【事例】「TradeLens」貿易×ブロックチェーン – 実稼働の要注目プロジェクト

【事例】「TradeLens」貿易×ブロックチェーン – 実稼働の要注目プロジェクト

はじめに

ビジネス・個人問わず、私たちが使う多くのモノは、国際貿易を経て手元に届いています。国際貿易の物流は複雑であり、デジタル化が進んでいない分野のひとつです。貿易では様々な書類が必要となりますが、依然として紙ベースで情報共有が行われている部分が多く、非効率性な状態が続いています。

このような課題を解決しようと、ブロックチェーンを用いて情報をデジタル化・効率化する取り組みが拡大しつつあります。本記事で紹介する「TradeLens」(トレードレンズ)はその代表的な事例です。本記事では、国際貿易における課題を整理した上で、TradeLensの概要を解説していきます。

TradeLensの最新情報(2021年3月時点)については、以下の記事でも詳細にまとめています。貿易のデジタル化に興味がある・情報収集中の方はぜひ併せてご覧ください。

【活用事例 – TradeLens】なぜ貿易プラットフォームにブロックチェーンが必要か?

国際貿易の課題とは?

国際貿易には輸入者・輸出者以外にも、保険会社や銀行、通関業者、税関当局、陸海の運送業者、船会社など、多くの事業者や行政機関が関わっています。そして、貿易の貨物には多くの書類が伴い、数々の文書は、貿易の関係者間で共有されなければなりません。

まずは、国際貿易の課題を整理していきましょう。

サイロ化し、デジタル化が進まない非効率な国際貿易

現状の国際貿易システムにおける主な課題としては、以下の点が挙げられます。

  • データのサイロ化
  • 紙ベースの処理
  • 通関手続きに時間がかかる
  • 高コストかつ低レベルな顧客サービス

データのサイロ化

貿易に関する情報は、サプライチェーン内の事業者によって様々な形式で保存されています。国や事業者によって、紙かデジタルかの形式も異なり、デジタル化されていたとしても、そのフォーマットが共通化されている訳ではありません。

つまり、情報の保存形式がサイロ化しているため、効率的な情報共有ができないのです。また、情報共有はすべての関係者に対して一括で行われる訳ではなく、一対一のメッセージングによって行われています。

紙ベースの処理

貿易に関する多くの書類が依然として紙ベースで処理されています。船荷を巡る状況は時間と共に変化していきますが、紙ベースの場合、リアルタイムでの情報共有が困難です。

さらに、書類などを手作業で確認したり、最新情報を頻繁にフォローアップする必要があるため、ミスや遅れが生じるリスクがあります。

通関手続きに時間がかかる

貨物に関して信頼できる情報が不足している場合、密輸の取締りなどを行う税関当局は、通常よりも詳細な検査を行う可能性があります。そうなった場合、通関手続きが遅れてしまいます。

高コストかつ低レベルな顧客サービス

上に挙げた様々な要因によって、貿易プロセスの遅延や不確実性が生じるため、非効率なサプライチェーンは過剰な安全在庫や高い管理コストの原因となります。結果として、顧客に対するサービスの質が低下してしまいます。

以上のような国際貿易における課題を解決するソリューションとして開発されているのがTradeLensです。

国際貿易の課題を解決するTradeLensとは?

TradeLensは、IBMと世界最大手の海運企業「Maersk」(マースク)が共同で開発・販売しているプラットフォームであり、その目的はブロックチェーンによってグローバルサプライチェーンをデジタル化・効率化することです。

TradeLensでは、貿易に必要な数々の文書を安全かつ改ざん耐性のある形で共有できます。さらに、船荷の状況確認や船荷に紐付いた書類の検索などができるWebアプリが提供されており、必要に応じて関係者に対して迅速な情報共有が可能です。

実際の使用感は、IBMが制作した以下の動画を観るとイメージしやすいかもしれません。

  

また、TradeLensには、IBMが開発初期から主導的に関わっているパーミッション型(許可型)ブロックチェーンのフレームワーク「Hyperledger Fabric」が使われています。したがって、文書などの情報を共有する相手はコントロール可能です。

大手海運企業や行政機関が参加、既に実運用フェーズにあるTradeLens

TradeLensには「CMA CGM」や「MSC」、「Ocean Network Express」など、世界の海運大手の上位6社のうち5社が参加しています(2019年10月15日時点)。

参考:TradeLens Blockchain-Enabled Digital Shipping Platform Continues Expansion With Addition of Major Ocean Carriers Hapag-Lloyd and Ocean Network Express

重要なポイントは業界大手が参加するTradeLensが、既に実運用フェーズにあるという点です。2019年6月時点で、TradeLensには100以上の事業者が参加しており、毎週1000万を超える出荷イベントと数千点の文書が処理されています。

さらに、サウジアラビアやタイ、アゼルバイジャンの税関当局もTradeLensを採用しています。

参考:Azerbaijan Customs joins TradeLensSaudi Customs approves their first blockchain shipment to RotterdamThai Customs turns to TradeLens

TradeLensの全体像

TradeLensは以下の3つのレイヤーに分かれています。

  

https://docs.tradelens.com/learn/solution_architecture/

「エコシステム」は、船会社や荷主、港・ターミナルや税関当局、フォワーダーなどのTradeLensネットワークの会員で構成されており、TradeLensプラットフォームに直接接続し、貿易に関わるデータを提供しています。ネットワーク会員以外の企業もデータを提供することができ、日本国内にある複数の港・ターミナルが情報を提供しています。

参考:THE POWER OF THE ECOSYSTEM

「TradeLensプラットフォーム」は、オープンAPI経由でアクセス可能です。サイロ化を課題としていた国際貿易において、オープンで標準化されたAPIを提供し、業界の情報共有とコラボレーションを促進しています。

また、TradeLensはHyperledger Fabricベースのプラットフォームであるため、将来的に他のHyperledgerプロジェクトと連携し、名前空間などを含む相互運用性が担保される予定です。

さらに、TradeLensやサードパーティが目的ごとに様々なサービスを公開できる「マーケットプレイス」も提供されています。

TradeLensのアーキテクチャー

  

https://docs.tradelens.com/learn/solution_architecture/

TradeLensのアーキテクチャは上図のようになっています。APIでの連携の他に、EDI(Electronic Data Interchange)やXML(Extended Markup Language)などの異なるフォーマットとの統合を可能にする「TradeLens統合フレームワーク」が提供されています。

改ざん耐性の仕組み

TradeLensに参加するノードは、それぞれがデータストレージを備えています。貨物に紐づく文書自体は、ブロックチェーンではなくセキュアなデータストレージに保存され、ブロックチェーンには文書のハッシュが記録されます。

そして、既にブロックチェーンに記録されたハッシュと、データストレージに記録された文書から得たハッシュを比べることで、文書が改ざんされていないことを確認できるのです。
  

https://www.ibm.com/downloads/cas/3EMNDKPJ

TradeLensに関するその他の詳細は、以下の日本語版の資料(TRADELENS概要)か、開発者向けのドキュメントをご覧ください。

参考:TRADELENS概要TradeLens Documentation

まとめ

本記事でも解説したように、TradeLensは業界大手や税関当局を巻き込みながら拡大している有力なブロックチェーンプラットフォームです。既に実運用フェーズにあり、多くの貨物や文書がTradeLensプラットフォーム上で管理されています。

さらに、Hyperledger Fabricを用いて開発されているため、Hyperledgerのエコシステムを利用できる点にも注目すべきでしょう。将来的に他のHyperledgerフレームワークとの相互運用性も視野に入れつつ標準化が行われています。

TradeLensは、貿易に関する文書や情報共有、マネジメントのデジタル化・効率化を検討する上で有力なプラットフォームだと言えるでしょう。

TradeLensの最新情報(2021年3月時点)については、以下の記事でも詳細にまとめています。貿易のデジタル化に興味がある・情報収集中の方はぜひ併せてご覧ください。

【活用事例 – TradeLens】なぜ貿易プラットフォームにブロックチェーンが必要か?

活用事例カテゴリの最新記事