Kadenaとは?スケーラビリティとセキュリティの問題解決を目指すブロックチェーン

Kadenaとは?スケーラビリティとセキュリティの問題解決を目指すブロックチェーン

ブロックチェーンに関する課題のひとつが、パブリックチェーンとプライベートチェーン(パーミッション型チェーン)など、異なるチェーン間の相互運用性(インターオペラビリティ)の実現です。当メディアでも、相互運用性を実現するプロジェクトとして「Cosmos」や「Polkadot」を紹介しています。

また、スケーラビリティやセキュリティに関しても課題とされており、本記事で紹介する「Kadena」はこれらの課題解決を目指すプラットフォームです。

Kadenaとは?

開発企業としてのKadena(Kadena LLC)は、主に金融機関やヘルスケアなど、セキュリティ要件が厳しい用途での利用に耐え得るブロックチェーンの開発に焦点を当て、2016年7月に設立されたベンチャー企業です。同社は過去、2017年〜2018年に複数回にわたって、「Multicoin Capital」などから合計約15Mドルの資金調達を行っています。

共同創業者であるWill MartinoとStuart Popejoyは、共にJPモルガンのブロックチェーンCoE(中核研究拠点)の出身であり、CEOのMartinoは同社のブロックチェーンプロジェクト「Juno」や米SEC(証券取引委員会)の暗号通貨運営委員会および定量分析ユニットのリードエンジニアを歴任した人物です。

また、プラットフォームとしてのKadenaは、既存のブロックチェーンが抱えるスケーラビリティやセキュリティ、使いやすさといった課題を克服し、単一のプラットフォーム上で様々なブロックチェーンアプリケーションを構築できるリソースの提供を目的としています。プロダクトは大きく分けて以下の3領域に分類可能です。

  • パブリックチェーンネットワーク(Kadena)
  • エンタープライズ向けブロックチェーン(Kadena Kuro)
  • ブロックチェーンプログラミング言語(Pact)

この他にも、2019年にCosmos Networkなどを支援する「Interchain Foundation」の助成金(Grant)を獲得しており、PactをCosmosのエコシステムに統合する「Kadenamint」が開発中です。さらに、2019年11月からは、PolkadotでのPact実装に向けた検討を「Web3 Foundation」と共に進めており、Pactの普及と相互運用性の実現に向けた取り組みを加速させています。

Chainwebメカニズムを採用したパブリックチェーン

まずは、Kadenaのパブリックチェーンについて紹介します。分散ノードが正しいトランザクションをただひとつに決定する方法としては、Proof of Work(PoW)を基本としたメカニズムが採用されています。

パラレルなPoW「Chainweb」

Bitcoinで明らかになっているように、PoWはスループット(単位時間あたりの処理能力)が低いのが課題です。そこでKadenaのパブリックチェーンでは、PoWベースで稼働するピアチェーンを並列稼働させ、スループットを向上させています。

また、マイナーは各チェーンのマイニング効率を考慮しながら、常にマイニングするチェーンを変更可能です。したがって、各チェーンに投じられるハッシュパワーは各マイナーの損益に応じて調節されます。このとき、マイナーのインセンティブとなっているのは、ネイティブトークンのKDAです。

各チェーンは新規ブロックの生成時に隣接するピアチェーンを参照、当該ハッシュを新規ブロックに格納しています。ピアチェーンを編んでいくイメージで、「Chainweb」と呼ばれるこのメカニズムによって、Kadenaはセキュリティを向上させつつ、スループットを向上させています。

参考:Kadena’s Public Blockchain: 101 and FAQs – Kadena

例えば、10のピアチェーンが稼働している場合、自身と3つの隣接するピアチェーンの1階層前(下図ではLayer=N-1)のブロックヘッダハッシュを格納して新たなブロックを生成します。これらのハッシュは、もうひとつ前の階層(下図ではLayer=N-2)のハッシュを入力値としており、その時点ですべてのピアチェーンを参照していることになります。

https://www.kadena.io/kadena-chainweb

ある地点(ブロック)から前後3階層の参照関係を図示すると、以下のような円錐形になるため、KadenaのChainwebではマークルコーン(Merkle Cones)と呼ばれています。この仕組みによって、時間の経過と共に改ざんの困難さが大きく上昇していくのです。

https://cyber.stanford.edu/sites/g/files/sbiybj9936/f/kadenachainweb-bpase18.pdf

なお、Kadenaの開発チームはPoWを採用した理由として、セキュリティや検閲耐性、信頼性などの面で妥当性があり、有力なメカニズムであるProof of Stake(PoS)はPoWの代替手段となることが現時点では実証されていないことを挙げています。

ピアチェーン間のトークン転送

ピアチェーン間でのトークンの転送は、Simple Payment Verification(SPV)というスマートコントラクトを用いて行われています。送信元となるチェーンでトークンを削除(Delete)し、送信先のチェーンがMerkle proof of deletion(送信元でトークンが削除された証明)を確認した後に同量のトークンが作成(Create)される仕組みです。

https://cyber.stanford.edu/sites/g/files/sbiybj9936/f/kadenachainweb-bpase18.pdf

プライベートチェーン「Kadena Kuro」

「Kadena Kuro」は、Kadenaのプライベートチェーン(パーミッション型チェーン)バージョンです。Proof of Work(Chainweb)が採用されているパブリックチェーンのKadenaとは異なり、「Scalable-BFT」と呼ばれるBFT(Byzantine Fault Tolerance)が採用されています。一方で、Kadena KuroもPactで実装されており、開発ツールもパブリックチェーンと同様です。

Kadena Kuroのスループットに関しては、500ノードで構成されたネットワークで最大8,000tpsであるとされています。また、Kadena Kuroは、AzureとAWSのマーケットプレイスで提供されています。

参照:Kadena Scalable Permissioned Blockchain on AzureAWS Marketplace: Kadena Blockchain for Enterprise – Community Edition

なお、Kadena社自体は、後述するスマートコントラクト言語「Pact」とプライベートチェーンの開発からスタートしており、同社がエンタープライズ向けの開発に重点を置いていることが分かるでしょう。

ハイブリッドブロックチェーンモデルが可能にするユースケース

Kadenaはハイブリッドブロックチェーンであることが強調されており、2020年1月15日からパブリックとプライベートの相互接続が本番環境で開始しています。チェーン間の通信には、ブリッジとして機能するミドルウェアが介在しています。

https://medium.com/kadena-io/experience-hybrid-blockchain-e19699b1c468

ハイブリッドモデルにおける役割分担としては、パブリックチェーンは流動性向上に寄与し、プライベートチェーンは機密情報や特定ネットワーク内で通用する価値の記録台帳としての機能を担うと考えられます。なお、ここでの流動性とは他のアセットとの交換しやすさのことです。

例えばパブリックチェーンのアカウントに、プライベートチェーンで管理される個人の医療情報などを結びつけることで、ユーザー主導のもと、医療機関の間でデータの共有が可能になります。企業のポイントもパブリックなトークンと結び付くことで、高い流動性を実現し得るでしょう。

また、ハイブリッドチェーンを活用した事例としては、ヘルスケア企業の「Rymedi」が医療用大麻のサプライチェーン追跡に導入することが明らかになっています。

チューリング不完全なスマートコントラクト言語「Pact」

Kadena社がオープンソースで開発している言語Pactは、チューリング不完全であり、形式的検証が提供されています。形式的検証とは、より安全なソフトウェア開発を目的として行われる、数学や論理学に基づいた検証のことです。

チューリング不完全とすることで言語固有の攻撃リスクを減らし、形式検証によって数学的に証明可能な安全性の高いコントラクトを実装することができます。また、Pactは台帳上で直接実行され、可読性の高い(human-readableな)形式で保存されます。

まとめ

Kadenaはスケーラビリティやセキュリティ、相互運用性といった課題解決を目指して開発されているプラットフォームです。Kadena自体がパブリックチェーンとプライベートチェーンの相互運用性を担保している上に、KadenaとCosmosのブリッジであるKadenamintも開発されています。

今後はCosmosやPolkadotとの連携とともに、形式的検証機能を備えたPactベースのスマートコントラクトがどの程度普及するか(ユースケースがどの程度増えていくか)が注目されるでしょう。

参考資料
Kadena(Crunchbase)
Kadena | Blockchain | Hybrid Platform
Kadena Docs
Chainweb
Kadena – Medium
Stanford Cyber Initiativeの資料
Kadena Blockchain Taps Healthcare Data Firm to Track Medical Cannabis Product

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