Enterprise Ethereumとは?企業向けブロックチェーンの特徴とユースケースを解説

Enterprise Ethereumとは?企業向けブロックチェーンの特徴とユースケースを解説

パブリックチェーン上では様々なアプリケーションが開発されていますが、プライバシーやスケーラビリティなどの問題から、B2B(Business to Business)領域でパブリックチェーンをそのまま活用するのは難しいのが現状です。

ブロックチェーンは業務を効率化し、企業間の協働を促進するのに役立つ可能性を秘めているため、エンタープライズ向けブロックチェーンの開発が進められています。本記事では、そのひとつである「Enterprise Ethereum」について紹介していきます。

エンタープライズ向けに開発されたEnterprise Ethereumとは?

パブリックチェーンとしてのイーサリアム(以下、Public Ethereum)は、チューリング完全なスマートコントラクトのプラットフォームとしてよく知られています。非中央集権型の金融サービス(Open Finance, Defi)など様々な可能性を秘めているPublic Ethereumですが、冒頭で述べた通り、企業が使うにはハードルがあるのが現状だと言えるでしょう。

企業の使用を想定しつつ、Public Ethereumのコードをベースとして開発されているのが、本記事で紹介するEnterprise Ethereumです。要件に応じて、プライベートチェーンやコンソーシアムチェーン、あるいはハイブリットなネットワークを構築できます。

なお、Enterprise Ethereumは、単一のプロジェクトやブロックチェーンを指したものではなく、エンタープライズ向けにアレンジされたイーサリアムの総称です。

Public EthereumとEnterprise Ethereumの違い

Enterprise Ethereumは企業のニーズを念頭に設計・開発されているため、以下の点でPublic Ethereumと異なります。

  • 機密情報の保持が可能
  • 法令遵守を意識したシステム
  • パーミッション型(許可型)のネットワーク
  • 伝統的なシステムとの統合が可能
  • 秒間、数千件の処理能力
  • ファイナリティの担保
  • 低コストに利用可能(gas代不要)

ただし、Enterprise EthereumはPublic Ethereumをベースとしているため、トークンの発行や分散型アプリケーション(DApps)の開発など、Public Ethereumと共通する特徴も備えています。

Enterprise Ethereumのユースケース

Enterprise Ethereumで構築されたユースケースは既に稼働しており、応用領域は金融、サプライチェーン、エネルギー、不動産、ヘルスケアなど多岐にわたります。いくつか紹介していきましょう。

貿易金融プラットフォーム「komgo」

貿易金融プラットフォームkomgoは、大手銀行や商社、石油会社など15社で構成されたEnterprise Ethereumのコンソーシアムです。日本からは「三菱UFJ銀行」が参加しています。

komgoは現在でも紙の書類で取引や事務処理が行われている貿易金融の分野をデジタル化・効率化しようとしており、komgoによってコストが20〜50%ほど削減されると見込まれています。なお、komgoはEnterprise Ethereum対応のBaaSである「Kaleido」で開発・運用されています。

参考:Komgo Case Study、komgo: Blockchain Case Study for Commodity Trade Finance

高級ブランドの真贋証明プラットフォーム「AURA」

AURAは高級ブランド「ルイ・ヴィトン」(LVMH)などが展開する高級ブランドの真贋(しんがん)証明を行うためのプラットフォームです。高級ブランド業界は偽造品による経済的損失に頭を悩ませていますが、ブロックチェーンによって商品の追跡と正規品であることの証明が可能になるため、問題の改善が期待されています。

なお、AURAで採用されているブロックチェーンは、Enterprise Ethereumの標準化団体「Enterprise Ethereum Alliance」(EEA)が開発を主導する「Quorum」です。

中小企業株式のポストトレード決済インフラ「Liquidshare」

欧州の中小企業株式のポストトレード決済インフラLiquidshareは、Hyperledgerプロジェクトのひとつ「Hyperledger Besu」を活用しています。Hyperledgerはエンタープライズ向けの独自ブロックチェーンのフレームワークなどを設計・開発する非営利組織であり、Hyperledger BesuはEEAの仕様を実装したクライアントです。

Liquidshareでは、中小企業と投資家をダイレクトにつなぐためのシンプルで高速な証券取引・決済インフラを提供しています。

参考:Liquidshare

Enterprise Ethereum対応のBaaS

Enterprise Ethereumには複数のクラウドベンダーが対応しています。主要なBaaSのリストは以下の通りです。

  • Amazon Web Services
  • Microsoft Azure
  • Accenture
  • Kaleido

上記のクラウドサービスでは、コンソーシアムメンバーの管理機能やクライアントとの通信を容易にするAPIなど、様々なツールとサービスが提供されているため効率的な開発が可能です。

なお、BaaSの概要を知っておきたいという方は、以下の記事でまとめています。

Enterprise Ethereumを開発する主な組織

Enterprise Ethereumの仕様やフレームワークは、主として「Enterprise Ethereum Alliance」(EEA)と「Hyperledger」によって設計・開発されています。どちらもエンタープライズ向けに、パーミッション型のブロックチェーンを開発するためのフレームワークや開発ツール、知見やユースケースを共有するための場を提供する有力なオープンソースコミュニティです。

参考:Ethereum for Enterprise

Enterprise Ethereum Alliance(EEA)について

Enterprise Ethereumの仕様策定などを行う非営利組織EEAは、業界のトッププレイヤーだと言えるでしょう。EEAは2017年3月に設立されており、「JPモルガン」や「Intel」、「Microsoft」、ブロックチェーン業界からは「ConsenSys」や「Ethereum Foundation」など、200以上の企業や団体が参画するグローバルコミュニティです。

Public Ethereumを基にした分散型台帳プロトコル「Quorum」の開発のほか、技術開発の進展や事業環境の整備を図るためのワーキンググループおよびイニシアチブも展開しています。

一例としては、2019年4月にEEAメンバーが中心となって、トークンに関する概念や用語、仕様の定義といった共通のフレームワークを策定する「Token Taxonomy Initiative」(TTI)が発足しました。

参考:Help Accelerate a Token-Powered Blockchain Future

EEAのEnterprise Ethereumアーキテクチャー

以下の図はEEAのEnterprise Ethereumクライアント実装となるコンポーネント間の関係性を示したものです。

  

https://entethalliance.org/technical-documents/

このEnterprise Ethereumは以下のレイヤーで構成されています。

  • アプリケーション層
  • ツーリング層
  • プライバシー・スケーリング層
  • コアブロックチェーン層
  • ネットワーク層

なお、各レイヤーの詳細に関しては、Enterprise Ethereum Allianceが公開しているドキュメント「Enterprise Ethereum Alliance Client Specification v4」の第4章以降(12p〜)をご覧ください(2019年11月27日現在)。

参考:TECHNICAL DOCUMENTS

まとめ:企業のニーズに対応するEnterprise Ethereum

Enterprise Ethereumは企業ニーズに応えたイーサリアムであり、既に様々なフレームワークおよびユースケースが存在します。QuorumやHyperledger Besuなどはその好例であり、いずれもグローバルなブロックチェーンコミュニティによって開発が進んでいるため、今後も機能改善が図られていくでしょう。

また、Enterprise Ethereumは複数のBaaSでサポートされているため、開発工数を削減可能です。特にKaleidoは、PoCから本番環境までをサポートしています。興味のある方は以下の記事でKaleidoの概要を紹介しているので、是非ご覧ください。

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