大手も参入!デジタルコンテンツ×ブロックチェーンの活用事例とは?

大手も参入!デジタルコンテンツ×ブロックチェーンの活用事例とは?

はじめに

本記事では近年増えているデジタルコンテンツに焦点を当て、ブロックチェーンを活用した事例を紹介していきます。ゲームや音楽、漫画などコンテンツ産業に携わる方や興味のある方にとって事例収集の役に立つはずです。

コンテンツ産業とは?:映像(映画、アニメ)、音楽、ゲーム、書籍などの制作・流通を担う産業の総称です。(「コンテンツ産業の現状と今後の発展の方向性」経済産業省より)

日本国内ではデジタルコンテンツや音楽の著作権管理、ゲームなどの分野でブロックチェーンを活用して、新しい価値を提供する動きが見られています。

事例紹介の前にコンテンツ産業について簡単に触れておきましょう。

コンテンツ産業の現状とは?

近年、スマートフォンなどの普及と共にコンテンツのデジタル化が進んでいます。国内のコンテンツ産業に占めるデジタルコンテンツの割合は2018年時点で70%を超えており、今後も増加が予想されるでしょう。

一方で産業としてはいくつかの課題も抱えており、当メディアBaaS info!!では以下の記事でコンテンツ産業の課題とブロックチェーン活用の可能性を整理しました。

上記の記事ではコンテンツ産業の課題として以下の2点を取り上げています。

  • クリエイターの著作権問題
  • コンテンツの新たな収益化モデルの必要性

電子データは容易に複製可能であり、海賊版という形で不正に配布されるリスクがあります。したがって、その著作権管理の在り方は各国で議論されています。また、日本国内に関しては市場規模がほぼ横ばいであるため、新しいマネタイズモデルが模索されているのが現状です。

上記課題に対して、ブロックチェーンを活用できる可能性があり、例えばコンテンツの新たな収益化モデルについては、経済産業省が検討した報告書が公開されています(ブロックチェーン技術を活用したコンテンツビジネスに関する検討会報告書)。

デジタルコンテンツ×ブロックチェーンの事例紹介

ゲーム製作会社へのロイヤリティ管理

コンテンツ製作を行う事業者にとって、プラットフォーム上で販売したコンテンツへの対価をより素早く正確に受け取れる仕組みは望ましいものです。まずは支払いサイクルの短縮にブロックチェーンを活用した事例を紹介していきましょう。

Microsoftが開発・販売するコンピュータゲームブランド「Xbox」では、同プラットフォーム上でゲーム製作会社が自社のゲームを販売し、売上に応じたロイヤリティがゲーム製作会社に支払われています。

このロイヤリティ管理にブロックチェーンを導入することで、Xboxとゲーム会社間での売上やロイヤリティ情報の共有に要する時間が、大幅に短縮されました(最大45日要していたところを、わずか数分まで短縮)。

ブロックチェーン導入前の管理方法

ブロックチェーンを導入する以前は、ゲーム製作会社へ支払うロイヤリティをスプレッドシートで計算していました。この作業には時間がかかっており、担当の財務部門は事務タスクに追われ、より重要な仕事に着手しづらい状態だったようです。

さらに、従来の会計処理がこうした帳簿とオフラインで管理された台帳に依存していたため、照合が必要であり時間がかかっていました。情報源となる台帳が異なる場所に複数存在していたため、どうしても主導でのリコンサイル作業が発生せざるを得なかったのです。

その結果、プラットフォーム側で売上(ロイヤリティ)が発生してから、ゲーム会社に報告するまでに45日の時間を要していました。

ブロックチェーン導入の成果

非効率の改善に際して、これまで紙媒体だった契約をスマートコントラクトとして表現した上で、契約や売上などの情報をブロックチェーンで構築された共有台帳に記録するようにしました。関係者が情報にアクセスしたい場合は、共有台帳の記録を参照すれば良いため、情報共有の効率性が大幅に向上します。

その結果、売上やロイヤリティに関するデータがゲーム会社に共有されるまでの時間は、数分程度にまで短縮されました。また、従来は新しいゲーム会社をオンボードするまでに数日かかっていましたが、ブロックチェーンベースのシステムへと移行したことで、15分未満にまで短縮されているようです。

なお同システムに使われているBaaS(Blockchain as a Service)としては、Microsoftの提供するフルマネージドBaaS「Azure Blockchain Service」が活用されており、ブロックチェーン基盤としては「Quorum」が利用されています。

https://www.slideshare.net/kazumihirose/15c5azure-blockchain

NFT(Non-fungible token)を活用したデジタルコンテンツ

ブロックチェーン上で発行・流通するトークンの中には、他のトークンと代替不可能でユニークなトークンが存在します。こうしたトークンは「NFT(Non-fungible token)」と呼ばれ、ゲームやアートなどの分野で活用されています。

例えばゲームのアイテムをNFTとして流通させることで、各アイテムが固有のパラメータと価値を持つことが可能です。そして、それらNFTはゲームを超えて、二次流通市場で取引することもできます。

実際に世界最大級のNFTマーケットプレイス「OpenSea」では、ゲームのアイテムやデジタルアートなど様々なNFTが売買されています。

https://opensea.io/assets

そしてNFTの中でもよく活用されているのが、EthereumのERC721という規格です。NFTを活用した事例をいくつか紹介していきましょう。

ブロックチェーンゲーム、コレクタブルズ(コレクター商品)

NFTの活用事例として特に多いのがゲームやコレクタブルズ(コレクター商品)です。国内ではブロックチェーンゲームのスタートアップ「double jump.tokyo株式会社」がNFTを活用した複数のゲームタイトルを発表しています。

特に2018年にリリースされた「My Crypto Heroes」は、Ethereum上で開発されているブロックチェーンゲームとしては、世界トップレベルのアクティブユーザー数と取引量を維持し続けており、日本国内におけるブロックチェーンゲーム市場を開拓しました。

同社は「MCH+」というブロックチェーンゲーム開発支援プログラムも提供しており、同プログラムの支援を受けて、ブロックチェーンカードゲーム「Crypto Spells」などがローンチされています。

My Crypto Heroesについては以下の記事でも紹介していますので、興味がある方はぜひご覧ください。

またスポーツ業界の有名団体もNFTには注目しており、たとえば「NBA(National Basketball Association)」はカナダのブロックチェーンゲーム開発企業「Dapper Labs」と共同で「NBA Top Shot」というアプリケーションを開発しています。

NBA Top Shotでは、NBAの選手やスーパープレーの動画がカード化されており、ユーザーはカードパックを購入することでデジタルカードを収集可能です。カードはNFTで表現されており、それぞれが稀少性を有しているため、前述したOpenSeaなどで売買されています。

なお、NBA Top Shotを開発するDapper Labs社は、NFTアプリの先駆けとも言える「CryptoKitties」の開発企業です。CryptoKittiesはデジタルネコを育成・収集するゲームであり、過去には100万円以上の価格で取引された事例もあります。

このようにNFTはゲームアイテムや仮想のオブジェクトに希少価値を与えることが可能です。NBAのような有名団体も活用しており、将来的には大手IP(Intellectual Property)を持つ企業が参入する可能性は否定できません。たとえば、ポケモンのような数兆円規模の巨大市場を持つIPが参入してきたときのインパクトは大きいはずです。

ただし、ゲームアイテムの売買=リアルマネートレーディング(Real Money Trading)は歴史的に、各社ゲームの利用規約によって禁止されてきた点には留意が必要です。

以上のように、NFTを活用したデジタルコンテンツの開発が進んでいくと、国内のコンテンツ産業の市場規模拡大に貢献できる可能性があります。

デジタルコンテンツの著作権管理

コンテンツの著作権をブロックチェーンで管理し、海賊版のような違法コンテンツへの対策として活用しようと模索する取り組みも見られます。たとえば「JASRAC(日本音楽著作権協会)」は、2020年2〜3月に「ブロックチェーンを活用した音楽作品情報の登録と共有に関する実証実験」を行いました。

実証実験では作品の存在証明のために、音楽作品に対して以下の情報を生成しブロックチェーンに記録するアプローチが採用されました。共有台帳に記録された音楽作品情報は、作家や音楽出版社などの利用が想定されています。

  • デジタルコンテンツのハッシュ値
  • 著作権者のID
  • タイムスタンプと電子署名

また音楽作品の権利者がJASRACに権限を与えることで、それまでは書類などによる申し込みが必要だった手続きの簡素化が期待されています。たとえば現状の仕組みでは、JASRACに対して権利者が著作権の管理を委託する場合は、以下の書類の提出が必要になります。

  1. 戸籍謄本(発行後3ヵ月以内の原本1部)
  2. 印鑑登録証明書(発行後3ヵ月以内の原本1部)
  3. 本人写真1枚(撮影後3ヵ月以内のもの1枚、縦4cm×横3cm)
  4. 著作権信託契約申込書
  5. 履歴書
  6. 作品利用申告書
  7. 第三者に利用された作品についての「作品届」
  8. CD等、第三者利用を証明する資料各種

本人確認や作品の存在証明についてはブロックチェーンで担保できるため、手続きの簡素化が期待できるでしょう。

その他にも「エイベックス」の子会社はブロックチェーン技術を活用したデジタルコンテンツの所有権証明サービス「A trust」を提供しており、「ソニーグループ」もまたデジタルコンテンツの権利情報をブロックチェーンを活用して管理・処理するシステムを開発しています。

まとめ

本記事ではデジタルコンテンツに対するブロックチェーンの活用事例として、以下のテーマを紹介しました。

  • クリエイター(ゲーム会社)へのロイヤリティ管理(情報共有の効率化)
  • NFTを活用した新たなデジタルコンテンツ市場
  • デジタルコンテンツの著作権管理

以上のようにブロックチェーンは、複数の主体間での情報共有・連携の効率化や稀少価値のあるアセットを作り出し、取引する市場を生み出せるのです。今後も活用事例は増えていくと予想され、気づけばブロックチェーンが使われていたというケースも出てくるかもしれません。

参考資料:
直近のコンテンツ市場の状況及び 海外政策動向等
Xbox game publishers access royalties statements even faster now that Microsoft uses Azure Blockchain Service
DappRadar – Ranked list of blockchain dapps
ブロックチェーンゲーム開発支援プログラム「MCH+(MCH plus)」
プレスリリース JASRAC
A trust エートラスト | デジタルコンテンツに価値を与える証明書サービス
ブロックチェーン基盤を活用したデジタルコンテンツの権利情報処理システムを開発

活用事例カテゴリの最新記事