飲料・食品メーカーのトップ企業によるブロックチェーン活用事例とは?

飲料・食品メーカーのトップ企業によるブロックチェーン活用事例とは?

はじめに

飲料・食品は私たちの生活に欠かせない日用品です。グローバルサプライチェーンが構築されている飲料・食品では、トレーサビリティの高度化や貿易取引の効率化にブロックチェーンを導入するケースが多く見られます。

本記事では、飲食・食品部門の売上で世界トップ10にランクインしている企業に焦点を当て、ブロックチェーン関連の取り組みをまとめました。なお、ランキングはFood Engineeringで発表された「2019 Top 100 Food & Beverage Companies」を参照しています。

Nestlé(ネスレ、売上世界1位)

飲料・食品の売上で世界トップの「Nestlé」(ネスレ)は、主に飲料・食品やその原材料の追跡にブロックチェーンを活用しています。Nestléは「IBM Food Trust」に立ち上げ初期から参加しており、既に複数の商品をブロックチェーンで追跡しています。なお、IBM Food Trustは、IBMがHyperledger Fabricで構築し、販売する食品サプライチェーンの追跡ネットワークです。

2020年4月には、Nestléは同社のコーヒーブランド「Zoégas」(ゾエガス)の「Summer 2020」シリーズについて、IBM Food Trust上で追跡すると発表されました。このシリーズは森林や生物多様性を保護する非営利団体「Rainforest Alliance」の認証を受けており、今回のブロックチェーン活用においてもNestléと連携しています。

IBM Food Trustには、コーヒー豆の収穫時期や場所、農園や出荷記録、焙煎期間といった情報が記録され、消費者はZoégasブランドの包装に貼られたQRコードを読み取ることで商品の来歴を追跡可能です。なお、ブロックチェーン上への正確な情報提供を行う役割は、信頼された認証機関であるRainforest Allianceが担っています。

その他にもNestléは2019年7月に、「世界自然保護基金(WWF)オーストラリア」と「BCG Digital Ventures」が設立した持続可能なサプライチェーンイニシアチブ「OpenSC」への参画を発表しました。ニュージーランド産牛乳やNestlé製品に使用されているパーム油を追跡し、その持続可能性を検証しています。

Nestléはサプライチェーン全体の透明性担保に注力しており、2019年2月には原材料の年間調達量の95%を占めるサプライヤーのリストを公開しました。ブロックチェーンの導入は同社の方針に適うものだと言えるでしょう。

Anheuser-Busch InBev(世界3位)

ベルギーに本社を置き、日本でも有名なビール「バドワイザー」を有する酒類メーカー「Anheuser-Busch InBev」(アンハイザー・ブッシュ・インベブ。以下、AB InBevと表記)もまた、サプライチェーン内での製品追跡にブロックチェーンを活用しています。その目的は、アフリカ農家の生活水準を向上させることです。

アフリカでは違法に醸造された密造酒が多く流通しており、たびたび死亡事故を起こしていました。適法に醸造された酒は価格が高く、アフリカではあまり人気がありません。この状況に対抗すべく、AB InBevは現地で生産されるトウモロコシやキャッサバなどの農作物を現地で醸造し、安価に販売するビジネスモデルをアフリカで展開しています。

さらに、農作物をサプライチェーンで管理することで、現地の農家が飲料大手AB InBevのサプライヤーであることを証明できるシステムを導入しました。現地の農家は収入を証明するための書類を持っておらず、それ故に銀行口座の開設ができない状態が続いていたようです。

2020年1月にダボスで開催された世界経済フォーラムの年次会議で、AB InBevのCEOであるCarlos Britto氏の発言によると、同社が導入したブロックチェーンのソリューションによって、収入証明ができるようになったアフリカの農家が銀行口座を開設できるようになったとされています。さらに、事業を発展させるための融資枠も持てるようになったようです。

ADM、Cargill(世界6位・8位)

世界の五大穀物メジャーである「Archer Daniels Midland」(以下、ADM)と「Cargill」は、農産物の国際貿易をデジタル化・効率化するコンソーシアム「Covantis」に参画しています。Covantisは2020年3月にスイスで法人化しており、その所有者にはADMやCargillのほかに、中国最大のの食品会社「COFCO」(中糧集団)なども名を連ねています。

Covantisは最初に穀物と油糧種子の取引後の実行プロセスに焦点を当て、実証実験が行われる予定です。3月の法人設立当初は、開発中のプラットフォームを5月中にテストし、2020年後半に公開する予定でしたが、2020年8月現在、公式にはアナウンスされていません(新型コロナウイルスの影響が考えられます)。

なお、Covantisの開発するプラットフォームはEthereumをフォークしたパーミッション型のブロックチェーン「Quorum」が利用される予定です。

その他、Covantisでの取り組みとは別に、シンガポールのブロックチェーン企業「dltledgers」が開発するサプライチェーンプラットフォーム上で、既に1,200ドルの貿易金融取引を処理したと発表されています。ブロックチェーンの導入によって従来は最大1ヶ月かかっていた取引を5日に短縮できたようです。なお、dltledgersのソリューションはHyperledger Fabric上で構築されています。

Coca-Colaのボトルサプライヤーによる取り組みは要注目

売上世界9位の「The Coca-Cola Company」には、ボトルを供給するサプライヤーが世界各地に存在します。その中でも北米エリアのボトルサプライヤーは、サプライチェーンの効率化を目的に2019年からブロックチェーンを活用した実証実験に取り組んでいます。第一弾はSAP BaaS Platform上で動作するHyperledger Fabricをベースにしたアプリケーションが開発されました。検証の結果、ボトルサプライヤーの複雑なサプライチェーンの透明性と効率性が向上する効果があることが明らかになっています。

そして、第二弾の実証事件では、企業が活用する事例としては珍しく、パブリックチェーンのEthereumを利用した実証実験が計画されています。機密情報を秘匿しつつ、Ethereum上でデータ共有を行うプロトコル「Baseline Protocol」を活用することで、より多くのサプライヤー(缶やボトルの原材料業者など)がブロックチェーンの恩恵を受けられると考えられています。

今回の実証実験では、買い手(バイヤー)とサプライヤーの間で共有される取引に関するデータ(発注書、発注書、納品書、商品受領書など)の最新版をすべての関係者が正しく参照できるかがテストされる予定です。仮にブロックチェーン上のデータを、関係者が参照できる共通の真実(証拠)として利用できれば、エラー処理やミスによる再納品の交渉が円滑になる可能性があります。

まとめ

今回紹介した事例の他にも世界14位の「Danone」が粉ミルクのトレーサビリティの確保にブロックチェーンを活用するなどの取り組みを行っています。飲料・食品メーカーは基本的に、サプライチェーンの高度化や貿易プロセスの効率化を目的にブロックチェーンを活用するケースが多いです。

組織をまたいだデータ連携の効率化には、ブロックチェーンが適しているため、本記事でも取り上げたように様々なコンソーシアムが立ち上がっています。現状ではそのほとんどがパーミッション型ブロックチェーンを活用していることもあり、結果的にコンソーシアムごとにサイロ化する可能性は否定できません。

その点では、Coca-Colaのボトルサプライヤーの事例で紹介したような、パブリックチェーンを活用するアプローチは注目すべきだと言えるでしょう。

参考資料:
2019 Top 100 Food & Beverage Companies
Nestlé to use IBM blockchain for traceability of Zoégas coffee
Nestlé joins WWF’s OpenSC blockchain for sustainable supply chains
Nestlé speeds up efforts towards full supply chain transparency
Budweiser brewer AB InBev banks on blockchain for supply chain traceability
Budweiser-owner AB InBev is helping African farmers with blockchain
ADM, Bunge, Cargill, Dreyfus blockchain consortium Covantis incorporates, appoints CEO
ブロックチェーンの農業関連事業コバンティスが正式に設立、イーサリアム開発企業コンセンシスが支援
Global agriculture supply chain partners make cross-continent commodity trade transaction via blockchain
Baselining the North America Coca-Cola Bottling Supply Chain

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