はじめに
比較的新しい技術であるブロックチェーン(分散型台帳技術)は近年、開発支援ツールが増え、標準化の動きが加速しています。本記事で紹介する「Azure Blockchain Tokens」もそのひとつであり、「Azure Blockchain Service」で標準化されたトークン化を発行・開発できる機能としてリリースされました。
そこで今回は、Azure Blockchain Tokensの概要とトークン標準化のためのイニシアチブ「Token Taxonomy Initiative」を紹介していきましょう。記事後半では、Microsoftが2019年12月にリリースした「Azure Heroes」にも触れています。
なお、本記事は2019年12月14日時点の情報に基づいています。
標準化されたトークンを発行・管理する新機能「Azure Blockchain Tokens」
Azure Blockchain Tokensは、ブロックチェーン上で標準化されたトークンをAzure Blockchain Service上で簡単に発行・管理できる新機能です。2019年11月4日にリリースされ、執筆時点ではプレビュー版が提供されています。トークンSDKとVisual Studio Codeの拡張機能で、トークンの作成やコンパイル、デプロイが可能です。
Token Taxonomy Frameworkに準拠したトークン
Azure Blockchain Tokensの大きな特徴は、発行されるトークンが標準化を指向している点です。トークンの標準化イニシアチブであるToken Taxonomy Initiativeが策定した「Token Taxonomy Framework」に準拠しているため、他の企業・コンソーシアムとの連携を見据えて開発することができます。
証券やデジタルコンテンツなどをはじめ、今後より多くのアセットがトークン化されてブロックチェーン(分散型台帳)に乗ってくるはずで、その流れを踏まえるとAzure Blockchain Tokensのような機能のメリットは大きくなっていくでしょう。
Token Taxonomy Initiativeとは?
Token Taxonomy Initiativeは、エンタープライズ向けイーサリアムの標準化団体「Enterprise Ethereum Alliance」(EEA)のメンバーが中心となり、2019年4月に発足しました。
トークンに関する用語や仕様などが定義された共通のフレームワークToken Taxonomy Frameworkを策定しており、2019年11月4日にVer1.0を公開しています。このフレームワークは、技術者とビジネスサイドが協力し、相互運用性や規制動向などを考慮して構築されたものです。また、技術者とビジネスサイドの共通言語を確立し、より生産的な議論を促すことも期しています。
Token Taxonomy Initiativeの参加企業
Token Taxonomy Initiativeには、ブロックチェーン関連のプロジェクトを積極的に推進している企業が多く名を連ねています(以下は一部)。
- Microsoft
- Accenture
- IBM
- JPモルガン
- サンタンデール銀行
- R3
- Hedera Hashgraph
- Consensys
- Web3 Labs
参考:Global Leaders Unite to Unveil Comprehensive Framework for Tokenization
注目すべきはEEAの参加メンバーだけではなく、「Hyperledger Fabric」を提案した「IBM」や「Corda」を開発するソフトウェア企業「R3」、Hashgraphの公開実装を開発する「Hedera Hashgraph」などが名を連ねているという点でしょう。主要なエンタープライズ向けブロックチェーン(分散型台帳)プラットフォームの開発に関わる企業が、Token Taxonomy Frameworkの策定に参画しているのです。
実際にToken Taxonomy Frameworkは、「Ethereum」や「Quorum」、「Corda」、「Hyperledger Fabric」などで適用可能とされています。将来的には、パーミッション型(許可型)のフレームワークにおいてトークンを開発する場合は、Token Taxonomy Frameworkがスタンダードになるかもしれません。
なお、各フレームワークについては別の記事で解説しているので、興味のある方は是非ご覧ください。
▼詳細はこちら
企業向けブロックチェーン「Enterprise Ethereum」とは?特徴やユースケースを解説
分散型台帳基盤のCordaとは何か?特徴やユースケースを解説
「Hyperledger Fabric」もっとも利用される企業向けブロックチェーンフレームワークの概要
3つのメリット
標準化されたトークンを発行・管理できるメリットは既に述べましたが、その他にもAzure Blockchain Tokensを利用するメリットはあります。
①トークンテンプレートが利用可能
Azure Blockchain Tokensでは、事前に構築された以下の4種類のトークンテンプレートが公開されています。
- コモディティ(Commodity):一貫した価値を持ち、譲渡可能。石油やエネルギーなどに紐付けてトレードなどができる
- クオリファイド(Qualified):ひとつのエンティティに関連付けられ、譲渡できない。卒業証書や国家資格の証書、駐車違反の記録などがある
- アセット(Asset):固有の価値を持つ。美術品などが該当する
- チケット(Ticket):有効期限が設定され、一定の価値を持つ。航空券などが挙げられる
基本的には上記のテンプレートから目的に合致するものを選択して、トークンを発行・管理することになります。ただし上記のほかに、独自のトークンテンプレートを作成することも可能です。Azure Blockchain Tokensのドキュメントでは、トークンの構成可能性が提示されています。
参考:Azure Blockchain Tokens の構成可能性
②既存アプリケーションとの統合
Azure Blockchain Tokensでは、既存のブロックチェーンネットワークに接続する際にAzure PortalとAPIを使用します。APIを使用することでトークンの発行・管理を行い、既存のビジネスアプリケーションやロジックに統合可能です。
接続先となるブロックチェーンネットワークは、QuorumとCorda EnterpriseをサポートするAzure Blockchain Serviceおよびイーサリアムファミリーなブロックチェーンであるとドキュメントでは説明されています(”another Ethereum family blockchain”と記載されているが詳細は不明)。
参考:What is Azure Blockchain Tokens?(Management)
③アカウント管理
ネットワーク上に新しいアカウントを作成し、必要に応じてアカウントをグループ化できます。また、権限に応じてアクセスを制御可能です。
なお、Azure Blockchain Tokensの基本的な始め方や開発パターンは、動画コンテンツとして公開されています。
参考:Azure Blockchain Tokens Part 1: Getting Started(英語)
開発者コミュニティへのインセンティブを提供する「Azure Heroes」
Microsoftとトークンの話題に関連して、2019年12月に同社が発表した「Azure Heroes」についても紹介しておきましょう。Azure Heroesは、Microsoftがブロックチェーンゲームの開発プラットフォームを提供する企業「Enjin」と共同でローンチしたサービスです。
Azure Heroesでは、Azureの開発者コミュニティに貢献した人物への報酬として、NFT(Non-Fungible Token)が付与されます。コーチングやデモの作成、サンプルコードの開発、ブログ投稿などのポジティブなアクションに対して、その貢献度に応じたNFTが付与されるのです(選考あり)。
Azure Heroesは、優れたアウトプットを生み出すインセンティブを与えるための実験的な取り組みだと言えるでしょう。なお、現在のAzure Heroesは西ヨーロッパのみで利用可能となっています。
まとめ:トークン化を検討する事業者は要注目の新機能
Azure Blockchain Tokensで発行・管理できるトークンは、ブロックチェーン業界の有力企業が策定に携わったToken Taxonomy Frameworkに準拠しています。
他のプラットフォームとの相互運用性を見据えたアプリケーション開発が可能になる上に、既存のアプリケーションとの統合などもサポートしているため、トークンを組み込んだサービスを検討している事業者はチェックしておきたい新機能だと言えるでしょう。