小売サプライチェーン×ブロックチェーンのイニシアチブ「CHIP」概要

小売サプライチェーン×ブロックチェーンのイニシアチブ「CHIP」概要

はじめに

ECなどで何か商品を注文すると、その商品(あるいは梱包)のステータスを確認できる追跡番号が発行されます。楽しみにしている商品の番号を検索したことがある方も多いのではないでしょうか?

消費者レベルでは、荷物に振られた追跡番号は便利なものです。しかし、その追跡番号は多くの利害関係者で構成されるサプライチェーン全体で共通化されているわけではありません。したがって、異なるネットワークで番号の重複が発生する可能性があり、大きな物流網のなかで目的の商品を特定するのは困難です。

現状ではサプライチェーンの透明性が低いがゆえに、様々なコストが発生しています。そして、この課題をクリアするためのイニシアチブが、本記事で紹介する「CHIP」(CHain Integration Project)です。

CHIP(CHain Integration Project)とは?

CHIPは「米オーバーン大学RFIDラボ」と小売業界の企業など立ち上げたイニシアチブです。CHIPは、RFIDラボと20社以上の企業から成るコンソーシアム「Auburn Blockchain Working Group」のメンバーによって構成され、以下のサブグループのいずれかに各企業の代表者1名以上が所属しています。

  • ビジネスケースの開発
  • データ標準の策定
  • プライバシー・セキュリティ

なお、Auburn Blockchain Working Groupは、小売業におけるブロックチェーンのビジネスケースをリサーチする目的で2018年2月に設立されました。

https://www.hyperledger.org/blog/2020/03/11/retail-proof-of-concept-proves-viability-of-blockchain-for-serialized-data-exchange

上記画像の通り、Auburn Blockchain Working Groupは、大手ブランドや小売業者、物流業者および「Microsoft」や「IBM」といったBaaSを提供する企業が参加しています。また、複数の地域にまたがるサプライチェーンの効率と透明性を高めるため、国際規格を設計・策定する標準化団体「GS1 US」もメンバーです。

もっとも優先度の高いユースケースは「サプライチェーンの可視性」

Auburn Blockchain Working Groupが事前に行った調査によると、メンバーがもっとも優先度の高いと考えるユースケースは、サプライチェーンの可視性(Supply Chain Visibility)でした。そして、サプライチェーンの可視性を向上させるために解決すべき具体的な課題の特定を行った結果、小売業界におけるサプライチェーンの主な課題は以下の通りです。

  1. クレームとチャージバック(返金)による損失
  2. 行方不明の在庫
  3. 偽造品とグレーマーケット商品の存在

上記の課題による小売業界の損失は大きく、年間1,810億ドルを超えていると考えられています。

なお、グレーマーケットとは、メーカーや正規販売代理店ではない第三者によって、流通網の外で販売される取引市場のことです。グレーマーケットの商品は並行輸入品と呼ばれ、偽造品では無いため違法性はありませんが、正規ルートとは別で輸入されています。

3つの課題に共通する要因とは?

企業の損失に繋がる上記の課題に共通している要因は、サプライチェーンの当事者間でシリアル化されたデータによるコミュニケーションが行われていないからです。ここでのシリアル化されたデータ(serialized data)とは、当該アイテムをサプライチェーン上で識別するための情報群(出荷日時など)のことです。

ある商品に関してトラブルが発生した場合でも、シリアル化されたデータが無いがゆえに、当該商品に関するサプライチェーン上の情報(出荷時の情報など)が乏しい状態で、トラブルを解決しなければなりません。企業間で文書を交換するシステム(EDI:Electronic Data Interchange)を導入している企業もいますが、サプライチェーン全体で生成される膨大なデータを扱うには適していないケースが多いのです。

そこでCHIPでは、ブロックチェーンを用いた最初の概念実証(PoC)として、複数の利害関係者間でシリアル化されたデータを共有し、個々の商品を識別できるかどうかを検証しました。次のセクションでは、CHIPの概念実証の概要と結果を紹介していきましょう。

NikeやPVHらが参加した概念実証

2019年1月〜12月に行われた概念実証(PoC)には、以下の企業が参加しました。いずれもAuburn Blockchain Working Groupメンバーです。

  • Nike(スポーツブランド)
  • PVH Corp.(アパレルブランド)
  • Kohl’s(百貨店)
  • Herman Kay(アウターウェア&アパレルブランド)
  • Macy’s(百貨店)

PoCは各社が実際のサプライチェーンデータを提供し、3つのグループに分かれて実施されました。各グループは、ブランドと小売業者のペアになっていますが、Nikeはどちらの部門も自社に備えているため、単独で1グループとなっています。

https://www.hyperledger.org/blog/2020/03/11/retail-proof-of-concept-proves-viability-of-blockchain-for-serialized-data-exchange

ブロックチェーンには「Hyperledger Fabric」が採用されており、各グループでチャネルを作成することで、取引に関係のない事業者へのデータ共有を防いでいます。また、Fabricネットワークの設定と管理には「IBM Blockchain Platform」が採用されています。

https://www.hyperledger.org/blog/2020/03/11/retail-proof-of-concept-proves-viability-of-blockchain-for-serialized-data-exchange

基本的には各社がサプライチェーンノード(Peer)を運用していますが、Macy’sは同社のDC(在庫型物流センター)と店舗で1ノードずつ、Nikeは工場(the point of encoding)とDCで1ノードずつ運用しています。そして各商品は、電波を用いたRFタグを非接触で読み書きする「RFIDシステム」(Radio Frequency IDentifier)によってスキャンされ、ブロックチェーンに書き込まれる仕組みです。

利害関係者間でシリアル化されたデータが問題なく共有され、任意の商品を特定できれば、PoCの検証は期待通りの成果だと言えます。

http://info.rfid.auburn.edu/chip-proof-of-concept-results

また、PoCではGS1の標準規格「EPCIS」(Electronic Product Code Information Services)が使われており、シリアル化されたデータの出力に関する標準化が行われました。

2019年のCHIPの概念実証は成功

PoC期間中、合計で63.9万点を超える商品がRFIDシステムに捕捉され、そのうち約22.3万点の商品がブロックチェーンに書き込まれました。捕捉分と書き込み分に差があるのは、各社のDCに今回のPoC参加企業のものではない商品も出入りしていたからです。

https://www.hyperledger.org/blog/2020/03/11/retail-proof-of-concept-proves-viability-of-blockchain-for-serialized-data-exchange

分散台帳のログを見たとき、同じIDを持った商品が複数回登場していれば、PoCの目的である「複数の利害関係者間でシリアル化されたデータを共有し、個々の商品を識別できるかどうか」が確認できたということになります。

この検証は成功しており、例えばNikeのサプライチェーンにおいて、PoC期間中に最初に複数回ブロックチェーンに書き込まれていた商品は、子供向けスニーカーの「Kids Air Force1(G5)」でした。

http://info.rfid.auburn.edu/chip-proof-of-concept-results

したがって、CHIPが行ったPoCのレポートでは、シリアル化されたデータを複数の利害関係者で共有するシステムとして、ブロックチェーンは機能的なソリューションであると結論付けられています。

ただし、PoCの初期段階では、トランザクションの処理能力が0.33tps(transaction per second)と非常に低く、最適化を行わなければならなかったようです。調整の結果、22tps(約190万件/日相当)まで処理能力が向上したものの、より多くの参加者を巻き込んで活用するには性能が足りません。さらなる最適化が課題として挙げられています。

また、実際の運用ではより非中央集権的な設計にしていく必要性も指摘されており、今後の改善が期待されます。

まとめ

今回のPoCでも検証されたように、RFIDのようなシステムとブロックチェーンを組み合わせることで、プライバシーに配慮しながら異なる主体間でのデータ共有が可能です。性能向上の必要性など、いくつかの課題はこれから改善していくことになるでしょう。

また、今回のPoCでは企業の収益性への貢献度合いや、読み取りデータの精度などは検証されていません。この部分も今後検証されていくはずです。

最初の疑問点をクリアしたCHIPが、次に実施するパイロットプロジェクトの実施時期は未定ですが、大手企業も加わるイニシアチブの次のステップには注目が集まります。

なお、当メディアではサプライチェーン関連の事例を複数紹介していますので、興味のある方はこちらもご覧ください。

参考資料
Retail Proof-of-Concept Proves Viability of Blockchain for Serialized Data Exchange
CHIP Proof-of-Concept Results

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