「Kaleido」企業向けイーサリアム開発のフルスタックBaaSとは?

「Kaleido」企業向けイーサリアム開発のフルスタックBaaSとは?

はじめに

ブロックチェーンプロダクトを開発している企業にとって、より使いやすく必要な機能が提供されているサービスは有り難いものです。当メディアでも紹介しているように、「Microsoft」や「Amazon」、「IBM」などのクラウドベンダーが、既に様々なBaaS(Blockchain-as-a-Service)を提供しています。

今回は「Amazon AWS」や「Microsoft Azure」といった2つのクラウドおよびオンプレミスな環境へデプロイでき、グローバルなブロックチェーンネットワークをシームレスに構築できる「Kaleido」の概要や特徴、ユースケースを紹介していきます。

フルスタックBaaS「Kaleido」とは?

Kaleidoは、エンタープライズ向けイーサリアムの標準化団体「EEA」(Ethereum Enterprise Alliance)の仕様に準拠したブロックチェーンの開発に必要な環境をフルスタックで提供しているBaaSです。サービスと同名の企業「Kaleido」によって開発・提供されています。

Kaleidoは、ベンダーロックイン無しでPoCから本番環境までの開発をカバーできるオールインワンなソリューションです。他のBaaSやオンプレミスでブロックチェーンを構築した場合と比べて広範なサービスを提供しています。

https://kaleido.io/

コンソーシアムの構築やプライベートなブロックチェーンネットワークのデプロイを簡素化するようにデザインされており、実際に数クリックでノードの追加やネットワークを稼働させることが可能です。基本的に必要な操作はWebブラウザ上で完結します。

また、コンソーシアムメンバーのオンボーディングやガバナンス、DevOpsツールなどが簡素化され、管理・拡張の負担が軽減されています。

Kaleidoでは、AWSやAzure、オンプレミスへのデプロイが選択できるため、自社の状況に応じてマルチクラウド、あるいはハイブリットクラウド環境を構築可能です。2019年11月20日現在、5つのリージョンを選択できます(Azureは米ワシントンリージョンのみで、テクニカルプレビュー版)。

  

https://console.kaleido.io/

なお、Kaleidoではテスト用のフリープランから、本番環境向けのプランまで複数のプランが提供されています。

https://kaleido.io/pricing/

Kaleidoの特徴

マルチクラウド・ハイブリッドクラウド環境に対応し、簡単にネットワークを構築できることは既に述べました。その他のKaleidoの特徴を紹介していきます。なお、本記事は2019年11月20日時点の情報に基づいて執筆されているため、詳細については公式ドキュメントをご覧ください。

参考:Knowledge Center

3種類のクライアントが選択可能

Kaleidoでは、EEAの仕様に準拠したクライアントである「Quorum」と「Hyperledger Besu」、「Geth」(go-ethereum)を選択できます。Gethに関しては後述するように、プライベートネットワーク向けのコンセンサスアルゴリズムであるProof of Authority(PoA)のみが可能です。

また、Hyperledger Besuは、2019年に入ってからHyperledgerコミュニティに採択されたもので、以前は「Pantheon」と呼ばれていました。

コンセンサスアルゴリズムは3パターン

Kaleidoでは求められるプライバシーやパフォーマンスに応じて、コンセンサスアルゴリズムを選択可能です。クライアントごとに異なる以下の3種類のアルゴリズムが提供されています。

  

GethQuorumHyperledger Besu
(Pantheon)
Clique PoAIstanbul BFT(IBFT)
Raft
Clique PoA
Istanbul BFT(IBFT)

なお、上記コンセンサスアルゴリズムについては、Kaleido公式ブログで詳しく解説されています。

参考:Consensus Algorithms: PoA, IBFT or Raft?

ブロックチェーンへの接続はJSON/RPCとREST APIをサポート

Kaleidoではブロックチェーンへ接続する手段として、JSON/RPCとREST APIインターフェイスをサポートしています。複雑なプログラミングなどは必要なく、APIを使用して署名やトランザクションの送信、スマートコントラクトの発行などが可能です。

モジュール化されたビルディングブロックサービス

Kaleidoでは、アプリケーションを開発するために必要なサービスがモジュールで提供されています。KaleidoでEnvironment(ブロックチェーン環境のこと)を作成すると、デフォルトで以下のサービスが稼働します。

  • App & Integration Gateway
  • Block Explorer
  • Ether Pool
  • Token Explorer

また、マーケットプレイスには既に21のサービスがあり、その中には「Chainlink」などのサードパーティ製品もリストされています。追加できるサービスをいくつかピックアップしておきましょう。

On-Chain Registry

プライベートネットワーク内の組織をイーサリアムアドレスに紐付けるサービスです。組織、イーサリアムアドレス、エンドユーザーにマッピングされたデジタル証明書(X.509証明書)に裏付けられた公開鍵基盤(PKI)の分散型オンチェーンレジストリによって、ブロックチェーンにエンタープライズIDを追加することができます。

https://marketplace.kaleido.io/service/directory-service/

Token Factory & Token Swap

Token Factoryは、ERC20およびERC721準拠のトークン生成を簡単に行えるサービスを提供します。そして、Token Swapでは、ビットコインのライトニングネットワークなどで用いられる「Hashed Time-Lock Contract」(HTLC)を利用して、トークンを安全に交換できるサービスが提供されています。

また、その他のトークン関連サービスとして、ゼロ知識証明を利用したトークン転送サービス「Zero Knowledge Token Transfer」もリストされています。

IPFS File Store

P2Pファイル共有プロトコルである「IPFS」(InterPlanetary File System)も利用可能です。IPFSを利用することで、安全かつ検閲耐性のある形でファイルを共有できます。

Chainlink

ネットワーク外部のデータをスマートコントラクトで安全に活用するために、分散型オラクルを提供するミドルウェア「Chainlink」もサードパーティのサービスとして利用可能です。Chainlinkは、オフチェーンデータや外部APIなどの主要なリソースとスマートコントラクトを接続するための分散型オラクルサービスを提供しています。

  

https://chain.link/features/

Kaleidoを活用したユースケース

Kaleidoを用いたプロジェクトは既にいくつも立ち上がっています。ユースケースを紹介していきましょう。

貿易金融プラットフォーム「komgo」

大手銀行や商社、石油会社など15社で構成された貿易金融プラットフォーム「komgo」はKaleidoを活用して開発・運用されています(日本からは「三菱UFJ銀行」が参画)。komgoは、未だに紙ベースでの取引や事務処理が行われている貿易金融の分野をデジタル化・効率化するためのコンソーシアムです。

参考:Komgo Case Studykomgo: Blockchain Case Study for Commodity Trade Finance

銀行口座を持たないフィリピン人の金融包摂を目指す「Project i2i」

フィリピンの銀行「UnionBank」は、デジタルバンキングサービスおよび国内送金ネットワークから隔絶された(unbankedな)同国の人々に対して、金融取引サービスを提供するプロジェクト「Project i2i」をKaleidoを用いて推進しています。

参考:Unionbank Project i2i Case StudyProject i2i: Blockchain Case Study for Payments in the Philippines

まとめ:Kaleidoはテストから本番環境までカバーするフルスタックBaaS

本記事でも紹介したように、Kaleidoは比較的シンプルな操作でコンソーシアムやプライベートチェーンネットワークを構築できるマルチクラウド・ハイブリッドクラウド対応のBaaSです。クラウドベンダーが提供する他のBaaSと比べて広範なサービスを提供しているため、EEAの仕様に準拠したエンタープライズ向けブロックチェーンを使いたい方は活用してみると良いでしょう。

Kaleidoは、イーサリアム関連のツール開発など行うブロックチェーン企業「Consensys」やEEA、Amazon AWS、Microsoft Azureなどとパートナーシップを組んでいるため、今後も実用的な機能を拡充していくと考えられます。

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