DXにおいてブロックチェーンが果たす役割とは?DX事例も紹介

DXにおいてブロックチェーンが果たす役割とは?DX事例も紹介

はじめに

大手メディアなどで、DX(Digital Transformation)という言葉を頻繁に目にしている方も多いのではないでしょうか?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で物理的なやり取りが制限され、業務フローや組織の見直しを余儀なくされている企業も少なくないはずです。コロナ後を見据え、DXを推進する省庁の設置を求める提言も自民党内から出てきています。

クラウドや機械学習、IoT、5GなどがDXを支えるテクノロジーとしてよく挙げられますが、ブロックチェーン(分散型台帳技術)もまた、DXを推進する技術のひとつです。本記事では、DXの概要とブロックチェーンを活用したDX事例を紹介していきます。

そもそもDX(Digital Transformation)とは?

DXに関する説明は話者によって様々あるので、本記事では概念の発祥と経済産業省が公表している「DX推進ガイドライン」での定義を紹介しておきましょう。

DXという概念は2004年、ウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン教授が初めて提唱したとされています。そこでは「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」ことがDXであるとされていました。

次に経済産業省が取りまとめた「DX推進ガイドライン」における定義を見てみましょう。ガイドラインは2018年12月に公表されたものです。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

引用:https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf、脚注1

こちらの定義は、企業の組織やビジネスモデルをテクノロジーによって変革するというニュアンスが強くなっています。

よくDXの事例として挙げられるのが、「Amazon」や「Uber」、「Airbnb」です。例えば、Amazonは「店舗へ買い物に行く」「店員におすすめの商品を教えてもらう」などの行動や機能を、巨大なECプラットフォーム上で代替しました。

消費者の買い物は、AmazonのWebサイト上で完結しますし、店員の観察と経験からオススメされていた商品は、購買履歴などに基づいたレコメンド機能に代替されています。

Amazonは小売業界を文字通り一変させたと言えるでしょう。私たちの身近にあるDXの成功事例です。

参考:DXに取り組まなければ「2025年の崖」が待っている・・・?

2018年に経済産業省が日本におけるDXについてのレポートを出しています。DXの必要性は、コロナショック以前から認識されていました。

同レポートでは、日本企業のITシステムが事業部門ごとに構築され、複雑化 ・ブラックボックス化している現状が、DXを妨げていることなどが指摘されています。これら課題を克服できない場合、2025年以降は最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があると試算されているのです。

参考:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(METI)

DX推進においてブロックチェーンが果たせる役割

ブロックチェーンはその特性上、データの改ざん防止や真正性を担保する手段として役立ちます。さらに、特権的な管理者を置かずにネットワークを構築可能です。これらの特徴のおかげで異なる部署や企業間でのデータ連携がやりやすくなります。

参考:改ざん防止にブロックチェーンが効果的なケースは?パターンごとに整理する

すべての取引の起点となる契約書に関しても、ブロックチェーンを活用した取り組みが進められています。海外では電子契約サービス大手の「DocuSign」が積極的に投資を進めており、国内では弁護士ドットコムの運営する電子契約サービス「クラウドサイン」がブロックチェーン企業「LayerX」との業務提携を発表しています。

参考:契約書にブロックチェーン?電子契約におけるブロックチェーン事例紹介

また、ブロックチェーンベースの共有台帳は、すでに多くの企業で導入されている基幹システムやSaaSなどとの連携を通して、部署や企業を超えて使える共通の参照先として使うことができます。したがって、業務フローを一気通貫してデジタル化できる可能性を秘めているのです。

ブロックチェーン×DXの事例紹介

それでは、ブロックチェーンを活用してDXを実現している事例を紹介していきましょう。

中国・深セン市の電子発票システム

まず、企業だけではなく規制当局も参加したDX事例としては、中国・深セン市での電子発票システムが挙げられるでしょう。

「発票」は商取引の実在を証明するもので、中国の税務局が税金を漏れなく徴収するための書類です。脱税防止のために、すべての発票は税務当局から発行されています(紙・電子、書式問わず)。会計上の売上=発行した発票の総額であることを求められる場合もあり、税金の還付申請などを行う際の証憑としても使われています。

ブロックチェーン上で電子発票を一括管理

深セン市の発票システムは「Tencent」(腾讯)が提供するブロックチェーン基盤「TBaaS」(Tencent Blockchain as a Service) 上で2018年8月にローンチされました。中国における発票システムの電子化は規制当局の協力が不可欠であり、時期を考慮すると取り組みとして先進的だといえるでしょう。

電子発票システムは、すでに各社や個人が導入しているオンラインサービス(税務局の電子発票の発行プラットフォームや、発票の管理ソフト、会計ソフトなど)と連携することで、発票の発行から会計ソフトに入力された取引データまでを、TBaaS上の共通基盤で管理できるようになっています。

したがって、例えば1枚の発票を管轄の異なる税務当局に対して二重に経費計上するといった不正はできません。また、共通基盤の利用によって、税金の還付申請から受理までの速度が大幅に向上し、申請から数秒でTencentの決済アプリ「WeChat Pay」で還付金を受け取れるようになっています。

なお、操作は従来のアプリケーションで行えば良いため、ユーザーの使用感はこれまでと変わりません。

すでに大規模導入されている

2019年3月には、年間20億人が利用する深セン市内の地下鉄(深セン地下鉄)でも導入され、深セン地下鉄で16万枚/日のペースで発行されていた発票がデジタル化されました。その他、タクシーや空港バス、銀行、スーパーなどでも活用されています。

2019年11月時点で深セン市内の7,600社以上がアクセス、1,000万件以上の電子発票が発行され、その合計額は70億元(約1,100億円)を突破しました。さらに、Tencentは「中国情報通信研究院」や深セン市の税務当局と共に、ブロックチェーンベースのInvoice(請求書)の国際標準の策定に取り組んでいます。

なお、上記の電子発票システムを含め、Tencentのブロックチェーン領域での取り組みについては以下の記事でも解説しています。

航空機部品の追跡システム(GE Aviation)

安全性を最大限に確保するために、航空会社は航空機に使われている部品やエンジンの来歴を完全に把握していなければなりません。部分的にでも来歴が分からないパーツは交換する必要があります。

しかし、部品の追跡は紙ベースで行われるため、履歴が不完全になることが少なくありません。エンジンの販売やリースの際、部品の履歴を適切に説明できないが故に交換しなければならず、(本来であれば市場価値が数百万ドル規模の)使用できない中古品が発生してしまいます。

このような課題に対して、General Electric傘下で航空機用エンジンの大手サプライヤー「GE Aviation」は、航空機用の部品を追跡するサプライチェーン管理システムにブロックチェーン上を導入することで、部品の照合にかける時間とエラーの発生を大幅に削減しています。このシステムは他社と共同で利用可能です。

上記のシステムは「Azure Blockchain Service」を利用して開発されており、部品の追跡以外にもパートナー企業とのスムーズな収益金分配にも役立っています。

貿易電子化プラットフォーム「TradeLens」

国際貿易には売り手と買い手以外にも、多くの事業者や行政機関が関わっています。さらに、貿易では多くの文書が紙ベースで管理されており、通信手段もFAXや電子メール、場合によっては書類を郵送するケースもあるなど、情報共有が非効率な状態のままになっています。

国際貿易の課題解決に向けて、IBMと世界最大手の海運企業「Maersk」(マースク)は共同で貿易電子化プラットフォーム「TradeLens」を共同開発しました。TradeLensによって、多くの関係者同士でデジタル化された書類をリアルタイムで共有することができるため、貿易業務のコストが大幅に削減されます。

TradeLensは2018年12月に発売されて以降、10カ国以上の税関を含む200以上の事業者と連携しながら、すでに本番環境で稼働しています。2020年5月までの実績として、累計11億件のイベント処理と、900万枚以上の貿易書類のデジタル化がプラットフォーム上で行われたようです。

TradeLensのようなサプライチェーンのデジタル化・効率化は、コロナを受けて加速するかもしれません。

なお、TradeLens以外にも貿易取引におけるブロックチェーンの活用は進められており、例えばトレードファイナンス(貿易金融)の電子化・効率化を実現するソリューションとして「Marco Polo」などが開発されています。

Marco Poloでは、インボイス(明細書・請求書・納品書を兼ねた書類)の発行から融資や決済までをワンストップで行える上、既存のERPへの統合も可能です。

すでに「MasterCard」や「三井住友銀行」などがMarco Poloのネットワークに参画しており、三井住友銀行が2019年10月に発表したリリースでは、紙ベースで数日かかっていた貿易書類のやり取りが、デジタル化され、リアルタイムで共有できるようになったと報告されています。

まとめ

DXの必要性が叫ばれるなかで様々なテクノロジーの活用が検討されており、ブロックチェーン技術もそのひとつです。新しい技術であるがゆえに、PoC段階のプロジェクトは多いですが、なかには中国の電子発票システムやGE Aviation、TradeLensのように実用化されている事例も少なくありません。

さらに、日本国内でも大手企業が水面下でPoCを行うなど、近い将来ブロックチェーンを活用したDX事例が複数出てくるでしょう。

当メディアを運営する株式会社digglueでは、AIやブロックチェーンを活用した企業様を支援するサービス(コンサルティング及び教育事業)を提供しています。

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参考資料
デジタルトランスフォーメーションを推進するための ガイドライン (DX 推進ガイドライン) 
中国監査における「発票」の仕組み
automated invoicing
China’s Shenzhen district uses blockchain for $1 billion of tax invoices
深セン市・統計(2019年12月)
GE Aviation’s Digital Group streamlines tracking of aircraft parts, reduces inefficiencies with Azure Blockchain technologies
【事例】「TradeLens」貿易×ブロックチェーン – 実稼働の要注目プロジェクト
“ポストCOVID”のサプライチェーンでブロックチェーンへの期待が高まる――IBM
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