分散型台帳Cordaの活用事例とは?金融や保険、デジタル法定通貨の事例も

分散型台帳Cordaの活用事例とは?金融や保険、デジタル法定通貨の事例も

はじめに

パーミッション型のブロックチェーンは様々な種類が開発されていますが、以下のブロックチェーン基盤が主に使われています。

2020年6月時点では上記の基盤が、エンタープライズ向けの3大ブロックチェーンとして認知されている印象です。各基盤ごとに様々な活用事例が存在するなか、本記事ではブロックチェーン開発企業「R3」が開発する「Corda」に焦点を当て、活用事例をまとめていきます。

分散型台帳のCordaとは?概要紹介

Cordaは金融機関をはじめ、企業での活用を想定して開発されたブロックチェーン(分散型台帳)基盤です。「Hyperledger Fabric」や「Quorum」といった他の基盤と比べて、プライバシーや共通の基盤で開発されたアプリケーション間のインターオペラビリティ(相互運用性)に優れています。

Cordaでは取引データを当事者間だけで共有しつつ、「Notary」(ノータリー)と呼ばれる管理者ノードを設置することで、二重支払いといった不正を防止しています。また、Corda上で開発されたアプリケーションは「CorDapps」と呼ばれ、異なるネットワークであってもCorDappsであればデータのやり取りが可能です。

CordaやR3(およびR3コンソーシアム)の概要については、以下の記事で紹介していますので、興味のある方はご覧ください。

Cordaを活用した事例紹介!

それでは、Cordaを活用した事例を紹介していきましょう。

トレードファイナンス(貿易金融)|Marco Polo、Contour

貿易には売買の当事者のほか、金融機関や輸送会社、税関などといった多くの関係者が存在します。さらに、商品に紐付く書類も多く、そのやり取りや記述の整合性チェックには多くの時間が費やされているのが現状です。

売り手(輸出企業)としては、可能な限り迅速に売掛金を回収したいところですが、しばしば支払いの遅延が発生するケースがあります。支払い遅延のリスクを低減させるために、金融機関に売掛債権を買い取ってもらう(ファクタリング)などの対策を取る企業は少なくありません。

このような資金調達を含め、貿易取引を円滑に進めるための金融取引は「トレードファイナンス」(貿易金融)と呼ばれ、その効率化にブロックチェーン(分散型台帳技術)が活用されつつあります。

Cordaベースでは「Marco Polo」や「Contour」(旧Voltron)などが事例として挙げられ、いずれも貿易取引に関わる書類を電子化・リアルタイムの共有によって、円滑なトレードファイナンスを実施するプロジェクトです。

Marco Polo

Marco Poloは、「オープンアカウント取引」と呼ばれる後払い方式の貿易取引をターゲットに、効率化を進めています。インボイス(明細書・請求書・納品書を兼ねた書類)の発行から融資や決済までを管理画面でワンストップで行うことができ、さらに顧客管理システムなどのERPへの統合も可能です。

Marco Poloには、「三井住友銀行」や「MasterCard」、ドイツのメガバンク「コメルツ銀行」など、30を超える企業が参画しており、三井住友銀行は2020年6月までの商用開始を目指しています。

また、2019年12月には5大陸25ヶ国以上、70社超を巻き込んだ7週間にわたる試験運用を完了させており、公式発表によれば、すべての参加者がMarco Poloの利用によって業務が大幅に改善する可能性があると回答しているようです。

Contour(旧Voltron)

「Contour」もまた、Marco Poloと同様に迅速なトレードファイナンスの実施を目的としたプロジェクトですが、こちらは代金の支払い確約書である「信用状」(L/C)を用いた取引がターゲットです。

Contour上では従来2週間かかっていた信用状の処理時間が1日未満に削減できるとされており、同プラットフォームは2020年後半の商用化を目指しています。

なお、2019年5月に50社以上が参加したパイロットでは、参加者の96%がContourの導入が業務効率化に貢献すると回答していました。

また、Contourに投資している一部企業では先行利用が行われており、ロンドンに拠点を置く世界的な銀行金融グループ「Standard Chartered」は、2020年5月に初の人民元建ての信用状取引を実施しています(取引規模は1億元(1,410万ドル))。

損害保険|Insurwave、Ledgertech

損害保険の業務効率化もCordaの活用事例のひとつです。前述したトレードファイナンスの事例でも取り上げたように、多くの関係者間で信頼できるデータを迅速に共有できるというメリットは、海上保険などでも活かされています。

Insurwave

通常、海運で使われるコンテナ船などは、1隻で億単位の商品価値を持つ貨物を運搬するため損害保険契約が不可欠です。海上保険の保険料は、運搬貨物の価格や航海ルートの危険度などに応じて算出されています。

したがって、特定の海域で何らかの襲撃事件が発生すると保険料が高騰するため、海運企業や荷主に対する大きな負担となるのです。

また、天候などの影響でルート変更を行い、ハイリスクな海域を通ることもあるため、保険会社が負うリスクが航海中に変動するケースも少なくありません。情報がリアルタイムに共有できれば、計画変更に伴うリスク判定を保険会社が迅速に行い、動的な保険料を実現できます。

しかし、トレードファイナンスの事例と同様に、貿易取引における情報共有の非効率性が課題となっているのです。

このような課題に対して海上保険プラットフォームの「Insurwave」は、保険料のリスク評価や損害保険契約の効率化を図っています。Insurwaveは、国際会計事務所「EY」(Ernst & Young)や「Microsoft」、スイスに本社を置くセキュリティ企業「Guardtime」や「R3」が提供しており、「Microsoft Azure」上で開発されています。

2018年6月に商用利用が始まったInsurwaveは、2018年10月から2019年10月までの1年間で、ネットワーク上の通知が月25件から月1万件以上へと大きく増加しました。また、Insurwaveを利用する顧客としては、世界最大手の海運企業「Maersk」や保険会社の「Will Towers Watson」、「XL Catlin」などが名を連ねています。

Ledgertech

損害保険の事例としてはInsurwave以外にも、Cordaベースのデジタル保険フレームワーク「Ledgertech」を利用して、自動車保険の請求処理を効率化した事例があります。インド有数の自動車保険会社「Bharti AXA」はLedgertechを導入しており、パイロットながらも、従来は手動で処理していた自動車保険の請求の合理化に成功しました。

これまでは事故の発生を契約者が報告してから、請求の処理が完了するまでに数時間〜数日を要していましたが、Ledgertechベースのサービスに切り替えることで数分にまで短縮しています。

保険金の支払いに関わる情報(事故の状況など)を、修理会社や損害の判定人、保険会社、および顧客など多くの関係者間で改ざん困難な形で共有できるようになったため、このような効率化が実現したのです。

その他にも様々なCordaの活用事例が存在

上記の他にも、様々なCordaの活用事例があります。一例ではありますが、紹介していきましょう。

イタリア銀行協会がリコンサイル業務のデジタル化|Spunta

イタリアの銀行協会(ABI)とそのイノベーションセンターであるABI Labは、Corda(Corda Enterprise)を利用した銀行間のリコンサイル(残高照合)業務の効率化プロジェクト「Spunta」を2017年5月から進めています。ABIは日本でいうところの「(一社)全国銀行協会」のような組織であるため影響は大きいと言えるでしょう。

Cordaを活用したSpuntaアプリケーションは、2020年3月の時点で32行に導入済み(実稼働)、2020年9月にはイタリアのすべての銀行での利用が義務付けられ、本番導入後の最初の半年間で2億400万件のトランザクションが処理されました。

さらに、同年12月には98の銀行(イタリアの全銀行のうち、導入率90%以上)まで拡大しています。従来のプロセスでは銀行間の取引フォーマットが標準化されておらず、銀行間取引のデータ照合に多くの工数が必要な状況でしたが、新しいSpuntaアプリケーションの活用によって、毎晩97.6%の取引が自動的にリコンサイル(照合)されるようになりました。

実際の本番環境で大規模導入されているという点で、Spuntaは注目すべき事例です。

アプリケーション開発にはNTTデータが参画、CorDappのコアとなる機能(Notaryなど)やネットワークインフラは欧州のIT企業であるSIAが担当しています。開発にあたっては、金融機関とABI Lab、NTTデータが共同で要件分析を行い、UXデザインにおいては現場のオペレーターと連携しながら改善を繰り返していたようです。

ABI Lab、ABI、NTTデータ、SIA、R3、銀行(導入現場)といった関係者が密に連絡を取り合い、プロジェクトを進めていた点が大規模導入に至った要因だと言えるでしょう。

参考:https://www.r3.com/wp-content/uploads/2020/11/Corda_Spunta_Case_Study_R3_Nov2020.pdfhttps://www.abilab.it/documents/20124/0/Spunta+Banca+DLT_Banche+Aderenti.pdf/931c84ae-f4c9-a265-7267-a2a141d4bce6?t=1608719248953

シンジケートローン|Fusion LenderComm

シンジケートローンとは、複数の金融機関が協調して、ひとつの融資契約書に基づき同じ条件での融資を行う資金調達方法です。巨額借り入れのリスクヘッジを目的に行われています。シンジケートローンの条件調整や契約書のレビュー、契約締結後の問い合わせなどの業務は、電子メールや電話を介して行われており、非効率性が課題となっています。

Corda上で開発されているシンジケートローンプラットフォームの「Fusion LenderComm」は、膨大な条項から成るローン契約書や条件の調整・変更などを管理するコストを削減し、迅速かつ正確な情報共有やミスの予防を可能にするソリューションです。

1兆円規模の私募債を記録|HSBC

世界最大級のメガバンク「HSBC」は、紙ベースで記録していた100億ドル(1.1兆円)規模の私募債の記録をCorda上に移転、管理する計画を進めています。すでに債権記録の移行自体は完了していると2020年3月にCoindeskが報じており、2021年までに私募債のトークン化などを視野にプロジェクトが進められる予定です。

1兆円規模という多額の債権がブロックチェーン上に乗ることは注目すべき事例であり、HSBCの今後の動きが注目されます。

スウェーデンのデジタル通貨法定|e-krona

スウェーデンの中央銀行はデジタル法定通貨「e-krona」の実証実験を行っています。e-kronaの決済プラットフォームは、Corda(Corda Enterprise)を用いて「Accenture」が開発しました。利用者はデジタルウォレットやICカードなどを介して、e-kronaの決済や銀行口座への送金が可能です。

なお、e-kronaはあくまでも技術的な検証であり、同国がデジタル法定通貨を発行するかの判断は留保されています。

まとめ

Cordaは他のブロックチェーン基盤と比較して、プライバシーやインターオペラビリティに優れいている点が特徴的です。このような特徴からも、本記事で紹介した事例のように金融領域での採用が多いと言えるでしょう。

ただ、サプライチェーン管理や再生可能エネルギーの来歴証明などにも活用されつつあり、非金融領域での事例拡大には要注目です。

参考資料
BLOCKCHAIN & DLT IN TRADE.indd
Marco Polo Network successfully completes largest Blockchain Open Account Trade Finance Trial on R3’s Corda platform
Over 50 Banks, Firms Trial Trade Finance App Built With R3’s Corda Blockchain
リオティントと中国鉄鋼大手、貿易取引にブロックチェーン──スタンダードチャータード銀が初の人民元建て信用状 | CoinDesk Japan
海上保険にブロックチェーン、マースクなど本格運用
Enhancing Efficiency, Speed and Customer Experience in Motor Accident Insurance Claims Processing
Fusion LenderComm
HSBC、1兆円超の債券をブロックチェーンに移行 | CoinDesk Japan
Fast and Transparent Interbank Reconciliation Powered by Distributed Ledger Technology
Sweden to test e-krona central bank digital currency on Corda blockchain

活用事例カテゴリの最新記事