当メディアでも解説している「Hyperledger」や「Quorum」、「Corda」の他にも、エンタープライズ向けブロックチェーンのプラットフォームは数多く開発されています。
今回はその中から、大企業との協業をベースに様々なプロジェクトを展開している「VeChain」について紹介していきます。VeChainについてまとまった情報を探している方は是非ご覧ください。
また、同プロジェクトの中核を担うブロックチェーンプラットフォーム「VeChain Thor」についても解説していきます。
VeChainとは?
VeChain(以下、VeChain社)は、2015年に上海で設立されたブロックチェーン企業です。現在では、中国やヨーロッパ、アメリカ、シンガポール、日本にオフィスを構えています。
VeChain社は、NFCやRFIDなどをはじめとする5種類のIoTタグ(Passive IoT)や、デジタル署名およびデジタルID管理用のデバイス「VeKey」を販売しており、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたソリューション(VeChain turnkey solution)をエンタープライズ向けに提供しています。
IoTデバイスとブロックチェーンを活用した商品トラッキングといったユースケースを、ワンストップで導入できる点がVeChainの特色だと言えるでしょう。
参考:Overview、Passive IoT、VeKey – Secure Identity Device
既に企業がサプライチェーンマネジメントに、RFIDタグを用いたソリューションを導入している場合であっても、VeChain社やパートナーのソフトウェア企業のサポートのもと、従来のシステムをブロックチェーンに統合可能です。
参考:VeChain Technical AMA — Hardware Questions Part 2
VeChainが提供する商用BaaS「ToolChain」
VeChain社はエンタープライズ向けに、「ToolChain」というBaaS(Blockchain as a Service)を提供しています。アカウントの作成は同社に問い合わせる必要がありますが、以下のコアサービスが提供されています。
- 包括的な製品管理
- 付加価値のあるデータサービス
- 信頼できる第三者認証
また、ToolChainはVeChain社の販売するIoTデバイスとシームレスな連携が可能です。ToolChainを活用したユースケースとしては、ワインやブランド品などのサプライチェーンのトラッキングが挙げられます。産地偽装(産地証明)や真贋判定に役立てられるのです。
参考:ToolChain
VeChainのパートナー企業
VeChain社は世界的な認証機関である「DNV GL」や世界有数の総合コンサルティングファーム「PwC」、また「BMW」や「LVMH」(ルイ・ヴィトン)などの大企業と提携し、多くのプロジェクトを推進しています。
また、中国政府直轄の経済特区である貴州省の貴安新区とパートナーシップを締結し、現地政府と連携しながら、監査性のある形で公文書や証明書などをブロックチェーンに記録するプロジェクトが推進されています。
参考:VeChain’s National Level Partnership
エンタープライズ向けブロックチェーン「VeChain Thor」とは?
「VeChain Thor」(ヴィチェーン・ソー)は、主にエンタープライズでの利用を想定したスケーラブルなブロックチェーンです。AWS(Amazon Web Service)のサポートによって、開発者はワンクリックでVeChain Thorをデプロイできるため、企業が利用するには適しています。
VeChain Thorはパブリックチェーンと説明されることが多く、誰でもトランザクションをネットワークにブロードキャストできるという点では、パブリックチェーンのような特徴を備えていると言えるでしょう。
ただし、トランザクションの承認(ブロックの生成)は、一定の条件をクリアしたノード(AM:Authority Masternode)のみが担っています。
VeChain Thorという名称について
VeChain Thorは元々「VeChain」あるいは「VeChain blockchain」という呼ばれていましたが、2017年後半にリブランディングされ、ブロックチェーンの名称がVeChain Thorに統一されました。リブランディング後、「VeChain」という表現は、VeChain社あるいはエコシステム全体を表す言葉として使用される傾向があります。
参考:VeChain Apotheosis: The Beginning
VeChain Thorの開発主体
VeChain Thorは、2017年半ばに設立された非営利団体「VeChain Foundation」とVeChain社が連携して、開発が進められています。VeChain Foundationに先立って上海で設立されたVeChain社は、開発などの日常業務をサポートする企業として位置付けられているようです。
例えば、VeChain ThorのモバイルウォレットはVeChain社が開発しました。
参考:Top 10 Most Asked Topics During the VeChain AMA Marathon
VeChain Thorの特徴
それでは、VeChain Thorの特徴を解説していきましょう。なお、本記事の情報は2020年1月7日現在のものであり、最新の情報はVeChain Thorのドキュメントを参照してください。
コンセンサスアルゴリズムにはProof of Authorityを採用
VeChain Thorのコンセンサスアルゴリズムには、Proof of Authorityが採用されています。トランザクションを承認(ブロックを生成)するのは「Authority Masternode」(AM)という権限レベルが最も高いノードです。
AMとなるには、ネイティブトークンのVeChain Token(VET)を2,500万VET以上保有した上で、VeChain Foundationの運営委員会による適格審査をクリアしなければなりません。したがって、現状のVeChain Thorは、ネットワークへのアクセスはオープンであるものの、コンセンサスアルゴリズムに関してはパーミッション型と言えるでしょう。
また、VeChain Thorのコンセンサスアルゴリズムは将来的に、AM以外のノードがランダムに選出され、投票によってブロックを承認する方式が採用される予定です(VeChain Thor PoA 2.0)。
参考:PoA 2.0
VeChain Foundation運営委員会とは?
VeChain Foundationの運営委員会とは、同団体の戦略策定や利害関係者(VETを保有するノード)向けの提案、投票イベントの管理、予算管理・監査などを担う組織を指しています。
デュアルトークンモデル
VeChain Thorでは、VeChain Token(VET)とVeThor Token(VTHO)の2種類のトークンが流通しています。VETはネットワーク上で支払いなどに使われるネイティブトークンであり、VTHOはスマートコントラクトを実行する際に使われるトークンです。
支払われたVTHOのうち、70%は消費され(バーンされ)、30%はブロックを生成したAMに対する報酬として支払われます。
事業者に配慮したメタトランザクション機能
VeChain Thorでは、トランザクションの送信者以外の誰かが、トランザクション手数料を支払える仕組み「マルチパーティペイメントプロトコル」(MPP)が提供されています。トークンを保有していなくてもトランザクションを送信できるため、利用者は従来型の無料アプリと同じ感覚でブロックチェーン上で開発されたアプリを利用可能です。
その他にも、単一のトランザクションで複数のタスクを実行できる「マルチタスクトランザクション」(MTT)や、特定のトランザクションの完了を別のトランザクションの実行条件にできる機能などが提供されています。
イーサリアムの開発ツールからVeChain Thor上へのデプロイが可能
VeChain Thorでは「Web3-gear」と呼ばれるプロキシサーバーが提供されているため、イーサリアムの開発ツールである「Truffle」や「Remix」などを使いながら、VeChain Thorのノードと通信することができます。
したがって、事業者によっては、イーサリアムから、よりスケーラブルなVeChain Thorへの移行が選択肢に入るでしょう。この場合、以下のような開発スタックになります。
ただし、VeChain Thorでは「Connex」というAPI群が提供されているため、基本的にはConnexの利用が推奨されます。上記はあくまでもイーサリアムからの移行が可能であるという説明である点は留意が必要です。
まとめ:VeChainはIoTとの親和性が高い事業者向けのプラットフォーム
本記事では、VeChainおよびVeChain Thorについて解説してきました。IoTデバイスやデジタル署名・ID管理デバイスの販売と、VeChain Thorというソフトウェアがパッケージで提供されているため、IoTとブロックチェーンを組み合わせたシステムを構築したい場合は有力な選択肢となります。
利用を検討する際には、他のエンタープライズ向けプラットフォームとは異なり、VeChain Foundationの審査を経てリストされたAuthority Masternode(AM)がブロック生成を担っている点や、イーサリアムとの互換性なども考慮すると良いでしょう。