ブロックチェーンで中古車市場は健全化する?大手も取り組む事例を紹介

ブロックチェーンで中古車市場は健全化する?大手も取り組む事例を紹介

はじめに

世界的に拡大している中古車市場では、走行距離計(オドメーター)の改ざんといった不正行為が課題となっているのが現状です。

中古車市場の課題を解決するために、多様な関係者が参照でき、自動車の履歴を記録した共有台帳を実現しようと、ブロックチェーンを活用した実証実験が進められています。

そこで本記事では、中古車市場におけるブロックチェーンの活用事例を紹介していきましょう。

中古車販売の課題とは?

冒頭でも記したように、中古車市場は必ずしも健全であるとは言えないのが現状です。中古車の販売業者や輸出業者などが、中古車の走行距離計(オドメーター)を意図的に巻き戻して、実際の市場価値よりも高値で販売する事例が国内外で報告されています。

例えば、欧州議会が2018年に公表した報告書「Odometer manipulation in motor vehicles in the EU」では、EU域内で取引されている中古車の最大50%で、オドメーターの改ざんが行われていると推定されています。

その結果、本来の市場価値よりも高値で中古車が取引される事態になっているのです。経済損失は最大で年間1兆円を超えると見られています。

一般的に中古車の買い手は、以前の所有者や中古車の販売業者が提供する情報を信頼するしかありません。オドメーターの正当性などを確認するには、第三者による検査が必要ですが、100%不正を検出できるとは限らず、全車チェックは大きなコストになるため現実的ではないのです。

中古車市場の重要性

国によって差異はありますが、中古車市場は拡大しています。

例えば、中国では2015年以降、中古車市場が年々拡大しており、3年間で1.5倍になりました。今後2020年から2024年までに、世界の中古車市場が年平均で6%成長するとの予測もあります。

また、シンガポールのように中古車の需要が高い国もあります。したがって、中古車市場におけるオドメーターの改ざんによる経済損失は大きいのです。

上記の課題と状況に対して、売り手と買い手にある情報の非対称性を修正し、中古車の価値を証明するために仕組みが求められています。

ブロックチェーンが活用できるポイントとは?

当メディアの様々な記事でも解説しているように、ブロックチェーン上で記録されたデータは改ざん困難であるため、多くの参加者間でデータを共有することができます。

したがって、車両の登録情報をブロックチェーン上に記録し、その車のメーカーや販売者、所有者、あるいは整備やパーツの交換、走行距離の記録などを、多様な主体間で一元的に管理できるのです。

自動車のライフサイクルを追跡する共有台帳システムが実現すれば、オドメーターの改ざんによる不正は困難になっていくでしょう。さらに、所有権移転をスムーズに行ったり、リコール発生時に対象車種の所有者を迅速に特定したりすることも可能です。

ブロックチェーンベースの自動車管理システムの構築は、オドメーターの改ざんが大きな問題となっている欧州や、中古車へのニーズが大きいシンガポールのような国にとって重要な取り組みだと言えるでしょう。

中古車市場×ブロックチェーンの事例紹介

それでは中古車市場におけるブロックチェーンの活用事例を紹介していきましょう。

Daimlerの子会社とPlatONによる中古車の適正価格算出プラットフォーム

「Mercedes-Benz」(メルセデス・ベンツ)などのブランドを擁する大手自動車メーカー「Daimler」(ダイムラー)と、中国の自動車メーカー「BAIC Motor」の合弁会社である「Beijing Mercedes-Benz Sales Service」(BMBS)は、中古車の適正価格を算出するためのプラットフォーム「Vehicle Residual Value Management Platform」を開発中です。

このプラットフォームでは、ベンツの販売店や車検の記録、過去の所有者などの情報が暗号化された上で、ブロックチェーン上に不変の記録として保存されます。

したがって、中古車情報に関する透明性が向上し、消費者が中古車を適正価格で安心して購入できるようになると期待されているのです。

最初はBMBSが販売する中古車を対象としますが、将来的には他の自動車ディーラーや車検会社などにも開放され、グローバル市場にも導入される予定です。

なお、基盤としてはブロックチェーン企業「PlatON」が開発する独自ブロックチェーンが採用されています。

Lamborghiniの真正性証明

高級スポーツカーとして有名な「Lamborghini」(ランボルギーニ)は、中古車市場で販売されるLamborghiniの真正性証明にブロックチェーンを導入しています。

Lamborghiniが再販される場合、車両はLamborghini本社で行われる800〜1,000回の認証チェックを受けています。これは購入者が、確実に純正品で構成された自動車を購入できるようにするための措置です。

そして、徹底した検査を行うために同社の技術者は、写真家やオークションハウス、ディーラー、修理工場、新聞、雑誌、その他のメディアなどの膨大なネットワークを駆使して、車両の全履歴を整理し、そのパーツやサービスをすべて確認します。

この認証プロセスをデジタル化・効率化するために、Lamborghiniはパートナー間で運用されるパーミッション型ブロックチェーンを導入しています。認証済みの履歴がブロックチェーンに記録されることで、偽造のリスクが削減され、車両の真正性検証を迅速に行えるのです。

なお、ブロックチェーンとしては、CRMソリューションの世界最大手「Saslesforce」(セールスフォース)が提供する「Salesforce Blockchain」が選択されています。Salesforce Blockchainは、オープンソースで開発される「Hyperledger Sawtooth」をベースとしたパーミッション型のブロックチェーンです。

シンガポールの中古車マーケットでの改ざん防止

月間200万人以上が閲覧するシンガポールの自動車販売サイト「sgCarMart.com」は、ブロックチェーンベースの中古車データマーケットプレイス「Know-Your-Vehicle」をローンチするために、実証実験を行っています。目的はオドメーターをはじめとする自動車履歴の改ざん防止です。

シンガポールでは渋滞や大気汚染対策として自動車の登録台数が制限されており、自動車の購入には様々な手数料が加算されるため、新車の価格が通常の230~310%になります。

必然的に、シンガポールでの中古車人気は高くなりますが、オドメーターの巻き戻しや車両の欠陥情報が開示されないなど、購入者にとって不利な問題が発生しているのが現状です。

この課題に対してsgCarMart.comは、ブロックチェーンベースのデータマーケットプレイス上で自動車の履歴情報(車体番号や走行距離、部品の交換履歴など)を売買できるサービスを提供しようとしています。購入を検討している自動車の履歴情報を、中古車の買い手が購入・閲覧することで、安全性を確認できるようにするアプローチです。

このマーケットプレイスは、分散型データ交換プロトコルを開発する「Ocean Protocol」を活用して構築されています。また、自動車に関する情報をブロックチェーンに記録するインセンティブや情報を購入する代金として、トークンが活用される予定です。

トヨタグループ会社も実証実験を完了

トヨタグループもブロックチェーンの活用を検討しています。

「トヨタファイナンシャルサービス株式会社」はブロックチェーン企業「株式会社Datachain」と共同で、自動車の価値証明と所有権移転に関する実証実験を行いました。実証実験は、2019年4月に設立された「トヨタ・ブロックチェーン・ラボ」での取り組みの一部です。

株式会社Datachainのプレスリリースでは、結果について以下のように記載されています。

本実証実験を通じて、自動車の二次流通市場における車両価値の算出や車両の所有権移転の際にブロックチェーン技術を用いたデータ連携を活用することの有用性が検証されました。

引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000055051.html

なお、実証実験においてはルートチェーンとしてEthereumが、サイドチェーン上でのアプリケーション構築の基盤としては、「Tendermint」アルゴリズムをベースに株式会社Datachainが開発した独自チェーン「Hypermint」が採用されています。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000055051.html

まとめ

本記事で紹介した事例のほかにも、「BMW」とブロックチェーン企業の「VeChain」は共同で、デジタル車両パスポート「VerifyCar」を開発しています。

VerifyCarは前述の事例のように、走行距離や修理歴などの改ざんを防ぎ、適正価格で中古車が売買されることを目指すものです。詳しくは以下の記事で解説していますので、ぜひご覧ください。

また、今回は中古車市場にフォーカスを当てて事例を紹介しましたが、自動車×ブロックチェーンの活用パターンは他にも様々あります。

多様な関係者が自動車のライフサイクルに関するデータを共有する仕組みは、中古車市場だけではなく新車販売や自動車保険、メンテナンス履歴の管理など、様々な領域で活用され得るものです。

当メディアでは自動車業界におけるブロックチェーンの活用事例を紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。

▼詳細はこちら
【THE 事例集】製造業×ブロックチェーン – 自動車業界編 part.1
【THE 事例集】製造業×ブロックチェーン – 自動車業界編 part.2

参考資料
Odometer manipulation in motor vehicles in the EU
【スマートインフラ】拡大する中国中古車市場と日本に向けられる期待|日本総研
Mercedes-Benz leverages on blockchain for secure data tracking
Daimler to use blockchain platform for valuing used cars
Lamborghini Accelerates Trust and Authenticity with Salesforce
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Ocean Protocol, sgCarMart to build used car data blockchain
Datachainとトヨタファイナンシャルサービス、ブロックチェーンを活用した車両の「価値証明」と「所有権移転」に係る実証実験を実施

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