はじめに
――ブロックチェーンはスケーラビリティの問題を抱えている。
このような話題を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか?
今回のインタビューでお話を伺った「株式会社アーリーワークス」では、ハイスピード・ハイスケーラブル・ハイセキュリティを実現すべく、ブロックチェーン型データベース「Grid Ledger System」(GLS)」を独自に設計・開発しています。
「今すぐ“使えるブロックチェーン”をすべての企業、すべての人に」を掲げるGLSについて、アーリーワークスCDO(Chief Development Officer)を務める近藤賢志さんにお話を伺いました。
※本記事の情報は2020年11月末時点のものです。
プロフィール
近藤賢志さん
【所属部署】事業開発・企画戦略本部所属
【役職】執行役員 / CDO(Chief Development Officer) 1990年1月生まれ、2015年キングソフトでは営業成績1位を獲得、中国発製品の日本進出を手掛ける一方、フリーランスとしてe-Sports系をはじめとしたエンタメ業界でのビジネスプロジェクトの複数企画・立ち上げを経験。その後はセールスフォースにてSaaS製品のコンサルタントセールスを経験したのち、アーリーワークスへと参画。
独自ブロックチェーン「GLS」を用いて事業開発・DXを推進
――本日はよろしくお願いします!最初に株式会社アーリーワークスの事業と、近藤さんの役職や仕事内容についても簡単に教えてください。
当社は独自ブロックチェーン「Grid Ledger System(GLS)」の開発と、GLSを活用した事業開発やDX支援をお客様のニーズを伺いながら行っています。私自身は新規の事業開発全般に携わっており、そのなかでもエンターテイメントの分野を専門として市場をイチから創っていく活動を推進しています。
――ありがとうございます。「お客様のニーズを伺いながら」とのことですが、実際にはどのようにブロックチェーンの導入を進めているのでしょうか?
お客様から最初にご相談をいただく段階では、「ブロックチェーンを使って、何か新しい新規事業を立てたい」「管理業務の改善をしたい」「売り上げを伸ばしたい」など、要望が具体化されていない場合が多いです。「ブロックチェーンを使った事業をどのように作っていけば良いのか分からない」というご相談もよくいただきますね。
たとえばエンタメの文脈だと、「権利系の管理を適切に行いながら、従来とは異なる(ITを活用した)ビジネスはどうやっていくのが良いのか」「ビジネスアイデアとしてデジタルライブは思いつくが、どう事業化していけば良いのか」など、具体的な事業化の方法について知りたいというニーズがあります。
ですので、お客様の業界の常識や慣習、想定しているビジネスの規模などを含めてヒアリングした上で、具体的な事業開発やDX支援を行っています。
――興味を持っている企業はエンタメ系の企業が多いんでしょうか?
業界としてはエンタメに限らず、自動車や保険、飲料メーカーなど幅広いですね。特定の業界に偏っていないところが我々の特徴と言えるかもしれません。
――なるほど、ありがとうございます。ブロックチェーンに関する知見やノウハウを持っているお客様ばかりではないと思うのですが、プロジェクトを推進しながらブロックチェーンに関する知識の共有も行っているのでしょうか?
そうですね。当社は「そもそもブロックチェーンとは何か?」という根本的な部分からコンサルタントとして入り、技術的な部分もしっかりサポートしながら導入を行っています。
ブロックチェーン技術とビジネス両方の経験とノウハウを持っている点は、当社の強みになっていると思います。だからこそ、ブロックチェーンを使うだけではなく、従来はできなかった(あるいはコストが大きく非効率だった)業務に対して、効率化してコストを抑え、ビジネスを成長させる活動に伴走できるんですね。これが我々にできることであり、ミッションであると考えています。
――導入部分から知識のキャッチアップ込みで伴走しているんですね。当社(digglue)でもお客様に対してブロックチェーンに関する知識を共有しながらプロジェクトを推進していますが、やはり技術的な理解が裏付けとしてあると納得感が違うように感じます。
GLSの優位性とは?
――先ほど幅広い業界のお客様と活動を推進していると伺いましたが、引き合いがあるのはインフラとなる技術を独自に開発しているからなのでしょうか?
それはあると思います。我々のプロダクト(GLS:Grid Ledger System)はプロトコルレイヤーから開発しているので、業界を問わずお客様のニーズに合わせて柔軟にカスタマイズできます。SQL互換でもあるので利活用のハードルが低いこともメリットとしてありますね。
加えてトランザクションの処理速度が速いので、幅広い業界で利用できるのが強みです。既存の仕組みだと、どうしてもスピードや自由度が課題になりますが、GLSでは秒間10,000トランザクションの処理はテストの時点でクリアしており、最大4,000万トランザクションを処理を超える数値を目指し開発を進めております。
SQL(Structured Query Language)とは?:データベースにデータを格納、操作、取得するための標準言語。
――「既存の仕組み」の課題というのは、ブロックチェーンと既存のデータベースのどちらを指しているのでしょうか?また、それら技術と比較して、GLSはどのような優位性を持っているのでしょうか?
その意味で言うと、ブロックチェーンと既存のデータベースの両方だと思っています。
ブロックチェーンとの比較で見ると、我々のプロダクトは圧倒的なスピードと柔軟性があるので、いわゆるEthereumなどの既存ブロックチェーンに対して明確なアドバンテージを提示できます。一方、通常のデータベースと比較するなら、改ざん耐性や信用担保という点で優位性があるんですね。
GLSはこれらの要素を同時に満たすことができるので、既存のブロックチェーンとデータベースのどちらに対しても優位性が示せます。実際、そうしたGLSの優位性を評価してくださるクライアント様が多いですね。
――技術的にはDAGを採用しているとWebサイトにありますが、DAG(Directed Acyclic Graph、有向非巡回グラフ)ならではの難しさはあるのでしょうか?
DAGはトランザクションの承認時間の短縮や処理速度を向上させられる一方で、工夫をしないと情報の時間的な順序関係が前後する可能性があります。要はタイムスタンプ管理が難しいんですね。DAGにおけるタイムスタンプ管理を適切に行える仕組みを発明した点において、当社の技術的な強みのひとつと自負しております。
DAG(Directed Acyclic Graph)とは?:分散型台帳を実現する技術のひとつ。Directed Acyclic Graph(有向非巡回グラフ)。Bitcoinのようなブロックを連鎖させたシングルチェーン(いわゆるブロックチェーン)とは異なるデータ構造を有しており、高いトランザクション処理能力を持つ。
GLS誕生のきっかけとは?
――既存のブロックチェーンやデータベースではなく、GLSを開発することになった理由は何だったのでしょうか?
ブロックチェーンが認知され始めたタイミングでは、実用的な技術として社会に浸透するには、まだ乗り越えるべき技術的な課題がいくつか残されていました。しかし、社会をダイナミックに前進させ得るブロックチェーン技術のポテンシャルは疑いようがなく、当社はこの技術に大きな可能性を感じています。
また、GLSの開発は当社の最高技術責任者(CTO)である山本浩貴が中心となって行っています。彼のIT全般に関する知識やノウハウ、実績とブロックチェーンのような新しい技術をミックスさせて生まれたのがGLSです。
ちなみにCTOの山本は、12歳からシステムエンジニアとして活躍してきた人物です。
――12歳!すごいですね!
そうなんですよ。彼自身の中にGLSを作り上げる土台となる技術が備わっていたことが大きいですね。
最先端の技術を追っていると、そのままでは使いづらい技術が出てきます。彼の信条としている言葉のひとつとして「枯れた技術の水平思考」という考え方が素地にあるからこそ、安定した古い技術と新しい技術を複合させることで、夢のあるシステムでもありながらも地に足の着いた実現性の高いシステム開発ができることが強みですね。
――ありがとうございます。ちなみにGLSの開発にはどんなプラットフォームを活用しているのでしょうか?
Microsoft Azure上でGLSの開発と検証を行っています。また、「Microsoft for startups」のプログラムにも採択頂いていて、「Azure Marketplace」経由でユーザーがGLSを使ったソリューション開発などを自由にできるようになる予定です。
GLSによって実現できる事業やシステムとは?
――GLSを使うことでどんな事業やシステムを構築できるようになりますか?
一例として、GLSは異なる企業間や、同じ企業の異なる店舗間・部門間の情報連携を可能にします。異なる企業同士が別々のデータ管理システムを採用しているのは当然ですが、同じ企業でも部署が違えばシステムも異なるというケースが少なくありません。これは理想的な姿とは程遠いと考えています。
異なるデータ管理システムが採用されているため、わざわざExcelファイルに出力して送信するなど、非効率なデータのやり取りは積み重なると相当な労力が発生します。管理システムを積極的に導入している会社では、クラウドベースの「CRMシステム(顧客関係管理システム)」が導入されていますが、それでも特定の部門がライセンスを持っておらず、データにアクセスできないケースもあります。
このように情報管理を一元化できていない状況は、データ分析やデータドリブンマーケティングを導入する際に大きな障壁となります。単に情報を持っているだけでは宝の持ち腐れになってしまうんですね。
GLSを使う事で共通の大きなネットワーク配下であらゆるデータの管理が可能になり、活用できるようになるので、業務の効率化やデータを軸とした経営スタイルが実現できるようになります。
国内企業のブロックチェーン活用状況について
――少し話は変わるのですが「アーリーワークス」という社名の由来は何でしょうか?
当社の代表が「どこよりも速く、半歩先に」というフレーズをよく使っています。ビジネスではただ単純に速い(早い)だけだと、市場に適合できずに事業が失敗してしまう場合があります。我々の業界ではいかに素速く形を作っていくかが重要な要素であるものの、それだけでは不十分です。
(新しい技術やアイデアを)関係者の理解を得ながら社会をより良くしていきたいというビジョンが必要であり、「速さを実現しつつも、みんなが理解できる範囲の半歩先をしっかり作っていく」というメッセージが「アーリー」に込められた意味だと、私自身は解釈しています。
――半歩先、というのは重要なキーワードですね!現在のブロックチェーンを見ると、まだまだ浸透したとは言えない状況にあると考えています。ブロックチェーンが世の中に浸透するために乗り超えるべき課題はどんなものがあるとお考えでしょうか?
大きなハードルは、技術畑ではない人からするとブロックチェーンという技術が分かりにくいことだと思います。仮想通貨(暗号資産)の文脈で認知が広がったことから、金融分野の技術であるという固定観念もまだまだあるかもしれません。
社会実装されている事例が少なく、ブロックチェーン技術の活用イメージが湧いていないことも要因としてあると考えています。
――たしかに分かりづらさや固定観念はあるかもしれません。この部分はdigglueとしてもBaaS info!!やコンサルティング・開発を通じて解決していきたいですね。技術的な課題としてはいかがでしょうか?
技術的な側面で言えば、トランザクションの処理速度が十分ではないことが一因だと思います。
PoC(Proof of Concept)であれば、利用者は限定的なので問題ありませんが、実運用したときにも要件を満たせないといけません。ブロックチェーンがバズワード化した2018年頃では、従来のデータベース並みに処理速度の速いブロックチェーンシステムは実現が難しかったと思います。こうした技術的課題はGLS開発のきっかけにもなっています。
――やはり多くのトランザクションを処理できるシステムでないと広がっていかない、ということですね。日本の企業がブロックチェーンを使うようになるまで、どれくらいの時間がかかると思いますか?
お客様の取り組みやその他企業の動きを見ていると、3〜4年くらいで活用が進んでいくと感じています。ただ、早ければ2021〜22年くらいには実運用レベルの事例が国内で登場するかもしれません。成功事例が出てくると世間一般への浸透が進みますし、活用したい人や企業が増えてくると思います。
そうして3〜4年くらい経てば、ブロックチェーンのメリットが一般的に認知されて企業が当たり前に使う世の中になると私個人は考えています。
――なるほど。国内でも実運用レベルの取り組みが増えてくると、ブロックチェーン活用が進んでいきそうですね。
インタビュー前編はここまで。後編では、ブロックチェーンの活用領域としてエンタメ業界を取り上げ、業界の課題や可能性について伺っていきます。
▼インタビュー後編はこちら
「日本のコンテンツの大ファンだからこそエンタメ業界に貢献したい」|アーリーワークスCDO近藤賢志|インタビュー#02(2021年3月23日公開予定)