【事例】環境問題にブロックチェーンはどう使える?炭素クレジットやトレーサビリティ担保に

【事例】環境問題にブロックチェーンはどう使える?炭素クレジットやトレーサビリティ担保に

はじめに

近年、世界各地で異常気象が観測されるなど、環境リスクへの危機感が高まっています。例えば、2020年1月に世界経済フォーラムが公表した「グローバルリスク報告書2020」では、「今後10年で発生可能性が高いとされたリスク上位5項目」をすべて環境リスクが占めました(異常気象や自然災害など)。

また、2015年9月に国際連合で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)でも、環境保護・保全に関する目標が定められています。SDGsはすべての国の達成目標であるため、各国政府は官民問わずSDGsの達成に向けた活動を推進しているのです。当然ながら、そこには環境リスクへの対応も含まれています。

以上のように環境リスクへの対応は、いまや官民共通の課題です。課題解決に向けてテクノロジーの導入が進められており、ブロックチェーン技術も例外ではありません。既に国内外でコンソーシアムの組成や実証実験などが行われています。そこで本記事では、環境分野でのブロックチェーン活用事例を紹介していきます。

環境問題にブロックチェーンを活用するメリットとは?

まずは環境問題に対してブロックチェーンを活用し得る領域について整理していきましょう。なお、本記事では世界経済フォーラムが2018年に、地球環境とブロックチェーンというテーマで公表したレポート「Building Block(chain)s for a Better Planet」を参照しています。

同レポートの目的としては、環境領域へのブロックチェーンの活用機会を探り、その可能性を明らかにすることが挙げられています。その背景としては、ブロックチェーンに対する市場認識と技術としての潜在的な可能性にギャップがあるのではないかという仮説がありました。例えば、レポートが公開された2018年の第1四半期にICOを実施した412のプロジェクトのうち、エネルギー・公益事業での事例は1%にも達していません。

地球規模の環境問題

現在、地球規模の主な環境問題としては以下の6つが挙げられます。

  • 気候変動
  • 生物多様性と保全
  • 海洋保護
  • 水の安全
  • 大気汚染
  • 自然災害への対処

こうした課題に対してブロックチェーンは、サプライチェーンの透明性向上・高度化や資源管理、環境保全に貢献するような行動変容のインセンティブ提供(トークンを活用)などに活用できる可能性があります。次のセクションでは、活用方法について見ていきましょう。

環境問題に対するブロックチェーンの活用方法とは?

サプライチェーンの透明性向上・高度化や、分散型の資源管理、環境問題の解決にコミットするプロジェクトの新たな資金調達手段など、ブロックチェーンの活用方法がいくつか考えられます。

サプライチェーンの可視化とトレーサビリティの担保

再生可能エネルギーの100%使用や森林伐採ゼロなど、高い目標を掲げる企業は少なくありません。例えば、企業が自社事業の使用電力をすべて再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアチブ「RE100」などが挙げられます。

一方で、グローバルサプライチェーンは参加者が多く、複雑で不透明であるため、掲げた目標に向けて企業が行動しているかどうかを可視化することは容易ではありません。現状では企業が説明責任を果たす際のコストが高く、消費者や投資家によるチェックも困難です。

こうした課題に対して、ブロックチェーンは複数の組織間での情報共有・連携を実現、効率化することができます。ブロックチェーンによって原材料やエネルギーなどのサプライチェーンが可視化されると、その来歴について対外的に説明するコストの削減が期待できるのです。

分散型・持続可能な資源管理

電力をはじめとするエネルギー資源の供給システムは、中央集権型であることが少なくありません。現状の中央集権型の仕組みでは、需給の最適なマッチングが困難である上に、単一障害点が発生しやすいという課題があります。また、例えば電力供給システムの場合、供給プロセスで生じる電力損失や漏電の問題にも対応しなければなりません。

電力供給システムに焦点を当てると、近年、スマートグリッド(次世代送電網)と呼ばれる概念が登場しており、スマートメーターなどを活用して電力の流れを供給・需要の両サイドから制御することで、需給マッチングや価格の最適化を図る動きが見られます。また、スマートグリッドでは、単に電力の最適なマッチングだけではなく、家庭やオフィスなどの特定エリア内で再生可能エネルギーを生産・消費することも想定されており、電力供給システムの分散化が目指されています。

ブロックチェーンやスマートメーターなどを組み合わせて活用することで、効率的な需給マッチング(およびスマートコントラクトによる料金の自動支払)や、需要者間でのエネルギーのP2P取引による低コスト化、エネルギー源のトレーサビリティ担保(再エネかどうかの証明)などが期待できると考えられています。さらに、取引が証跡として残るためプロセスの透明性担保や、単一障害点の回避が可能です。

その他にも、環境×ブロックチェーンの文脈で以下のような活用方法が考えられます。

  • 環境保全に貢献するプロジェクトの新たな資金調達手段
  • 環境負荷の低い経済活動に対するインセンティブ(トークンの付与など)の実現
  • カーボンクレジット取引の透明性担保による炭素市場の変革
  • 持続可能性に資する活動のモニタリングや報告、検証機能の提供

環境問題に対するブロックチェーン活用事例を紹介

環境問題は国境をまたがることが多いため、グローバルに取引をする大手企業や国際組織がブロックチェーンなどを活用した課題解決に向けて動いています。いくつか事例を紹介していきましょう。

ウェザーニューズによるCO2排出削減量の評価サービス

海運業界では、国際海事機関(IMO)が船舶運航のCO2排出量を、2050年までに50%削減する目標を掲げています(2008年比)。この目標を踏まえ、世界最大の民間気象会社「ウェザーニューズ」は2019年12月より、ブロックチェーンを用いて海運業界のCO2排出削減量を記録・可視化し、客観的に評価するサービス「マリンカーボンブロッキング」の提供に向けた共同研究を開始しています。なお、共同研究のパートナーは福岡に拠点を置くブロックチェーン企業「chaintope」です。

もともとウェザーニューズは、船舶会社などに対して航海気象サービスを提供しており、船舶会社は気象・海象情報を元に最適な配船・コースの選択を行っていました。同社がサポートする船舶は年間10,000隻以上にのぼります。顧客の中には船舶会社の世界最大手「Maersk Group」もおり、全船契約を締結してサービス提供を行っています。

マリンカーボンブロッキングサービスでは、OSR(Optimum Ship Routeing)サービスを活用している海運企業を対象に、これら企業が削減したCO2排出量をブロックチェーンに記録し、それらをコイン(トークン)として活用できるようにしています。このコインは取り組みに賛同した企業間で取引可能です(カーボンオフセット)。

OSR(Optimum Ship Routeing)サービスとは?:ウェザーニューズが提供する燃料消費量の低減をはじめとした運航コスト最適化を支援するサービス。

カーボンオフセットとは?:経済活動を行う主体(企業など)が自身の活動で排出される温室効果ガスを、温室効果ガス削減のための取り組みに対して投資することで相殺(オフセット)する取り組みのこと。

また、chaintopeの公開記事によると、将来的には業界を超えたカーボンオフセットコインの二次流通市場の実現も見据えているようです。

https://www.chaintope.com/WNI_Marin-Carbon-Blocking

この共同研究の背景としては、排出量削減に貢献した企業が、努力に見合った対価を得ることが難しいという課題がありました。カーボンオフセットコインの取り組みによって、こうした課題解決が期待されます。

なお、共同研究開始のリリースでは、2020年夏までにウェザーニューズのOSRサービスを利用する企業を対象とした実用化を進めるとされています。

サプライチェーンを可視化する「OpenSC」

野生動物保護団体の「世界自然保護基金(WWF)」は、年間で1億ドル以上の寄付金を集める国際組織です。2019年1月、WWFが正式公開したブロックチェーンプラットフォーム「OpenSC」では、食品や日用品のトレーサビリティを担保し、必要に応じて環境破壊や違法行為によって捕獲・生産されていないことを検証できるようになります。

OpenSCを活用する会社のひとつが、オーストラリアの水産企業「オーストラル・フィッシャリーズ(Austral Fisheries)」です。同社は、漁獲時点でほぼすべての魚にRFIDタグを付与してサプライチェーンの全地点のデータを取得し、ブロックチェーンに書き込むことで、OpenSCネットワーク上で魚のトレーサビリティを実現しています。そして、消費者は商品のQRコードを読み取ることで、漁獲の場所や時間、流通経路などをチェックできるのです。

https://www.wwf.or.jp/activities/activity/3855.html

なお、OpenSCをオーストラル・フィッシャリーズが導入した背景には、水産資源の保全のため漁獲の総量規制や禁漁区が定められても、海上で違法操業船を取り締まることが困難だったことがあります。

なお、ブロックチェーンを活用した食料品のサプライチェーン可視化については、OpenSCのほかにも「IBM Food Trust」などが取り組んでいます。

炭素クレジットのトークン化の標準を検討するワーキンググループも設立

2020年7月29日、トークンの標準化やフレームワークを開発する国際非営利組織「InterWork Alliance(IWA)」が、「Sustainability Business Working Group」の設置を発表しました。このワーキンググループでは、炭素クレジットのトークン化に関する標準を開発、さらに炭素会計の複雑性排除や関連する事務処理の簡素化、市場における(炭素クレジットトークンの)相互運用性を実現しようとしています。

IWAの取り組みで注目すべきポイントは「Microsoft」や「Nasdaq」、「Accenture」といった大手企業のほか、「Hyperledger」や「R3」、「Chainlink」などブロックチェーン関連の主要企業・団体も参画しており、標準化が議論されている点だと言えるでしょう。活動はスタートしたばかりですが要注目です。

その他、IWAは2017年に国連の支援のもと設立された「Climate Change Coalition(CCC)」とパートナー関係にあります。CCCは気候変動対策にブロックチェーンをはじめとするテクノロジー導入を推進する国際イニシアチブです(2020年1月時点で200以上の企業・団体が加盟)。

まとめ

環境保全や環境リスクへの対応は、国を超えた課題であることが少なくありません。したがって、異なる組織間の情報共有・連携を効率化するブロックチェーンの導入は効果が見込まれます。

環境リスクの高まりやSDGsの文脈を受け、各国政府や国際的な非営利組織も環境保全にテクノロジーを導入する動きが進みつつあります。本記事で紹介したブロックチェーンの活用事例や取り組みもそのひとつです。

なお、日本の環境省も環境問題に対してブロックチェーンを活用する取り組みを進めており、以下の記事ではその概要を紹介しています(近日公開予定)。


また、当メディアを運営する株式会社digglueでは、本記事で紹介したようなブロックチェーンを活用した実証実験や、その前段階での業務課題の整理に伴走するコンサルティングサービスを提供しております。

30分の無料相談も受け付けておりますので、お気軽にお問合せください

参考資料:
The Global Risks Report 2020
Building Block(chain)s for a Better Planet
環境省RE100の取組
スマートグリッドとは何か?知っておきたい次世代電力ネットワークの基本【2分間Q&A(62)】
「マリンカーボンブロッキング」サービス提供に向けた共同研究を開始
ウェザーニューズ社の二酸化炭素排出量削減への貢献の可視化
世界最大手のMaersk Groupと全船契約を締結 | Weathernews Inc.
World Wildlife Fund, Inc. and Subsidiaries
食品などが及ぼす環境影響を追跡可能に 新たなブロックチェーン・プラットフォーム 
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Climate Chain Coalition
The InterWork Alliance Sustainability Initiative to Develop Trusted Solution for Standardizing Token-based Carbon Emission Accounting, Credits, and Offsetting – IWA

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