はじめに
日本のエンタメ業界、とりわけ漫画やアニメ、ゲームなどのコンテンツは世界的にも人気が高いと言われています。また、直近10年ではスマホの普及やAR / VRといった新たなプラットフォームの登場などにより、コンテンツの消費者の行動も大きく変わりました。
2020年には新型コロナウイルスの影響により、イベントやライブなどが軒並み中止(延期)され、エンタメ業界は大きな打撃を受けています。
本記事ではこうした状況にあるエンターテイメント業界を、ブロックチェーン活用のポテンシャルが高い注目領域と位置づけ、業界全体を発展させるべく取り組む株式会社アーリーワークスCDO(Chief Development Officer)の近藤賢志さんに、「ブロックチェーン×エンタメ業界」というテーマでお話を伺いました。
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独自ブロックチェーン「GLS」の優位性とは?|アーリーワークスCDO近藤賢志|インタビュー#01
プロフィール
近藤賢志さん
【所属部署】事業開発・企画戦略本部所属
【役職】執行役員 / CDO(Chief Development Officer) 1990年1月生まれ、2015年キングソフトでは営業成績1位を獲得、中国発製品の日本進出を手掛ける一方、フリーランスとしてe-Sports系をはじめとしたエンタメ業界でのビジネスプロジェクトの複数企画・立ち上げを経験。その後はセールスフォースにてSaaS製品のコンサルタントセールスを経験したのち、アーリーワークスへと参画。
なぜエンターテイメント業界に注目しているのか?
――これからブロックチェーンの活用が進むと注目している業界はありますか?
ブロックチェーンが活用できる注目業界のひとつがエンターテイメント業界です。エンタメ業界ではこれからDX(デジタルトランスフォーメーション)が大きく進むのではないかと思います。
リアルイベントやコンテンツを活かした物販などを行うエンタメ業界の会社は、コロナ禍で軒並み大打撃を受けました。一方で、デジタルライブの成功やVTuberの成長など良いニュースもあり、エンタメ業界全体のDXが1〜2年でかなり進む予感があります。
実際に業界団体である「一般社団法人キャラクターブランド・ライセンス協会(CBLA)」も、コンテンツビジネスのデジタル化を模索しています。
VTuberとは?:イラストやCGで表現されたアバターを用いて動画投稿・ライブ配信を行うYouTuberの総称。バーチャルYouTuber。日本が発祥だと言われており、2018年の「ネット流行語100」トップ20に「バーチャルYouTuber」がランクインしている。
一般社団法人キャラクターブランド・ライセンス協会(CBLA)とは?:キャラクター・ブランドなどのIPを活用した「ライセンスビジネス」の発展・育成を目的とした業界団体(公式Webサイトより)。
しかし、コンテンツはただ単にデジタル化されれば良いという訳ではありません。デジタルコンテンツはコピーや改ざんなどの課題を無視できないからです。
ブロックチェーン技術を活用することで、デジタルコンテンツの違法コピーや改ざんを防ぎ、コンテンツの価値が棄損されることなく、新しいマーケットへの展開が可能になると考えています。
エンタメ業界の課題
コンテンツの権利は誰が持っている?
――なるほど。エンタメ業界でもデジタル化やDXが大きく進む兆しがあるなかで、海賊版や不正利用などの対策にブロックチェーンが有用だと考えているのですね。エンタメ業界の課題とブロックチェーン活用の可能性について、もう少し詳しく伺えますか?
ゲームや漫画、アニメといったコンテンツは付随する権利が細かく分かれていますが、どこかの主体がこうした権利を一元管理している訳では必ずしもありません。あるコンテンツのアニメ版とゲーム版をタイアップさせようとしても、アニメとゲームで著作権者が異なるというケースは普通にあります。
各権利の所有者が明確になっていればまだ良いのですが、現状では原作者であってもどの権利がどこでどうなっているのかを把握するのが難しい状況なんです。ARやVRなど、コンテンツのアウトプット先が多様化している一方で、元となるコンテンツの権利情報の管理を誰が行っているのか分かりづらいので活用が難しいんですね。
――誰が権利を持っているのか探しづらかったり、コンテンツを使う際の申請手続きの工数が多くかかったりしているんですね。
おっしゃる通りです。ですので、我々はそうした権利の区画整理や権利の所有履歴を正しくするところから始めて、コンテンツの権利を適切に流通させていきたいと考えています。ライセンシー(ライセンスを利用する側)が正しい問合せ先や利用方法にアクセスでき、契約書周りも整備して、ライセンサー(ライセンスを利用させる側)に正しくライセンス料が支払われるようにしていきたいですね。
そうしてエンタメ業界のコンテンツに関わるすべての人がしっかり稼げる、そして日本が誇るエンタメ業界がさらに成長する礎を築いていくのに、ブロックチェーン技術というのは非常に有用だと感じています。
コンテンツの消費環境の変化への対応も不可欠
――お話を伺っていると、ライセンス周りの管理がエンタメ業界の大きな課題かと思いますが、その他にも課題はあるのでしょうか?
エンタメ業界というかコンテンツ業界ですが、これまでオフラインを中心として発展してきた領域ではデジタル化に対しての心理的ハードルが高いと感じています。デジタル化に対する漠然としたネガティブな感覚がハードルとなっていてDXを進められていない企業も少なくありません。
ただ、世の中のコンテンツの見方は変わっていて、みんなスマホなどでデジタルコンテンツを視聴したり、情報収集したりしています。たとえば近年では「TikTok」のようなショートムービーが流行っていて、30分のアニメや2時間もある映画は観られにくくなっています。「鬼滅の刃」は例外ですね(笑)。ところが、たとえばアニメの製作委員会などは未だに30分のアニメを作り続けている。コンテンツを供給する側とユーザーニーズとのズレがあると思っています。
こうした感覚も含め、業界のデジタル化やDXへの対応が進んでいない状況があります。だからこそ、我々としては「コンテンツの権利を管理する」といった分かりやすい領域から切り込んでいき、最終的にはエンタメ業界全体がユーザーニーズとマッチしたコンテンツを作ってくようにしたいと考えています。日本のコンテンツが育っていくことで、世界中からもっと評価されるサブカルチャーとして、日本の柱のひとつとして発展していけるはずです。
エンタメ業界全体を発展させていきたいという壮大な話になってしまいましたが、個人的にもそうした目標に向かって、ブロックチェーンを上手く活用していこうと思っていますね。
フロー型からストック型ビジネスへの変革が必要
――ありがとうございます。権利の管理にブロックチェーンを活用していくという部分について、具体的にどのようにアプローチしていく予定ですか?
各社が持っている権利をもっと市場で活用されるようにして、売り上げを上げていくアプローチが有効だと思っています。
人気コンテンツは営業をしなくてもアニメ化や映画化、商品化の引き合いがたくさんありますが、旬を過ぎるとそうした話はパタッと無くなってしまいます。ただ、日本では旬が過ぎたコンテンツが、すこし遅れて海外で爆発的な人気が出る事例は数多く存在します。
そのときにコンテンツ流通の仕組みが整備されていれば、コンテンツを活かしたビジネスの寿命が長くなりますし、売り上げ機会の増加に繋がると考えております。
――なるほど。これまではメディアミックスや商品化など、過去のものを含めたコンテンツ流通の仕組みが整備しきれておらず、それゆえに機会損失があったわけですね。
これまではコンテンツに人気があれば引き合いが来るというスタンスだったんですね。だからこそ、(寿命が短かったとしても)売り上げの見込める人気コンテンツを短いスパンで常に作り続けようとする。要するにフロー型のビジネスになっているんです。
このやり方には無理が生じてきていて、作品がヒットしなければ赤字も出ます。そのしわ寄せはクリエイターに行くんですね。そうして劣悪な環境でコンテンツを作り続けなければいけない状況が生まれてしまいます。
旬を過ぎたコンテンツであってもマーケティングのやり方やターゲットを変えれば、新たな売り上げを生み出せるかもしれません。フロー型からストック型のビジネスモデルへと変えていかないといけないという思いがあります。
エンタメ業界にコミットする理由
――近藤さんのお話を伺っていると、エンタメ業界全体を発展させていきたいという熱量をすごく感じます。コミットするようになったきっかけはあるのでしょうか?
私自身が日本のコンテンツの大ファンであるというのが理由です。一時期、留学をしていたことがあるのですが、海外でも日本のコンテンツを通じて仲良くなれるんですね。「日本人といったらアレだろ、ドラゴンボール知ってるか?」みたいな。日本のコンテンツは世界的にすごく強いと思います。
しかし一方で、キャラクターやコンテンツといった商品が消耗品になっている現状もあります。私は前々職でコンテンツやIP(Intellectual Property:知的財産)を取り扱う職種に就いていたのですが、あるIPをとにかく商品化して使い続けているうちに、そのIPのブランドが崩れてしまい消耗されてしまうんですね。
さらに会社にもよりますが、クリエイターに対して適切に利益が分配されているのかという問題もある。コンテンツが上手いことお金になる(関係者がしっかりと対価を受け取れる)仕組みが意外と整備されていないと思っていて、だからこそ仕組みを整備することでそうした課題を解決できないかなと考えています。
――なるほど、日本のコンテンツの力と課題を目の当たりにした実体験があるんですね。
エンタメ業界は動く金額が大きいですが、そこに携わっているスタッフの数はそんなに多くありません。たくさんのIPを持つ有名企業であっても、たった3人で営業を回しているケースもあります。そうした業界の負の部分に対して、たとえば権利関係の仕組みを整理して適切にコンテンツが流通するようにしたり、情報共有のコストを省いたりすることで、より多くのお客様に営業できるようになります。
これまで1,000万円だった売り上げが1億円になれば、当然そのIPに携わる人たちの報酬も増えるわけで、そうした世界を実現することでコンテンツ業界の発展に貢献したいというのが個人的なモチベーションになっていますね。
これからブロックチェーンを活用する企業に向けて
――ありがとうございます。最後にブロックチェーンを活用したい企業に向けて、メッセージがあればお願いします。
ブロックチェーンは突き詰めれば管理システムであり要素技術なので、この技術単体ですべて課題が解決するわけでは決してありません。分かりにくさもあり、なかなか魅力が分かりづらいとは思います。
しかし、DX化を進む現代においてはデジタル上で取り扱うデータは右肩に増えていきます。増え続けるデータをどのように管理・活用していくかを考えることはすべての企業に求められ、その波に乗り遅れてしまうと現代においては高いリスクになってしまいます。
こうした時代背景において、ブロックチェーンはAIなどの先端技術と、従来の技術やビジネスモデルなどをつなげ、社会に新しい価値と変化をもたらす「接着剤」のようなもので、業種を問わず様々な企業のデジタル化を下支えする技術だと考えています。
我々はこれからも皆様のビジネス加速を支援していきますので、なにかあればぜひご相談ください。
――本日はお時間をいただき、ありがとうございました!
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