海運コンソーシアム「Global Shipping Business Network 」(GSBN) とは?

海運コンソーシアム「Global Shipping Business Network 」(GSBN) とは?

はじめに

国際貿易の領域では効率化やコスト削減を進めるためのIT導入が進んでおり、AIやIoTと同様にブロックチェーン(分散型台帳技術)の活用も進んでいます。当メディアでもこれまでに「TradeLens」や「VeChain Thor」などの事例を解説してきました。

国際貿易で発生する膨大な文書は、依然として紙媒体でやり取りされるケースが多く、大きなコストになっています。この課題に対して、改ざん耐性のあるデータを多数の当事者間で共有できるブロックチェーンは有用なのです。

本記事で紹介する「Global Shipping Business Network」(GSBN)は、「IBM」と海運最大手「Maersk」が主導する「TradeLens」と同様に貿易プロセスのオンライン化による効率化・コスト削減を目指すコンソーシアムであり、市場において大きなシェアを占めています。

Global Shipping Business Network(GSBN)とは?

「Global Shipping Business Network」(GSBN)は、ブロックチェーンを活用して海運産業のDX(Digital Transformation)を加速させるためのコンソーシアムであり、2020年中に設立される予定の非営利法人です。

同法人は、大手コンテナ船会社や湾港運営会社(ターミナル・オペレーター)が出資する合弁会社となる予定で、コンテナ船社の市場シェア上位5社のうち3社が株主(予定者)として名を連ねています。

Oracle Blockchain Platform × Hyperledger Fabricを採用

GSBNのシステム開発を行うのは、香港に本社を置き、海運領域におけるDXを推進するソフトウェアプロバイダー「CargoSmart」です。同社が開発し、GSBNで使われる予定のアプリケーションには「Hyperledger Fabric」が採用されています。また、BaaSとしては「Oracle Blockchain Platform」が選択されており、CargoSmartはシステム開発にあたってOracleのコンサルティングを受けています。

なお、後述する実証実験のパイロットアプリケーションも含め、システムの詳細は明らかにされていません(2020年5月11日現在)。

Global Shipping Business Network(GSBN)のメンバー

2020年5月11日現在、GSBNには以下の10社が参加しています。CargoSmart以外は、すべてコンテナ船社や湾港運営会社といった海運産業のプレイヤーです。

  • COSCO SHIPPING LINES(船社、COSCOグループ全体で世界シェア第3位)
  • CMA CGM(船社、世界シェア第4位)
  • Hapag-Lloyd(船社、世界シェア第5位)
  • OOCL(船社、COSCOグループ)
  • Hutchison Ports(湾港運営会社)
  • COSCO SHIPPING Ports(湾港運営会社)
  • Port of Qingdao(湾港運営会社)
  • PSA International(湾港運営会社)
  • Shanghai International Port Group(湾港運営会社)
  • CargoSmart(システムプロバイダー)

上記メンバーは、2019年7月12日にサービス協定(Services Agreements)を締結した上で、GSBN設立のために必要なすべての規制や競争の維持・促進のための条項、反トラスト法(日本における独占禁止法)をクリアすべく準備を進めています。

Services Agreements締結時は、2020年早期(early 2020)の設立を目指すとされていましたが、2020年5月11日時点では、正式に設立されていません。ただ、2020年2月27日に海運9社の株主間契約が交わされており、規制当局から承認を取得すれば、正式に設立される見込みです。

参考:GSBN Counts Down to Inauguration as Its Shareholders Sign Shareholders’ Agreement

Global Shipping Business Network(GSBN)の主な取り組み

ここでGSBNの主な取り組みを整理していきましょう。

まず、2018年11月6日にGSBN設立に向けた覚書が、CargoSmartと海運9社との間で締結されました。その後は前述の通り、2019年7月12日にServices Agreementsが締結されています。

CargoSmartとGSBN参画企業の一部は、明らかになっている範囲で2つの実証実験を完了しており、その概要は以下の通りです。

香港金融管理局(HKMA)との実証実験(2019年11月発表)

2019年11月5日、CargoSmartは「香港金融管理局」(HKMA)が運用するトレードファイナンスプラットフォーム「eTradeConnect」との概念実証(PoC)の完了を発表しています。PoCでは、eTradeConnectとGSBNをリンクし、金融と海運データの相互運用性を担保できるかが検証されました。

検証は成功したと発表されており、GSBNが正式に設立された後、商用化に向けたアプリケーションが開発される予定です。

eTradeConnectとGSBNがリンクすると、eTradeConnectネットワークを利用する金融機関は、GSBNの海運企業のデータにアクセスできるようになります。リアルタイムで共有される出荷イベントデータは、資金調達を望む企業のリスク判定などに使われ、特に中小企業のサプライチェーンファイナンスへのニーズを迅速に満たせると期待されています。

参考:CargoSmart Completes Proof-of-Concept with eTradeConnect to Demonstrate Value in Cross-Network Collaboration for Trade Finance

Teslaとのパイロットプロジェクト(2020年4月発表)

2020年4月、CargoSmartがGSBNメンバーの「COSCO SHIPPING LINES」と「Shanghai International Port Group」、自動車会社「Tesla」と共に、貨物の引き渡しスピードを向上させるためのパイロット取引を完了させています。

貨物の受け渡しに必要な文書の共有をブロックチェーン上で行うことで、承認プロセスが最小化され、遅延なく確実に貨物を顧客の手元に届けられることが確認されました。

参考:GSBN Shareholders Pilot Innovative Cargo Release Application in Shanghai

Global Shipping Business Network(GSBN)とTradeLensは競合

貿易領域におけるブロックチェーンコンソーシアムとしては、「IBM」と海運最大手「Maersk」が主導する「TradeLens」が有名です。TradeLensとGSBNは競合関係にあります。

TradeLensは2018年12月に発売されて以降、10カ国以上の税関を含む175以上の事業者と連携しながら、すでに本番環境で稼働中です。2020年3月時点では、週あたり数百万のイベントと数万のドキュメントを取り込み、累計で1,500万を超えるコンテナの情報を処理していると発表されています。

参考:Standard Chartered joins TradeLens digital shipping platform launched by Maersk and IBM

さらに、2019年には日本国内の海運大手3社(日本郵船・商船三井・川崎汽船)のコンテナ船事業部を統合した「ONE」(Ocean Network Express、世界シェア第6位)もTradeLensに参加しています。2020年5月11日時点では、規模や実績の観点から、TradeLensが大きく先行していると言えるでしょう。

ただし、コンテナ船の市場シェアという観点ではGSBNは、TradeLensに次ぐ世界第2位のコンソーシアムです。さらに、GSBN主要メンバー(COSCO SHIPPING LINESなど)の親会社「COSCO」(中国遠洋運輸集団)は、アジア最大手の海運企業であり、中国の政府機関が100%所有する国有独資会社であるため、設立後は中国を中心としたアジアでのシェアを高めていく可能性があります。

参考:コンテナ船社トップ企業のコンソーシアム参加状況(2019年7月時点)

https://www.ledgerinsights.com/blockchain-global-shipping-business-network-gsbn-cargosmart-cosco-cma-cgm-hapaglloyd/

上記の「Evergreen Line」と「Yang Ming」に取り消し線が引かれているのは、2018年11月の覚書締結時には名を連ねていたものの、2019年7月のServices Agreements締結時にはメンバーから外れているからです。

まとめ

国際貿易プロセスでブロックチェーンを活用する取り組みは、広く普及しつつあります。海運においては、TradeLensとGSBNが中心的なプレイヤーとなり、ブロックチェーンの活用が進んでいくでしょう。GSBNは特にアジアで大きな影響力を発揮しそうです。

今後、両者を含めた様々なコンソーシアム間で、データの相互運用性を確保していけるかが課題となります。同様に、「Contour」(旧名称:Voltron)や「MarcoPolo」のようなトレードファイナンスコンソーシアムとの連携も、サプライチェーン全体の効率化には欠かせません。

国際貿易・サプライチェーン系コンソーシアム同士の連携が進むかどうかは、注目すべきテーマだと言えるでしょう。

なお、当メディアではサプライチェーン関連の事例を複数紹介していますので、興味のある方はぜひご覧ください。

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