FRAME00 CEO 原麻由美氏・CTO aggre氏【特別インタビュー前編】

FRAME00 CEO 原麻由美氏・CTO aggre氏【特別インタビュー前編】

はじめに

★The English version of this interview can be read at the following link(Translated by FRAME00, Inc.). 

ブロックチェーン業界で活躍するプレイヤーにスポットライトを当てる特別インタビュー、今回のゲストは「フレームダブルオー株式会社」(FRAME00, Inc.)CEOの原麻由美さんとCTOのaggre(アグリ)さんです。

今回は前・後編の2部構成でお届け。インタビュー前編では、多くの海外ユーザーを巻き込みながら成長している「Dev Protocol」にフォーカスを当てていきます。

プロフィール 】
CEO:原麻由美(はら まゆみ)さん 
連続起業家。2011年に起業後、様々な業界で10年以上の事業開発、ブランド構築実績を持つ。2014年、日本の伝統職人の仕事が経済的に過小評価されている課題を発見し、2015年FRAME00設立。2018年、家族3名のファウンダーで Dev Protocol をスタート。 

CTO:aggre(アグリ)さん 
ウェブ/ブロックチェーンデベロッパー。オープンなインターネット技術に傾倒し、最新の技術スタックと技術的発想による課題解決を得意とする。Web Platform Study Group(旧Polymer Japan)などOSSコミュニティも運営。OSSとウェブとブロックチェーンとアニメが大好き。 

オープンなアセットの収益化を実現するDev Protocolとは?

―本日はよろしくお願いします!まずはFRAME00(フレームダブルオー)のサービスについてご紹介をお願いします。あわせて、解決したい課題についても簡単に教えてください。

原さん まず、私たちはオープンな資産(アセット)を収益化し、サステナビリティを実現するテクノロジー「Dev Protocol」を開発しています。Dev Protocolで解決したいのは、価値ある活動が経済的な評価を受けられずに持続できないという課題です。

たとえば、オープンソース・ソフトウェア(OSS)であれば、技術的な価値はみんなが認めているものの、OSSに対する経済的評価が紐付いていません。こうした課題に対して、あらゆる価値ある活動が経済的な評価を受けられて、収益化できるテクノロジーを作っています。

支援者にもインセンティブがある点が従来の寄付モデルとの違い

原さん Dev Protocolの一番の特徴はステーキングを実装している点です。クリエイターの活動を支援する人たちは、Devトークンのステーキングを通じてクリエイターを支援することができます。ステーキングなので、支援者自身にもステーキングの報酬が分配されます。

クリエイターとは?:Dev Protocolにおいては、OSSやYouTubeのようなオープンで社会的利益となるモノを作っている人を指す概念。クリエイターは自身の資産をDev Protocolでトークン化して、”クリエイタートークン”を作り、クリエイタートークンを持つ人は、ステーキングを集めるとクリエイター報酬を受け取ることができる。クリエイタートークンの所有権を表すProperty ContractがERC20規格に準拠しているため、その一部を販売することができる。クリエイタートークンの購入者は、クリエイター報酬から受動的に収入を得ることができる。

ステーキングとは?:トークンをコントラクトに預け入れて、ネットワークに貢献する行為のこと。預けたトークンの量に応じて、ステーキング報酬が分配される。現在は公式DappのStakes.socialでステーキングできる。

Devトークンとは?:Dev ProtocolのERC20トークン。クリエイターの資産(property)に対してDevをステークする。Devは、 Dev Protocol上のステーキング量とトークン化された資産の数に応じて新規に発行される。DevはUniswapなどの取引所で、ETHと交換可能。また、クリエイターの支援者(=パトロン)は、ステークしたトークンの量に応じてステーキング報酬(Dev)が得られるため、寄付とは違い、支援者に対する金銭的なインセンティブがある。これにより、オープンアセットのための全く新しい金融システムを実現する。

aggre(アグリ)さん OSSって基本的に無償で公開されているものなので、使う分には一切お金はかかりませんし、要求されることもありません。だから、OSS開発者を支援しようと思うと、基本的には寄付するしかないんです。

ところが寄付に頼った結果、OSSのサステナビリティが非常に問題視されています。寄付モデルは利他的な行為に基づいているので、寄付に依存するのはそもそも無理があるんです。だからこそ無料で使えるものに対する寄付以外の支援方法が必要だと考えていて、ステーキングという発想に至っています。

Dev Protocol説明資料より(https://stakes.social/how-it-works) 

寄付というスキームの課題

―ステーキングの導入によって、支援する側にもインセンティブがある構造になっているんですね。寄付の課題について、もう少し詳しく伺えますか? 

aggreさん 例えば、実際の統計を見ると、OSSに限って言えばプロジェクトの83%は1年以内に活動が停止または停滞しています。基本的にOSSの場合、開発にフルコミットできるのは十分な寄付を集められている人だけです。そうした人たちだけがOSSをきちんとメンテナンスし続けられる環境にあります。

Dev Protocol説明資料より(https://stakes.social/how-it-works) 

一方でほとんどのプロジェクトはそうした環境にはありません。個人の可処分時間を上手くやりくりして、オープンソースに貢献し続けているんです。だから、寄付というスキームに対する課題感は強いですね。OSSに寄付をするプラットフォーム自体はありますが、タレント性のあるプロジェクトにしかお金が集まらないという問題もあります。

原さん OSSの開発以外に、寄付を集めるためのPRやマーケティングも必要になってくるんです。

aggreさん それに多くの場合は寄付って1回で終わっちゃうので、寄付し続けてもらうには開発者が開発以外の努力をしないといけません。だからこそ、(本業の傍ら)隙間時間で開発している開発者にとっては負担が大きい。仮にいちど寄付が集まったとしても、集め続けないといけないので開発が続かないケースもあります

Dev Protocolの海外利用者が急増した理由

―2020年6月に海外の利用者が急増したと伺いました。きっかけは何だったのでしょうか?

原さん 「Stakes.social」というサービスを開発していて、開発者向けの先行リリースがちょうど2020年6月でした。その先行リリースを見た個人投資家のひとりがDev Protocolのコミュニティ(Discord)にやってきて、私たちにたくさん質問をしてきたんです。

その後、その方が友だち数人にDev Protocolを勧めてくれて、そしたらその友だちがさらに友だちに勧めてくれて、純粋に口コミだけで一気に広まり、その結果Uniswapの取引量が世界7位にまで上昇し、注目を集めました。本当に偶然、熱心な投資家の方がDev Protocolを見つけてくれて、他の方に勧めてくれたのが海外で話題になったきっかけでした。 

ただ、海外で話題になるずっと前から英語での情報発信を続けていて、MediumにもDev Protocolに関する英語のコンテンツがたくさんあります。最初の個人投資家の方も英語のコンテンツを読んで、私たちのことをある程度知っている状態でDiscordに参加してくれました。

結果として、Dev Protocolのスキームやビジョン、開発チームのコミット度合いなど、本当に色んな面で支持していただけて、「Dev Protocolはビジョンが良い」「チームが良い」と、口コミで広げていただけた感じですね。

―情報発信を継続して丁寧にやっていった結果、海外の個人投資家の目に留まって、そこから広がっていったですね。

原さん 何かテクニックを使ったわけではないですが、信用構築には時間をかけていました。自分たちを信用してもらえるようなコンテンツやプロダクトづくりは意識しています。 

Dev Protocolに参加するOSS開発者を集めた方法とは?

―Dev Protocolに参加しているOSS開発者たちは、必ずしもブロックチェーンや暗号通貨に詳しくないと思います。そういった人たちはどうやって巻き込んでいきましたか?

原さん MVP(Minimum Viable Product)の段階では、ブロックチェーンに慣れていないOSS開発者に対して、かなり丁寧にDev Protocolの仕組みを説明していました。ときには1on1のような形でミーティングをしたこともありましたね。

一方で現在はコミュニティに参加している人たちが、新しく参加した人に対して自発的にナレッジを共有してくれる流れができています。

―上手くコミュニティの力も借りながら、ナレッジをシェアする文化を作っているんですね。ちなみに、Dev Protocolに参加している開発者が開発したOSSの総ダウンロード数はすでに80億を超えていると思います。ここまで大きな数値になった理由は何だったのでしょうか?

aggreさん MVPの頃から我々が取り組んでいた領域が、オープンソースの中でも特にJavaScriptの開発者だったんですね。npm(node package manager)というパッケージマネージャーがあって、npmで公開されているOSSにいったん限定していました。

npmの中で非常に人気のライブラリを作っている開発者に直接連絡を取って、1on1でアタックしたんです。アタックしてみたらその開発者の方に参加してもらえて、彼の参加をきっかけに他の開発者も利用してくれるようになりました。

現在ではDev Protocolを利用しているOSSの総DL数が多くなりましたが、当然プロジェクトごとに偏りはあります。大小問わずDev Protocolに参加してくれている状況ですね。

タイムライン

自動的に生成された説明
Dev Protocol説明資料より(https://stakes.social/how-it-works

OSS開発者の課題感が強かった 

人気ライブラリの開発者を巻き込めた理由は何だったのでしょうか?

aggreさん 課題感が強かったというのが大きいと思います。OSSの開発者はみんな自分のプロジェクトに集中したいけど、続けていくためのお金が無い、寄付が集まらないという共通の課題を持っています。その課題に対する解決策を誰もが模索している感じはしましたね。実際、その開発者の方もすぐに参加を決めてくれました。

原さん 一方で、仮想通貨=詐欺が多くて怪しいという固定観念がまだまだ根強いとも感じています。OSS開発者の中には仮想通貨に慣れてない人も多いので、その部分はかなり丁寧に説明していますね。

直接アタックしたnpm開発者の方も「自分が参加するのは良いけど、他の開発者に自分から勧めることはできない」と言っていました。ただ、最近ようやくDev Protocolを認めてくれて、友達にも勧めて、友達のプロジェクトにステーキングしてくれています(笑)。

プラットフォーム選定で重視するポイント

それは嬉しいですね!ところで現在、DevトークンはEthereumを利用していると思います。プラットフォーム選定についてはどう考えているのでしょうか?将来的に変更する可能性があれば教えてください。 

aggreさん 現状だと、中期的にはEthereum以外のネットワークは考えていません。ユーザー基盤として、Ethereumがもっとも多くユーザーを集めていることや、(我々が)分散性を非常に重視しているからです。トランザクション性能の話はありますが、中期的にはEthereumが適切な選択肢だと思っています。 

長期的には、Ethereum以外のネットワークも選択肢に入ってくると思っていますが、決定打はまだ無いですね。今後、ネットワークの成長を見ながら調査するかもしれません。 

―なるほど、ありがとうございます。また、PolkadotやCosmosのようなインターオペラビリティの課題を解決するプロジェクトについてはどう見ていますか? 

aggreさん インターオペラビリティ(相互運用性)に関しては関心領域ではあります。やはりひとつの大きなプロジェクトしか成立しない状況は危険だと思うんですよね。そのプロジェクトが衰退すると全体が萎んじゃうので。 

我々のようなプロトコルレイヤーのプロジェクトからすると、プロトコルが対応するネットワークのユーザー数や、ユーザー層の広がりは気にしているところです。 

ユーザー層の広がりや分散性という観点からEthereumを選択しているんですね。分散性という観点に関連して、Dev Protocolで「Quadratic Voting」というガバナンスの仕組みを採用しているのはどうしてでしょうか?

aggreさん Dev Protocolでは、いくつかの変数をユーザーが提案して変更できます。提案は誰でもできるので、ユーザーにとって一番良いものを投票して決めていただく形です。

Quadratic Votingはひとりが複数回投票できる投票システムで、その前提としては単なるひとり一票の多数決だと正しい選択肢を導けないという考え方があります。順位付けをした上で複数の選択肢に投票することができれば、全体にとって妥当な選択肢を選べるという考え方です。

例えば、ひとり一票のみ投票できる場合、(全員が1番良いと思う選択肢にしか投票できないので)ほとんどの人にとって2番目に良い選択肢は選ばれません。ですが、投票結果1位と2位が僅差であれば、ほとんどの人が2番目に良いと考えている選択肢の方が、コミュニティ全体にとってより良い結果になるはずです。

コミュニティにとってより適切な答えを導けると思ったことと、Dev Protocolとの相性が良かったので、Quadratic Votingを採用しました。

なるほど。Quadratic Votingの採用にあたって参考にした事例などはありましたか?

aggreさん 特に無かったんですが、坂井豊貴先生の「多数決を疑う」は大変参考になっています。

Microsoft for Startupsについて

―FRAME00はMicrosoft for Startupsに参加されていると思いますが、参加のきっかけは何だったのでしょうか? 

aggreさん 参加したクリプトの勉強会に偶然、Microsoftの廣瀬一海さん(デプロイ王子)も参加されていて、懇親会でDev Protocolについて話したら興味を持っていただけたのが最初のきっかけです。その後、Microsoftさんにどういう形でご支援いただけるかを話していた流れでMicrosoft for Startupsを紹介していただき、参加を決めました。 

実際に参加してみると、Azureの無料利用枠をいただけてインフラコストを削減できるので、我々のようなスタートアップにとっては非常に助かっています。あとはビジネスに対するフィードバックもいただけるんですよね。Microsoftさんは実際にブロックチェーンの社会実装に取り組んでいるので、そうした一次体験を持ちながらクリプトの領域でフィードバックをくれる会社はすごく貴重だなと思います。 

続きは後編へ

FRAME00の原さんとaggreさんへのインタビューはまだまだ続きます!

後編では、OSSの収益化が難しい要因や、FRAME00設立のきっかけについて深堀りしていきます。

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