当メディアでは、様々なBaaS(Blockchain as a Service)や事例のひとつとして、Amazonが提供するBaaSである「Amazon Managed Blockchain」について取り上げました。今回は、同じくAmazonが提供する台帳関連サービスとして、「Amazon Quantum Ledger Database(以下Amazon QLDB)」について紹介します。
QLDBは、「Amazon Managed Blockchain」と同様、ビジネスにおける業務の円滑化・簡略化など、幅広い側面での活躍に期待されており、今後のユースケース拡大に注目が集まっています。
「Amazon Quantum Ledger Database」とは?
Amazon QLDBとは、「改ざん耐性を備え暗号的に検証可能な履歴を提供するフルマネージド型台帳データベース」のことを表します。
Amazon QLDBは、不変的かつ透明度の高い情報管理を可能とするとともに、データの変更や削除の履歴を暗号的に記録することで、当該データの信頼性がより高度なレベルで担保します。
「Amazon Managed Blockchain」との違い
Amazon Managed BlockchainとAmazon QLDBの最大の違いは、前者が分散的な台帳ベースを構築しているのに対し、後者は中央集権的なそれを構築している点です。その違いは、両者のサービス利用用途・目的が異なる点に起因します。
Amazon Managed Blockchainは、「分散化された信頼が必要で、複数の当事者がそれぞれデータを検証できるようにしたい用途向け」である一方、Amazon QLDBは「データは不変で改ざんできない状態にしたいが、分散化は必要ない(単一の機関が台帳を管理すればいい用途向け」となっています。
中央集権的なAmazon QLDBの特徴としては、事前合意が必要なケースと比べて処理が2~3倍高速である点が挙げられます。Amazon QLDBでは、コンセンサスルールが不要なのでスケーラビリティが格段に高く、SQL APIなどを使って通常のデータベースと同じように操作できるのが魅力でもあります。
従来のデータベースとの違い
従来のデータベースとの大きな違いは、データ検証可能性の有無にあります。
従来のデータベースの場合、データベースからログを生成しており、管理者がデータを改ざんすることが容易となっていたため、データが変更されていないこと(データの信憑性や正確性)は検証できませんでした。
それに対してAmazon QLDBはログを記録するデータベースであるため、データの履歴を保存するインデックスと、データへの事後的な追記(変更や削除)をブロックチェーンに格納するジャーナルを活用することによって、データの変更を検証することが可能です。
従来のデータベースと比較すると、Amazon QLDBは、非常に高度な改ざん耐性を備えた台帳管理専用データベースとして機能してくれるのです。
Amazon QLDBの必要性
では、昨今、既存のエコシステムからAmazon QLDBのようなサービスへの移行の動きが活発化しているのでしょうか?
その理由は、主に2点挙げられます。
(1) 情報の透明化が要求されるデータ社会
(2) 情報のデータ化に伴う業務簡略
(1) 情報の透明化が要求されるデータ社会
ここ数年間、あらゆる分野が比類のないテクノロジー成長を遂げてきました。世界中で急速にデジタル化が進むことで、企業が様々なプロセスにおいて扱うデータは膨大かつ複雑なものになりつつあります。そんな中、将来的に企業には検証可能で信頼できるデータ管理及び顧客へのデータ開示が求められます。
そこで有用なのが、Amazon QLDBのような特徴を持つデータベースです。
Amazon QLDBは各企業に対し、データの不変化・透明化・暗号化による検証可能性をもたらし、データの信頼性を向上させます。裏を返せば、Amazon QLDBによってデータの信頼性が担保されることになります。
これにより、各プロセスにおける透明性の高いデータを求めるエンドユーザーとの安心な取引にも繋がります。
(2)情報のデータ化による業務簡略
従来、各企業におけるデータ文書及び帳簿等の正確性保持の役割は、監査組織などが担っており、こういった監査組織によるデータ追跡は、長い時間・多額のコストを費やして行われてきました。
しかし、ここにAmazon QLDB等ブロックチェーン関連のデータベースを活用することで、データ管理が非常に容易になり、業務の簡略化も図ることができます。Amazon QLDBは、データの透明化を実現することで、業務の円滑化・簡略化にも貢献します。
Amazon QLDBのメリット
Amazon QLDBがこれほどまでに注目を浴びるのは、特に以下4点のメリットがあることが要因だと考えられます。
(1)データの不変性・透明性
(2)アクセスの容易性
(3)暗号化を通じた対改ざん性
(4)拡張の容易性
データの不変性・透明性
Amazon QLDBのメリットのひとつとして、上でも述べてきたように、その「不変性・透明性」が挙げられます。
Amazon QLDBの「不変性・透明性」という特徴は、システム内で発生するすべてのデータ変更に関する正確なエントリを格納するジャーナルが支えます。
ジャーナルは本質的に不変的な性質を備えており、トランザクション及びデータ変更の履歴を正確に保存する能力を有しています。
アクセスの容易性
Amazon QLDBは、ユーザーがデータに簡単にアクセスできる点も魅力的です。
Amazon QLDB では PartiQL を用いてデータにアクセスし、操作することができます。
PartiQL とは、QLDB ドキュメント指向のデータモデルへの SQL 準拠のアクセスをサポートする新たなオープン標準のクエリ言語を指します。
そしてユーザーは、アプリケーションにおいて、トランザクションやデータの変更履歴全体を簡単に確認できます。
暗号化を通じた対改ざん性
Amazon QLDBにおいて、データ変更履歴は、各変更に関連付けられている暗号化ハッシュを通じて検証することができます。
また、データのハッキングを防ぐべく、SHA-256暗号化ハッシュ関数を利用しているため、データを変更すると、変更の証拠としてダイジェストが作成される仕組みとなっています。
暗号的にデータの整合性を検証できるため、対改ざん性は強固なものになっているとともに、データが提供するクエリインターフェイスを最大限に活用することもできます。
拡張の容易性
Amazon QLDBは簡単にスケーリングできます。
この特徴は、シームレスなスケーリングオプションを可能とするため、Amazon QLDBの利用者としては非常に魅力的な要素のひとつです。
また、Amazon QLDBはブロックチェーンサービスとは異なり中央集権的なデータベースであるため、ノードと連携してトランザクションを検証する必要がなく、データ転送をより高速に実行することが可能となっています。
Amazon QLDBの使用例
では実際、Amazon QLDBのユースケースには一体いかなるものがあるのでしょうか?
以下では、具体的な使用例を見ていきます。
金融
銀行では多くの場合、顧客の銀行口座間のクレジットカード及びデビットカードによる取引などの重要データの追跡に一元管理台帳的なアプリケーションが必要になります。
複雑な監査機能を持つカスタム台帳を構築する代わりに、Amazon QLDB ですべての金融トランザクションの正確かつ完全な記録を簡単に保存することが可能になります。
小売及びサプライチェーン
小売業では、製品原産地や出荷製品の品目数・出荷先・出荷担当者など、製品サプライチェーンのあらゆる段階に関するデータにアクセスしなければならないことが多々あります。
Amazon QLDB を使用すると、製品がいかなる物流局面にあっても、在庫や物流に関する正確な履歴を確認し、追跡することできます。
保険
保険関連のアプリケーションの多くは、保険金の請求処理の履歴をより正確に追跡する手段を必要とします。
保険会社は、リレーショナルデータベースを使用して複雑な監査機能を構築する代わりに、Amazon QLDB を使用することで、一生涯にわたる保険金請求の履歴を正確に管理できます。
また、不一致の可能性が発生した場合、請求データの整合性 (例えば、請求が正確に提出されたかどうか) が暗号的に検証されるため、データの入力ミスや操作ミスに対応したアプリケーションの耐障害性も確保されます。
まとめ
分散型ブロックチェーンにこだわる必要はないが、高速処理・不変性などの特徴を取り入れたいユーザー向け
AWSも明言している通り、Amazon QLDBはブロックチェーンではありません。
あくまでも課題解決に最適な方法論の提案のひとつとしてQLDBは提供されており、改ざん耐性を備えた台帳管理専用データベースという意味でブロックチェーン関連サービスと称されています。
しかしその中で、高速処理や対改ざん性などの特徴は備えたまま、信頼できる中央機関を中心に据える台帳管理サービスは、比較的取り組みやすいサービスとして認識されています。