エンタープライズ向けイーサリアムの標準化団体EEA(Enterprise Ethereum Alliance)とは?

エンタープライズ向けイーサリアムの標準化団体EEA(Enterprise Ethereum Alliance)とは?

はじめに

企業でブロックチェーンの活用する際には、ネットワークへの参加者が限定されたパーミッション型(許可型)が有力な選択肢となる場合が多いです。複数の企業がノードとして参加するコンソーシアムチェーンは、企業間の協働プロジェクトなどで効果を発揮する可能性があります。

現在、エンタープライズ向けブロックチェーンの標準化やエコシステムの形成に注力している組織がいくつか存在します。グローバルなコミュニティとしては、「Hyperledger」やCordaを開発する「R3」、「Ethereum Enterprise Alliance」(EEA)が有力だと言えるでしょう。

本記事では、これらコミュニティのひとつであるEthereum Enterprise Allianceの概要や取り組みを紹介していきます。

Ethereum Enterprise Alliance(EEA)とは?

Ethereum Enterprise Alliance(EEA)は、エンタープライズ向けイーサリアムの標準化を目指す非営利団体です。EEAは2017年に設立された組織であり、以下のミッション(使命)を掲げています。

  • オープンで標準化されたアーキテクチャと仕様の提供
  • 相互運用性やマルチベンダーの選択、コスト削減を保証するために、ワールドクラスのエンタープライズ向けイーサリアムクライアントの仕様やテスト、認証プログラムの作成

エンタープライズ向けブロックチェーンのプラットフォームであり、オープンソースや標準化を指向するという点で、EEAとHyperledgerは方向性が同じですが、EEAは独自チェーンではなくイーサリアムを活用しています。

また、オープンソースのパーミッション型ブロックチェーン「Quorum」の開発もEEAのプロジェクトとして進められています。Quorumについては、別の記事をご覧ください。

EEAの参加企業

EEAには「JPモルガン」や「Intel」、「Microsoft」といった世界的な企業や、イーサリアムコミュニティに多大な貢献をしている「ConsenSys」と「Ethereum Foundation」など、200以上の企業・団体が参画しています。EEAのメンバーとして参画するには年会費を支払う必要があり、雇用人数や法人・組織の種類によって価格が変動します(年額3000ドル〜、2019年10月29日現在)。

参考:MEMBERSHIP APPLICATION

EEAのワーキンググループとイニシアチブ

EEAは3000人以上のコントリビューターで構成された開発者コミュニティを有しており、EEAメンバーが参画できる3つのワーキンググループが存在します。

  • Special Interest Groups(SIGs):特定の業界に属するEEAメンバーが、情報交換やユースケースの共有、EEAの技術仕様がその業界の要件をサポートするように協働するグループ。勉強会や会議などを通して、情報交換や協働を促進する。要件やユースケースといったSIGsのアウトプットは、EEAが策定する仕様書に反映されることがある。
  • Technical Working Groups:オープンな標準ベースの技術仕様を共同開発しているグループ。専門分野に焦点を当てたタスクフォースが編成されている。
  • Legal Advisory Work Group(LAWG):法律専門家から構成されるグループ。法律の専門家に対するブロックチェーン教育や、法律業界のおけるブロックチェーンのベストプラクティスやスタンダードを確立することなどを目的としている。

ワーキンググループの成果としては、エンタープライズイーサリアムのクライアントの仕様書などがEEAのWebサイト上で公開されています。

参考:TECHNICAL DOCUMENTS

また、この他にもEEAは、トークンを定義し、分類するためのイニシアチブ「TOKEN TAXONOMY INITIATIVE」を推進しています。

EEAとHyperledgerの取り組み

JPモルガンやIntel、MicrosoftなどがEEAとHyperledgerに重複して参画していることもあり、2018年10月からEEAとHyperledgerは提携しています。

どちらも実績のあるコミュニティであるため、この提携の影響力は大きいと言えるでしょう。具体的にはメンバーシップやユースケース、ノウハウの共有、EEAとHyperledgerの技術的互換性の担保などがメリットとして挙げられます。

参考:Enterprise Ethereum Alliance と Hyperledger が協力し、グローバル ブロックチェーン ビジネス エコシステムを推進

Hyperledger FabricがEVMをサポート

技術的な互換性の例としては、EVM(Ethereum Virtual Machine)の仕様に基づき開発された「Hyperledger Burrow」などが挙げられるでしょう。Hyperledger Burrowの研究成果は「Hyperledger Fabric」へ統合されており、Hyperledger FabricのネットワークがEVM互換言語(SolidityやVyperなど)で記述されたイーサリアム上のスマートコントラクトとやり取りできるようになっています。

参考:Hyperledger Fabric Now Supports EthereumHyperledger Fabric EVM chaincode

上記のリリースは2018年10月下旬に出されたものですが、2019年に入ってからも「Hyperledger Besu」など、EEAとHyperledgerの提携の成果が発表されています。

企業が利用しやすいイーサリアムクライアントHyperledger Besu

Hyperledger Besuは、ConsenSysのプロトコルエンジニアリングチーム「PegaSys」によって開発されたイーサリアムクライアントです。EEAのクライアント仕様を実装したものであり、以前は「Pantheon」と呼ばれていました。企業がアプリ開発に利用することを念頭に開発が進められているため、JavaベースでApache License 2.0が適用されています。

パブリックとプライベートネットワークどちらでも実行でき、コンセンサスアルゴリズムとしては、Proof of WorkやProof of Authority(IBFT2.0、Clique)が利用可能です。また、エンタープライズ向けであるため、関係者のみがトランザクションにアクセスできるといったプライバシー機能も提供されています。

参考:Announcing Hyperledger Besu

なお、Hyperledger Besuが採用されている事例としては、欧州の中小企業株式のポストトレード決済インフラを開発する「Liquidshare」があります。

参考:LIQUIDSHARE AND CONSENSYS’ PEGASYS ARE PARTNERING TO BUILD A BLOCKCHAIN FOR THE FINANCIAL INDUSTRY

まとめ:標準化とエコシステムの拡大で選択肢を増やすEEA

本記事で紹介したように、EEAはエンタープライズ向けブロックチェーンの有力なコミュニティです。独自チェーン(分散型台帳技術)を開発するHyperledgerやR3とは異なり、イーサリアムをベースとして開発を進めている点が特徴的だと言えるでしょう。

また、Hyperledgerとの提携はビジネスサイドの知見やユースケースなどのシェア、技術的互換性の担保など、多くのメリットがあります。EEAの仕様に基づくHyperledgerフレームワークも開発されており、今後も事例や使えるツールは増えていくでしょう。

エンタープライズ向けイーサリアムの標準化団体として、EEAのエコシステムはさらに拡大していく可能性が高いと考えられます。

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