前提として高い必要があり、そのほかでの利便性の部分では発行量を増やすことにより流動性を高めることが重要だと思っています。

しかし発行したいというという気持ちは変わらないので、ビジョンの部分は今後も積極的にお話ししたいと思います。

──発行するのが法律的な問題で難しい状況ということですか。

そうですね、ちょっと一旦ストップしている状態です。ただ現状は法律でアウトだということはありません。ただ、投資家の方たちとお話している上で、法改正に関する不確実さがまだ多く残っている点が大きなリスクという認識で、一旦そこがクリアになるまでステイという感じで今は進めています。

そういう状況ですので、別のサービスを用意してリリースしたのが、弊社のサービス「eagis(イージス)」になります。

新たにWeb3セキュリティツール「eagis」のリリースを発表

──最近、eagisまわりのリリースが多かったのは、JPYTにそういう理由があったのですね。

そうなんです、そんなことがありました。ちょっと悔しいですけど、一旦は保留で別のサービスというところを進めていこうかなと思っていて、そこでも根底としては入り口のハードルを下げるとか、扱いやすくやすくしていくというフェーズにあるかなと思っています。

この分野は市場規模が大きいといわれていますが、現時点で良いサービスが出てきても、一般の方で実際に使う人は少ない状態だと思います。

新しいものだからすぐに使いたい方もいると思うんですけど、やっぱり触ってみたいけどよくわからなくて触れないという人やまだ怖いという人も一定数いるかなというのを思っていて、そういう部分でも我々はサービスを便利にしていきたいという信念やミッションは全然変わっていません。そういったところでeagisによるNFTの真贋鑑定だったり、あとはウォレットの開発をいま進めようとしたりしていて、そういった部分の入り口をより簡単にする、使いやすくするというのは今後もどんどん進めていこうと思っています。

──ではeagisについても少しお聞きしたいと思います。eagisについては御社からすでにリリースが出ていますし、今もお話の流れの中で出てきましたけど、具体的に開発するに至る経緯を紹介いただけますか。

まずeagisは、たとえばNFTの発行ってそのOpenSeaに限った話でいうと、今は誰でも偽物が発行できる状態にあると思うんですよね。結構わかる人だとコントラクトなどを見たり、取引量などを見たりして、それが偽物か本物かを判定できると思うんです。

最初にeagisを作ろうと思ったきっかけとしては、VeryLongAnimalsという首の長い動物の絵の人気NFTがあるのですが、これを作っている方と前々からいろいろお話させていただいている中で、偽物が出てきていて、しかも知っている方がそれを買っちゃったというのを聞いて、こんなに身近に偽物を買っちゃう人がいることを体感して、こういう流れは防がないといけないなと思ったんです。

現状、一般の方から見たNFTというのは、技術として偽物を防げるものであるとか、複製ができないといったイメージがあると思うんですけど、偽物は実際に作れちゃいますからね。たとえば「A」というNFTがあったとして、「A」かどうかというのはブロックチェーン上で担保されているんですけど、その「A」のNFTの元の絵が本物かどうかは誰にも担保されてない状態なんですよね。つまり同じ絵を持ってきて、まったく新しいものとしてNFTを発行することはできてしまうわけですね。

実際OpenSeaでは80%ぐらいが偽物というのが公式から発表されました。そこってどうにかして防がないといけないんですけど、その絵が偽物かどうかをあらかじめ判別するのは難しいんですよね。たとえばフリーマケット等では偽物が出回ってから防ぐしかなくて、そこは入り口の部分でこの出品者は怪しいとか、この人は偽物を出さないだろうという判別は難しいので、全員が出品できる状態にして、あとからこれ偽物だから消そうっていうのしかできません。

それがデジタルものとなると、OpenSeaやRaribleといったマーケットプレイス側が判別するにはすごく時間がかかりますし、現に遅いという状況があります。そこで自分たちのeagisを拡張機能(https://install.eag.is)としてブラウザに入れてもらうことによって、誰でもそこの真贋判別ができるようにしたいということで、開発を進めていきました。

eagisは、プラットフォーム側に頼らない形で判別ができて、安全に安心して使ってもらえるというところがベストだと思っています。

──Google Chromeのブラウザの拡張機能ということですか。

そうです。登録も必要ないですし、導入も楽なので、そういった部分でも誰にでも使ってもらえたらいいなという思いで、セキュリティツールとして発表しました。

──これは、いわゆるブロックチェーンのオラクル問題のようなことを解決するということですか?

いや、違います。どちらかというとブロックチェーン上で動作しているというものではなく、NFT自体のコントラクトを見て判定しているので、ブロックチェーンに逆にとらわれずに判定できるという部分ですごく良いかなと思っています。どのチェーンにも、基本的にはどのマーケットプレイスにも対応は可能という感じになっています。

──ブロックチェーン技術的なものではなくて、既に流通しているNFTの中身を見てということですね。

はい。それで判定しているという感じですね。

──そこが秘密かどうかわからなくてあえてお聞きしますが、その判定する方法は御社独自の方法なんですか。

基本的にはホワイトリストとブラックリストで分けているというのがメインで、そういう方法で判定していて、将来的にはある程度の機械的に判別するというのはできると思うのですが、やっぱりその最終的にそれが本物か偽物を鑑定しているのは、実際の古物とかでもそうなんですけど、人がやっています。

人がやるからこその安心や安全が担保されていると思うので、人の手をあえて加えることへのトラストというかその信頼っていう部分でやっていけたらいいなと思っているので、どちらかというと機械でいっぺんにやるってよりかは、人の目で見るというのを設けてやっている感じですね。

──御社が持っている情報的なものという意味合いで、鑑定士のようなサービスとして提供しているイメージでしょうか。

そうですね。そこで人の目でやらないといけないなっていうのを常に感じているので、ある程度、効率化を図りつつも人の目で担保しています。

NFTに関しては、基本的にはプロジェクトはほぼすべて自分たちは追っているというか、以前からあらゆる情報を常に収集しています。実際このNFTが本物か偽物かというのは、もとのNFTを2次創作として使っていいとか駄目とかいうようなことも関係性としてあるなど、ある程度そうして収集してきた情報からいろいろわかってきたので、そういったノウハウで判定しているといったようなイメージです。

──eagisは、ビジネスモデルとしては、収益についてはどのように考えてらっしゃいますか。

やはり第一に業界への貢献や、正常なエコシステム発展を期待しているので、Web2的な広告を出すようなマネタイズは基本的に考えていません。Web3の世界では、グラントという仕組みが存在します。チェーンやプロジェクトのエコシステム発展への貢献に対して、報奨金のような形でプロジェクトのトークンが受け取れます。こちらを活用して開発のスピードを上げていったり、一部収益になればいいかなと考えております。

──将来的にこのノウハウは、NFTマーケットプレイス側にも有効ではないかと思いますが、NFTマーケットプレイス側に今はその真贋を確かめる余裕がないというのが現状だと思うんですけども。そこについてはどう思いますか。

そうなんですよ。自分たちもそれを考えていて、自分たちの構築しているデータベースにノウハウとして情報が入っているので、何かたとえばOpenSeaやRaribleなど、NFTマーケットプレイス等で有効活用してもらえたらすごく嬉しいというのはありますね。

マーケットプレイスの現状として、大半が真贋を確かめる仕組みを自社で構築するコストが確保できていないというのがあると思うので、マーケットプレイスをやっている運営側に低コストで導入いただける形ができたらいいなと思っています。それとユーザー視点から見たら、ツールはできるだけ使いやすくしたいので広告等は出さない形で提供できるのがやはりベストだと考えています。

NFTマーケットプレイス側は、そうした対応やユーザーの通報によって確認するというような作業や運用はかなり人件費もかかると思うので、ぜひeagisを使ってコスト削減してほしいなというのはあります。

Web3への思いと目標

──今、お話の中で、「これはWeb2.0です」と意識されてお話しされていましたが、Web2.0、Web3に対しては、何か目的というか、Web3をこうやっていきたいという思いは強いのでしょうか。

今の日本のWeb3業界は田んぼの上に家を建てているようなものだと思っています。海外のWeb3はもう少し進んでいますが、それでもまだ固まってないコンクリートや地盤が緩い状態のところに高層ビルを建てているようなものだということをよくいっているんですね。だから、日本にその海外のプロジェクト、高層ビルを持ってきても、当然ですが建つわけがないんですよね。

そういう意味で、まず地盤をちゃんとした土やコンクリートに変える作業をすることが重要だと思うので、そこの手段は別にWeb3じゃなくても自分はいいと思っています。

たとえば、今伸びているAlchemyとか、ノードを提供している会社は、ビジネスモデルとしては実際にやっていることはWeb2.0だと思うんですよね。ということを思っていて、そういう状況から徐々にWeb3に移行することになって、Web3のサービス自体に発展するということに繋げれば、個人的には現状はWeb2.0とかWeb2.5のような両方の良いところ採りをした、グラデーションのある広がり方も良いのではないかと思っています。このムーブメントは周りを見ていても感じますね。

Web3に固執しているというより、Web3が好きだから、ちゃんと発展してほしいから、まずはWeb3を使いやすくするものを出すことが自分たちのミッションとしてあるのではないかと考えています。

──素晴らしいですね。今、Web3という言葉ばかりが先行していますけど、そういうことですよね。

そうなんですよね、実際に触れられる人が少ない状態で、技術的にも先行しすぎて、本当にリテラシーの高い人同士で上のほうでガチャガチャやっている感じなので、実際マスの部分に落とし込むとなったら、まだまだかなりハードルが高いものになると思うんですよね。

既存の例でいえばPayPayをはじめメジャーなキャッシュレス決済を使う場合、みんなそれほど難しいとは思わないじゃないですか。LINEやTwitterのようなアプリもそうですが、Web3も将来的にはそのフェーズまで落とし込まないと駄目だなと思っています。そうするためにはWeb3に固執せず、Web2.0的な考え方で解決できるものがあるんだったら自分はそれでいいと思います。

──御社もしくは中野さん個人のご意見でも構わないんですけども、今、考えられる理想的なWeb3とはどのようなものかお聞きしてもいいですか。現状はWeb3といっても曖昧な部分も多いじゃないですか。そこをビジョンというと大げさですけども、どのように考えていらっしゃるか伺えますか。

まず根底にあるのが、新しい技術や新しいサービスが出てくると、今までの社会は便利になってきていたと思うんですよね。

でも、今のWeb3の流れは、ちょっと便利には逆らっていると思うんですよ。その原因が分散だと思っています。もちろん分散できるのは、すごく理想的だと思うんですよね。

大企業にビッグデータを持たれて個人情報が掌握されているという状況から離れたいという部分では、Web3はすごく良いとは思うんですけど、そこを意識しすぎていて実は使いにくくなっているというのもあると思います。

将来的にWeb3がどこに向かってほしいかというのは、自分の願望でもあるんですが、やっぱり世の中を便利にしたいというのがあるんですよね。世の中が便利になっていかないと、正直、使ってもらえないと思うんです。思想的に優れていたとしても、何か退化したサービスはわざわざ使わないですよね。現状は、すごく面倒な手順を踏まないと送金できない暗号資産のサービスなんて、あえて使わないという状況になってきていると思うんです。Web3の立ち位置は、現時点ではそういうことだと思っています。

Web3という技術として、ブロックチェーンだったり、分散だったりというのが図れた上で便利になる世の中にしたいですし、そうなっていくべきだと自分は思っています。なので、何かそのWeb3独自の分散という部分がちょっと薄れてしまっても、まずは便利さを優先すべきですね。

──御社のサービスとして提供する場合は、どのようなWeb3サービスを考えていらっしゃいますか。もしくはどういったサービスを作ってみたいですか。

まず、ステーブルコインで話すとわかりやすいと思います。やっぱりその入り口という部分でステーブルコインであればどのサービスにも使ってもらえるなと思っていて、たとえばDeFiなどで運用したいという人目線でもありますし、またNFTを買いたいけどまずイーサリアムなどを取引所で買って、それを別のチェーンに持っていったり、また目的の暗号資産に換えたりしてNFTを購入するというのが面倒くさいというのもあると思うので、そういった部分の敷居を下げるために簡単に手に入れられるステーブルコインを用意するということですね。敷居を下げてから、次のステップがあるのではないでしょうか。

またeagisなどNFTの領域であったら、既存NFTで自分の中で考えている使い方というのがあって、一つは何か所有権のような部分を切り離してその証明にNFTを使ったり、不動産のようなものであれば名義的な部分をNFTに置き換えて使ったりというようなことが考えられますね。

あともう一つはデジタルコンテンツという文脈で、たとえば絵師さんが描いた絵をTwitterに載せているだけでは収益が難しいと思うんですよね。なので、そこをNFT化して世界に発信し、それをOpenSea等に出したりいろんな人に見てもらったりすることで購買へとつなげるなど、マネタイズの部分の一手段として使ってもらえるのもありかなって思っています。

そこで自分たちができることとなると、その領域をどれだけ使いやすくするかという部分でウォレットだったり、先ほどのeagisによるNFTの真贋鑑定だったり、ずっと考えているのは、自分の絵などをNFTにしたいというクリエイターさんの支援だったり、この領域でそういったことが自分たちはできるのではないかなと思っています。

ちょっとごめんなさい、話がずれちゃったかもしれないんですけど。

──大丈夫ですよ。そのときにその必要なものというのが、一例でいうと誰でも簡単に決済に利用できるステーブルコインということですね。

そうですね。仮想通貨やDeFiの領域には、ステーブルコインが入り口と出口の部分で必要だと思っています。

それと利便性という部分を度外視しても、お金が流通しているところでいうと、たとえばDeFiを利用して仮想通貨を運用したり、海外の取引所を利用したりするときは基軸通貨がドルとかドルのステーブルコインだと思うんですよね。これって入り口では日本円でビットコイン等を買って、それを海外の取引所かDeFiで運用して、その結果として最終的にドルになるになってしまうので、日本のWeb3プレイヤーの資産が海外に流出していることになっていると思うんですよ。

それはDeFi協会やBCCC(ブロックチェーン推進協会)も危惧していて、そういったところの文脈で、やっぱり資産が逃げないようにするというのもありますし、そういった運用の結果の先に日本円に連動したステーブルコインが必要だなと思います。

最新技術は利便性を上げること、ユーザーの選択肢になることが大切

──ありがとうございます。ちょっと誘導質問になっちゃうといけないのですが、銀行を含めた金融などの既存の社会の仕組みと、暗号資産やブロックチェーンのような仕組みを比べると、将来的にはブロックチェーンのほうがいいなと思うのですが、しかし、その仕組みを現実社会に導入して浸透させていくのは、かなり難しいと思うんですよね。そこは、どのように考えてらっしゃいますか。

これは自分の中でその解というか、こうなんじゃないかという仮説をすでに見つけていて、一般的な人の多くは技術がどうこうとかは多分気にしていないんですよね。たとえばガラケーからのスマホへの移行って完全に便利だったからだと思っていて、既存のものからの移行って、利便性が上がらないと無理なんですよね。

あともう一つは、新しい技術は何かサービスを選ぶときの選択肢に入れてもらうという、この二つが必要だと思っていて、今だとたとえば既存のLINE PayやPayPayをすでに使っている人たちは別にもうそれでいいですし、ステーブルコインや仮想通貨には利便性を特に感じてないから使わないと思うんですよ。

新しいサービスや技術を浸透させるときは、そういう意味で何かマスにわかりやすい利便性を提示できたらいいなって思っています。そういう部分でやっぱり入り口になったのって、今回はNFTだなって思っていて、あれってすごくわかりやすかったと思うんですよね。

NFTアートは、すごくわかりやすかったですよね。マスへの理解度としては。そこでブロックチェーンというのを出さなくとも、これはNFTという仕組みがあって価値も担保されるデジタルコンテンツなんだという認識で正直いいと思うんです。

そこで改めて調べてみたら裏でブロックチェーンが使われていた、みたいなそういうフワッとした認識でいいと思っています。何かある程度は裏側を隠した状態で、利便性が高いということで社会に溶け込める選択肢として知ってもらうことのほうが、必然的に社会に浸透していく流れになると思っています。

──社会を変えていくには、今必要なステップを一歩ずつ歩んで行っていくっていうのが重要ということでしょうか。

そうですね。ここを適当にやっちゃうと適当なものにしかならないので、そこはあえてその我々が日本を選んだっていうところでもあるんですけど、やっぱりしっかりと日本の中で変えていきたいというのがあります。

キャッシュレス決済が普及したときにもあったんですけど、その自分の周りの友達で意外と最初PayPayとか使っている人少なかったんですけど、そんなに難しいものじゃないから1回使ってみてよって友達に念押ししていたんですね。そこで初めて使ってくれたら、その人はめちゃくちゃハマりました。もう次からコンビニでPayPayしか使わなくなりました(笑)。

こんな感じで選択肢としてあれば使ってもらえますが、Web3を始めこの領域の多くのものは、今は選択肢として知ってもらうというところにも、まだ至っていないなと思うんです。そこまで身近じゃないというか、気軽に始められるものでもないと思うので、そこをまずちょっとずつ敷居を下げていくっていうところをやっていかないと駄目だなと思うので、それをやっていくのが自分たちの使命であり役目でもあり、本気でやっていきたいなと思っています。

──素晴らしいですね。新しいものが受け入れられるには、それが絶対に便利だよと提示すること、選択肢として与えるだけの利便性が重要だということでしょうか。

そうですね。代表例として、紙の本と電子書籍というのをいつも例として挙げています。

たとえば本から電子書籍に変わってきたのは、それが便利だなって思った人が使ってくれているからだと思います。そこはまだ用途によっては使い分けられていて、自分はその技術書のようなものは電子書籍じゃなくてまだ本で買っています。ですが、物が増えるのが嫌という理由で漫画はずっと電子書籍で買っています。そういう部分で使い分けてもらうとか、一部優位性を感じてもらうというのもありだと思っていて、まず選択肢に入れてもらうというところが最重要だと思います。

──今、御社はウォレットも開発されていますが、そこでも選択肢にしてもらえる使いやすいウォレットを提供したいということですか。

そうです。現行のウォレットは、秘密鍵を覚えとけ、絶対なくしたら駄目だ、資産流出するぞと警告文が出てきて、なんか怖いって思います。それとウォレットといえば、ウォレットアドレスですが、たとえば0xから始まるこの40桁のものを見ても覚えられる文字列ではないし、間違えて送金したら怖いなというのが常にあると思うので、なんかそういう心理的な部分に影響するようなことも変えていかないといけないと思っています。

たとえばMetaMaskの場合だと秘密鍵も覚えおいてパスワードも用意するみたいな、既存のサービスと比べると手間がワンステップ、ツーステップ増えていると思うので、そこをまず揃えるというか、より使いやすくしていくようなことは技術的にできると思うので、そういうところをウォレットでは解決していきたいと思います。UIとUXの改善というところですね。

また機能面に関しては基本的には、MetaMaskと同じようなものになると思っているのですが、逆に質問をさせていただきますと、そもそもMetaMaskは使いやすいと思いますか?

──自分は必要に迫られて使っていますけど、初心者や友人には勧めにくいですね。

そうですよね。これ問題だと思うんです。自分が事業としてこの分野をやっているので、うちの親がNFTに興味を持ち始めて何か買ってみたいといい出しているんですが、それがPolygonチェーンのイーサリアムが必要なんですが、MetaMaskにそれを持ってくるのはすごく難しいなって思っていて、しかもMetaMaskの操作は初心者にはわかりづらいですし、自分たちはなんとなくできていますけど、これを誰かに教えるとなると、かなりハードル高いというのを実感しています。

もっと気軽に利用できるように、たとえば秘密鍵はある程度ブラックボックス化していいと思うんですよ。どこかにバックアップを取っておくなど、やりようによってはいろいろ解決できるのに、何か技術だけが先行していて、利便性が後手になって結局は一般には浸透してないですよね。実際触ってみてよくわからないからやめた人も結構いると思っていて、自分の中ではそこの解決は急務だと思うんです。

実際に秘密鍵は盗まれなければどこにあってもいいのですが、結構、今は秘密鍵を持つ方法はみんなバラバラじゃないですか。たとえば何か紙に書いて持っている人もいれば、スクショの人もいます。人それぞれなのでどこかに保管しておくルールは、セキュリティを鑑みて仕組みとして持つなど、そういうこともできると思うんですよね。そこは技術で解決するべきだなと思っています。

常にそういう考えが自分の根底にあるので、絶対にそこは解決していきたいと思います。

──では、次の質問に行きたいと思います。御社はMicrosoft社が提供するスタートアップ支援プログラム「Microsoft for Startups」に採択されましたが、スタートアップとしてどのような支援を受けていらっしゃるのか伺えますか。

一番助かるのは、やっぱりそのGitHubなどの料金が無料になったり、Azureが無料で使えたりという部分は、すごく助かっています。

そこはスタートアップにしたら、結構お金かかるとこです。スタートアップは初期投資にもいろいろとお金かかりますし、今後スケールアップしていくうちにそういうサーバー代などはどんどんかかっていくと思うので、そういった固定費を支援していただけるのは、すごく助かりますね。

あとは、そのパートナーとして入ってもらっているからこその信頼性というのもあります。マイクロソフトさんに支援いただいているという見え方は、まったく聞いたことない会社の名前がポンと出るより、マイクロソフトと提携しプロジェクトを進めているという形のほうが圧倒的に社会的な信頼性が高まるので、我々のようなスタートアップにはありがたいです。

──ありがとうございます。では、最後の質問になりますが、御社のこれからについて、または今後やってみたいことでもかまいません。将来的なことを伺えますか。

結構、すでに喋っちゃいましたね(笑)。

どちらかというと自分が広めたいと思っていることは、すでに会社として取り組んでいて、さっきの入り口を簡単にするとか、Web3については本当に好きだからそれを広めるために課題をひとつずつ解決していくということはどんどんやっていくと、強調してお伝えしたいですね。

あとは、eagisを使って欲しいっていうのがあります。やっぱりこれ自分たちで作っていて思うのは、ユーザーは導入のコストも掛からないですし、ただ通知がポンと出てくるだけなので全然作業の邪魔にもならないと思うので、NFTの購入リスクを回避するためにぜひ使ってほしいなというのがありますね。

この二つですね。

──本当にそこはNFTを買っている人たちには大きな問題ですよね。

そうなんですよ。それとあとDeFiなどは偽サイトも結構あるなって思っていて、自分もなんとなくサイトを開いて、普通に偽サイトにMetaMaskを紐付けちゃったみたいなことがあるので、結構、慣れていてもそういうミスがあると思います。初心者の方はもちろん、ある程度触っている方に対しても、ツールの力でミスをなるべく減らす形にできるところはあるんじゃないかなと思うので、そういう部分でうまく活用してくれたらいいなって思っています。

──貴重なお話ありがとうございました。

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