G.U.Technologiesは日本発Ethereum互換チェーンで何を目指すのか|G.U.Technologies 近藤秀和|インタビュー

G.U.Technologiesは日本発Ethereum互換チェーンで何を目指すのか|G.U.Technologies 近藤秀和|インタビュー

はじめに

ブロックチェーンメディア「BaaS info!!」(バース・インフォ)では、ブロックチェーン業界で活躍する方々へのインタビュー記事を不定期で掲載しています。

※過去のインタビューはこちら

今回のゲストは独自ブロックチェーンである日本発Ethereum互換チェーン「Japan Open Chain」β版を公開するG.U.テクノロジーズ株式会社の代表取締役CTOの近藤秀和さんです。日本を代表する広告代理店、企業、金融機関、教育機関と共同で運用する日本法に準拠したオープンなEVM互換ブロックチェーンの仕組みや狙い、将来のビジョンについて伺いました。

プロフィール
近藤秀和さん

代表取締役CTO
大学院在学中に開発したWebブラウザLunascapeの技術が認められ、2005年 経済産業省より「ソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー」を受賞。
卒業後はソニー株式会社を経てLunascape株式会社を設立し、2007年 Microsoft Innovation Award にてLunascape 社が開発したレーザーポインタードローイングツール「Afterglow」が最優秀賞を受賞。
2008年 Business Week誌から「Asia’s Best Young Entrepreneurs」に、2011年にはAERA誌から「日本を立て直す100人」に選出される。現在はG.U.Labs/G.U.Technologies株式会社 代表を務める。
早稲田大学大学院卒業・工学博士

人気タブブラウザを開発したことで有名な近藤さんがブロックチェーンの世界で目指すこと

─最初に、G.U.Technologiesの事業と、近藤さんがこの業界に携わるようになった経緯について教えてください。

最初に私の自己紹介をします。私は2004年にLunascape(ルナスケープ)という会社を起業し、Windows上で動作するWebブラウザ「Lunascape」の開発・運営を行っていました。それを数年前に電子書籍の国内取次最大手のメディアドゥという会社に売却し、一旦ブラウザ事業としては区切りをつけさせていただきました。

その後、メディアドゥさんの事業で私の得意なWeb領域、ブラウザ領域で、何か貢献できることはないかと模索していく中で、新規にブロックチェーンを活用していきたいと考えるようになったのが、この領域に進んだきっかけです。

もう一つは、やはりビットコインがきっかけです。ビットコインが出てきたときに直感的にこれは非常に大きな技術的なブレイクスルーであり、技術だけではなく法律的なブレイクスルーでもあると思いました。特に面白かったのが、国家の専権事項である通貨の発行を覆してしまったということです。いろいろなブレイクスルーが同時に起きた事例であると思いました。

そこで何か関わってみたいと思い、当時渋谷にあったマウントゴックスという取引所で、早速ビットコインを買ったところ、ご存じの通り、ああいうことになりました。

編集部注
暗号資産の法律が未整備だった時期である2014年に突如としてビットコインに起こった「マウントゴックス事件」。ビットコイン交換サービスを提供するマウントゴックス社のサーバーが何者かによってハッキングされ、ビットコインおよび預かり金が大量流出してしまい、結果的にマウントゴックス社の破綻にまで至った事件。

マウントゴックス事件では1回目の挫折といいますか、そういったことを経験しました。

しかし、ビットコインのブロックチェーン技術という部分をエンジニアという立場から因数分解していくと、そこに革命的な要素を感じました。

基本的にブロックチェーンは分散データベース革命だと思います。データベースの領域で、複数人のエンティティで同じデータを共有できるのは、簡単なようで簡単ではなく、ここを非常に新しい形でブレイクスルーしたなと私は思いました。

その上で我々が注目するイーサリアムの分散コンピューティングという考えは、コンピューティング革命であることも実感しました。

実は私は、大学では分散コンピューティング専攻の研究室にいました。そういう意味で10年ぐらい前からずっと関わっている領域でもあり、実際に使い物になる分散コンピューティングがついに実現したという印象でした。

ここ数年はMicrosoft Azureのようなクラウドコンピューティング、いわゆるSaaS型のサービスにお金を払ってコンピュータを利用するのが当たり前になりましたよね。

実はイーサリアムの世界で起きている分散型コンピューティングは、クラウドコンピューティングをさらに一歩進め、サーバー単位ではなく関数単位でお金を払えるようになったということで、それが大きな特徴だと思っています。デプロイしたものを自分で管理をしなくてよくなったということも重要な要素ですね。

ですので、ブロックチェーンによって非常に革新的な形で、この分散コンピューティングが実現できるようになったと私は思っています。

もう一つこの領域に興味を持った理由としては、4〜5年前ぐらいにビットコインが非常に流行って、ブロックチェーンがたくさん出てきてイーサリアムもワンオブゼムで、みんなでICOしていた時代があったと思うんですけれども、実はその頃の日本は世界からビットコインの聖地と呼ばれていたんですね。

事件になったマウントゴックスも日本で設立されましたし、今ではもう業界で有名になった方々が六本木のバーに集まって、飲みながらビットコインやブロックチェーンについて盛り上がっていた時代がありました。そうしたバーやイベントに参加して感じたのが、インターネットとWebができたときの盛り上がりに非常に近いものでした。

当時はブロックチェーンも暗号資産(仮想通貨)もごちゃまぜに語られていて、関わっている人は怪しい人、悪い人というイメージもありました。

これは2000年代に私がWebブラウザをやっていた頃もそうでした。当時はNHKが「インターネットの闇」というような特集やっていて、匿名性の高い掲示板を取り上げて、そこに集う人たちは怪しいといわれていたりしていました。「Webをやっています」っていうと、そんなふうに見られることもありました。

その中で我々は、当時、インターネットで広告モデルは成り立つかどうかを議論していました。やがてWeb広告やメールによるクリック広告のようなものが出始め、うちもバナー広告をやってみて実際売ってみたら売れるなど、そうしたことを続けてきました。

我々はインターネットがビジネスになるかどうかをずっと試行錯誤してきた経験があるので、暗号資産、ブロックチェーンという領域が登場したときに、これは非常にインターネットビジネスの黎明期に近いと感じることができました。やっている人たちは怪しい人といわれているし、これはビジネスになるのかならないのかという議論もしているし、全く同じだなと思いました。ただ違うのは、すでに我々はインターネットでWebが起こした結果を知っているんですね。

インターネットは結果が出るのに、20年、30年かかりましたが、おそらく次はそんなにはかからないと思っています。予想では5年、10年というスパンで進むかなと思っていたんですが、世の中の進み具合はもっと早いという印象ですね。

去年までの段階では、いろいろな事件が起きて暗号資産市場は非常に冷え込んでいましたが、ここ最近はメタバースやNFT、Web3というバズワードが出てきたことで、この数ヶ月はまた非常にマーケットが盛り上がってきていますよね。

このような取材を受けるに至っているのも、その証しなんだと思います。私からするとこの業界もいろいろあって浮き沈みがありましたが、やっぱりものが現実になってきて、世界中でプロダクトが動き出して、いろいろなことが起きている中で、それが効果的にワークしているのが見えてきています。今になっては、もうブロックチェーンは本当に来るのかどうかみたいな議論はしなくなったと思うんですね。

暗号資産への懐疑的な見方が少なくなったという意味では、今年は非常にフェーズが新しく変わってきて、本格的に普及する年になると思っています。

なぜ独自のブロックチェーンを開発しようと考えたのか

─ありがとうございます。そうした中でブロックチェーンや仮想通貨に興味を持って、御社は既にいきなりブロックチェーンを作ってらっしゃいますよね。そこに至るまで、たとえばですがイーサリアムであれば、そのDAppsであったり、DeFi的なものを作るであったりという部分に興味がいくのかなと思うのですが、いきなりブロックチェーンを作るほうに行ったのはどうしてでしょうか。

最初にブロックチェーンの中でイーサリアムの領域は非常に伸びるだろうと思いました。それで世界中のいろいろなイベントに参加したんですね。たとえばプラハでやっていたイーサリアムデベロッパーカンファレンスであるとか、サンフランシスコブロックチェーンウィークとかに参加しました。

技術的なことを含めていろいろな情報を仕入れた中で、イーサリアムはスケーラビリティの部分に大きな問題を抱えていると最初に思いました。

イーサリアムのトラフィックは平均で15tpsぐらいしか出ないんですけれども、とてもではないけどそれでは世界中のトラフィックを支えることにならないだろうと。

今でこそみなさんそこの認識が出てきて、それらを解決するためにレイヤー2のような技術が登場していますが、当時はまずそこを解決してあげないとビジネスどころの話ではないのではないかなと思いました。そこでブロックチェーンビジネスを始めるために、まずはブロックチェーン技術を伝えながら、弊社では早いトラフィック処理が実現できるようなインフラを提供しようという思いで事業を始めたところがあります。

最近、レイヤー2という領域がいろいろ出てきましたが、各社いろいろ問題があって、実はエンタープライズで安心して使えるレイヤー2はまだないんですよ。

そういう意味で弊社としては、まず安心して企業さんが利用できるようなものを提供していきたということで、プロジェクトを進めてきました。

こういう話をすると、次はどのレイヤー2チェーンが生き残るんですか? という話を結構されることがあります。

これに対する答えとしては、多分全部生き残って成功しますと思っています。

これはどういうことかというと、インターネットでWebが登場したばかりのWebサイトのトラフィックが10万、100万に達した頃、これが将来は1億になるといわれていたんですが、もう数えられないぐらいになっていますよね。実際は1垓(がい)とかそういう単位になっているんですけれども、同じようにこのブロックチェーンのトラフィックも、秒間15だったものが将来はすぐに1000、1万、10万とかではなくて、もう1億とか1兆というオーダーで増えていくと思います。

ただブロックチェーンというのは、技術的な制約がありまして、ブロックをチェーンでつなげていかなければいけないんですね。これは何を意味しているかというと、CPUのコアを一つしか使えないことを意味します。マルチコアが全然いきない。

ですから、ブロックチェーンはそもそも遅いという問題があります。1000や1万tpsという速度ならチューニングすれば出るでしょう。今後、シャーディング技術(注:並列処理のような技術)を使えば別ですけれども、そのままの技術で1億tpsが出るブロックチェーンを作っていますというのは、おそらく嘘なんですね。いろいろ検証した結果、今のコンピューティングパワーでそこまで絶対に出ないということがわかっています。

そうなると、やっぱりたくさんのチェーンが立ち上がって、マルチチェーンやクロスチェーンで、資産を交換していく、そういう世界観になってくるだろうなと思っています。

一応そういう世界観になってもいいように、今、我々はブロックチェーンクラウドっていう製品を提供していて、いろいろな企業さんや団体が、業界ごとにチェーンを立てたり、国ごとにチェーンを立てたり、そういうことができるインフラを提供したいと考えています。

そうしたパーミッションごとのチェーン同士が、地球規模でつながっていく、おそらくそういう世界観になってくるのではないかなと思っています。

─今のお話を伺って、まずイーサリアムがパブリックチェーンであるが故にビジネスに使えないということを感じ、それを解決するためにエンタープライズ向けにイーサリアム互換でブロックチェーンを作ることを最初の目的としたというようにも聞こえましたが、いかがでしょうか。

そうですね。ただしパブリックチェーンだから駄目ということではありません。

我々はいろいろなチェーンを整理しているんですが、分類に少し誤解があって、イーサリアムはパブリックチェーンで、我々がやっているのはプライベートチェーンなのかというと、そうではないんですね。一社でやっていても、パブリックにすればパブリックチェーンになります。分類的には単純にパブリックチェーン、プライベートチェーンということではなく、たとえばイーサリアムは世界中で数万人の人がノードを運用していますから、誰でもいわゆるバリデータとして参加できるという意味で我々はオープンノード型というふうに呼んでいます。最近では、パーミッションレスとも呼ばれますけれども。

コンソーシアム型のチェーン場合は、参加するためにそこにパーミッションが必要ということですね。それがパーミッション型という形なんですけれども、今、世界でセカンドレイヤーとかサイドチェーンとして広く使われているようなものでも、例えばバイナンスさんがやっているバイナンススマートチェーン(BSC)、これはEVM互換、つまりイーサリアム互換なんですけれども、バイナンスさんだけが運用しているので、プライベートチェーンなんですね。ですがバイナンススマートチェーン(BSC)はエンドポイント(ユーザーがアクセスする先)がパブリックになっているので、プライベートチェーンと分類するのも適切ではないと思い、我々はオウンドチェーンという呼び方をしようと思っています。

このように、企業がやっているオウンドパブリックチェーンというのはこれからも増えていくのではないかと思っています。ですので、ブロックチェーンもいろいろと情報を整理しないと、みなさんいろいろな誤解を生みかねないと考えているところです。

テストネットG.U.Sandbox Chainの機能とは

─わかりました。ここで御社のブロックチェーンのその性能といいますか機能的なものもご紹介いただけますか。

わかりました。

まずG.U.net(https://www.gu.net/ja/)というサイトに行っていただくと、G.U.Sandbox Chain(https://www.gu.net/ja/sandboxchain/)というテストネットが立ち上がっています。そこで弊社のブロックチェーンをすぐに体験いただくことができます。

技術的には、パブリックチェーンのイーサリアムが提供しているクライアントソフト「Geth」を使っていますが、コンセンサスアルゴリズムを変えています。

G.U.Sandbox Chainは、プルーフ・オブ・オーソリティ(PoA)というアルゴリズムで動いています。PoAを採用している理由というのは、まず最も枯れている技術というところが非常に重要だと思っています。イーサリアムのテストネットで採用されているアルゴリズムPoAは、世界中からいろいろなアタックやハッキングを受けている中で既に7〜8年の運用実績があります。

─G.U.Sandbox Chainは、どのようなユースケースで利用されているのでしょうか。

近い将来と遠い将来というのがありますが、一つはまず既に始まっている試みでいうと、業界のチェーンを立ち上げるっていう試みですね。

たとえば不動産業界とか、金融業界とか、何でもいいんですけれども、業界単位でデータをシェアしてブロックチェーンを使っていきたい、というようなケースにおいて非常に有用であると考えています。

もう一つは、その企業のオウンドチェーンであっても、監査性を高めたい場合ですね。自社がやっていることをきちんと他社からみても証明できるようにしたい、たとえば自社の社員がデータを勝手に書き換えてしまったというような事例はたくさんありますので、そういうことがないようにしたい場合ですね。

もしくはサプライチェーンですね、ある大きな会社さんが自分たちのサプライチェーンを管理するためにブロックチェーンを立てたいという場合、サプライチェーンとなると自社だけではなく関連する他社も入ってきますので、これをブロックチェーンでやるのは非常に効率がいいというふうに思っています。

これらはブロックチェーンでなくてもできるのでは?と質問をされることも多いですね。ブロックチェーンというのは分散データベースですから、たしかに従来のデータベースでもできます。

しかし、ブロックチェーンやイーサリアムは、OSに近いんですね。これらを使うことで、既存の同じようなことが圧倒的に安価で安定的にできるようになると考えています。

例を挙げると、金融業界ではメガバンクさんが作っているシステムは数千億円かけているわけですが、それでもうまくいかないみたいな話があります。けれども、実際イーサリアム上で何かデジタル通貨を作ってしまうと、もうすぐにシステムが作れてしまうというのがありますね。

そういった文脈で、今までやろうと思ってもお金かかってできなかったようなことが非常に安価にグローバルな環境で実現できるようになる可能性があると思っています。

また、民主的な投票をちゃんと監査性を持ってやりたいというシチュエーションも実現できますし、自社のポイントシステムを作りたいというようなことでも、今までに比べて非常に安価に作ることができます。

NFTの文脈であれば、今イーサリアムのメインネットでNFTを発行すると手数料が高いので、たぶん数万円かかったり、数量の多いものになると数百万円もかかってしまいます。それはちょっとビジネスにならないですよね。NFTを1万個ほどユーザーに無料で配りたいというビジネスでは発行するだけで億かかりますというのはちょっとお話にならないじゃないですか。こういうときに自分のチェーンを使うとか、もちろん他のチェーンを使ってもいいんですが、そういうユースケースはあると思っています。

それはつまりブロックチェーンを用途別に選ぶということですが、企業、エンタープライズということでいうと、自社が提供しているサービスは自社のコントロールできる範囲に置きたいということが多いと思いますので、そういうケースは非常に多くあるといえると思います。

また、社内でシステムを開発する場合、通常はテスト用にステージング環境というものを用意しないといけないですよね。それをいきなりパブリックチェーンのメインネットにプログラムを書いてしまうと、これはいきなり情報公開してしまうことになります。そういう意味でも、まずはビジネスにおいては社内にチェーンを作っていくということが普通になると思います。

エンジニアが自分だけでテストするならば、自分のローカルにブロックチェーンのノードを立てるだけでもよいと思いますが、社内全体あるいはお客様向けにデモしなければならないとなってくると、おそらく専用チェーンを立てる必要が出てくると思います。そうしたケースでも利用されるようになると思います。

─そうしたユースケースでは、企業様向けということで、PoAはそれに関連する企業の方々が参加してコンソーシアムを運用していくイメージですか。

オーソリティをどこに与えるかという問題ですね。PoAという仕組みは、いわゆる検証する人、つまりバリデータですね、ブロックチェーンを検証する人として誰をバリデータとして参加させるかを過半数で決めますという仕組みなんですね。

ですから逆にいうと、世界中の人が自由に入っていいよということも過半数の人が決定すれば、バリデータが1万人いるようなタイプのブロックチェーンも当然作ることができますので、それはケースバイケースですね。

─それは共通したブロックチェーンのネットワークがあって、それぞれの企業が別々に使えるようなイメージということですか。

そうですね。おっしゃる通りですね。

他の企業とデータを共有するということは、他の企業に対してオープンになるということですから、それも困るというケースもあると思うんですね。いろいろな要素があるので一概にはいえませんが、様々な用途で使えるものがあった方が便利ですし、基本的にはいろいろな企業でシェアできるOSでありデータベースあるという考え方をしていただくとわかりやすいのではないでしょうか。

─そうした考え方でいうと、その他のレイヤー2であったり、あるいは全然関係ないブロックチェーンもあったりする中、この先、御社のブロックチェーンは将来どのような方向に進んでいくのでしょうか。

ここ半年ほど、まさにEVM互換という単語がそれなりに出てくるようになって、私が思っていた通り、やはりイーサリアムがメインストリームになっていくだろうという流れになっていると思います。イーサリアムがOSでいうとLinuxのようなものになっていくだろうと思っていましたので、そこに互換性があるということは今後非常に重要になってくると思います。

ブロックチェーンの裏の仕組みは、PoAであったりPoSであったり、もしくはまったく違う仕組みで動いていたり、いろいろなことがあり得るんですが、やはりEVM互換がデファクトスタンダードになってきていますので、ここはまず外せないポイントには間違いなくなってくるかなというふうに思います。

─御社のブロックチェーンもイーサリアムと互換があるというようなイメージですか。

というよりは基本はイーサリアムそのものなので、実際はイーサリアムのテストネットとまったく一緒です。ですから当然動きます。

G.U.Technologiesが考えるWeb3.0の世界とブロックチェーンの将来

─ちょっと質問は変わりますが、御社といいますか近藤さんが得意としているブラウザ領域でいうとWeb3.0という世界が少しずつ見えてきていると思いますが、それに対して御社のブロックチェーンはどのように向かっていくのでしょうか。また、ブラウザ領域に対してはどのようにお考えでしょうか。

実はこれも本当に奇しくもというか、この領域ではWebブラウザが非常に重要になってきていると思います。なので弊社が一度売却したWeb関連のものも、いろいろな経緯があってまた戻ってきていまして、今もWebブラウザを使っているという状況になっています。

ブロックチェーン領域とWeb領域が融合していくためには当然Webブラウザが対応していかなければならないと考えます。近い将来は間違いなくWebブラウザは、暗号資産、ブロックチェーンに対応していくということになっていくと思います。

既にいくつかのブラウザは、対応している状態になっていますよね。

ここの領域はやっていきたいと思う気持ちもありますが、もはや一社でブラウザを作っていくという時代ではないので、ブラウザもなるべく今後はオープンにしていきたいなと思っていまして、ブラウザに関する技術やノウハウはみなさんと共有していく方向でいきたいと思っています。

実は弊社の社是としては、ブロックチェーンビジネスをしたい方々にインフラを提供していきたいと考えております。弊社はブラウザだけではなく、今ウォレットも開発していますが、実際はまだ一般の方々に使ってもらうにはユーザビリティがとても低いと思っています。そこを解決してあげないと、やはりビジネス自体が広がっていかないと考えています。

たとえばイーサリアムの世界ではMetaMaskが非常に有名ですが、まだまだ自分の母親に使わせるようなものではないと思っています。この部分は、母親だけではなく老若男女、誰でも使えるようにしないといけないと思います。

実際にはブラウザのみならずいろいろな領域でものすごく大きいハードルがまだまだあります。ここをクリアしていくことで、エンタープライズ領域で安心してお客様に使っていただけるものになると考えています。そこを弊社が支援することが、今後非常に重要になってくると考えています。

老若男女、誰もが使えるようすることこそ、弊社の大きな使命の一つかなと思っています。

─少しビジネスの話とはかけ離れるかもしれませんが、今バズワードになっているWeb3.0や何かと話題のNFTに関する世間の反応に対して、近藤さんはどのようにお考えですか。

まずNFTからいきますと、これはもうみなさんご存知のように、ほぼ99%詐欺に近いという状態だと思っています。

これはICOブームのときにも起きたことなんですが、たとえばイーサリアムがまだ無名に近かった頃、ビットコインをコピーしたビットコイン何とかという同じような暗号資産が世界中にいくつも出てきました。詐欺ではないですけれども、とにかくたくさんのものができて、どれが実際にくるのかわからない状況だったのに非常に近いなと考えます。

実際のNFTの話ですが、今NFTの使い方としては画像を添えて売買するということが行われています。この業界の方はNFTが単なる規格であるといいうことはわかっていると思うんですが、世間ではNFTという単語が一人歩きしてしまっているところがあります。問題はNFTに画像を付けたところで、その画像の所有権や著作権を保証したことにならないんですよ。

真面目にブロックチェーンをやっている方々は、そこをどうやって保証しようかってことを一生懸命やっていると思います。しかし一部の方々は、ある意味お金儲けのために何かもうバーッとやっているというのが現状だと思っています。真面目にやっている人もいるので難しいところですが、マッチポンプ的にNFTの価値をつり上げているところもすごく多く、かなり問題だと思うんです。実際に高額なNFTを買っているのは、一部のお金持ちや人気YouTuberが買っているだけですよね。

これが世の中に何をもたらしたかというところですけれども、これまでだったらリアルの美術品を買って自己顕示欲を誇示したいというニーズは昔からありました。それがデジタルでもできるようになったことは一つ意味があったのかなと。お金持ちや人気YouTuberがNFTを2億円で買って自分のアイコンにすることで、自己顕示欲を誇示したいニーズが満たされたのかもしれないと思っております。

しかし真面目にアートをやっている方からすると、これは一過性のものだし、ここに便乗すると、買った方があとでこれ何の権利もないじゃないかってことに気づく可能性があるし、もう既にみなさん気づき始めているので、これは良くない点だなと思っています。

ただNFTが起こしたブームによって、今まで自分に関係ないやと思っていた方が、NFTの存在やこの業界に注目してくれたという良さはあったと思います。

もう一方のWeb3.0ですが、これは実は何も変わっていないんですよ。流れでいうとWeb3.0っていう単語自体は昔からありましたから。

2、3年前から、イーサリアムではプログラムできています。そもそもWeb3という単語が入ったライブラリを使いますので、みんなでWebを変えていこうと試行錯誤していました。この業界のみなさんはわかっていたんですが、なかなか説明が難しかったんですね。

それが突如、世界的に有名な方がWeb3.0という単語を使い始めたことで、ここにWebというタグがついた瞬間に、Web系の方々がブロックチェーンは他人事だと思っていたのに、あれ?自分事じゃんということに気づいたという印象です。

これは実は一番大きなポイントだなと思っていまして、Web系の方がWeb3.0に参加するきっかけになったのは良かったことかなと思っています。

これは別にWeb3.0が何か世の中を変えるのではなく、ブロックチェーンが起こそうとしている革命の一つです。ブロックチェーンのユーザビリティはWebがくっついてくることで、今以上にユーザビリティが向上するよねという話でしかないと思っています。

このWebというユーザーとの接点の部分が、ブロックチェーンでは非常に課題になっていますから、先ほどいった自分の母親を始め老若男女、誰もが使えるようにしていくという我々の使命をまっとうする上においても、Web3.0はとても重要であると思っています。

また、もう一つ別の技術的な文脈としてブロックチェーンやイーサリアム側でいうと、実はWeb2.0の機能には、技術的に認証機能と決済機能が圧倒的に欠けていていました。Web2.0の信用という面ですね。

ですからWeb2.0では、他のシステムで補完をしていた機能なんですね、たとえばクレジットカード決済であるとか、セントラルな認証システムであるとか、そういった機能ですね。これらはWebの後付けシステムであるが故にいわゆる詐欺などハッキング等の対象になり、事件がたくさん起きている状況を生み出してきました。

こうしたWeb2.0に欠けていた機能は、イーサリアムの世界とWebが統合してくると、すべてインターネットのシステムとして解決できるようになります。

イーサリアムでは分散型の秘密鍵さえあれば認証はできますから、認証システムはいらないという世界がきますし、また承認作業というのもブロックチェーン上に書かれていることを参照することで確認できますし、決済はもちろんご存知の通り可能ですから、技術的にはすべて補完されます。これがWeb3.0の世界だと思います。

また、ブロックチェーンはDAO(分散型自律組織)という文脈で語られることもあります。いわゆるディセントラライズなガバナンスの仕組みがこれからは来ると語られることも非常に多いと思います。これはWebとはあんまり関係ありませんが、インターネットとしては関係があり、ブロックチェーンっていう仕組みでDAOの仕組みが来て、それがWebで使えるようになる、これがWeb3.0の世界観なのかなというふうにも思っています。

─ありがとうございます。では次の質問をさせていただきます。御社は、Microsoft for Startupsにご参加されていますが、そうした環境下でマイクロソフトからどのような支援を受け、どのようにご活用されているか伺えますか。

まずMicrosoft for Startupsにおいては、Azureであるとかマイクロソフト製品を、安価もしくは無料で使わせていただくというところで、非常に多大な支援を受けておりまして、そこは本当にありがたいなと思っています。

それだけにとどまらず、いろいろビジネス関係のご紹介をいただいたり、こうしたインタビューのご依頼をいただいたり、真剣にこういったことを支援していただいているという状況もあります。

私個人としては、実はマイクロソフトさんとは非常に付き合いが深く、昔マイクロソフトさんからイノベーションアワードという賞をいただいたこともあって、シアトルに招待していただいたことがありました。

実は昔からそういったイノベーションであるとか、スタートアップを支援している会社であるという印象です。

何よりも私が最初にコンピュータに触れたきっかけは、MSXというパソコンでした。MSXがこの業界に携わる大きなきっかけになりましたが、MSXのOSや規格を作った会社の一つがマイクロソフトさんということで、そもそもマイクロソフトさんは非常に私のルーツにとっても重要な企業ですので、ずっとこうやって付き合っていけること自体、本当にありがたいなというふうに考えております。

G.U.Technologiesのこれから

─ありがとうございます。それでは最後の質問になりますが、御社の今やっていること、もしくはやりたいことなど将来的なビジョンについてお伺いできますか。

今までは、このインフラをエンタープライズ向けに提供するというところに集中してきました。自分たちでサービスを立ち上げるのもいいんですが、やはり我々の周辺ではすぐ使えるチェーンが欲しいというニーズが大きいので、それに応えていきたいですね。

実は、共同のパブリックコンソーシアムチェーンというのを立ち上げました。

このチェーンの大きな特徴ですが、まず日本国内の企業だけでそのブロックチェーンのノードを運営していくということになっています。運営というのはその検証するという意味でおいてです。これがどういった意味を持つかというと、実はエンタープライズ領域から見ると、パブリックなオープンノート型の地球規模のチェーンにデータを書き込むと何が起こるかというと、データが世界中を駆け巡るんですね。

これは当たり前な話なんですけれども、しかしEUや中国には、データ持ち出し規則があるんですね。特にEUには「EU一般データ保護規則」(GDPR:General Data Protection Regulation)という個人データ保護規則があります。なので、それらの規則のもとではブロックチェーンに安易に個人情報を書き込んだ、その瞬間にアウトになってしまうんですね。

みなさん、実はこういう問題にはまだあまり気づいていないので、実際本気で参入しようとすると、おそらくこういうところが法務から出てくると思います。グローバルな環境ではそういう問題が多々あります。まさにロシアによるウクライナに対する軍事侵攻においてもそれが具現化しました。どんなにパブリックなチェーンが世界中で使えるといっても、基本的には世界の金融ルールというのは、制裁が発生したらその国には送受金してはいけないという国単位のルールになります。

このときにパブリックチェーン、パブリックオープンノードチェーンというのは非常に対応が難しくなます。自分がそのブロックチェーン上で金融商品をドロップしていたら、その特定の制裁対象国では買えないというような対応はできないんですね。

そうなると法律上、これはどういう整理になるのかという大きな話になってきますから、ビジネスではそうしたことが起きないように、やはり国単位のチェーンというものも、オープンノードチェーンとは別途必要になってくるだろうなと弊社は考えていました。そういった実証実験や思考実験、法律的な実験も兼ねて、これをまずやっていきたいんですね。

そこで、弊社は電通さん、みんなの銀行さん、ピクシブさん、京都芸術大学さん、コーギアさんと共同で運用する日本法に準拠したオープンなEVM互換ブロックチェーンを立ち上げることで合意し、2022年4月5日よりブロックチェーン・ネットワーク「Japan Open Chain」メインネットのβ版を公開しました。

Japan Open Chainは、運営者ノードであるバリデータ・ノード・サーバのすべてを日本国内で運用することで、法的・技術的に安心して利用できるEVM互換チェーンになっています。

これをまず実証実験ということで開始しました。最初は参加フォームから申し込んでいただいた方が使えるというものですが、将来的にはイーサリアムやバイナンススマートチェーンなどのように誰でも使えるようにする予定です。

ぜひここにはみなさんにも参加していただきたいと思っています。

参加フォームはこちら (https://www.japanopenchain.org/contact/entry-form

また、ほかにもDAppsっぽいことっていうんですかね、いわゆるブロックチェーンスタートアップっぽいことも、いろいろチャレンジをしていきたいなとは思っております。興味ある方は、ぜひ弊社にコンタクトいただければなと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

─ありがとうございました。

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