企業がブロックチェーンを活用する場合、パーミッション型(許可型)ブロックチェーンが採用されるケースが多いです。一方で、情報の秘匿化技術を使った「Baseline Protocol」や「AZTEC Protocol」のようにパブリックチェーンのEthereumを利用するプロトコルの開発も着実に進んでいます。
Ethereumを活用したユニークなサービスを展開している企業のひとつが、不動産をトークン化する「Real Token」です。今回はアメリカのベンチャーが展開する「RealT」について解説していきます。
Ethereum上で不動産をトークン化するRealTとは?
不動産やアートといった現実世界のアセットをトークン化する試みは、すでに国内外で行われており、その多くはパーミッション型ブロックチェーンを用いたものです。一方で、RealTはパブリックチェーンのEthereum上で不動産をトークン化した「Real Token」を発行し、流通させています。
2020年4月1月時点で、すでに6軒の不動産がトークン化され完売しており、合計販売額は約105.5万ドル(約1.1億円)です。また、欧州やアジア圏など40を超える国の投資家がRealTを通じて投資を行っています。
参考:$1M of Real Estate on Ethereum – David Hoffman
トークン化によって少額投資を実現
投資対象である不動産は、Real Tokenとして細分化されるため、投資家は当該不動産を実質的に分割所有できます。投資家はトークンの所有分に応じて、当該物件の家賃収入を獲得可能です。
パブリックチェーン上で発行・流通しているため、当該物件のトークンを所有している投資家の数はいつでも確認できます。例えば、「8342 Schaefer Highway, Detroit, MI 48228」という不動産のトークンはトータルで4000単位が発行されており、「EtherScan」で確認すると、257人のアドレス(投資家)によって保有されていることが分かります(2020年4月30日現在)。
デロイトの当該物件は、RealTのWebサイト上で確認することができ、すでにSOLD OUTしています。この物件の価格は203,333.33ドル(約2,168万円)であり、従来であれば多額の資金が無いと購入できませんが、所有権が4000分割されているため、50.83ドル(約5,421円)から投資可能です。また、変動リスクはあるものの、年利見込みは12.59%となっています。
不動産市場の課題とFractional Investmentsのメリット
既存の不動産市場は、不動産自体が高価であり、取引コストが高く、市場のサイロ化という課題を抱えています。アメリカの住宅価格の中央値は20万ドルであり、一般的な住宅の取引コストは「不動産業者に対する6%の手数料」と「最低30日もの決済期間」と高くなるのです。
このような非流動性市場は、購入者の少なさと高い取引コストが原因であり、こうした要因を取り除くことで、従来の価格よりも20–30%高い資産価格での取引が期待できます。
そして、上記の課題に対するソリューションがRealTです。RealTを通じた不動産へのFractional Investments(部分投資)は、以下のメリットをもたらします。
- 最低購入額が下がるので、多くの人が投資できる余地を与える
- スマートコントラクトによる購入プロセスの自動化
- ポートフォリオの多様化を容易に
- 非流動性資産に流動性をもたせる
- 受動的所得と再投資の機会を増やす
参考:5 Reasons Why Millennial Investors Are Considering Fractional Investments
RealTのように不動産の実質的な所有権を細分化・トークン化することで、より多くの人に投資機会を与え、流動性を向上させられます。資金的なハードルが下がり、大半のケースではサービスへの登録〜不動産購入・決済を約15分で完了させられる点が大きなメリットだと言えるでしょう。さらに、家賃収入はステーブルコインのDAIで毎日支払われ、投資家は最短で購入の24時間後に、最初の家賃収入を獲得できます。
RealTの流動性向上は、Ethereum上のDEXプロトコル「Uniswap」を利用して実現されています。ただし、後述するように誰でもUniswapでReal Tokenをトレードできるわけではなく、RealTを通じてKYC(Know Your Customer、顧客の本人確認)が完了した顧客のアドレスのみが取引可能です。
RealTの仕組み
さて、ここまで読んだ方の中には、RealTがどのように規制の問題をクリアしているのか気になっている方もいるはずです。RealTの仕組みを解説していきましょう。
Real Tokenの実態はトークン化されたLLCの所有権
実は、Real Tokenは米国法上の証券に該当しません(2020年4月末現在)。「Limited Liability Company(LLC、有限責任会社)」が不動産ごとに設立されており、資産管理会社として機能しています。そして、Real Tokenは不動産を所有・管理するLLCの所有権として位置づけられており、トークンの保有はLLCの構成員になることに等しいのです。
そして、不動産の家賃収入はLLCの収益となり、トークン保有者の所得として分配されます。
なお、RealTの全体像としては以下の通りです。
米ドルで支払われた家賃収入は、テナントマネージャーという主体が責任を持ってDAIへと変換し、トークン保有者に分配しています。テナントマネージャーに対しては、家賃の5~10%の手数料が支払われています。
また、RealTのプラットフォームに対しても、家賃の2%が手数料として支払われています。
Real Tokenの所有はホワイトリスト登録済みのアドレスに限定
RealTで取引をしたいユーザーは、アカウントを作成する際にユーザーの個人情報やウォレットアドレス、本人確認書類などを提出しなければなりません(KYCプロセス)。Real TokenはKYC認証済みのホワイトリストアドレスにしか送信できないのです。
取引に関してはスマートコントラクトによって自動化、KYC認証に関しても暗号資産取引所や金融機関で採用されているシステムを活用することで可能な限り効率化されています。したがって、多くのユーザーはアカウント作成の手続き後、1時間以内に取引を開始でき、一度KYCの承認が完了すれば自由にReal Tokenを売買可能です。
パブリックチェーンのEthereumを活用するメリット・デメリット
RealTがUniswapを流動性プロバイダーとして利用していることからも明らかなように、Ethereumを活用するメリットは、EthereumベースのDAppsやプロトコルの恩恵を受けられる点にあります。今後は、Real Tokenを担保としたローンやレンディングなどが登場するかもしれません。また、アセットの管理に際してEthereumのセキュリティや透明性を享受できる点も長所だと言えるでしょう。
一方で、各アドレスが保有しているトークンが可視化されるため、プライバシーを担保できなくなってしまいます。この点はパブリックチェーンが抱える課題でもあり、多くの企業がパーミッション型ブロックチェーンを採用している理由です(冒頭で挙げたBaselineやAZTECなどは、この課題をクリアしようとしています)。
まとめ
パブリックチェーンを利用したサービスは、現時点では少数派です。Real Token社のスキームは、現実世界のアセットをEthereum上に乗せる手法のひとつであり、トークン化されたアセットがDAppsと有機的に連携する可能性を秘めています。
ビジネスモデルとしての持続可能性やパーミッション型チェーンと比較した時の優位性などは、市場によって検証されていくはずです。
RealTは既存の法体系の中で、パブリックチェーンの良さを活かす手法を模索しているプロジェクトのひとつであり、今後も様々なDAppsとの連携が期待されます。P2Pのハイパーメディアプロトコル「IPFS」と連携した文書管理サービスも提供される予定であり、今後の展開に要注目だと言えるでしょう。