Stake Technologies CEO 渡辺創太 氏【特別インタビュー中編】

Stake Technologies CEO 渡辺創太 氏【特別インタビュー中編】

はじめに

ブロックチェーン業界で活躍するプレイヤーにスポットライトを当てる特別インタビュー、今回のゲストはStake Technologies株式会社CEOの渡辺創太さんです。

本企画は前・中・後編の3部構成でお届け。インタビュー前編では、パブリックチェーンのマネタイズ方法やStake Technologiesのビジネスモデルについて伺いました。中編となる今回は、同社がコミットするWeb3.0や分散型のガバナンスについて掘り下げていきます。

渡辺創太氏プロフィール

Stake Technologies株式会社CEO。1995年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。インド、ロシア、中国、アメリカでインターンシップ活動を経験後、2018年シリコンバレーのブロックチェーンスタートアップChronicledに就職。帰国後、東京大学大学院ブロックチェーンイノベーション寄付講座共同研究員(2019-2020)を経て、Stake Technologiesを現CTOと創業。

Web3.0に注目している理由

現在のWeb2.0の課題とWeb3.0にコミットしている理由をお聞かせください。

Web3.0とは?:正確な定義は無いが、末端にいるユーザーが自身のデータの所有権を持って制御できるWebのこと。ユーザーの送信データや受信データ、およびユーザーが何を支払い、その対価として何を受け取っているのかが検証可能なWebであり、ブロックチェーンやIoT、機械学習(AI)などのテクノロジーによって実現すると考えられている。

Web2.0ってマネタイズモデルがほとんど広告なんですよね。Facebookのマネタイズモデルを見ると90%以上が広告です。広告となると結局、人のアテンションを引くことがお金に繋がるんですが、これって適切じゃないと思っています。

例えば、フェイクニュースや、自分と関係の無い事柄に怒りを抱かせるようなコンテンツが世の中の注目を集めてしまう。広告が最適化した先には、人を怒らせるんですよ。それで収益を上げている企業もあります。そういうところに(Web2.0の)課題感はありますよね。

Web2.0のモデルでは、サービスの提供者(企業)はユーザーからの許可を得た上でデータを吸い上げて、分析することで収益を上げています。これが将来的には逆になるだろうなと思っていて、データはあくまでもエッジ側(ユーザー側)にあって、(中央のクラウドではなくエッジ側で)処理されて、サービスが提供される世界になるんじゃないかと。そうなると、ブロックチェーンやDID(Decentralized Identifier)みたいなものはすごく相性が良いと思っています。

Web3.0の領域でどんなことをやっていきたいと考えていますか?

いまコロナが流行しているなかで、監視型の資本主義みたいな動きが世界的に高まってきていると思うんです。それは日本も例外ではなくて、そうなると権力側が民衆をある意味では監視するわけじゃないですか。そのときに民衆側も権力を監視するテクノロジーが絶対に必要になってくると思います。

三権分立みたいな形が良いということですよね。

そうです。その意味でも個をエンパワーメントする技術が提供していきたいなと。それが健全な良い社会に繋がるんじゃないかなと思っていますね。

各国ごとのWeb3.0があるべき

個人データの取り扱いの話も出てきましたが、日本と海外でプライバシー意識への違いはどのように感じていますか?例えば、ヨーロッパは個人情報保護法がかなり進んでいる一方で、中国は超中央集権的ですし、シリコンバレーはどちらかといえばオープンでパブリックな風潮があるように感じます。

国ごとにプライバシーに対する関心度合いは全然違うと思います。ただ、これに関しては我々がどうすることもできません。例えば、ドイツなんかはプライバシーに対する意識って元々そこまで高くなかったと思うんですよ。どうしてプライバシーに拘っているのかというと、ナチスの歴史があったからで、秘密警察がいて家の中に盗聴器を仕掛けられるみたいなことがあったわけです。

プライバシーが脅かされると、最終的にはナチス・ドイツに行き着いてしまうのを理解しているんだと思います。その状態が悪だということが、向こうではコンセンサスが取れている。だから法律を作って個人情報をしっかり保護していきましょうという話になっているんだと思います。

シリコンバレーの方だと、歴史というよりはテック的な要素が強いと思います。あそこってサイファーパンク宣言があったじゃないですか。

サイファーパンク宣言とは?:サイファーパンク(cypherpunk)とは、社会や政治に変化をもたらす手段として、暗号技術の利用を推進する活動家のこと。サイファーパンク宣言は、その基本的な考え方を表したもの。

▼サイファーパンク宣言の和訳全文はこちら
ビットコインに実は40年の歴史【サイファーパンク宣言を読む】全文和訳掲載

プライバシーは自分の秘密情報を隠す力ではなくて、自分の情報を公開する権利だと書かれているんですよね。感覚の話になってしまうのですが、ヨーロッパとは違うプライバシーの捉え方をしていると思います。

制限するという方向ではなくて、元々プライバシーは個々人にあるべきという感じで前提が少し違う気がしますね。

そうですね。シリコンバレーは技術ドリブンで、ドイツは歴史ドリブンなのかなと思います。これらの国や地域に比べると、日本やアジアに関してはプライバシー意識が低いんですね。だから最近は、それぞれの国のWeb3.0があるべきだと思っています。アメリカのWeb3.0やヨーロッパのWeb3.0、中国のWeb3.0、日本のWeb3.0がそれぞれあるべきだなと。

ヨーロッパのWeb3.0が先行し過ぎているなかで、じゃあ日本のWeb3.0って何だっけなと。僕もまだ言語化できていないですし、考えないといけないと思っています。今年のWeb3 Summitで提案しようかなと。中国のWeb3.0とかめっちゃ気になります(笑)。

確かにそうですね(笑)。ちなみに中国といえば、今年4月にBSN(Blockchain-Based Service Network)を正式にローンチしました。PolkadotのチームもBSNと協議中との報道があるようですが、BSNについてはどう見ていますか?

BSN(Blockchain-Based Service Network)とは?:中国が2020年4月にローンチしたブロックチェーンのグローバルなインフラストラクチャネットワーク。ブロックチェーンサービスの開発・運用コストが大きく削減できるとされている。

▼BSNについてはこちら
BSNとは?中国発、ブロックチェーンの普及を推進する公共インフラ概要

BSNに関しては今後、中国は中国以外の国への展開にも力を入れるはずです。例えば、シンガポールをBSNに加え得るような際には、異なるネットワーク間での相互運用性が重要になるのではないかと思います。BSNに関しては非常に関心深くウォッチしていて、すでにBSNのパートナーとなっている「Chainlink」と弊社が、技術的に連携を開始したことを発表しましたが、布石は今後も打っていくつもりです。

参考:ステイク、Chainlinkと技術的連携を開始しPlasm Network上の分散オラクル構築へ

分散型の技術をどのようにアップデートしていくのか

注目しているWeb3.0系の企業やプロジェクトがあれば教えてください。

プロジェクトとして一番気になっているのはもちろんPolkadotなんですが、最近だとWeb3.0に投資しているVCが気になっていますね。例えば、ヨーロッパのVCで「Fabric Ventures」や「Outlier Ventures」は、Webページを見てみると考え方がすごく整理されています。Web3.0の価値観やWeb3.0に投資する理由が綺麗にまとまっていて、筋道立てて書かれているので、読んでみるとすごく面白いと思います。

あとは、プロジェクトではないですが、分散型のガバナンスが大事だなと思っています。いま作ったパブリックチェーンは10年後には古くなるので、それをどうアップデートしていくのか、どのようにコンセンサスを形成していくのかがすごく大事です。

(Web3.0系のプロジェクトでも)いま中央集権的なマネジメントしている人たちが、(分散化のために)これから段々といなくなるはずで、その状況のなかでアップデートとコンセンサス形成のための仕組みづくりがすごく大事だなと思っています。

例えば、Polkadotの分散ガバナンスはかなり進んでいます。Polkadotの場合は最大24人で構成される「Council」という組織と(Polkadotのネイティブトークンである)DOTの保有者なら誰でも投票ができる一般投票があります。アメリカの選挙みたいな投票システムができていて、こういう仕組みがブロックチェーン上で実行されています。

Polkadotという生態系のなかで、完全にオンラインで、もしかしたら会ったことも話したことも無い人同士の間で意思決定をしていく。そのメカニズムを作るというのはかなりエキサイティングです。

続きは後編へ

中編はここまで!最終回となる後編では、日本人としてオープンソースに貢献する理由や、ひとりの起業家として将来的に取り組みたいことを伺います。

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