【事例】中央省庁によるブロックチェーンへの取り組みとは?環境省編

【事例】中央省庁によるブロックチェーンへの取り組みとは?環境省編

近年、国内外で異常気象が観測されています。その要因としては、長期的な地球温暖化の傾向との関係が指摘されており、CO2や温室効果ガスの削減が各国に対して求められています。また、2015年9月に国際連合で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)では、気候変動の影響を軽減するため対策が目標として盛り込まれました。

こうした環境リスクへの対策のひとつとして、日本で実施されている国の制度が「J−クレジット制度」です。ただ、現状では手続きや認証に手間がかかるなど、使いづらさが指摘されています。そこで環境省はこれまでに、J−クレジット制度を使いやすくするための抜本的な見直しを進めてきており、2020年7月にその検討結果と今後の方針が示されました。

そして方針のなかには、ブロックチェーンやIoTなどのテクノロジーを活用する旨が明記されています。そこで本記事ではJ−クレジット制度の概要と共に、環境省によるブロックチェーン活用の取り組みについて解説していきます。

CO2や温室効果ガス削減を促すJ−クレジット制度とは?

まずはJ−クレジット制度の概要を紹介していきます。すでにご存知の方は次の章「環境省によるブロックチェーンの取り組み|J−クレジット、イツモ」からご覧ください。

J−クレジット制度とは、温室効果ガスの排出削減・吸収量(=環境価値)を「クレジット」として国が認証する制度です。制度の目的は環境と経済の両立であり、中小企業や自治体、個人の省エネ・低炭素投資を促しつつ、クレジットの売却益による資金循環を実現しようとしています(買い手は大企業など)。

その前身は経済産業省の「国内クレジット制度」と環境省の「オフセット・クレジット(J-VER)制度」であり、両制度が一本化されました。J−クレジット制度の運営者は、経済産業省・環境省・農林水産省です。

クレジットとして認証される事業例としては、以下のものが挙げられます。

  • 省エネ設備の導入
  • 再生可能エネルギーの導入
  • 適切な森林管理

なお、J−クレジット制度は少なくとも2030年度まで実施される予定です(2020年10月現在)。

J−クレジット制度の仕組みとメリット

J−クレジット制度のおおまかな構図は以下の通りです。

https://japancredit.go.jp/about/

J−クレジット制度を利用するメリットは、J−クレジット創出者と購入者の立場によって異なります。

J−クレジット創出者のメリット

省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用によって、ランニングコスト削減が期待できます。さらにクレジット売却費による設備費用の回収や、省エネ設備への追加投資も見込めます。

また、環境価値のある行動が数値化されるため、社内の意欲向上が図れるほか、温暖化対策に積極的な企業・団体であると対外的にPRでき、企業イメージの向上に寄与します。

J−クレジット購入者のメリット

クレジットの購入を通じて、森林保全活動や省エネへの取り組みを支援できるほか、企業評価の向上にも繋げられます。また、製品の製造やサービス提供による二酸化炭素の排出量を相殺(オフセット)することで、差別化やブランディングの手段としても有効です。

J−クレジット制度の認証プロセス

J−クレジット制度では、クレジットの認証・発行までには、温室効果ガスの排出削減・吸収事業のプロジェクト計画書を登録し、モニタリングを実施しなければなりません。

その後、モニタング報告書を作成し、認証申請を起こった上で検証、J−クレジット制度認証委員会による承認を受けて、はじめて国からクレジットの認証と発行をしてもらえます。

https://japancredit.go.jp/application/

環境省によるブロックチェーンの取り組み|J−クレジット、イツモ

冒頭でも記した通り、現状のJ−クレジット制度は手続きや認証に手間がかかるなど、使いづらさが指摘されています。具体的な課題としては以下の通りです。

  • 申請手続きが紙媒体中心であり不便
  • CO₂削減量の計測や算定、第三者による検証作業に人手と時間が必要
  • 相対取引が中心で市場が不透明かつリアルタイムでの取引が困難

こうした課題があるため、中小企業や個人が参加しづらく、再エネ設備への環境投資がなかなか進まないのが現状のようです。

この状況を受けて、クレジット発行までの手続きを効率化し、(ほぼ)リアルタイムでクレジット取引が行える環境を整えるべく、J−クレジット制度の抜本的な拡充策づくりが環境省などによって行われてきました。その結果、新たなシステムではブロックチェーン技術が活用される予定です。

ただし、ブロックチェーンさえ活用すれば、前述したJ−クレジット制度の3つの課題が解決する訳ではありません。実際には他のテクノロジーと組み合わせて課題を解決していきます。

環境省が発表したJ−クレジット制度の拡充案によれば、紙媒体中心だった申請手続きのオンライン化といった基本的な改善や、IoTとの連携によるモニタリングの簡素化・自動化が行われる予定です。

そしてブロックチェーンは、クレジット認証手続きの効率化や、クレジット取引への信頼性担保、異なるプラットフォーム間での情報連携を実現するために利用される方針となっています。

なお、各課題と対応策については、環境省の発表資料で以下のようにまとめられています。

http://www.env.go.jp/press/files/jp/114350.pdf、2pより

ブロックチェーン活用のJ−クレジット取引市場「イツモ(ezzmo)」

前のセクションでも触れたように、ブロックチェーンはJ−クレジットの取引市場構築に活用される予定です。ブロックチェーンによるJ−クレジット取引市場は「イツモ(ezzmo)」と呼ばれており、2022年度からの運用開始を目指すと環境省より発表されています。

イツモ創設までのプロセスとしては、第一ステップで申請手続きの電子化やIoT連携によるモニタリング・クレジット認証手続きの簡素化・自動化が進められる予定です。利便性を向上させ、中小企業や個人への浸透を図る狙いがあると考えられるでしょう。

クレジット創出量・取引量の拡大施策を打った後、第二ステップとして、ブロックチェーンを活用したクレジット取引市場「イツモ」が構築されます。また、イツモの主体は民間企業であり、行政側は市場創出をバックアップするという構図です。

http://www.env.go.jp/press/files/jp/114350.pdf、3pより

以上のプロセスを経て、将来的には望む人が場所や時間を問わず、J−クレジットを取引できる取引市場を実現し、様々な業界やサービスとの連携が目指されています。

なお、イツモは民間事業者によって運営されるので、事業採算性を確保する必要があります。ブロックチェーンの構築・運用にかかる費用をクレジットの取引手数料で回収する場合、37~377万t-CO₂のクレジット取引量が必要のようです(取引手数料1%〜10%、1,800円/t-CO₂で試算)。

持続可能なビジネスモデル構築などの課題はありますが、ブロックチェーンやIoTといったテクノロジーの導入によって、J−クレジットの取引市場を活性化させる行政の取り組みには要注目です。

参考:J−クレジット制度改革で注目されるブロックチェーンの機能

J−クレジット制度改革を実施するにあたって注目されているブロックチェーンの主な機能・特徴は下記の3点です。

分散型台帳である

承認されたデータは改ざんが困難であり、参加者が同時に参照可能です。また、分散処理によるシステムコスト低減や障害時のメンテナンスコストの削減が期待できます。IoTとの親和性もあり、J−クレジット取引の信頼性向上に役立ちます。

スマートコントラクト

あらかじめ当事者間で決定された条件にもとづいて、契約や支払い処理を自動執行できるため、事務のコスト削減が期待できます。クレジットの申請や認証の手続きを簡素化・自動化できると見込まれています。

権限付与によるデータ共有

パーミッション型(許可型)のブロックチェーン基盤の場合、各参加者が権限の範囲内でのみデータにアクセスできるので、各プラットフォームは独立性を維持しながら情報連携できます。したがって、J−クレジットを活用したエコシステム形成を加速させられるかもしれません。

その他、ブロックチェーン活用のメリットとしては、情報連携を効率化して多くの企業やプラットフォームを巻き込むことで、新たなビジネスモデルの実現が期待できる点が挙げられます。なお、J−クレジット取引外の連携先サービスやプラットフォーム、業界としては以下が期待されています。

  • 電力・インフラ系
  • 物流
  • 小売
  • 保険
  • 医療
  • 住宅(スマートホームなど)

http://www.env.go.jp/press/files/jp/114350.pdf、16pより

環境省が過去に実施したブロックチェーンの取り組み

実ははJ−クレジット制度の抜本拡充以前にも、環境省ブロックチェーンを活用した取り組みを行っています。

それが「ブロックチェーン技術を活用した再エネCO2排出削減価値創出モデル事業(2018年〜2023年)」であり、その目的は環境価値の取引プラットフォームをブロックチェーンで構築し、実証することです。これまで価値化されてこなかったCO₂削減分に価値を付けて取引しやすくすることで、再生可能エネルギーの普及を促す狙いがあります。

実証は2019年8月から始まっており、モニターとして募集された一般家庭が創出した環境価値がプラットフォームを通じて販売されています。買い手となるのは、香川県豊島と沖縄県宮古島のモビリティ事業者が提供する電動スクーター等の利用者です。

https://www.env.go.jp/press/107117.html

また、専用のアプリを通じて、購入者は環境価値を創出した人物を、販売者は自身が創出した価値の用途をリアルタイムで確認することが可能です。2019年8月の時点ですでに商用化の目処が立っているとされており、買い手としてはCO₂排出量を相殺(オフセット)したい中小企業などが想定されています。

まとめ

本記事でも紹介したように、IoTなどによってデータを可視化し、ブロックチェーンを用いて改ざん困難な形で共有・連携するアプローチは、環境価値の取引以外にも様々な業界・ユースケースで活用できます。例としては、医薬品業界での規制対応やブランド品の偽造品防止などが挙げられるでしょう。

そして、ブロックチェーンやIoTを活用した取り組みを中央省庁が主導している点は注目すべき点であり、ブロックチェーンは今後も様々な情報連携基盤として活用が進んでいくと考えられます。

また、当メディア「BaaS info!!」では、行政による環境領域でのブロックチェーン活用事例だけではなく、民間セクターでの事例も紹介しています。こちらも併せてぜひご覧ください。

参考資料:
Jークレジット制度とは
『気候変動×デジタル』プロジェクト検討結果とりまとめ
環境省がブロックチェーンを活用したクレジット取引市場「イツモ」創設、22年度からの運用目指す【気候変動×デジタル】
環境省における気候変動対策の取組
「ブロックチェーン技術を活用した再エネCO2削減価値創出モデル事業」における成果の社会実装・商用利用に向けたC2C取引プラットフォーム実証の開始について
ブロックチェーン技術を活用した再エネCO2排出削減価値創出モデル事業
平成30年度ブロックチェーン技術を活用した再エネCO2削減価値創出モデル事業における自家消費される再エネCO2削減価値の地方部等におけるCtoC取引サプライチェーン検討事業
家庭のCO2排出削減分を取引、東電系など開始へ

製造業におけるブロックチェーン活用方法とは?

CTA-IMAGE 【ホワイトペーパー】製造業における業務変革をテーマに、業界の課題に対してブロックチェーンを活用する方法を紹介します。

活用事例カテゴリの最新記事