メンテナンス履歴にも使える?ブロックチェーンの活用事例を紹介

メンテナンス履歴にも使える?ブロックチェーンの活用事例を紹介

はじめに

長期的に使われる機械や機器、設備にはメンテナンスが不可欠です。工作機械や航空機のほか、多くの消費者が保有している自動車なども継続的なメンテナンスの対象となります。

一方でメーカーやサプライヤー、修理店、保険会社など、多くの主体が関わる業界(航空機や自動車など)の場合、メンテナンス履歴の共有が非効率だったり、一部履歴が欠けていたりするケースが少なくありません。

このような課題に対してブロックチェーン(分散型台帳技術)の活用が検討されています。本記事ではその概要と事例を紹介していきましょう。

本記事におけるブロックチェーンとは、特に断りがない限り、「Hyperledger Fabric」や「Corda」、「Quorum」といったパーミッション型(許可型)のブロックチェーンを想定しています。

メンテナンス履歴管理の課題

メンテナンス履歴(メンテナンスブック)は、住宅や設備、製造業、広告などの分野で使われる概念です。例えば、建物を長期的にメンテナンスしていく場合、所有者(顧客)情報や過去のメンテナンス履歴が管理され、必要なときに参照できる状態にしておく必要があります。

ただ、紙ベースで管理されているケースもあり、事後的な改ざんや紛失リスクは否定できません。

また、メンテナンス履歴を参照する主体が複数いる場合、安全にデータを連携する仕組みも不可欠です。しかし例えば、自動車産業のように多くのメーカーやサプライヤーで構成されている場合、データの共有や追跡は一筋縄ではいきません。

販売店や修理店などが異なる事業者の場合、顧客が購入したあとの車検や修理といったメンテナンス履歴を記録しておくのが難しくなります。さらに自動車の場合、二次流通市場も考慮する必要があります。

以上のように、多様な参加者の間で製品に関する追跡データを共有・連携するのは困難です。紙ベースの管理の場合、ライフサイクルの途中で一部履歴が追えないケースも生じています。

このような課題に対して、ブロックチェーンはどのように活用できるのでしょうか?

メンテナンス履歴の管理にブロックチェーンが活用できる理由

ブロックチェーンに書き込まれたデータは基本的に改ざんが困難です。また、分散台帳の更新がネットワークの参加者のコンセンサスを前提としているため、参加者によって検証されているただひとつの台帳として参照することができます。

一部の参加者間にのみ取引が共有されるブロックチェーンもありますが、全体として取引の整合性は担保されています。

仕組み上、なにか事故やトラブルがあったときに、ネットワーク内の事業者がデータを改ざんすることが困難であるため、記録されたデータ(定期点検の実施状況や修理履歴、事故歴など)には一定の信頼性が担保されています。したがって、異なる企業間でのデータ連携や証跡として利用するなどの活用方法が考えられているのです。

ただ、ブロックチェーン自体は、データの入力前の時点で何らかの不正が行われていた場合には対処できません。オラクル問題とも言われるこの課題に対しては様々なアプローチが研究されています。

例えば、IoTデバイスとブロックチェーンを開発する「VeChain」は、自社で販売するIoTデバイスの製造過程に認証機関による監査を入れることで、不正防止策としています。また、その他のアプローチとしては、分散型のオラクル実現を目指す「Chainlink」などが有名です。

メンテナンス履歴×ブロックチェーンの事例紹介

航空機部品のメンテナンス履歴を管理

Honeywell Aerospace

アメリカの多国籍企業「Honeywell」の子会社で航空エンジンや関連部品などを製造・販売する「Honeywell Aerospace」は、2018年12月より航空機の部品管理にブロックチェーンを導入し始めています。航空機の部品を徐々にデジタル管理へと移行し、その基盤としてブロックチェーンを活用することで、偽造品の防止を防ぐことができます。

そして、部品管理のデジタル化プロセスを進めながら、同社は航空機部品のメンテナンス履歴コストを削減しようとしています。ブロックチェーンを使ってメンテナンス履歴を管理することで、航空機のオペレーターやエンジニアは、過去にどの航空機で誰がどのメンテナンスタスクを実行したのかを把握することが可能です。もちろん、データの改ざんはできません。

Rolls-Royce、Block Aero

Honeywell Aerospaceのほかにも、世界3大航空エンジンメーカー「Rolls-Royce」もメンテナンス履歴の管理にブロックチェーンを導入しようとしています。同社は香港を拠点とするブロックチェーン企業「Block Aero」と共に、航空機エンジンのメンテナンスプロセスをブロックチェーンを活用して、デジタル化・自動化するための実証実験に取り組む予定です。

Renaultによる自動車のデジタルメンテナンスブック(メンテナンス履歴)のプロトタイプ

フランスの大手自動車メーカー「Renault」(ルノー)は、2017年に「Microsoft」やフランスのITコンサルティング企業「Viseo」と提携して、ブロックチェーンを活用した”Digital Car Maintenance”のプロトタイプを開発しています。

現在、自動車とその所有者に関するデータは、自動車メーカーやディーラー、保険会社、修理店といった各事業者が、それぞれ運用するデータベースで管理されているのが現状です。したがって、異なる事業者間(例えば、修理店と保険会社など)で特定の自動車・所有者のデータをやり取りし、自社のデータベースと照合する作業が非効率にならざるを得ません。

自動車と所有者に関する情報をブロックチェーンベースの共通基盤で管理して、自動車のメンテナンスブック(メンテナンス履歴)として利用することで、情報を管理する場所が1箇所に集約されます。そして、この情報へのアクセス制御権を自動車の所有者が持つことでデータのプライバシーも強化可能です。

中古車市場は時折、データの改ざんが発生することは当メディアの別の記事で紹介しましたが、自動車を販売したい人が中古車の購入希望者に対して、メンテナンスブックに記録された自動車の履歴(走行距離や修理歴など)へのアクセスを許可することで、購入希望者は透明性の高いデータを基に購入の意思決定ができるようになります。

参考:ブロックチェーンで中古車市場は健全化する?大手も取り組む事例を紹介

将来的にIoTを活用して、所有者の運転状況(速度や急ブレーキの回数など)などが紐付けられると、保険料を適正化するなど様々なサービス開発に繋がるかもしれません。

公開情報を見る限りは2017年のプロトタイプ以降、メンテナンス履歴の領域でさらに踏み込んだ実証実験は行われていません。しかし、Renaultは引き続きブロックチェーンに取り組んでおり、同社が2020年5月14日に投稿した以下の記事では「ブロックチェーンを自動車産業の変革のベクトルと考えている」とした上で、近い将来ブロックチェーンベースのサービスが導入されるはずだと明言しています。

参考:Groupe Renault has been working on blockchain technology since 2015 to have real-time and secured transactions

メンテナンス履歴の管理は他の領域でも

その他にも当メディアでは、航空業界や建築業界において、製品や施設のメンテナンス履歴に、ブロックチェーンを活用している事例を紹介しています。こちらも併せてご覧ください。

まとめ

データの改ざんを困難にし、異なる事業者間でのデータ連携コストを削減し得る点がブロックチェーンの強みです。本記事では、航空・自動車業界の事例を紹介しましたが、継続的なメンテナンスが求められ、複数の組織間で(部署間で)データを連携する必要がある領域であれば、ブロックチェーンのメリットを享受できる可能性があります。

また、本記事で紹介した事例も含め、将来的にはブロックチェーンを活用してメンテナンス履歴「だけ」を管理するというよりも、ブロックチェーンを活用した企業や業界のDX(Digital Transformation)の一環として、メンテナンス履歴もブロックチェーンで管理されるようになると考えた方が良いかもしれません。

なお、当メディアを運営する株式会社digglueでは、AIやブロックチェーンを活用し、企業様を支援するサービス(コンサルティング及び教育事業)を行っております。

「ブロックチェーンを使ってみたいが具体的にどうやって開発を進めれば良いのか分からない」、「どのブロックチェーン基盤を選べば良いのか分からない」など、何かお困りごとがございましたら、下記フォームにてお気軽にお問合せください。

参考資料
Honeywell uses blockchain and startup approach to digitize aircraft parts
Four Ways Blockchain will Change Aircraft Maintenance
Rolls-Royce Blockchain Innovation Challenge: Home | #RRBIC
Rolls Royce, SIA host blockchain challenge for engine maintenance
Groupe Renault innovates with VISEO and Microsoft on the Blockchain

製造業におけるブロックチェーン活用方法とは?

CTA-IMAGE 【ホワイトペーパー】製造業における業務変革をテーマに、業界の課題に対してブロックチェーンを活用する方法を紹介します。

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