VeChain Thorのユースケースまとめ

VeChain Thorのユースケースまとめ

はじめに

サプライチェーン上の製品や原材料を追跡し、産地証明や真贋(しんがん)判定に用いるトレーサビリティ・システムは、ブロックチェーン(分散型台帳技術)の有力なユースケースです。サプライチェーンには利害関係者を含め、様々な主体が関与していますが、ブロックチェーンを使うことで、当事者間でのデータ連携・共有コストを圧縮できます。

Hyperledger Fabric」や「Corda」など、すでに様々なブロックチェーンプラットフォーム上でトレーサビリティ・システムが稼働しており、今後もユースケースとして拡大していく可能性が高いと考えられます。今回は他のプラットフォームに比べて、日本語の情報があまり多くないブロックチェーン「VeChain Thor」のユースケースを紹介していきましょう。

VeChain、VeChain Thorとは?

VeChain Thorは、2015年に上海で設立された「VeChain」(以下、VeChain社)と非営利団体「VeChain Foundation」によって開発されているエンタープライズ向けのブロックチェーンです。

VeChain社は、5種類のIoTタグ(商品名:Passive IoT)やデジタル署名用のデバイス「VeKey」などを販売しており、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたソリューション(VeChain turnkey solution)をワンストップで提供しています。また、同社は商用BaaS「ToolChain」も販売しています。

なお、VeChain社やVeChain Thorに関してもう少し詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

VeChain Thorブロックチェーンのユースケース紹介

それでは、VeChain Thorのユースケースを紹介していきましょう。基本的にはIoTとブロックチェーンを活用したトレーサビリティ・システムとしてのユースケースがほとんどです。

飲食料品のサプライチェーンマネジメント|Walmart China、Foodgates

ブロックチェーンを活用したシステムでは、利害関係者となる単一の企業が単独でデータの改ざんを行うことが困難であるため、データに対する信頼性が向上します。

このようなブロックチェーンの利点はVeChain Thorにおいても同様であり、VeChain Thorを利用した食品のトレーサビリティ・システムを構築したのが「Walmart China」です(Walmartはアメリカに本部を置く世界最大のスーパーマーケット)。2020年末までにWalmart Chinaでは、包装生肉の総売上高の50%、包装野菜の総売上高の40%、魚介類の総売上高の12.5%が、ブロックチェーン上に記録された追跡可能な商品になると見込まれています。

https://vechain101.com/2019/06/25/walmartchina/

上の写真は、実際にWalmart Chinaの店頭に並んでいた商品です。商品に付いているQRコードを読み取ると、食品の来歴を消費者も見ることができます。

参考:沃尔玛中国启动区块链可追溯平台,创新保障食品安全Walmart China Takes on Food Safety with VeChainThor Blockchain Technology

Walmart Chinaの事例以外にも、VeChain Thor上では飲食料品のトレーサビリティ・システム「Foodgates」が稼働しています。Foodgatesには、中国に本部を置く物流企業「ASI Group」と世界的な品質保証・リスク管理会社「DNV GL」が参画しており、同プロジェクトは、河南省の自由貿易区とMoU(Memorandum of Understanding)を締結し、フランス産の食料品を中国へと輸入するための協力体制を構築しています。

なお、2020年3月時点では、Foodgatesは欧州の生産者と中国の消費者向けのサービスです。中国の消費者は、トラッキングされたフランス産の牛肉などの来歴(産地、解体、梱包、輸送など)をFoodgatesのスマホアプリで確認できるようになっています。

参考:VeChain, Together with ASI Group and DNV GL, Announced the First Cross-continental Logistics And Trades Solution Based on Public Blockchain for Food & Beverage Industry On The 2nd CIIEFoodgates

また、Walmart ChinaやFoodgatesとは別のプロジェクトではありますが、VeChain Thorを利用したトレーサビリティ・システムにおいて、消費者の利用シーンを撮影したものが以下の動画です。中国の食品メーカー大手「Bright Food」が製造した牛乳の来歴を、消費者がスマホでQRコードをスキャンして確認しています。

参考:Cupids Farm Milk, Produced by Bright Food, Became the First Product to Go Live On BrightCode, a VeChainThor Blockchain Solution to Be Used By Millions

偽造品対策としてのVeChain Thorの利用|D.I.G、Reebonz、LVHM

中国ではワインの消費量が増えていますが、同時に偽造品も増えています。この課題に対して、大手輸入業者「D.I.G」(Shanghai Waigaoqiao Direct Imported Goods Co., Ltd.)とVeChain社は共同で「Wine Traceability Platform」を立ち上げました。NFCタグ付きのワインボトルを導入することで、Wine Traceability Platform上では生産地から消費者の手元に届くまでの過程が追跡されています。したがって、手元のワインが本物であるかどうかを確認できるのです。

参考:VeChainとD.I.Gが共同開発したワイントレーサビリティプラットフォームが、強化された透明性と信頼性によって、Penfolds Bin 407へ導入されたことによって、セカンドフェイズをキックスタートしました。

また、高級ブランドの業界でも、ワインと同様に偽造品が横行しており、各ブランドが経済的損失を被っているのが現状です。高級ブランドに限定した推計ではありませんが、「Global Brand Counterfeiting Report 2018」によれば、世界の偽造品の総額は2017年には1.2兆ドルに達し、2020年には1.82兆ドルに達する見込みとなっています。

参考:Global Brand Counterfeiting Report 2018

こうした背景を踏まえ、アジアで事業を展開する高級品EC大手「Reebonz」は、VeChain社が提供する商用BaaS「ToolChain」のAPIを活用して、自社プラットフォームで流通する製品の来歴証明とデジタル所有権を確立するためのアプリケーションを構築しています。各製品にはIDが付与され、製品や取引の詳細、履歴、所有権の証明などの情報を含むQRコードが記載されたデジタル証明書が発行されます。

IDや製品情報はVeChain Thor上に記録された改ざん耐性のあるデータであり、消費者はQRコードをスキャンすることで、Reebonz上で購入した高級品が本物であることを確認できるのです。

この他にも過去、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)がVeChain社と連携して高級品の真贋判定を行うシステムを開発・テストしていました。ただ、LVMHの場合は結果として、エンタープライズ向けのイーサリアムである「Quorum」を選択しています。

関連記事:【事例】ブロックチェーン×ヴィトン(LVMH) ~高級ブランド真正品証明~

VeChain ThorからQuorumへと切り替えた理由としては、第三者(VeChain社)が自社ブランドやそのパートナーの間に位置し、仲介者のような役割を担うことに疑義があったからだと報じられています。LVMHは、高級ブランドの真正品証明プラットフォームを業界コンソーシアムとして実現したいようです。

参考:Louis Vuitton Owner LVMH Is Launching a Blockchain to Track Luxury Goods

自動車業界でのVeChain Thorベースのユースケース|BMW、BYD

自動車業界においても、VeChain Thorのユースケースがいくつか存在します。例えば、ドイツの大手自動車メーカー「BMW」とVeChain社は共同で、デジタル車両パスポート「VerifyCar」というソリューションを開発しました。

VerifyCarでは、車両に組み込まれたIoTデバイスで自動車の状態(走行距離など)をセンシングし、VeChain Thorに記録します。走行履歴や事故歴などの改ざんが困難になるため、車両を中古市場に売却する際に走行距離計(オドメーター)を巻き戻して、本来の市場価値よりも高く見せるといった詐欺行為への対抗手段となるのです。

また、電気自動車の分野で世界トップを走る自動車メーカー「BYD」と、リスクマネジメントを手掛ける「DNV GL」、VeChain社のプロジェクトも進められています。このプロジェクトは、温室効果ガスの排出削減量に応じて、所有者にカーボンクレジット(排出量削減証明)を還元するカーボンバンキング(炭素銀行)システムに取り組んでいます。付与されたカーボンクレジットは、専用のCarbon Credit Appでサービスや商品と交換可能です。

自動車業界におけるVeChain Thorの事例については、以下の記事で解説していますので、興味のある方はぜひご覧ください。

なお、VeChain社は、ホンダやフォード、BMWなどの大手自動車メーカーなどが参画するコンソーシアム「MOBI」(Mobility Open Blockchain Initiative)の一員です。

まとめ:VeChain Thorの利用に際しては認証機関が機能しているのか?という点も重要

本記事では、VeChain Thorの事例を紹介してきましたが、当然ながら、利用の検討に際しては他のプラットフォームとの性能比較は不可欠です。VeChain Thorに関しては、VeChain社がIoTデバイスとVeChain ThorやToolChainをワンストップで販売している点が特徴的ですが、この点が他のBaaSと比較してどの程度、自社の状況に合っているのかは検証する必要があります。

また、IoTタグを付与する前やブロックチェーンにデータを書き込む前の段階で、商品のすり替えやデータの改ざんが行われるのでは?と気になった方もいるかもしれません。この部分の検証・認証プロセスについては、当然ブロックチェーンで解決されている訳ではなく、ブランド業者やDNV GLのような認証機関が不正防止の役割を担っています。

参考:VeChain Technical AMA — Hardware Questions Part 1(Q9)

VeChain社が販売するIoTデバイスの製造過程が適切かどうかも、DNV GLのような外部ベンダーが監査しており、この仕組みを以ってVeChain Thorに書き込まれるデータの信頼性が担保されているようです。書き込み前のデータの検証・認証を行う仕組みが、一部の機関に依存している点をどう判断するかは、プラットフォーム選定の判断材料になるでしょう。

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