中国のブロックチェーン事情とは?|地方政府編

中国のブロックチェーン事情とは?|地方政府編

はじめに

ブロックチェーンの活用が世界トップレベルで進んでいる国はどこかと言えば、中国の名前が真っ先に挙がります。

中国は2014年から法定デジタル通貨(DC/EP、Digital Currency Electronic Payment)の研究を始めており、2016年には国のIT政策としてブロックチェーンを注力技術に据えて産業育成を図ってきました。早期から政策的に取り組んでいたため、諸外国の5〜10年は進んでいるのではないかとの意見もあります。

そこで本記事では中国において、地方政府レベルでどのような取り組みが行われているのかを紹介していきましょう。

2016年頃から政策的にブロックチェーン産業を育成

冒頭でも記した通り、中国では早期から政策的にブロックチェーン産業を育成してきました。

中国では1953年の建国以来、社会・経済の発展計画として五カ年計画が策定されています。そして、2016年に発表された「第13次五カ年計画(2016〜2020)」のうちIT産業に関する政策の中では、IoTやクラウド、ビッグデータと並んで注力すべき技術としてブロックチェーンが挙げられたのです。

中央政府の発展計画もあり、2016年11月には上海市宝山区が中国初のブロックチェーン特区として指定されました。以降、中国の主要都市で特区が設置され、2020年2月時点で23の特区が存在します。特区ではブロックチェーン企業に対する減税や、オフィスの賃料補助など様々な優遇政策が受けられるようです。

また、官民問わず、2〜4ケタ億円のブロックチェーンファンドが複数立ち上がっており、多額の投資が集まっています。一例として、2018年12月までに、9つの地方政府で合計400億人民元(約6,000億円)のブロックチェーンファンドが設立されました。

その他、中国の最高学府である清華大学や、トップレベル校の浙江大学がブロックチェーンの研究所や授業を設け、研究開発や人材育成に取り組んでいます。

以上のように産官学問わず、ブロックチェーン企業や人材への投資が進められているのです。もちろん、すべての投資が成功するとは限らず、ブロックチェーンを使う意味の無いプロジェクトもあると考えられます。しかし、早期からブロックチェーンに投資し、優れた企業や人材、ユースケースを生み出そうとする姿勢は、中国が実利用で最先端を走る理由だと言えるでしょう。

ブロックチェーンの発展や政策に取り入れる地方政府が相次ぐ

2019年10月、習近平国家主席がブロックチェーンをイノベーションのコア技術と位置づけ、注力する考えを示して以降、地方政府の取り組みはさらに加速しているように見受けられます。

2020年に入ってから、ブロックチェーン発展に向けた行動計画や、基本方針・政策でブロックチェーンに言及する地方政府(省・市レベル)が相次いでいます。例えば、湖南省は2022年までの3年間で省内のブロックチェーン技術レベルを中国最先端まで引き上げ、3万社を誘致する計画を発表しました。

また、首都・北京市は2020年6月末にブロックチェーン開発の国際的なハブ機能を持つ都市を目指すと宣言し、2022年までの発展行動計画を発表しています。さらに翌7月には、“プログラム可能な政府”(blockchain-based programmable government)を実現する計画を発表、セクターを越えたデータ連携を促進し、部門・地域を横断した協業を全市的に目指しているのです。

この他にも、海南省、甘粛省、湖南省、貴州省、広州市、上海市、重慶市、広東省などがブロックチェーン産業の育成や政策での活用を発表しています。さらに、安価かつ迅速にブロックチェーンアプリを開発できるサービス「Blockchain-based Service Network」(BSN)が、2020年4月にローンチしており、今後さらに社会実装が進む可能性が高いです。

さて、ここからはブロックチェーン活用が進む中国の地方政府のうち、先端を走る北京市と浙江省・杭州市について紹介していきましょう。

首都・北京|仮想通貨の聖地からブロックチェーン都市へ

実は北京市ではBitcoinの知名度が今よりもずっと低かった2013年頃から、現在でも世界トップクラスの仮想通貨取引所である「Huobi」や「OKCoin」、Bitcoinなどのマイニング機器に使われる集積回路を設計・販売する「Bitmain」などが存在していました。

ただ、2017年に政府から発出された取引所の閉鎖指示によって、取引所関連の企業は国外に拠点を移しています。

一方で、ブロックチェーンについては積極的に支援しており、北京市政府としても活用していく姿勢が鮮明になっています。ここでは2020年6月末と7月に出された発表や計画の概要を見ていきましょう。

北京ブロックチェーン・イノベーション発展行動計画(2020-2022年)

まず、2020年6月末に、北京市政府はブロックチェーン開発のグローバルハブを目指し、IDや不動産、信用スコア、サプライチェーン、法執行機関、医療といった幅広い分野の事業にブロックチェーンを統合する計画を発表しました。

最初のステップとして、IDと信用スコアを管理するシステムをブロックチェーンベースで構築し、不動産登記や金融、医療、サプライチェーンといった分野へと広げていく計画です。

計画を実現するために、北京市政府は助成金やブロックチェーンファンドを設け、政府職員に対してもブロックチェーンに関する研修プログラムを提供する予定となっています。

北京市政府サービス分野での応用(プログラム可能な政府の実装計画)

上記計画が発表された約3週間後、北京市政府はブロックチェーンベースのプログラム可能な政府の実装計画を公開しました。行政が関わるサービス分野にブロックチェーンを導入する取り組みで、政府機関と企業間でのデータ共有を促進し、連携の効率化を図ります。

計画の発表では既に稼働中に事例を含む、12のユースケースがまとめられており、公共サービスや登記手続き、ID認証などの分野での活用が進んでいるようです。

例えば、貿易に関わる企業と政府部門のデータ共有が必要な通関手続きにブロックチェーンを導入し、貿易書類やロジスティクスデータ、税務データなどの照合が効率化されています。2020年3月〜5月の間に121社が通関手続きのプラットフォームを利用し、300万点のデータが記録されました。

また、法人向け銀行口座を開設する際のeKYCに、ブロックチェーンを活用するサービスが2020年3月にローンチされています。

eKYCとは?:「electronic Know Your Customer」の略称。KYCは本人確認手続きの総称で、KYCを電子的に行う仕組みがeKYC。銀行口座や証券口座の開設をすべてオンラインで行えるメリットがある。

ブロックチェーンを活用することで、一度eKYCをした法人のデータを(当該法人の承認の下で)複数の金融機関で共有することができます。2020年7月時点では3行のみが参加するパイロット段階ではあるものの、企業・銀行双方の事務コストを削減可能です。

この他にも不動産登記システムや電子請求書、裁判所のデジタル化など、既に北京では140の公共サービスでブロックチェーンが導入されており、平均40%の業務削減効果があったとされています。

中国の首都である北京市の取り組みは、他の都市も追従する可能性があるため、今後他の都市でも同様の計画発表あるいは取り組みが行われるかもしれません。

浙江省・杭州市|中国初の電子ハンコプラットフォーム

浙江省や杭州市も早期(2016年頃)からブロックチェーンの研究を進めてきた地方政府のひとつです。早くから本格的なブロックチェーン特区を整備し、国際的なカンファレンスの開催やファンドの設立などを進めてきました。

2018年4月には100億人民元(約1,500億円)のブロックチェーンファンドが成立したほか、2019年3月には杭州市の市営地下鉄でブロックチェーンベースの電子領収書の発行システムがローンチされています(地下鉄利用者は決済アプリのAlipayから領収書を発行可能)。

なお、公共交通機関における電子領収書システムは、深セン市など他の都市でも既に実稼働しており、以下の記事ではその概要を紹介しています。

また、2020年7月にはブロックチェーンベースの電子印プラットフォームを立ち上げられました。杭州市内に拠点を置く企業であれば、政府系のポータルサイトや、Alipayで利用できる法的に有効なデジタル社印を取得可能になっています。

中国がブロックチェーンを活用する理由

さて、中国では中央政府と地方政府が早期からブロックチェーンを政策的にサポートしており、既にサービスが実稼働している事例が少なくありません。

また、中国はブロックチェーンだけではなく、AIやIoT、5Gなど様々なテクノロジーに投資し続けています。理由はいくつか考えられますが、ひとつには中国の社会インフラが整備されきっておらず、時代に即した社会インフラを官民協働で構築しようとしているからだと考えられます。

中国は過去、改革開放政策によって行政主導の経済成長を実現しようとしましたが、その限界に直面した経験があり、継続的かつ合理的な経済成長のためには、民間部門の能力とイノベーションが不可欠だと判断した経緯があるようです。

そして、公共サービスの合理化と経済成長を進める技術のひとつとして、ブロックチェーンが使えると判断されたことから、中国では政策的にブロックチェーンが推進されていると考えられます。

ブロックチェーンは組織間でのデータ連携を実現・効率化するため、本記事で紹介した北京市での通関手続きの事例のような業務コストの削減が期待できるのです。

まとめ

本記事ではいくつか事例を紹介しましたが、既に中国では紹介しきれないほど沢山の事例が存在しています。政策的に優遇され、公金を含む多額の投資が集まっているため、中にはブロックチェーン以外でも実装できるサービスは少なくないはずです。

しかし、多数の企業やプロジェクトの中から、画期的なユースケースが誕生する可能性は高いはずで、中国での取り組みに日本を含めた他国が追従する流れはいずれ来ると考えられます。

中国のブロックチェーン事情はウォッチすべきテーマであるため、当メディアでも継続的に紹介していく予定です。

参考資料:
中国ブロックチェーン特区の栄枯:3兆円支援、ガラガラのオフィス
中国で進む地方政府のブロックチェーン計画、全人代で34件の提案と声明──4~5月の活発な動き
5カ年計画でブロックチェーン開発を促進した中国。活用事例を深掘り
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