日本円ステーブルコイン「JPYC」が目指すWeb3.0の世界とは?|JPYC株式会社CEO岡部典孝|インタビュー

日本円ステーブルコイン「JPYC」が目指すWeb3.0の世界とは?|JPYC株式会社CEO岡部典孝|インタビュー

はじめに

ブロックチェーンメディア「BaaS info!!」(バース・インフォ)では、ブロックチェーン業界で活躍する方々へのインタビュー記事を不定期で掲載しています。

※過去のインタビューはこちら

今回のゲストはプリペイド式の日本円ステーブルコイン「JPYC」を発行するJPYC株式会社代表取締役の岡部典孝さんです。インタビューでは、JPYC社の創業背景やパーミッションレスなブロックチェーン上で流通するJPYCのWeb3.0時代における役割、組織の在り方について伺いました。

プロフィール
岡部典孝さん

JPYC株式会社CEO
2001年、一橋大学在学中に有限会社(現株式会社)リアルアンリアルを創業し、代表取締役、取締役CTO等を務める。2017年、リアルワールドゲームス株式会社を共同創業。取締役CTO/CFOを経て、取締役ARUK(暗号資産)担当。2019年JPYC株式会社を創業し、CEOを務める。

世界を牽引する日本円ステーブルコイン「JPYC」は、オンラインゲーム経験から誕生した

―本日はよろしくお願いします!最初にJPYC株式会社の創業の経緯と事業内容について教えてください。

JPYC株式会社代表の岡部です。弊社はプリペイド式の日本円ステーブルコイン「JPYC」を発行しています。2019年に起業し、3年目になります。

私は、以前に勤めていた会社でデジタルコインの発行や、ゲームと連動したアルクコイン(ARUK)という暗号資産(仮想通貨)の発行を行っていました。

元々ゲームが好きで、学生の頃に「Ultima Online(ウルティマ オンライン)」というネットゲームにハマりました。元祖ネットワークRPGの一つで、戦闘やアイテムの売買等でゲーム内通貨を稼ぐことができました。

ウルティマ オンラインは1997年にサービスを開始したゲームのため、ブロックチェーン技術や暗号資産の概念はありませんでした。当時の私は、ネットゲームにハマりながら、ゲーム内の経済を研究していたような学生でした。ゲームの世界で稼いだお金で、(現実の生活に必要な)物が買える時代がいつか来ると、その頃に確信しました。

当時、世間では地域通貨が流行っていたことから、ゲームの地域通貨というのもあり、2001年頃から、その通貨で物が買えるようなサービスを作ったり、その後もネットゲームやポイントサイトなどを作ったりしていました。

ブロックチェーン技術に出会う前から、奇しくも暗号資産に近いことをやっていました。当時は、それをデジタルコインと呼んでいました。

仕事でブロックチェーン技術に携わったのは、2017年にリアルワールドゲームスという会社のCTOに就任した頃です。みんなを歩かせて健康にするというコンセプトで、位置情報ゲーム「ビットにゃんたーず」を開発し、歩いたらもらえる暗号資産アルクコインを作りました。

手に入れた暗号資産で買い物ができたりお茶が飲めたりと決済手段としてコインを使うことを想定していましたが、実際にはそれが難しいことに気づかされました。暗号資産は法定通貨のように価値が安定していないため、買い物をするには使いにくく、また税金の計算も複雑でした。

そのときに、ステーブルコインのようなもの、特に日本円と連動するものがあったら便利だなと思いました。実際に、日本円建てのステーブルコインはいくつかあったのですが、しかし、使い勝手のいいものはありませんでした。

前の仕事で経験したのは、安定した価値のコインがイーサリアムのようなパブリックチェーン上にないと、ビジネスは非常にやりにくいということでした。そういうステーブルコインを求めていたのですが、なかったんですね。

ないなら自分で作るしかないと思い立って起業したのが2019年、今の会社です。

プリペイドによる日本円建てのステーブルコインを作ってみると、世の中の暗号資産人気が盛り返してきた時期と重なりました。また、去年はNFTのブームなどにも乗っかって、JPYCも急成長し、注目いただくようになりました。

JPYCを前払式支払手段のプリペイドで発行した理由とは

─ステーブルコインをプリペイドで発行したのはなぜですか?また暗号資産がビジネスでは使いづらかった部分を詳しく教えてください。

日本では、暗号資産を発行すると大変なのが税金体系です。最近は少し改正の動きもあるものの、その辺りで難易度が高く、(暗号資産に分類される)日本円建てのステーブルコインの発行はほぼ不可能という意見も多い領域でした。

一方、プリペイド式のステーブルコインであれば、コインの価値は一定なのと、暗号資産には分類されません。会計上もプリペイド方式であれば非常に歴史があるので、税金体系の問題はクリアできると思い、この分野を選んだというところです。

スタートアップが実際にステーブルコインをやる上では、(銀行業のライセンス取得や資金移動業登録、または暗号資産交換業の登録を受けるよりも)圧倒的にプリペイド方式のほうが許認可を取る方がハードルが低いので、まずはそこからスタートしようと、前払式支払手段のステーブルコインを事業領域として選びました。

─発行するのに簡単というのが一番の理由ということでしょうか。

暗号資産担保タイプによるステーブルコインでは、許可をもらうためにはまず銀行を作らなければいけない。あるいは銀行を口説かなければいけないという話になります。スタートアップにとって、それは非常にハードルが高い。

あと暗号資産でやるという方向では、暗号資産交換業のライセンスを取らなければいけなくなり、これも金融庁の登録が必要で、難易度も高い。

一方、自家型支払手段というプリペイドのライセンスであれば、事後届け出制という形で済みます。一つ上の第三者型というライセンスであっても、暗号資産交換業よりはハードルが低いので、スタートする上で、ほぼそれしかないと思いました。

自家型発行者:発行者から物品の購入やサービスの提供を受ける場合に限り、これらの対価の支払いのために使用できる前払式支払手段を発行しており、法に基づき財務局長等へ届出を行った者を自家型発行者という。発行している未使用残高が3月末あるいは9月末において、1000万円を超えたときは、財務局長等への届出が必要となる。

第三者型発行者:発行者以外の第三者から物品の購入やサービスの提供を受ける場合にも、これらの対価の支払いのために使用できる前払式支払手段を発行している者を第三者型発行者という。発行前に財務局長等の登録を受ける必要がある。

─今は自家型ですが最終的には第三者型を取るというお話も伺ったことがありますが、進展はございましたか。

第三者型を取るということは以前から発表しています。さらに言うと、今後、本国会で、資金決済法が改正されそうなんですね。

JPYCに出資いただいているCircle Venturesさんのステーブルコイン「USDC」は6兆円以上発行されているわけですが、ステーブルコインはそういう可能性があり、大規模なものになります。

あくまでも仮定ですが、今のままJPYCの発行額が大きくなっていくと、金額によってはより規制の厳しいライセンスを取れといわれる可能性もあるかもしれません。

最終的には銀行業ライセンスを取ってくれと当局に言われる可能性はなきにしもあらずで、そういう意味で弊社は規模を拡大しながら、体制も整備していき、最終的にはおそらく銀行業まで取りに行くというようなストーリーになると思っています。

例えば楽天さんは、最初はECでスタートされたわけですけど、今はカード会社もあるし、楽天銀行もお持ちです。

GMOさんも似たような形で、グループに銀行をお持ちですので、弊社が非常に大きくなると最終的には銀行系のライセンスを取るか、もしくはそういう会社と一緒にやるという道になると思います。

─ということは、暗号資産のほうには行かないというイメージでいいでしょうか。

おっしゃる通りで、1ポイント1円という世界だと裏側がデータベースであろうとブロックチェーンであろうと、当局にとってはある意味どうでもいい話で、これは銀行の世界だと思っているんですね。

なので、元からそういう考えでしたが、銀行や資金移動業など、いわゆる暗号資産じゃない世界のほうに我々はよりシフトしていくことになるだろうと思います。

─ステーブルコインのペッグ(価格の安定)の仕方によっては、今後FATF(金融活動作業部会)勧告に抵触し、ステーブルコインであっても暗号資産と分類されることもあると思いますが、そこはどうでしょうか。

まず暗号資産タイプのステーブルコイン、例えばDAIみたいなものですね。DAIは法定通貨とのペッグにアルゴリズムを利用しています。

DAIのようなステーブルコインに関しては、暗号資産の規律に原則服することになります。FATF勧告でいうところの暗号資産側に分類される可能性があります。

一方今後、USDCのようなものが仮に日本にあったとしたら、これは日本の法律だと為替取引ということで銀行や為替の規制に服することになると思います。

我々の前払式支払手段、プリペイドの場合だと電子マネーの規制に服することになるわけですね。

ただ、これも状況が刻一刻と変わってくるので、仮に日本中でJPYCが広く使われて、今のPayPayよりももっと使われるようになってくると、もうこれは銀行と近しい規制に服すべきだよねと判断されると思います。

弊社が大きくなっていくに従って、リスクも変わってくると思うので、それによって、どの規制に服するかが多分変わっていくんだろうなと思います。

─前払式である間は暗号資産ではなく、そのままのステーブルコインで行けるという流れで、状況が変わったら会社も体制としては変わっていくイメージですね。

(状況が変わる時は)法律が変わるはずなので、それに合わせて体制を作って必要な許認可を取ります。例えば、ステーブルコイン発行専用の銀行ライセンスというものができるかもしれませんよね。

弊社のようなステーブルコインを発行する会社を想定したライセンスができれば、多分それを取ることになると思います。プリペイドのステーブルコインは弊社以外にもいくつか出てきていますので、そのあたりを適切に規制するために何らかの法整備がなされる可能性はあると思っています。

Web3.0の時代のステーブルコインJPYCの役割とグラント制度

─ではJPYCはどのように使われていきたいか、今後の展開についても伺えますか。

先日、平将明さんという国会議員の方が、自民党でWeb3やNFTを国家戦略に入れようとおっしゃいました。日本はWeb3の分野において、今は割と閉じた日本というマーケットがあるわけですけど、Web3などは世界的にも伸びている領域なので、いずれ世界に向けて開国するような流れが来ると思っています。

開国のときには、世界標準の規格であっても日本円による取引は継続して行われると思っているんですね。我々日本の事業者は円で会計もしなければならないし税金も納めないといけないので、円からは逃れられないと。

一方の規格としては、世界はもう開かれていて、メタバースだNFTマーケットだということになっているわけですから、そういう開かれた世界に日本が突如放り出されたときに、多分日本の紙幣を受け取ってくれるATMなどは世界には少ないと思うんですよ。

なので、これはデジタルで世界規格のものに日本円がないと、世界では戦えないと思っています。そのときの法定通貨にはなれないですけど、まず通貨代わりを目指していけば、ゆくゆくは銀行と組むか銀行ライセンスを取得した後では預金の代わりにもなるわけです。ですから世界標準規格のメタバースとかWeb3の世界で日本円の代わりで使われているという状態を目指したいと思っています。

御社が狙っている方向性とは別に、今、いろいろな方がJPYCを盛り上げている展開がありますが、それにはどのような感想をお持ちですか。

今までのデジタル通貨、デジタルコインとJPYCとの大きな性質の違いは、パーミッションレスだと思います。パーミッションレスなので弊社の許可がなくても、誰でもJPYCを送ることができます。

この性質を生かして、JPYCを使った開発も我々の許可なく勝手に作って、ソースを公開することができます。私も元々開発者なんですけど、これは開発者にとっては面白いものだと思っています。

JPYCは自分がやりたいことを自分で作るということができるので、それで作ったものを公開することに関しては、法律違反のサービス以外は基本的に弊社としてどんどんやってほしいと思っています。グラントという補助金を出して応援もしています。

グラントというシステムは海外にはよくありますが、日本であまり聞き慣れないところで御社が取り入れたその目的について詳しく伺ってもよろしいですか。

API等を使ってオープンにアプリケーションを開発する方法がありますが、通貨とか価値の移動ということに関しては、ずっとオープンなものが公開されてこなかったんですね。やっと最近、電代業(電子決済等代行業)などの分野のものが出てきましたけど、ほぼ公開されてこなかったんですね。

その中でJPYCというのは、許可なく送れる日本円の代わりになるプログラマブルマネーになっています。

これは日本円の進化というか、日本がより進んでいく上では避けて通れない道だと思っていて、これを加速させて、(JPYCのようにオープンなプログラマブルマネーを使った)開発ができる開発者を増やすことは、かなり国益にも資すると思っています。

開発者を応援しようとした場合、今までは業務委託で開発を依頼していたわけですが、それでは開発者の主体性が保てないわけです。

あくまで開発者が作りたいものを作る、その結果、予想もしていなかった役に立つものが生まれてくるのが狙いです。これは両者ともうれしいですよね。そうした活動に対して会社は報奨金的な助成金を出す、この関係性がフェアだと思っています。

会社が作って欲しいものを、お金を出して依頼していては今までと何も変わりません。いいものを作ってくれたら会社は表彰しますという方が、より持続性の高い開発になると思っています。

だからこそ、グラントによってJPYCのより良いエコシステムを拡大していきたいというのが我々の狙いですね。Web3やDeFiといわれるような領域では、世界的にはグラントは一般的な方法になっています。

非中央集権的な思想の一環のようなイメージですかね。

まさに社内の開発者と社外の開発者に差がないほうがいいという考え方なんです。会社に入らないと開発ができないと、会社には所属したくないけど、何か開発したいという人を巻き込めません。

そういう人は今まではオープンソースで、外部で開発していたわけですが、それでは持続性がないですよね。常に開発に時間を割き続けることは難しいと思いますので。

ここから生まれてくるものが、今までの既存の銀行系システムに対抗する何か生む可能性があるようなイメージですか。

そうですね。これまでもやはり面白いソフトウェアが開発されていて、プロトタイプですけど、PayPayの代わりに決済で使えるものとか、みんなそれぞれ作っていただいて、JPYCの可能性を広げていただいています。

グラントから生まれたもので、具体的にいえるものはありますか。差し支えなければ、教えていただけますか。

ちょうどJPYCグラントのページがリニューアルされて、そこで過去に受賞したプロジェクトを一通り公開しています。

JPYC Grant
https://grant.jpyc.jp/

弊社の中で、これはすごいと満場一致で満額のグラント支給になったのが、「わらしべ」さんという会社が開発した「HiDΞ(ハイド)」という分散型ブログです。

今までのブログは運営者がサーバ代を払っていたので維持されていました。しかしブログサービスが何かの理由で閉じてしまうと、多くの価値ある記事が全部なくなってしまっていたわけです。

記事がすべてなくなって、リダイレクトされてしまう悲しいことが起こるわけなんですけど、分散型ブログというのは、そういうことがありません。記事はあくまで自分のものという形で見られるサイトが、分散型CMS(Contents Management System)のHiDΞなのです。HiDΞには投げ銭の機能もあり、標準の投げ銭としてJPYCが、使われています。

また、わらしべさんは他のコインを投げてもJPYCで受け取れるという機能も含めて、かなり高度な開発をしてくれました。

弊社はこのわらしべさんにグラントという形で、100万JPYCをお贈りしていますが、どう考えても100万円ではあんなスピードで開発はできないんですよね。こういうことができたのは、もう完全にグラント制度で、パーミッションレスで開発ができるからこそと思っています。

グラントでは、弊社も支援したりシェアしたりすることがやりやすくなります。グラントを受けた開発チームも、ただ単に受託開発して100万円を受け取りましたでは、大した実績にならないと思いますが、賞を取りました、その賞金が100万円でしたということがいえますので、純粋に100万円分の仕事と比べたら、遥かに周りの評価も高くなると思うんですよね。

弊社にとっても100万JPYCでも安いぐらいの開発をしていただけています。HiDΞにはサイトの上にJPYCのマークがあって、それを押したら投げ銭ができます。それがあることで、JPYCを知ってくれた方も結構いらっしゃるので、広報的な効果もあるし、実際にお客様にJPYCに興味を持っていただけるきっかけにもなっています。

JPYCの記事はHiDΞ上に多く書かれる傾向もあるし、非常に良いエコシステムになっているのではないかなと思っています。

グラントとエコシステムのいい関係の例で、面白いお話ですね。ありがとうございます。

続けて支援ということでお聞きしたいのですが、御社はマイクロソフトのスタートアップ支援プログラム「Microsoft for Startups」に採択されたことを発表されましたが、どのようなご支援を受けられているのでしょうか。

マイクロソフトさんは非常にスタートアップの支援に熱心で、実は私は前の会社でも、マイクロソフト賞というのを会社でいただいてですね、マイクロソフトさんにハッカソンを一緒にやっていただいて、暗号資産の開発なども一緒にやらせていただいたこともありました。

今回のご支援いただいたのは、基本的なサーバ代の支援なんですけれども、そのスタートアップの支援プログラムの中にはメンタリング的に相談にのってくれる部分もあったりします。たまたまなんですけれども私は以前からマイクロソフトさんの金融系の本部長されている方にお世話になっていたのですが、その方はフィンテックに詳しいスペシャリストの方なんですね。

そういう方にも相談にのっていただけるように、マイクロソフト社のリソースの一部をスタートアップに振り分けていただけることによって、開発がスムーズになるだけじゃなく信用も高まるので、これも一緒のグラントなのかもしれませんが、非常にありがたいです。

だから弊社もありがたくグラントをいただいて、そのグラントをまた他のスタートアップに還元しているようなところがあるかもしれないですね。

─Azureのような環境を提供いただいているようなご支援ですか。

そうです。あとはOfficeのライセンス購入も含めて使えるポイントをいただけています。スタートアップにとってはそういうのもかなりの費用になってしまいますので、特に人が増えていく過程のスタートアップにとっては、ありがたいですね。

JPYC急成長の要因は先進的な会社の体制にあり

─最近、御社の社内体制が変わられたというリリースを拝見しました。岡部さんの社員さんに向けたTwitterは非常に面白いと思っているんですが、その中で「Wormhole」のお話があって、JPYCも対応しようと思っていたが、スタッフの意見を聞いてやめて正解だったというエピソードがJPYCさんらしいと思いました。スタッフさんへの信頼関係も含めて、御社のユニークな社内体制について教えてください。

Wormhole事件:複数のブロックチェーンをつなぐブリッジ環境を提供する暗号資産プラットフォーム「Wormhole」で、ハッカーがEthereumとSolanaをつなぐブリッジを悪用し、3億2000万ドル相当のETHを盗んだ事件。事件前、JPYCはWormholeを使ってSolana版JPYCを出す検討をしていたという。

スタートアップの初期の頃は、普通はワンマンでトップダウンの組織形態が多いですけど、弊社は最初からスタッフに権限委譲を進めている、ディセントラライズ(非中央集権)に運営してきた会社と思っています。

実は私自体が決めることってほとんどないです。元々ないほうですが、今は現場指揮官といわれる現場の責任者が相当の権限を持っています。

今回のWormholeについては、弊社の現場責任者は絶対Wormholeに対応したいといっていて、会社としてもそれを進めればニーズがあるのはわかっているしインパクトは大きいという中で、セキュリティの責任者がストップをかけました。

セキュリティの責任者が、Wormholeがもうちょっと実績が出て安全性を高められるまで待ったほうが良いと判断したのが正解だったというケースですよね。

なので、ある意味内部統制も含めてうまくいっているし、最終的には対応を諦めた現場のほうも納得していたので、結果オーライでした。これは非常にうまくいった例だと思いますね。

決定の部分で、岡部さんが口を出したいという気持ちは、あるんでしょうか。

日常のことはほぼなくて、取締役会の決定事項の場合はありえます。1000万円以上の大きな契約とかですね。そういうものに関しては取締役の1人として当然発言します。ですが社外取締役が過半数の取締役会になっているので、私1人の発言で決まることはもうほぼない。逆に私は何やっているかというと、業界団体側で提言をしたり議員さんに会ったり、行政の方と話したりとか、そういうことにむしろ時間を使っていて、トップ営業的なことをやっています。

そうした組織にしようという岡部さんの目的は、具体的にどのようなところにあるのでしょうか。

スタートアップは、スピードが全てだと思っています。意思決定速度、実行速度、これを極限まで高めて、その機会を掴んでいかないと、あるいはちゃんと危機を回避していかないと、すぐ潰れるわけですね。

そういう中で危機管理に強い組織にしたいと思っていました。

たまたま前の会社の仕事で「Ingress(イングレス)」という位置情報ゲームをやっていたときに、チーム戦で戦うときにトップダウンで指示を持って動いていたら、もう全然勝てないということを痛感しまして、チーム戦にインシデント・コマンド・システムという、組織形態なんですけど、アメリカの標準的な危機管理用の組織を導入したんですよね。

Ingress:スマートフォン向けの拡張現実技術(AR)を利用したオンラインゲーム・位置情報ゲーム。Niantic社が開発・運営を行う。β版運営を経て2013年12月に正式リリース。コンセプトは実世界の地図と連動したリアルタイムに継続する陣取りゲーム。実際に歩き回り、他のユーザーと組み、組織的に陣取りを行う。世界中でヒットした結果、任天堂との提携が決定し、のちに「ポケモン GO」の開発へとつながった作品である。

そうするとトップにお伺いを立てずに現場で決められるので、非常に意思決定スピードが速くて、ゲームに勝てるようになったんですね。

弊社の組織もそれに習ったことで、意思決定速度が速くなって、うまくいきやすくなっていることが弊社の成長の一つの要因になっていると思っています。

要は私が決断して口出しをすると、どうしてもお伺いを立てるような文化になってしまって、意思決定速度が落ちてしまいます。結果、すばやく決定して実行することができなくなるので、かえって上手くいかなくなるだろうと、自分の中では整理しています。

すごく先進的なイメージですね。逆に、それで困ったことはないですか?

一番大変な部分としては、弊社は上場(IPO)も目指しているんですね。そうすると、指揮命令を末端まで行き渡らせろとかですね、悪いことしそうになったら止めろとか、いわゆる内部統制が要求されてきます。

現場に権限委譲していることと内部統制をどう両立させるか、また上場プロセスにおいてそれを外部に説明する必要があるので、新しい組織形態であるほど、より説明が求められます。このあたりは、やはり前例がほとんどないので大変な部分なんですね。

ただアメリカ政府が標準的に取り入れているインシデント・コマンド・システムで、内部統制が取れてないなんてことをいうほうがおかしいと思って、このやり方でいけるはずだと信じて、説明を尽くしている状況ですね。

─IPOもそうだと思いますし、第三者型前払式の登録をもらう上では、やっぱり普通の組織のように見せかけるというとちょっと語弊あるかもしれませんが、そういったところの矛盾みたいな部分は、ないのでしょうか。

そこに関しては、むしろ今の組織のほうが当局の要求には答えやすいと思っていて、要するにコンプライアンスが利いているかとか、独断で変なことやらないか、ということを当局は気にするわけなんですよね。

我々の場合は、例えば法律などコンプライアンスに関わることは責任者が止めることができるとか、止められることが明確になっていて、それ以外はすべて現場の判断でGOというようになっているんですね。

逆にそこが明確に明示されているという意味で、当局としては社長が悪いことしろといったら悪いことするような組織だったらOK出しにくくなるので、そうじゃないよというのが明確になっているのはいいのかなと思いますね。

そういう会社組織にしていった中で、最終的にJPYCさんが目指すこれからを、具体的に伺えればと思うんですけども。

弊社は「社会のジレンマを突破する」というミッションを掲げています。しかし、社会のジレンマなんて無数にあるので、我々だけで突破できるとも思ってないし全部解決できるなんて思っていないんですね。

そうすると、どれだけ多くの人を巻き込んで、みんなで社会のジレンマを突破するお手伝いができるかということになっていくと思っています。

実際JPYCは経験のある起業家が起業後にJPYCに入社してくれたり、あるいはJPYCに勤めた後に起業したりということで、結構出入りが自由というか激しいというか、外と内というのが、かなり行き来しやすい環境をあえて作っています。

JPYCの良い部分を文化として経験いただき、それを受け継いだ人が外に出て、それぞれ自分の解決したい社会的な課題を解決するという考えです。これを広げていけば、自社だけでは、数個の課題しか解決できなかったとしても、例えば100社、1000社という形でどんどん当社のやり方を一部でも取り入れた会社が増え、それぞれ社会の課題解決してくれたら、最終的にいい世の中になると信じています。

なので起業をする人もこれからも弊社からどんどん出ていくと思うので、弊社と、あと弊社の卒業生、これらトータルで社会のジレンマを突破していこうと思います。

それにつながる流れで、ステーブルコインが解決する社会のジレンマみたいなのもあるのかなと思うんですけども。

そうですね、ステーブルコイン自体が解決する一番のジレンマというのは決済の滑らかさです。

JPYCはパーミッションレスですから、例えばシステムのつなぎ込みをするのに許可を取らなきゃいけない、つなぎ込みに1〜2ヶ月かかるなんていう今までのようなことがないわけですね。

オープンソースで自分がシステムをつなごうと思えばつなげます、というような世界観なのでスピードも速くなるし、手数料も安くなるので、決済の世界が滑らかになると思います。

今までは決済手数料が高いからできなかったようなことがいろいろ解決してくると思いますね。

せっかくキャッシュレスにしても、そのキャッシュレスの手数料が2〜3%かかっちゃうと、お店とか、レストランとかはつらいと思うんですよ。

お店やレストランはいろんな課題を解決しているでしょうから、そういう部分を解決できて、決済手数料が滑らかになれば、それだけいろんな会社の利益も上がるし、会社の利益が上がれば、そこにまた銀行がお金を貸したりもできると思うし、世の中がいい方向に回っていくと思うので、非常に大事なポイントと思っています。

特に先ほどもいったように、Webが進化して、日本が開国するか、このまま鎖国するかの瀬戸際だと思っていますので、仮に日本が開国の道を選ぶとしたら、このステーブルコインはなくてはならないツールと思っています。

いろいろな取引を外国と国境を越えて自動化するという領域では、やっぱり今までの銀行では遅すぎて、あるいは手数料が高すぎて、話にならないと思っています。恐らくステーブルコインが標準的に使われるようになるだろうと思っています。

それだけ責任重大なんだけど、やりがいも非常にあるので、頑張っていきたいなと思っています。

期待しています。ちなみに岡部さんはやはり日本はちょっと遅れているようなイメージなんでしょうか。

そうですね。日本でも非常に危機感を持っている方はたくさんいらっしゃいます。ただ、どうしてもその法体系が、許可を取ってやりましょうという体系になっているので、なかなか思い切ってまず行動してみるということが、やりにくい国にはなっているとは思っています。

スタートアップは大企業より早くリスクを取って、先陣を切って社会の課題を解決に行くことが存在価値だと思っていますので、このステーブルコインというのがちゃんと世に出て、社会的に受け入れられれば、その成功例の一つにはなると思います。

組織のグローバル化についてはどう考えてらっしゃいますか。

弊社は、コロナ禍ということもあり、ほとんどのメンバーがフルリモートで勤務しています。中には外国からリモートで参加しているメンバーもいるし、Web3の世界は本来は国境がないほうがいいし、我々も含めてこの業界はそっちを目指していると思うんですね。

ただ現状は、今は国ごとに法律が違っているので、そこを吸収するという意味で、まだ日本に本社があるということに一定の意味はあると思っています。

これは日本円ステーブルコインをやるっていう上では一定の意味があるんですけれども、仮に外国のステーブルコインをやるんだったら、また話は変わってくると思っていて、あくまでも日本で日本居住者に向けて日本円ステーブルコインをやる場合は、当局からしても日本に本社があったほうが絶対に話がしやすいんですね。

しばらく日本にるとは思いますが、ただ当然、国境がなくなっていくというのがWeb3の方向性ですので、それにも対応できるように、また日本が開国できるように、日本にいながらいろいろバックアップしていきたいと思っていますね。

もしかしたら岡部さんも海外に行ってしまう可能性もあるかなという雰囲気を感じましたけども(笑)。

何か最後まで粘ろうとは思っていますけども、どうしても国が、いやお前はいらないから外に出ろと、おっしゃるんだったらしょうがないかなと思っていますね(笑)。

そこは本当に心配なんですけども最後まで頑張っていただければなと思います。

仲間内ではもう、JPYCが最後の砦だといわれています(笑)。

─JPYCさんが今やっていることで、最後におっしゃりたいことがあればどうぞ。

コロナ禍もあって、今もう社会がWeb3にシフトしていっていると思っていて、この流れはなかなか止まらないと思うんですね。

そういう中で日本がずっと鎖国していると、純粋に競争に置いてかれるだけなので、近いうちに開国するだろうとは思っています。

そのときに開国してからスタートしていたら遅いので、今のうちから皆さんも、開国に備えて準備をしていただいて、開国する前後で猛ダッシュできるようにしておきたいですね。

そういった意味でもJPYCを触っていただけると、開国した後にどういう雰囲気になるのかなというのを考えるきっかけにはなると思いますので、ぜひ一度触ってみていただけたら嬉しいです。

ありがとうございました。

インタビューカテゴリの最新記事