Ethereumを介したデータ連携プロトコル「Baseline Protocol」とは?

Ethereumを介したデータ連携プロトコル「Baseline Protocol」とは?

はじめに

当メディアでも様々な事例を紹介しているように、多くの企業がパーミッション型(許可型)のブロックチェーン上でアプリを構築しています。プライバシーやスケーラビリティの問題などもあり、企業がパブリックチェーンを採用することは難しいのが現状です。

ただし、高速処理を必要としない用途に関しては、プライバシーの問題がクリアされるならば、企業がパブリックチェーンを活用できる場面はあります。

本記事で紹介する「Baseline Protocol」は、Ethereumのメインネットを企業が使うミドルウェアと位置づけ、異なる企業間のデータ連携を可能にするプロトコルです。まずはその概要から紹介していきましょう。

情報を秘匿しながら他社との情報共有を可能にする「Baseline Protocol」

Baseline Protocolは、Ethereumのパブリックチェーンを活用して、機密情報を秘匿しながら他社との情報共有を可能にするプロトコルであり、オープンソースのイニシアチブです。秘匿化に際しては、「ゼロ知識証明」(ZKP:Zero Knowledge Proof)が活用されています。

ゼロ知識証明やメッセージングサービス、ブロックチェーンを組み合わせることで、機密性を保ったまま社内システムにアクセスし、企業間のデータ連携・共有を低コスト・安全に実現しています。そして、Baseline Protocolにおいて企業が使うミドルウェアのように機能するのが、Ethereumのメインネットです。

EYやConsensys、Microsoftが主導するイニシアチブ

Baseline Protocolの運営・開発を主導しているのは、大手会計事務所「EY」とEthereum関連のソフトウェア企業「Consensys」および「Microsoft」です。このイニシアチブは、2020年3月4日に発表されました。

参考:EY and ConsenSys Announce Formation of Baseline Protocol Initiative to Make Ethereum Mainnet Safe and Effective for Enterprises

Baseline Protocolのベースとなっているのは、2019年にEY・Consensys・Microsoftが共同で行ったPoC「Radish34」であり、同PoCではブロックチェーンを用いて、リアルタイムディスカウントを可能にするサプライチェーン管理システムが検証されました。

参考:Radish34 Explained

2020年4月20日現在、Baseline Protocolには、EY・Consensys・Microsoftを含む24社が参画しており、メンバーには半導体メーカー「AMD」や分散型オラクルを開発する「Chainlink」、Ethereum上で秘匿取引を実現する「AZTEC」などが名を連ねています。

また、Baseline Protocolのリポジトリ管理を担っているのは「Ethereum-Oasis」です。Ethereum-Oasisは、「Enterprise Ethereum Alliance」と「Ethereum Foundation」によって設立された中立的なフォーラムとして、プロジェクトを管理しています。こうした背景もあり、Baseline Protocolは「Ethereum2.0」へのアップグレードにも適切に対応できるとされています。

Baseline Protocolは企業のERP、CRMなどのシステムの課題を解決する

Baseline Protocolがフォーカスしている課題は、異なる組織間における安全かつ過不足の無いデータ共有・連携です。

企業は社内情報を効率的に管理するために、ERP(Enterprise Resource Planning、企業資源計画)やCRM(Customer Relationship Management、顧客管理)、その他の内部記録システムに多くの予算を費やしています。しかし、異なる企業間でこれらのシステムを適切に同期できないと、様々な無駄やコスト増加、トラブルの要因となってしまいます。

この問題をクリアするには共通の参照フレームが必要です。そこでBaseline Protocolでは、監査可能な共通の参照フレームとして、Ethereumのメインネットを使うアプローチを採用しています。

なぜパブリックチェーンなのか?

異なる企業間のデータ共有・連携については、これまでも許可型ブロックチェーンで実用化されてきました。この状況のなか、あえてBaseline Protocolがパブリックチェーンを選択している理由は、サイロ化や企業のコンソーシアム脱退リスクを回避するためです。

許可型ブロックチェーンの場合、競合他社も巻き込みながらコンソーシアムを広げていく必要があります。協業が頓挫し、同じ業界・同じ目的で複数のコンソーシアムが立ち上がってしまうと、どうしても非合理的にならざるを得ません。また、重要な企業が将来的にコンソーシアムから脱退する可能性も考えられるでしょう。

だからこそ、Baseline Protocolではパブリックチェーンが使われているのです。

ただ、コンソーシアムチェーンにおけるこうした課題はすでに認識され、ソリューションが開発されつつあります。例えばCordaベースであれば、異なるネットワーク同士の相互運用性を可能であり、その他にも異なるフレームワーク同士を相互に接続するソリューションは開発されています。

Baseline Protocolの機能と活用が予想される分野

Baseline Protocolでは、Ethereum上で利用できるツールセットが提供されています。これらはマイクロサービスとしてモジュール化されており、Baseline APIやメッセージング、キューシステム、ゼロ知識証明などのサービスが利用可能です。

  • Baseline API:サービスとメインネットのゲートウェイとして機能
  • メッセージングサービス:安全なステートレスメッセージトランスポートを提供
  • キューシステム:適切なキュー管理によって、コンテナ内のサービスを適切に調整
  • ゼロ知識証明サービス:非公開のビジネスロジックを秘匿化し、その一貫性と実行の証明を生成

Baseline Protocolにおいて注目すべき点は、こうしたマイクロサービスアーキテクチャを活用することで、企業がすでに使っているERPやCRMなどの業務システムを修正せずに、異なる企業やシステム間の連携が可能になることです。

実際にブロックチェーン上に書き込まれるのは、暗号化されたデータであるため、その中身が競合他社に読み取られることはありません。また、トークン化もサポートされているため、Ethereum上の他のアプリ(例えば、DeFi:分散型金融)との互換性を持つようになります。

したがって、例えば、売り手と買い手のプライバシーとセキュリティを損なうことなく、発注のための運転資金や売掛債権のファクタリングにトークンとスマートコントラクトを利用し、資金調達や支払いプロセスを自動化するといったケースなどが考えられます。

参考:EY, ConsenSys, Microsoft unveil Baseline, a path for enterprises to public blockchain

なお、Baseline Protocolについては、MicrosoftのAzure Marketplaceにてワークショッププログラムが販売されています。

参考:Intro to the Baseline Protocol – 4-Hour Workshop

Baseline Protocolのコミュニティメンバーが取り組む分野

Ethereumのスループット(単位時間あたりの処理能力)は高くありませんが、例えば請求書データなどは翌月までに処理できれば良く、秒単位の処理は求められません。したがって、Baseline Protocolが活用される場面は、高速処理が求められないものになるでしょう。

詳細は明らかになってはいませんが、Baseline Protocolのメンバーが取り組んでいる分野は以下の通りです。

  • ヘルスケア
  • 勘定系システム
  • ERP & CRM
  • サプライチェーン管理

まとめ:ミドルウェアとしてのパブリックチェーンは可能性あるアプローチ

Baseline Protocolはそのアプローチだけでなく、パブリックチェーンの活用で実績のある「EY」や「Consensys」、「Microsoft」が主導していることも、注目したいポイントです。EYはゼロ知識証明を用いてEthereum上で匿名送金を行うプロトコル「NightFall」を開発しており、MicrosoftはBitcoinベースの分散型IDプロジェクト「Identity Overlay Network」を発表しています。

参考:Toward scalable decentralized identifier systems

Ethereum上に秘匿化された企業の取引データ(および受発注関連のトークンなど)が乗ることで、外部のDeFi系アプリやアセットとの連携が実現する可能性もあります。中長期的にはBaseline Protocolのようなアプローチが、企業のパブリックチェーン活用を促進するかもしれません。

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