【事例】VeChain:中古車市場の課題をブロックチェーンで解決する方法

【事例】VeChain:中古車市場の課題をブロックチェーンで解決する方法

はじめに

本記事では、VeChain「デジタル車両パスポート」の概要と事例を紹介します。

VeChain は2015年に上海で設立されたブロックチェーン企業です。 これについては以下の記事に詳しいので、こちらもあわせてご覧ください。

多様な活躍を見せている VeChain ですが、今回はその中でも 「デジタル車両パスポート」 ( Digital Vehicle Passport )について解説します。

どのような課題があり、どのような仕組みで解決するかを見ていくことで、「なぜブロックチェーンなのか」(Why Blockchain)を考えるきっかけになれば幸いです。

「デジタル車両パスポート」の概要

ここでは、VeChainのホワイトペーパーを参考に解説します。

中古車市場の課題

EUの中古車市場は問題を抱えています。中古車のオドメーター(走行距離計)を巻き戻して価格を上げるという不正が横行しています。

欧州議会によると、中古車のオドメーターは最大50%も巻き戻され、価格は平均で2,000〜5,000ユーロ(約24~60万円)も不正に上昇しています。

中古車ディーラーは、こうした不正のすべてのケースを特定することはできません。この詐欺によって、買い手、中古車ディーラー、リース会社、保険会社、製造業者といった関係者に、年間56〜96億ユーロ(約6700億~1兆1500億円)の損失があると推定されています。中古車の買い手や保険会社、銀行などは、デューデリジェンス(リスク調査)をする必要がありますが、そのコストも負担になります。

すなわち、自動車のデータ改ざんが横行することによって多大な損失が生じています。

このような状況では、自動車のデータを改ざんできないようにする仕組みが求められます。

具体的な解決方法とは

オドメーター不正問題に対してソリューションを提供するのが、VeChainの「デジタル車両パスポート」(Digital Vehicle Passport)です。

デジタル車両パスポートはその名の通りパスポートのような役割を果たすもので、各車両が保持します。

ブロックチェーンを利用する目的

ブロックチェーンを活用して車両の所有権、使用状況、サービス履歴を記録することで、オドメーター不正を排除し、コスト削減および効率向上を図ることです。

デジタル車両パスポートの仕組み

「デジタル車両パスポート」の仕組みは次のようなものです。

VeChain独自のブロックチェーンプラットフォーム「VeChainThor」に、一つ一つの自動車のライフサイクルにかかわるデータを保存します。データフィードには、車載コンピューターからのデータ、APIを介したオペレーションシステムからのデータ、そしてユーザーによる直接入力が含まれます。

データは車の所有者ではなく関係者によってメンテナンスブックにアップロードされ、ブロックチェーンによってタイムスタンプが付与されます。車の所有者は、デジタルパスポートへの読み取り・書き込みアクセス権を制御できます。

そして自動車メーカー、修理店、保険会社、技術専門家、銀行、潜在的な買い手といった関係者の間でP2Pのデータ交換モデルを形成し、許可されたアクセスだけでデータをシェアできるようにします。車両が販売されたら、新しい所有者に譲渡できます。

これが「デジタル車両パスポート」となる所以です。

(画像はホワイトペーパーより)

生み出される価値

この仕組みによって、次のような価値を提供できます。

  • デジタル車両パスポートの信頼できるデータに基づくことで、潜在的な買い手、保険会社、銀行によるデューデリジェンスのコストを削減できる
  • 中古車の価値を高め、所有権を移転できる
  • 保険会社と協力して、ユーザー行動ベースの保険商品を提供できる
  • 環境保護に貢献する行動をユーザーに促すことで、新エネルギー車の認知度を高められる

具体的な事例

それでは、VeChain「 デジタル車両パスポート 」のユースケースをご紹介します。

①BMW「 VerifyCar 」

BMWグループとVeChainは、オドメーター不正への対策として、「VerifyCar」と呼ばれるデジタル車両パスポートソリューションを開発しました。

ドイツでは中古車の約3分の1がメーター改ざんされており、これによる経済損失は年間約60億ユーロと試算されています。したがって、この課題に取り組むことは重要です。

各車両は、車両に組み込まれた既存のIoTインフラストラクチャとともに一意のVeChain IDで登録され、VeChainの「ToolChain」を使用して走行距離を追跡・記録します。これにより、所有者はデータを操作していないことを第三者に証明できます。

もう少し詳しく説明すると、

  1. 事故記録や過去の所有者の記録、およびフィルター交換やバッテリー交換などの車内データと、保険金請求やサービスを受けた履歴など外部の情報を合わせて、生データは安全なプライベートサーバーに保存します。
  2. それらをハッシュ値としてパブリックブロックチェーンに保存します。これで検証可能な状態になります。
  3. ユーザーはQRコードをスキャンすることで、データが妥当かどうか、検証されているかを確認することができます。

さらにこの仕組みを拡張し、メーカー、修理店、保険会社、金融機関といった関係者がデータを共有、検証することによって、ネットワーク全体で個々の車両が改ざんされていないかを追跡することができます。

なお「VerifyCar」については、「VeChain Summit 2019」にて、BMWグループの Cihan Albay 氏が講演した動画があります。
英語ですが、適宜参考になさってください。(1:22:38-1:27:38)

<参考>BMW公式HP

②BYD

その他の事例として、世界トップの電気自動車メーカーであるBYDは、燃費、電力、ガス消費データを「VeChainThor」上に統合するという自動車ライフサイクル管理ソリューションを採用しました。

これらのデータを用いて二酸化炭素排出削減量を計算し、運転者にカーボンクレジットを付与します。

このソリューションは、世界のカーボンフットプリントの削減を目的としたブロックチェーンベースエコシステムの構築に必要なツールを提供します。キャプチャされたフットプリントはVeChainThorブロックチェーンに記録され、この構想に参加したいクライアントが利用できるようになります。

さいごに

本記事では、VeChain「デジタル車両パスポート」の概要と事例を紹介しました。

中古車市場の大きな課題に対して、従来のやり方ではできないデータの保存・共有・検証方法でソリューションを提供したことにブロックチェーンの価値があるでしょう。

加えてカーボンクレジットの付与といった領域にも応用されており、今後が期待されます。

また、自動車業界をはじめとするブロックチェーンの製造業活用事例については、下記のカオスマップにまとまっていますので、こちらも参考にしてください。

活用事例カテゴリの最新記事