はじめに
大手クラウドベンダーの多くがエンタープライズ向けのBaaSを提供しているように、Oracleもまた「Oracle Blockchain Platform」というBaaS(PaaS)を提供しています。
Oracle Blockchain Platformは、「Hyperledger Fabric」をサポートしており、Oracleの提供するSaaSやPaaS、その他のオンプレミスアプリケーションとブロックチェーンの統合も可能です。本記事では、Oracle Blockchain Platformの概要と導入のメリットを解説していきましょう。
なお、Hyperledger Fabricに関する概要を知っておきたい方は、以下の記事で解説していますので、まずはそちらはご覧ください。
▼詳細はこちら
「Hyperledger Fabric」もっとも利用される企業向けブロックチェーンフレームワークの概要
概要|Oracle Blockchain Platformとは?
Oracle Blockchain Platformは、Hyperledger Fabricベースのエンタープライズ向けBaaSです。Hyperledger Fabricをベースとしつつ、システムの回復性やパフォーマンス、スケーラビリティ、セキュリティ、管理のしやすさ、エンタープライズアプリケーションとの統合機能などが強化されています。
他のBaaSと同様、数クリックでネットワークの構築が完了すると共に、管理・運用しやすいGUIコンソールを備え、オンプレミス、マルチクラウド、ハイブリットクラウドでの構成が可能です。
Oracle Blockchain Platformは、「Oracle Cloud Infrastructure」と統合されているため、Oracleの提供する各クラウドサービス(コンピューティングやメッセージング、オブジェクトストレージ、ログ解析サービスなど)とセットで提供されています。また、REST Proxyが用意されており、ネイティブのHyperledger Fabric APIを使う代わりに、標準的なREST APIでOracle Cloud上のFabricネットワークとのやり取り(chaincodeの問い合わせや呼び出し)が可能です。
Oracle Blockchain Platformの特徴とメリット
Oracle Blockchain Platformを使う主なメリットは以下の通りだと考えられます。
- 事前構築済みのプラットフォームを利用可能
- マネージドサービスによる自動化、管理・運用コストの削減
- オープンなネットワーク構成
- エンタープライズグレードの機能提供
- 他のシステムやデータとの統合が容易
それぞれ簡単に解説していきましょう。
メリット①:事前構築済みのプラットフォームを利用可能
Oracle Blockchain Platformでは、自動プロビジョニングされたHyperledger FabricのコンポーネントやREST Proxy、管理・運用コンソールが提供されています。したがって、ネットワークを構成する要素を迅速にセットアップすることができ、GUIコンソールによって数クリックでスマートコントラクト(chaincode)のデプロイなどが可能です。
メリット②:マネージドサービスによる自動化、管理・運用コストの削減
システムの運用・管理コストを大きく削減することができます。参加ノードのID管理や台帳・構成のバックアップ、セキュリティパッチの自動適用など、管理・運用を行う際に必要なタスクの自動化・効率化が可能です。
また、ノードの起動/停止や追加/削除を数クリックで完了でき、ヘルスチェックやネットワークの状態を視覚的に把握できるダッシュボードも提供されています。
メリット③:オープンなネットワーク構成
クラウド上でOracle Blockchainのネットワークを構築できるのは当然のことながら、Oracle Blockchain Platformと同等の機能をオンプレミスで構築できる「Oracle Blockchain Platform Enterprise Edition」も提供されています。
Enterprise Editionは、Oracle Cloud上にデプロイできない業界や国の事業者を想定したサービスであり、「Oracle VirtualBox」や「VMware vSphere」、「Oracle Linux KVM」といった仮想化ソフトウェアを用いることで、Oracle Blockchainを自社のデータセンター内に構築可能です。
また、Oracle Blockchain Platformは、オンプレミスで構築されたFabricネットワークだけでなく、サードパーティのFabricネットワークとのマルチ/ハイブリットクラウドの構成も可能であり、Oracle Cloud以外のネットワークとの相互運用性も担保されています。
参考:Oracle Blockchain Platform Enterprise Edition
メリット④:エンタープライズグレードの機能提供
耐障害性やセキュリティ、運用・保守性、スケーラビリティの観点からエンタープライズ要件を満たす機能が提供されています。
また、通常のHyperledger FabricはState DBとして「Couch DB」や「Level DB」が採用されていますが、Oracle Blockchain Platformでは、「Berkeley DB」がサポートされています(Couch DB形式)。Berkeley DBの採用によって、パフォーマンスとクエリの利便性を向上させつつ、リッチクエリ使用時のPhantom Read問題を回避することができます。
メリット⑤:他のシステムやデータとの統合が容易
ブロックチェーンを導入する場合、既存のアプリケーションやシステム、データとの連携のしやすさは重要であり、Oracle Blockchain Platformにおいてもその点は意識されています。REST Proxyが用意されているため、標準的なREST APIを用いてアプリケーション側とOracle Blockchain Platform上のFabricノードとのやり取りが可能であり、ネイティブのHyperledger Fabric APIを習得しなくてもスマートコントラクトを実行することができます。
「Oracle Integration Cloud Service」を利用することで、Oracleや他社製のクラウドまたはオンプレミスのソフトウェアとのシステム連携が可能です。また、台帳データがRDBにレプリケートされるため、データベース側で大規模なデータ処理が実行できます。
なお、Oracle Blockchain Platformについて、実際の操作画面やアニメーションを交えて説明されている以下の動画がよくまとまっています(説明は英語ですが、設定で日本語字幕の表示が可能です)。
Oracle Blockchain Platformがサポートしているバージョンと価格
Oracle Blockchain PlatformでサポートされているHyperledger Fabricのバージョンは以下の通りです。
- Oracle Blockchain Platform 19.2.1→Hyperledger Fabric v1.3.x
- Oracle Blockchain Platform 19.2.3→Hyperledger Fabric v1.4.x
参考:Supported Hyperledger Fabric Version
なお、2020年3月時点では、Hyperledger Fabric v2.0はサポートされていません。
また、Oracle Blockchain Platformの価格は以下の通りです。
まとめ:標準的なREST APIとシステム統合、データ活用が特徴
2020年3月時点で、Oracle Blockchain PlatformはHyperledger Fabricのみをサポートしています。他のフレームワークのマネージドサービスを利用したい場合は、プラットフォームを選択する必要があるでしょう(Quorumを使いたい場合はMicrosoft Azureを選択するなど)。
Oracle Blockchain Platformのポイントとしては、以下の通りです。
- ネイティブのHyperledger Fabric APIを習得しなくても、標準的なREST APIでスマートコントラクトを利用できる
- State DBとしてBerkeley DBがサポートされているため、パフォーマンスとクエリの利便性が向上している
- ブロックチェーンの履歴とState DBがRDBに複製されており、大規模なデータ処理や他のシステムとのデータ統合ができる
なお、当メディアでは他の主要なBaaSについて比較しています。
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BaaSを比較したい人向け~Azure vs AWS vs IBM (2019/12更新)
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