電気・水道などの公益事業でのブロックチェーン活用事例

電気・水道などの公益事業でのブロックチェーン活用事例

はじめに

公益事業とは電気や水道のように公益に深く関係し、日常生活に必要不可欠なサービスを提供する事業の総称です。実はこうした社会基盤となる事業でも、ブロックチェーンの活用が進められています。

保安業務の効率化や分散型のエネルギー供給システムの構築、不正リスクの低減など、様々なケースが想定され、いくつかの事例も出てきています。

本記事では、公益事業のなかでも特に電気や水道といった領域の課題とブロックチェーン活用の可能性について紹介していきます。

公益事業の課題とは?

そもそも公益事業ってなに?

公益事業の定義は国によって異なりますが、日本では「労働関係調整法」で説明されています。同法によると、公益事業とは「公衆の日常生活に欠くことのできないもの」(第八条)であり、以下の事業が該当します。

  • 運輸事業
  • 郵便、信書便又は電気通信の事業
  • 水道、電気又はガスの供給の事業
  • 医療又は公衆衛生の事業

参考:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321AC0000000025_20160401_426AC0000000069

公益事業の課題を改善・解決して事業の効率化やサービスの向上が実現すれば、私たちの生活水準の向上にも繋がると言えるのです。

なお、上記定義を踏まえると、2020年以降、社会に大きな影響を与えている新型コロナウイルス対策についても公益事業だと捉えられるでしょう。

新型コロナウイルスのワクチンの温度管理に「Hedera Hashgraph」という分散型台帳技術が活用される事例が出てきています。

参考:新型コロナウイルスのワクチンを分散台帳技術で管理、英Hospital Groupがファイザー社のワクチンで実現

関連記事:新たな分散型台帳技術「Hashgraph」とは?その公開実装「Hedera Hashgraph」も解説

保安業務の非効率性

電気や水道などを供給するには様々な設備が不可欠です。たとえば、電力供給を行う場合、エネルギーを管理するために、発電機や電圧を伝える電気ケーブル、電圧を段階的に調整する変圧器など様々な設備を用意しなければなりません。

こうした電力供給については近年、需要設備の長期間使用(高経年化)や再エネ発電設備の増加が見られる一方、人材の高齢化や入職者の減少、激甚化する災害への対応が急務となっています。

さらに、新型コロナウイルスの影響下であっても、インフラを担う設備の維持管理業務は止められないため、業務変革やテクノロジーによる生産性の向上が不可欠です(IoTやAI、ドローンなどを活用した、いわゆるスマート化が必要)。

ところが現状、電気保安では設備のデータを紙で管理している施設も少なくありません。

たとえば日常点検では、電気設備の制御盤をひとつひとつ目視で確認し、電流や電圧の値等をチェック、その他異常があるかどうかをルートを回りながら確認します。点検や巡視で紙媒体に記録したデータは、担当職員が事務所に戻ったのち、報告内容を改めてPCに入力する作業があるため、余計な工数が発生してしまいます。過去の巡回データや関連資料も紙で管理されており、非効率な状況です。

こうした非効率は改善の余地があると言えるでしょう。

参考:https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/hoan_seido/pdf/003_s02_00.pdfhttps://jeea.or.jp/course/contents/05201/

集中型のエネルギー供給システム

現在、日本の電力供給の大部分は集中型のシステムで構成されていますが、こうしたシステムは自然災害に対して脆弱です。日本は自然災害の多い国であり、過去には震災によって電力供給が十分に行えない事態も発生しました。たとえば、東日本大震災では「東京電力」が必要な電力を供給できなくなり、2011年3月14日から28日までの期間、計画停電が実施されています。

東日本大震災をきっかけに、集中型のエネルギー供給システムのみに依存するのではなく、分散型システムと組み合わせてエネルギー供給リスクを分散化する機運が高まっています。さらに、太陽光発電や蓄電システムといった分散型エネルギーリソースの普及も相まって、双方向型(ネットワーク型)の電力供給システムへのシフトは、ほぼ確実だといえるでしょう。

参考:https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/006/pdf/006_05.pdf

ただし、分散型の電力供給システムの構築にあたっては、既存の電力システムとの調整(設備や料金体系など)や法整備などの課題があります。こうした課題には官民が連携して、分散型システムの構築に関わるプレイヤーが共創できる環境整備が進められています。

分散型の電力供給システム構築と関連する話題として、太陽光発電などの再生可能エネルギー(=太陽光や風力、水力など、エネルギー源として永続的に利用できるもの)の普及があります。国際的にも温室効果ガスを排出しないエネルギーの普及は推進されており、国内でも同様です。

こうした状況のなか、再エネの証明をどのように行うかは課題になっており、ブロックチェーンとIoT(スマートメーター)を組み合わせ、対外的に証明する方法が提案されています。

不正行為によって消費者が損害を受けるリスク

公益事業で不正が発生すると、消費者が損害を被る可能性があります。公共事業の契約や機械・物品の調達(納入)、運用などの領域で不正が行われるリスクは否定できません。

たとえば、2019年に施行された改正水道法では、浄水場などの施設の運営を民間事業者が自由裁量のもと行えるようになりました(コンセッション方式の採用)。民営化によって経営の効率化や利用者のニーズを反映したサービス提供が期待される一方で、水質悪化などが懸念されています。

アメリカのアトランタでは1999年に民間事業者が水道の運営権を取得したものの、水質悪化によって4年後に再公営化されました。一方、日本ではじめて下水道分野でコンセッション(運営民間受託)方式を採用した浜松市では、初年度に年間経費を1.1億円削減、当初計画の4倍となる2.9億円の営業利益を達成し、一定の成果をあげています。

参考:https://www.sankei.com/life/news/181104/lif1811040037-n1.htmlhttps://diamond.jp/articles/-/218682

公益サービスの質悪化に繋がりかねない不正は、公益事業に関する契約プロセスや検証の仕組みが不透明であることが一因として挙げられます。国や民間事業者と消費者の間で、信頼関係を構築する仕組みは不可欠だといえるでしょう。

公益事業におけるブロックチェーンの可能性

メンテナンスコストの削減

ブロックチェーンの活用によって、事後的な改ざんが困難な共有台帳を構築することができます。真実として参照でき、社内システムと連携可能な共有台帳を用いることで、データ連携などに発生するコストが下がります。信頼性の高いデータは監査の際にも有用です。

コンソーシアム型で運営される許可型ブロックチェーンの場合、データの書き込みは単独(少数)の事業者の一存では行えません。さらに、事後的な改ざんが困難であるため、データの信頼性向上に繋がります。ただし、入力時に誤ったデータが使われるといった不正行為やエラーは排除する必要はあるため、IoTとの連携などが必要です。

たとえば、電気保安に関するデータ(点検・巡回データ)の共有にブロックチェーンを用いることで、事後的な監査や対外的な証明に活用できます。

消費者間でのエネルギー売買の活発化

分散型エネルギー、特に再生可能エネルギーの電力取引を活発にする可能性があります。発電した電力の価値を証明するトークンを発行し、電力の需要家間で売買できるプラットフォームを構築することで、取引・決済にかかる時間短縮も見込めます。

さらに関連領域として、再生可能エネルギーのトレーサビリティにもブロックチェーンは有用です。再エネ証明のトークンなどを発行して取引するプラットフォーム構築などの事例が海外を中心に出てきています。

透明性の確保

書き込まれたデータの事後的な改ざんが困難なブロックチェーンを活用することで、より透明性の高い運用を実現でき、公益事業の運営者による不正リスクを低減させられる可能性があります。公益事業にブロックチェーンを導入することで、サービスの質悪化などで消費者が不利益を被るリスクを仕組みとして回避できるかもしれません。

もちろん、ブロックチェーン単体で解決できる問題ではないので、仕組みの見直しや他のテクノロジーの導入と組み合わせる必要があります。

公益事業でのブロックチェーンの活用事例

公益事業では、電気や水道などの各分野で、ブロックチェーンの仕組みを活用した取り組みが進められています。各分野におけるブロックチェーンの活用事例を確認してみましょう。

次世代電力取引システム(東京電力)

2019年6月17日〜2020年8月31日の期間、東京電力ホールディングスのグループ会社である「TRENDE株式会社」は、電力網につながる住宅・事業所・電動車に関する電力取引を自律化する次世代電力取引システムの実証実験を行いました。

ブロックチェーンを活用した同電力取引システムの実証実験で、共同開発・検証した内容の要点は下記の通りです。

  • 需給状況で価格が変動する電力取引市場
  • 市場で取引される電力に関する発電源の特定
  • 発電から消費までのトラッキングの実現
  • 電力消費や発電量予測等に応じて電力の売買注文を出す電力取引エージェント

この実証実験によって、一般家庭の電気料金の約9%を削減できることが判明しています。

「顔のみえる電力」(みんな電力株式会社)

「顔のみえる電力」は、みんな電力株式会社が2016年に開始した発電者と生活者を結ぶ電力小売りサービスです。2020年7月の時点で約60社から導入され、契約の数は370に及んでいます。

需要量と発電量を30分の間隔でマッチングし、ブロックチェーン上に記録します。電気が購入された発電所や、購入された電気の量を証明できる仕組みです。

「二酸化炭素排出追跡基盤」(世界経済フォーラム)

2020年12月、世界経済フォーラム(WEF)のマイニング・アンド・メタル・ブロックチェーン・イニシアチブ(MMBI)は、鉱業・金属関連企業の二酸化炭素排出量を追跡する概念実証を行うことを公表しました。

ちなみにWEFとは、官民両セクターの協力によって世界情勢の改善に貢献する国際機関であり、MMBIは、サプライチェーンの可視化とESG(環境・社会・ガバナンス)要件を満たすための業界ソリューションの加速を目的とした組織です。

概念実証の一環として、MMBIはブロックチェーンを活用した二酸化炭素排出追跡基盤(COT)を導入し、鉱山から最終製品に至るまでのCO₂排出量のトレーサビリティの確保を行ったとのことです。

水質やオペレーションデータの記録(三菱電機)

大手電機メーカーの三菱電機と独自の自立分散処理システムを持つ「A.L.I. Technologies」は、有事の際に水道サービスが適切に運営されていたことを事後的に立証できる仕組みについて、ブロックチェーンを応用した実証実験を開始しました。

実験では、一定時間ごとにおける運営の適正性を証明するために必要なデータ(水質やオペレーションに関するデータ)をパブリックブロックチェーンに記録しています。

将来的にデータの検証が必要になった際、該当時間のデータと、ブロックチェーンに記録した当時のデータを比較・確認することで、データの真正性を証明できる仕組みです。

まとめ

複数の主体(システム)間で、事後的な改ざんが困難なデータを持ち合えるブロックチェーンは、電気や水道などの公益事業にも適用可能です。

本記事で紹介したように国内外で実証実験が行われており、環境負荷の低いエネルギーの可視化(エネルギーに対する付加価値の向上)や工数の削減、事業者が適切に運営をしているかどうかを検証するシステムの構築などに役立つ可能性が見えてきています。

今後、私たちの生活を支えるシステムにブロックチェーンが活用されるというケースが増えていくでしょう。


記事執筆:常木城伸
編集:原伶磨

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