【事例】交通機関×ブロックチェーン – BaaSの活用 –

【事例】交通機関×ブロックチェーン – BaaSの活用 –

はじめに

最近、MaaSをはじめ、公共交通機関を用いた新たなサービス開発が盛んになってきています。そこで今回は、国内外の公共交通機関へのブロックチェーン活用を紹介します。

特に今回は、徐々に利用が増えてきているBaaS (Blockchan as a Service)を用いたサービスにフォーカスして紹介します。

BaaSとは、簡単に言うと、ブロックチェーン(アプリ)開発を容易にするためのクラウドで提供されるサービスで、開発効率の良さから、近年のブロックチェーンを用いたサービス開発での利用が増えてきています。

海外における公共交通システムへの活用

海外での公共交通へのブロックチェーンの取り組み

海外での公共交通へのブロックチェーン活用への取り組みは、いくつか発表されていますが、一例をあげると、

といったように、様々な取り組みが開始されています。

Tencent Blockchain as a Serviceを用いた深センでの事例

この中でも、深センの地下鉄での電子請求書の発行システムは、すでに実用化されており、100万件を超える電子請求書の発行実績があると報告されています。

実装には、中国の大手IT企業であるテンセントが提供するTencent Blockchain as a Service (TBaaS) が用いられています。

TBaaSの概要は以下のようなものになっています (参照元:https://media.dglab.com/2019/05/05-chinanblockchain-01/)。

  • Hyperledger Fabricベースのクラウド環境
  • 管理画面上での簡単な操作でブロックチェーンを利用可能
    • 管理画面上で、コンソーシアムを定義し、スマートコントラクト (TBaaS上ではchaincodeと呼ばれる) をアップロードするという数ステップでブロックチェーンを利用可能
    • 管理画面上で、コンソーシアムへのメンバーの招待や承認の投票も可能
  • トランザクションの実行や参照に用いるAPI提供により、アプリケーションとの連携が可能

この電子請求書の発行システムの特徴は、ブロックチェーンにより構築された電子管理システムと連携している点にあり、二重トランザクション防止といったブロックチェーンの特徴を活かしたものになっているとのことです。

ブロックチェーン発票システムでは、QRコードを税務アプリに読み取らせるだけで、即座に税金の還付を受けることができるようになった。これは二重トランザクション防止の仕組みを使っており、申請のあった仕入控除分の税金の還付が一度だけ処理されることを保証できる。また対応する販売情報の発票の消し込みも同じくブロックチェーン上で処理することで、経費が二重に計上されることも防いでいる。そのため、還付申請から受理までの速度が大きく向上し、申請から数秒で ウィーチャットペイで還付金を受け取れるようになった。

参照元:https://media.dglab.com/2019/05/05-chinanblockchain-01/

また、上記システムのバックエンドとしては、各地の税務局や、電子請求の授受と関係のある複数のシステムとの連携がブロックチェーンによって実装されており、複数事業者の共有プラットフォームとしてブロックチェーンが有効であることを示す、よい実例になっています。

参照元:https://media.dglab.com/2019/05/05-chinanblockchain-01/

BaaSを用いた国内での公共交通への取り組み

次に、国内における、BaaSを用いた最近の公共交通の検証をみると、以下のようなものがあります。

前者は、MicrosoftのAzure Blockchain (Service)、後者は、OracleのOracle Blockchain Platformを使用しています。

Azureを用いたMaaSへのブロックチェーンの適用検証

今回は、前者のMicrosoftの検証内容を紹介します。この検証は、Microsoftが主催するHackfest (短期集中型でトライアル開発を行うイベント) の中で実施されたものです。

2019年1月21日〜2月8日(1回目)と2019年6月3日〜6月7日(2回目)の2回実施されており、各々以下のような内容になっています。

Hackfest1回目の検証内容:

  • 参加企業:
    • 東日本旅客鉄道株式会社、株式会社JR東日本情報システム、みずほ情報総研株式会社
  • 目的:
    • オープンデータやオープン API への取り組みといった交通分野での新たな動きの中で、企業の垣根を越えた社会インフラを創出すること
    • Blockchainを活用した、サブスクリプションモデルにおける移動や各種サービス利用に関わる個人データの改ざんと漏洩防止のメカニズムを備えた新たなテスト基盤の構築
  • テスト基盤の概要:
    • すべての人が検索~予約~支払を一度に行え、かつ移動に関わる周辺サービスも利用できる基盤
    • 「旅行者がいつ、どの交通機関を利用したか」等の個人データの改ざんと漏洩を防止し、金融機関と接続して行う支払いの透明性を担保するために Blockchain 技術を活用
    • 主要な運輸業者だけでなく、移動に関わる周辺サービスを提供する事業者にとって参加が容易となるようなアーキテクチャーの実装を実現

参照元:https://news.microsoft.com/ja-jp/2019/04/25/190425-announcement/

1回目の検証では特に、社会インフラ基盤に要求される「格納データに対する高い信頼性」「スケーラビリティや柔軟なインテグレーション特性」「高い管理性」といった機能を有するシステムをAzure上に実装し、その有用性を確認することができたということです。

特に、今回の検証結果として、以下の2点が強調されています。

利用者の利用履歴の透過性と秘匿性: 利用者の移動履歴はすべての参入事業者が検証可能です。ただしそれらによって特定の個人の行動履歴が予測できてしまうことのないようハッシュ化された状態で保存されています。

容易で安価な事業参入: 新規事業参入のために特殊な機材を購入したりアプリケーションを作成することなく、コンソーシアム型の Blockchain ネットワークに参加することができます。また、チケットを読み取るためのアプリケーションはスマートフォンでも動作可能であるため、初期の導入コストを低く抑えることができます。

参照元:https://news.microsoft.com/ja-jp/2019/04/25/190425-announcement/

Hackfest2回目の検証内容:

  • 参加企業:
    • 株式会社JR東日本情報システム、みずほ情報総研株式会社、日本生命保険相互会社、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社、株式会社 MaaS Tech Japan
  • 目的:
    • MaaSにおける利用者のリスク低減

参照元:https://news.microsoft.com/ja-jp/2019/07/08/190708-the-theme-in-maas-to-verify-the-usefulness-of-blockchain/

2回目のHackfestでは特に、

  • 複数企業が参加する場合の個人情報の管理
  • 複数機関が連動したサービス開発

といったことが行われました。

昨今、注目が大きい個人情報の管理については、自己主権型アイデンティティという考え方に基づいた管理基盤であるIONを導入し、解決を図っています。

また、複数機関が連動したサービス開発については、「公共交通機関-保険補償-カーレンタル」といった複数機関が連動したサービスを、スマートコントラクトを活用することで自動的に施行する仕組みを実験的に検証しています。

詳細は以下:

自己主権型アイデンティティとの連携: 多くの企業が参入することが予測される MaaS は、伝統的な中央集権型のアイデンティティ管理基盤の適用が難しい分野です。今回はマイクロソフトがプレビュー版として提供している自己主権型アイデンティティ(Self-Sovereign Identity)管理基盤である ION(アイオン)の早期検証環境を使用し、利用者がスマートフォンを使用して自らのアイデンティティを管理し、認証が行えることを検証しました。

迅速な保険契約の締結と補償: 公共交通機関の遅延や運行停止は、利用者にとって旅程を変更せざるを得ないなど、大きなリスクです。今回のハックフェストでは、保険付きのチケットを発行する機能と共に、交通機関に大きな遅延が発生したことを検出し、利用者にシェアカーのチケットをERC721 トークン(イーサリウム上で採用されている代替不可能なトークンの規格)として自動的に発行する仕組みを実装し、検証しました。

MaaS チケットによるシェアカーのドアロック解除: 保険によって発行されたチケットによってシェアカーを予約し、その結果として得られたトークンによってドアのロックを解除する機能を実装し、検証しました。

参照元:https://news.microsoft.com/ja-jp/2019/07/08/190708-the-theme-in-maas-to-verify-the-usefulness-of-blockchain/

まとめ

今回は、BaaSを利用した公共交通機関へのブロックチェーンの活用事例として、「中国の深センにおける地下鉄の電子請求書の発行システム」と「MicrosoftのHackfestでのMaaSの実現へ向けた必要機能の実証検証」についてみてきました。

国内の公共交通一般の取り組むに目を向けると、まちづくりの一つアプローチとして、MaaSの利用が言われています。

参照元:日本版MaaSの実現に向けて (国土交通省総合政策局, 平成31年2月15日), P10から抜粋

ここで重要になるのが、資料でも述べられている複数事業者間のデータ連携です。

深センの事例やHackfestでも検証されている通り、事業者間のデータ連携はブロックチェーンの活用が最も期待されている機能の1つです。

加えて、Hackfestでの検証のように、複数事業者の連携にスマートコントラクトを活用することで、新たなサービス開発が期待されます。

また、実際のサービス開発でボトルネックとなる実装については、今回紹介したBaaSの利用が一つの有力なアプローチになるのではないでしょうか。

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