【事例】教育×ブロックチェーン|国内外で進む学歴・資格証明への活用

【事例】教育×ブロックチェーン|国内外で進む学歴・資格証明への活用

はじめに

昨今の教育現場では、ICT教育が推進されています。たとえば、初等・中等教育において2020年から段階的に実施されている「新学習指導要領」では、学校のICT環境整備とICTを活用した学習活動の充実が明記されており、教育分野でもデジタル化・IT化が進み始める段階に突入しました。

国主導の動きに加え、デジタル化・IT化に拍車をかけたのが新型コロナウイルスです。対面授業による集団感染を防ぐために、オンライン教育の重要性がますます議論され、すでにオンライン授業を開始している学校も少なくありません。

たとえば、「新渡戸文化小中学校・高等学校」(東京都中野区)では、2020年4月からオンライン授業を開始しました。当初は授業に必要なデバイスが少なかったようですが、全体の理念共有をベースに、生徒と教員に対する段階的な研修を行うことで、オンラインの特性を生かした授業を展開できるようになったとのことです。

また、新型コロナウイルスの影響によって、大学でもオンライン授業が実施されており、否が応でも教育分野でのデジタル化・IT化を推進せざるを得ない状況だと言えるでしょう。本記事ではこうした状況にある教育分野において、ブロックチェーンがどのようにデジタル化・IT化に役立つかを紹介していきます。

教育分野でブロックチェーンを活用できる可能性

ブロックチェーンに記録されたデータは事後的な改ざんが困難です。さらにブロックチェーンを活用することで、同じ内容の共有台帳を異なる組織間で持ち合うことができます(Aさんが管理する台帳と、Bさんが管理する台帳の内容が同じであることが保証される)。

したがって異なる人や組織同士で情報を共有・連携する際に、ブロックチェーン上のデータをただひとつの情報源として利用できるのです。こうしたブロックチェーンの特長を利用して、教育機関による成績証明などに利用しようという試みが国内外で行われています。

教育分野の課題を確認した上で、ブロックチェーンが活用できる可能性を探っていきましょう。

教育分野の課題

近年、教育分野の課題として見受けられるのが、日本への留学希望者による書類偽造です。通常、外国人が在留資格を得るためには、日本語検定試験に合格したり、日本語講座を一定時間受けたりして、それらの事実を示す証明書を入国管理局に提出しなければなりません。

証明書は現地の日本語教育機関が発行しますが、現地の仲介業者による偽造によって、留学生が来日してしまうケースが後を絶たない現状です。

外務省が2017年3月〜2018年9月に行った調査によれば、日本語学校への留学ビザを申請したベトナム人学生6,000人のうち、1割以上が十分な日本語能力を有していない実態が明らかになりました。当然、必要な語学力がなければ、留学生と関わる日本の教育関係者や学生に負担がかかりますし、日本での日常生活が困難になる恐れがあります。

また、留学生の日本語能力の証明以外にも、スキルを示す証明書の偽造は学位や学歴、成績証明においても同様の課題であり、職種によっては顧客や社会に重大な悪影響を起こす可能性があります。

過去には高校中退を高卒と偽って自動車学校に採用された指導員を巡って、裁判が行われました。裁判では指導員の学歴は職務の適格性及び資質を判断するうえで重大な要素だとし、懲戒解雇を有効と認める判決を下しています。

参考:正興産業事件 浦和地裁川越支部決 1994年11月10日

このように学歴などを詐称する事例は日本でも見受けられ、その正当性の検証には課題と必要性があります。

そのほかにも、少子高齢化によって教育機関の統廃合も進みつつあり、消滅した教育機関で取得した学位に関する真正性の担保も今後の課題になりそうです。

ブロックチェーン活用によって学歴や成績などを対外的に証明できる

前述のようにブロックチェーンに書き込まれたデータは事後的な改ざんが困難です。

したがってブロックチェーンを活用した、学位や成績などの対外的な証明行為の実現が見込めます。ブロックチェーン上のデータをただひとつの情報源として参照することで、学位などを確認が行いやすくなるでしょう。

ただし、ブロックチェーンに書き込む段階で、信頼できる第三者機関(大学など)による情報の信頼性の担保は不可欠です。信頼性を担保する方法はいくつかありますが、たとえばある大学生の卒業証明データに対して、大学側の管理する秘密鍵でデジタル署名を行い、ペアとなる公開鍵をブロックチェーンに書き込む方法が考えられます。

書き込まれた公開鍵は事後的な改ざんが困難であり、なおかつ誰でも参照できる=学生の卒業証明データに付与された署名を検証できるため、大学側その学生に学位を与えたことを証明できるのです。パブリックチェーンであれば、組織や国をまたぐ学位や成績の証明も期待できるでしょう。

そのほか、学生だけでなく社会人の学習達成度やスキルの習熟度を、小さな単位に分けて証明する「マイクロクレデンシャル」の可視化や証明、共有にもブロックチェーンが活用可能です。

このように、学位や資格、学習歴の対外的な証明にブロックチェーンが活用できると考えられており、すでにいくつかの事例が登場しています。

教育×ブロックチェーンの活用事例を紹介

ここからは教育分野において実際に取り組まれているブロックチェーンの活用事例を紹介します。

ブロックチェーンによる学位証明の先進事例「Blockcerts」

「Blockcerts」は2015年にスタートしたプロジェクトであり、ブロックチェーンを活用した学位証明の先駆的な取り組みです。MITメディアラボ内のディレクターが発起人となり、ブロックチェーン企業「Learning Machine Technologies」と共同で開発したオープンな規格で、Blockcertsによって学校などがブロックチェーンを基盤とした資格情報を作成・発行・閲覧・検証できるようになっています。

学生の学位証明を改ざん困難な形でブロックチェーンに記録することで、その正しさを担保します。2017年には卒業生111人に対して、試験的にデジタル卒業証明書を受け取る選択肢が提示されました。

*実際には資格データのハッシュをブロックチェーンに書き込み、当該ハッシュが含まれたトランザクションを作成しています。トランザクションの宛先としては卒業生のアドレスが指定されています。

なお、Learning Machine Technologiesは、2020年2月に大手コンテンツサービス・プロバイダ「Hyland」によって買収されました。その結果として、Hylandのプラットフォームを活用している900以上の機関が、Blockcertsの規格に準拠した資格情報に関する証明プロダクトの恩恵を受けられるようになっています。

ちなみに国内では「LasTrust株式会社」がBlockcertsに準拠した証明書プラットフォーム「CloudCerts」を2019年8月より提供しています。

国内の高等教育機関もテストを開始

国内の高等教育機関でも、学歴証明や成績情報などの管理にブロックチェーンを活用する取り組みが進められています。活用の主目的は複数の組織間における情報共有とプライバシーの保護です。

慶應義塾大学の取り組み

「慶應義塾大学」では、学生の成績情報や指導教員からの評価を管理するシステムにブロックチェーンを組み込もうとしています。学生自身が個人情報の公開範囲をコントロールできるようにして、企業が学生の個人情報を不正に利用するリスクを削減することが目的です。

また、GDPRに規定されている「忘れられる権利」にも対応し、一度学生が開示したパーソナルデータも消去できます。要するに、従来の仕組みでは学生が企業に履歴書などを共有し、それらデータは各企業(あるいは就活サイト)が一括管理していたのに対し、ブロックチェーンを活用した分散型の個人情報管理を目指しているのです。

学生・企業双方のメリットを整理すると以下のようになります(慶應義塾大学のプレスリリース、2ページ目より引用)。

学生の主なメリット

  • 報提供依頼があった複数の企業に対し、開示先・開示範囲・開示期間を自ら選択できる
  • 教員、先輩や友人など、周りの人からの客観的な評価を企業に開示できる
  • 開示不要となった記録を、消去できる

企業の主なメリット

  • これまで学生から得られなかった、学内外での評価や授業内での発言などのパーソナルデータを活用し、潜在的な優良人材を発見し、アプローチできる
  • オンライン面接など、学生との接点が制限される環境において、学生のパーソナルデータを活用することで、学生の能力や特徴を深く知ることができる
  • 個人情報の許諾作業や管理、廃棄が不要となる

具体的なスケジュールと目標値

慶應大の取り組みは2020年8月にスタートすると報じられており、システムの利用企業を2020年内に20社にまで広げる目標を掲げています。また開始時点では「三菱UFJ銀行」や「SOMPOホールディングス」、「住友生命保険」の参画が決定しています。

実証期間は3年間の予定であり、各年の目標値は以下の通りです。

  • 1年目:慶應大生を中心とした5,000人による利用
  • 2年目:慶應大生の大半と他大学5校以上の学生、計1万人による利用
  • 3年目:慶應大生の大半と他大学10校以上の学生、計2万人による利用
  • 4年目(実証終了後):プラットフォーム化を目指す

参考:慶應大の実証実験ではパブリックチェーンの利用を想定

慶應大のプレスリリースによると、上記アプリケーションにはパブリックチェーンの活用が想定されているようです。

https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2020/8/11/200811-1.pdf

パブリックチェーンを活用したアプローチとしては慶應大のほかに、「Microsoft」が主導して開発・公開されている分散型IDシステム「ION(アイオン)」があります。IONはBitcoinブロックチェーンを用いた分散型IDを実現するネットワークであり、IONを活用した学生証のデモアプリが公開されています。

IONやIONを用いた学生証アプリについては、別の記事で解説していますので興味のある方はぜひご覧ください。

他大学でも学歴証明のデジタル化実証が進む

デジタル証明書の実証実験を行っているのは慶応義塾大学だけではありません。2020年10月からは「国際基督教大」と「南山大」、「芝浦工業大」、「東洋大」、「桜美林大」の5大学が参加し、ブロックチェーンを活用した学位証明・成績証明のデジタル化の実証実験が行われる予定です(2020年10月4日現在)。

学歴証明のデジタル化を進めることによって、海外の優秀な人材や留学生を獲得しやすくなることが期待されています。

まとめ

本記事でも紹介したように、学歴証明などにブロックチェーンが活用され始めています。前提として、信頼できる第三者機関(大学など)が資格情報を認証した上でブロックチェーンを活用する必要がありますが、組織をまたいだ証明や個人情報の選択的開示ができる点がメリットだと言えるでしょう。

なお、今回紹介した教育分野での活用方法の他にも、ブロックチェーンはブランド品の真贋(しんがん)判定や食品のトレーサビリティ担保されており、その事例については別の記事でまとめています。

▼詳細はこちら
高級ブランド×ブロックチェーンの事例紹介!偽造品防止やエシカル消費、新たな市場開拓も?
【事例】「IBM Food Trust」世界の食品・小売大手が加わるプラットフォームとは?

参考資料:
新学習指導要領について
教育の情報化の現状と今後の方向性
学校でのオンライン授業に向けて必要なこと――理念の共有とサービス選定
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