BSNとは?中国発、ブロックチェーンの普及を推進する公共インフラ概要

BSNとは?中国発、ブロックチェーンの普及を推進する公共インフラ概要
Blockchain-based-Service-Network

はじめに

中国は国としてブロックチェーンに注力しています。例えば、2016年からの「第13次5カ年計画」ではブロックチェーンを戦略的に支援する旨が記載されているほか、2019年10月には習近平国家主席が産業改革における重要技術として、ブロックチェーンを位置づけたと発表されました。

そして、2020年4月にローンチされた「Blockchain-based Service Network」(BSN)は、中国のブロックチェーン戦略の一部だとされています。本記事では、BSNの概要について紹介していきます。

Blockchain-based Service Network(BSN)とは?

BSNはインターネットのように、低コストで使える公共インフラであり、ブロックチェーンを用いてアプリケーションを開発するための機能やリソースをワンストップで提供するサービスです。パーミッションレスなブロックチェーン(パブリックチェーン)と、パーミッション型ブロックチェーンを複数統合しており、開発者はどちらかを選択してアプリケーション開発を行うことができます。

BSNは2019年9月に初めてホワイトペーパーが公開され、約半年のテスト期間を経て、2020年4月に正式ローンチされました。BSNは中国国内向け(BSN China)とグローバル向け(BSN International)のネットワークで構成されており、BSN Chinaはパブリックチェーンには対応していません。

また、2020年7月28日の時点で、6,000の企業および個人開発者がネットワーク上に登録されていると報じられています。

BSNの運営主体

BSNは「BSN開発協会」(BSN Development Association)によって運営されています。BSNの規制設計や技術標準、開発・運用、価格設定などは、すべてBSN開発協会によって決定され、同協会を主導するのは政府機関「中国国家情報センター」(State Information Center of China)をはじめとする6の主体です。

国家情報センター以外の主体としては、創立メンバーでもある「China Mobile」や「China Union Pay」といった企業であり、中国政府が直接運営するものではありません。

ローンチ当初は、BSN開発協会がBSN ChinaとBSN Internationalのガバナンスを担っていましたが、2020年7月31日には両者のガバナンスが分離されると発表されました。BSN Chinaについては引き続き、国家情報センターをはじめとした主体が管理する一方、BSN Internationalについては独立した評議会を設けて管理される予定です。

この分割は法規制に対応する目的であり、分割によってBSN ChinaとBSN International同士の相互運用性が損なわれることは無いと発表されています。

BSNのメリット

BSNのホワイトペーパーにおいて、そのメリットは以下のように整理されています。

  • ブロックチェーンアプリケーションの開発・運用コストの削減
  • ブロックチェーンアプリケーション開発への参入障壁を低下
  • 異なるブロックチェーン基盤のアプリケーションへの接続が容易に
  • 専用回線での接続によるセキュリティ担保が可能
  • 急速に拡大し得るメカニズム(ブロックチェーンの導入コストを大幅に削減したことによる)

BSNはその目的としてブロックチェーンアプリケーションの開発・運用コストを大幅に削減し、ブロックチェーンの開発と導入を加速させることを掲げています。

実際、ブロックチェーン導入の課題として、開発・運用コストの高さが挙げられるケースは少なくありません。BSNはこの課題を解決しようとしており、従来の1/3〜1/5に程度にコストを抑えられるとされています。具体的には、単独のアプリケーションがチェーンを形成して運用可能になるまでの最小コストが、BSNを利用することで年間約2,000〜3,000元(約3〜4.5万円)にまで削減されると試算されているのです。

導入コストの削減によって、多くの中小企業や個人開発者がブロックチェーンアプリケーションの開発に参入し得るため、より優れたユースケースが登場する可能性があります。

また、従来では同じパーミッション型のブロックチェーン基盤で開発されたアプリケーションであっても、異なるコンソーシアムの場合、個別にノードを運用する必要がありました。さらに、異なるコンソーシアムのアプリケーション間での通信ができないため、インターオペラビリティも担保されていません。

一方で、BSNでは開発者が単一の秘密鍵で複数のブロックチェーン基盤上でアプリケーションをデプロイ可能です。さらに、「Interchain Communication Hub」という機能によって、異なる基盤上のアプリであっても相互に通信可能になる予定となっています。

Interchain Communication Hubのデモ自体は2020年9月に実装される計画で、デモではHyperledger FabricとFISCO BCOS、EOS上で開発されたアプリケーション同士の通信が実現する予定です。

BSNに統合されているブロックチェーン(2020年8月7日現在)

前述の通り、BSNには複数のブロックチェーンが統合されています。

パーミッション型ブロックチェーン

2020年8月10日時点では、BSN Internationalで対応している基盤は、Fabric(ver1.4.3)とFISCO BCOS(ver2.4.0)のみとなっています。

パブリックチェーン

  • Ethereum
  • EOS
  • Tezos
  • Nervos
  • Neo
  • IRISnet

また、2020年6月には分散型オラクルを提供する「Chainlink」との統合も発表されました。BSNでは、2021年6月までに30〜40のパブリックチェーンが統合されるとの報道もあり、実際にBSNの公式Mediumでも毎月3〜5のパブリックチェーンが追加される予定と記載されています。

なお、上記パブリックチェーンへの接続サービスは、2020年8月10日から提供されています。

BSNの主な構成要素

最後にBSNの主な構成要素を紹介しておきます。

  1. Public City Nodes(PCN):BSNにおける基本的な要素であり、BSNに対してCPUやストレージ、帯域幅などのリソースを供給するクラウドサービスプロバイダ。PCNはインターネットを介してリンクされている。「ノード」という名称のため混同しやすいが、ブロックチェーンノードではない(BSN自体、ブロックチェーンではない)。
  2. Blockchain framework:BSNが統合されるブロックチェーンフレームワーク(例えば、Hyperledger Fabricなど)。パーミッション型のブロックチェーンが統合されるには、BSNのフレームワーク採用基準に適応し、監査に合格する必要がある。
  3. BSN portals:リソースの購入やアプリケーションのデプロイ時に、開発者などが使うポータル。BSNポータルは既存のクラウドベンダーや開発企業が提供可能であり、各ポータル事業者は独自の料金を開発者に対して課すことができる。
  4. BSN Network Operations Platform:BSNの設立メンバー(China MobileやChina Union Payなど)の専門技術チームによって管理されるプラットフォーム。

Public City Node(PCN)は、クラウドサービスやデータセンターが提供するリソースプールであり、BSNでのブロックチェーンの運用やトランザクションの処理において重要な役割を担います。ブロックチェーンのフレームワークや共有のピアノード、CA(Certificate Authority)の管理などの、ブロックチェーンの動作環境がPCN内に構築されています。

PCNのアーキテクチャは以下の通りです。異なるブロックチェーン同士の通信やオラクルとの連携、ユーザーや開発者がブロックチェーンを利用する際の入り口となるなど、重要な機能を管理しています。

https://twitter.com/bsnbase/status/1283777094091026434

2020年7月末時点で、130以上のPublic City Nodeがデプロイされているようです。その内訳としては、中国のすべての省と主要都市、および南極以外の各大陸となっています。

まとめ

本記事では中国発のブロックチェーンの公共インフラネットワークであるBSNについて紹介しました。冒頭でも触れたように、中国はブロックチェーンを重要な技術と見なしており、投資を進めています。

BSNはブロックチェーンアプリケーションの開発コストを下げるため、将来的に優れたユースケースが誕生する可能性を秘めています。また、BSNは異なるブロックチェーン同士の通信もサポートする予定です。

ブロックチェーンの開発コストを大きく下げつつ、インターオペラビリティの課題も十分にクリアできた場合、そのインパクトは大きく、ブロックチェーンの導入が急速に普及する可能性があります。したがって、BSNの取り組みは今後も要注目だと言えるでしょう。

なお、中国における具体的な活用事例については、以下の記事でピックアップしていますので、興味のある方はぜひご覧ください。

参考資料:
BSN International Press Release. [Hong Kong SAR , July 31, 2020] — The… | by BSN | Jul, 2020
China’s BSN Aims to Integrate With 40 Public Chains Within a Year
Blockchain-based Service Network Introductory White Paper
Blockchain-based Service Network Technical White Paper
The BSN Public Chain Integration Plan — First Batch
BSN (@bsnbase)

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