はじめに
パブリックチェーンのEthereumを中心として、DeFi(Decentralized Finance、分散型金融)系のアプリケーションが盛んに開発されています。2020年4月13日の時点で、約6.93億ドル(約750億円)が、DeFi系アプリのスマートコントラクトに載っている状態です。
参考:DeFi Pulse
多様なトークンが流通しているDeFiのエコシステムにおいては、シームレスにトークンを交換するプロトコルへの需要が大きく、今回は代表的なDEX(Decentralized Exchange)プロトコルである「Kyber」(Kyber Network)について概観していきます。
Kyber(Kyber Network)とは?
Kyber Networkが開発する「Kyber」は、DEXプロトコルです。Kyberを用いることで、任意のトークンをその時のベストレートで交換することができます。Kyberは様々なサービスの裏で動き、異なるトークンがシームレスな交換を促進させるのです。この機能はDeFiなどのDApps(Decentralized application)に欠かせません。
Kyber NetworkのWebサイトに掲載されたキャッチフレーズ「Seamless Token Swaps, Anywhere」の通り、Kyberはオンチェーンでのシームレスなトークンスワップを実現しようと開発されています。
Kyber Networkの現状と将来的なポジショニング
2020年4月13日現在、Ethereum上のDEXで実行されているトランザクションの割合を見ると、約20%がKyber Networkのものであり、比較的多く利用されていることが判ります。
また、トランザクション数トップのDEX「Uniswap」とKyber Networkは協力関係にあり、流動性を共有しています。流動性とは、「アセットの換金しやすさ」のことです(話者によって定義が異なる場合があるので注意が必要)。好きなときに、任意のトークンペアで交換できる(流動性が高い)環境は、DeFiやDAppsのエコシステムにとって欠かせません。
Kyber Networkは、UniswapなどのDEXと連携することで、流動性提供レイヤーとしてのポジションを確立しようとしています。ユーザーやDApps開発者、流動性の提供者など、より多くの主体が、Kyberを単一のエンドポイントとして利用することで流動性が高くなり、結果として利用者やユースケースが増えていく好循環が起こると考えられるのです。
そのことが端的に示されているのが以下の図だと言えるでしょう。図の下部「〇〇 Reserves」はネットワークに流動性を提供するプロバイダーで、図の上部はKyberプロトコルで提供されている流動性プールを利用するアプリケーション群です。
また、図中のロゴは、Kyberと統合・連携しているプロジェクトのものであり、2020年4月時点で、Kyberは94のアプリに統合されています。Kyber Networkはサードパーティーと協力関係を築くことに積極的であり、実際に統合は着実に進んでいるのです。
参考:Integrations – Introduction
ICOでの資金調達
2017年9月に行われたICOでは、ネイティブトークン「Kyber Network Crystal」(KNC)を販売し、当時のレートで5,200万ドル分のEtherを調達しました(個人投資家向けのトークンセールのほか、VCに対しても販売している)。
KNCトークンはERC-20に準拠しており、現在は主にネットワークに流動性を提供する主体へのインセンティブとして機能しています。ただし、このインセンティブ構造は、2020年第2四半期を目処に予定されている大型アップデート「Katalyst」によって、変更が加えられる予定です。
Kyberにおけるトークンスワップの仕組み
ここでKyberにおけるトークンスワップの仕組みを概観していきましょう。基本的には、スマートコントラクトベースの流動性プールに、流動性プロバイダーがトークンをリストし、もっとも条件の良いレートを用いて、自動的にトークンが交換される仕組みです。
トークンを交換する仕組みの全体像としては、以下の図が見やすいでしょう。
上図に登場する主体や要素の簡単な説明は以下の通りです。
- Takers:Kyberのスマートコントラクトを呼び出して、任意のトークンを別のトークンへと交換する主体。一般ユーザー以外にも、Kyberを使うDEXやDAppsなどの主体が該当する
- Maintainers:Reserveやトークンペアを追加・削除する権限を持っている主体。例えば、Kyberで導入される予定のDAO(Decentralized Autonomous Organization)やプロトコルの開発チームなどが該当する
- Reserve:トークンの流動性プロバイダー。スマートコントラクトベースの流動性プールに、トークンの数量や価格などを提供する。なお、”Registered Reserve”は、レートが照会されたときや取引をスムーズに行うために用意されたReservesのリストのこと
- Kyber Core Smart Contracts:トークンスワップの核となるスマートコントラクト
- Reserve Interface:Reserveが準拠する必要があるコントラクトを定義する。Reserveがどのようにトークンの価格を決定し、在庫を管理するかについてのルールはReserve Interfaceで決まるが、その仕様は開発者の裁量に委ねられている
- List of Registered Reserves and Token Pairs:ReserveとReserveが提供するトークンペアのリスト
上記の仕組みが様々なサービスにビルトインされることで、異なるトークン同士のトレードがスムーズになるのです。例えば、商品の代金をXトークンで支払いたい購入者Aと、代金をYトークンで受け取りたい商店Bの取引をKyberが仲介することで、スムーズな取引が実現します。
なお、Kyberの詳細な仕組みやスマートコントラクトの実装については、以下のドキュメントをご覧ください。
2020年第2四半期に予定されるアップデート「Katalyst」
Kyber Networkは2020年の第2四半期を目処に、プロトコルの大型アップデート「Katalyst」を実施する予定です。現時点ではKyberの流動性提供やガバナンスは、開発チームであるKyber Networkの影響が大きいですが、将来的には分散化(DAO化)していく予定であり、Katalystアップデートはその一歩となります。
Katalyst以前の仕組みでは、主として流動性の提供者にKNCトークンが報酬として付与されていました。アップデート後は、KNCトークンをステーキングして「KyberDAO」というガバナンス機能に参加すれば、報酬としてKNCトークンを獲得できる回路も提供されます。KyberDAOでは投票によって、KNCトークンのバーンやステーキング報酬、リザーブ報酬などの割合が決定される予定です。
新たにステーキング報酬を導入したのは、より多くのKNC保有者にガバナンスに参加してもらい、コミュニティの意思決定プロセスを分散化してきたいからでしょう。
その他にも、Reserveに求められていたKNCトークンの残高維持が不要になるなど、流動性を提供するハードルを下げ、より大きな流動性を実現させようとしています。Katalystアップデートによって、ガバナンスに参加するノードがどの程度増え、流動性が大きくなるかは要注目だと言えるでしょう。
参考:Katalyst: Kyber Protocol Upgrade and 2020 Plans、KyberDAO: Staking and Voting Overview
まとめ
Kyber(Kyber Network)は、DeFiのエコシステムにおいて中心的なDEXプロトコルのひとつです。DeFi系アプリにデポジットされている金額は、株式などの伝統的な金融市場に比べれば1%にも満たないですが、小さな市場だからこそ、Kyberをはじめとして流動性を高めるための試行錯誤が行われています。
また、Kyber Networkはアダプションに向けて、Katalystアップデートが上手くいくのか(分散化を進められるのか)、流動性プールを数段大きくできるのかといった様々な課題を克服しなければなりません。
これらの課題をクリアし、シームレスなトークンスワップによって、様々なユースケースや新しい体験が生まれる可能性は十分にあるため、Kyber Networkは今後も注目したいプロジェクトのひとつだと言えるでしょう。