Alibabaはブロックチェーン領域でどんな取り組みをしているのか

Alibabaはブロックチェーン領域でどんな取り組みをしているのか

はじめに

中国企業Alibaba(アリババ)は、7.21億人(2019年3月時点のMAU)ものユーザーが利用するECサイトを手がけています。

2019会計年度(2018年4月〜2019年3月)決算では、中国小売市場においてグループ全体の売上高が前年比プラス51%の6.41兆円を達成し、世界的な大企業として躍進を続けています。

そんな同社は、ECサイトだけでなくブロックチェーンを活用したサービスに注力している企業でもあります。

今回の記事では、同社が提供するBaaSである「Alibaba Cloud Blockchain as a Service」を中心に、同社のブロックチェーンに対する取り組みを紹介していきたいと思います。

参考:アリババグループ、2019年1-3月期及び2019会計年度の決算を発表。年間売上高が前年比51%増。

「Alibaba Cloud Blockchain as a Service」とは?

「Alibaba Cloud Blockchain as a Service」は、Alibabaが提供するエンタープライズ向けのBaaSです。

Alibaba Cloudを軸にした同サービスでは、小売、物流、行政など、顧客がブロックチェーンの構築を容易に行うことができます。

下記の図はAlibaba Cloudを用いたBaaSのアーキテクチャです。
  

最下層のPublic Cloudは インフラとしてのクラウドサービスとして Alibaba Cloudを利用します。

その上のResource LayerがブロックチェーンサービスとインフラのAlibaba Cloudの間に入り、お互いをつないでいる状態になります。

このブロックチェーンサービスレイヤー(Blockchain Platform Service Layer)がこのBaaSで提供されるメイン部分で、”Hyperledger Fabric”,”Ant Blockchain”,”Quorum”の台帳をサポートし、さらに上部のアプリケーション・ミドルレイヤーと接続を行っています。

アプリケーション・ミドルレイヤーでは、開発や保守に役立つAPIとして、スマートコントラクトマネージャーやメッセージングなどの機能を提供し、ユーザーは最上部のレイヤーでdAppsなどのアプリケーションの開発を行います。

大手クラウドベンダーによるBaaSの中では、Alibaba BaaSが唯一 Ant Finantialの提供するAnt Blockchainをサポートしています。Ant Blockchainはコンソーシアム向けのブロックチェーンで、Hyperledger Fabricとそこまで大きな違いはないのですが、今までAnt Blockchainを使っていた人にとっては、AlibabaがBaaS選定の上で有力な選択肢になるはずです。

フルマネージドで保守に必要な機能もカバーし、将来的にはマルチクラウドにも対応する予定です。

参考:Architecture
参考:Blockchain as a Service (BaaS)

中国国外でもサービスを展開へ

2018年10月24日、Alibaba Cloudは世界的なニーズの増加を理由に、自社のBaaSをグローバル展開することを発表しています。

これによって、中国だけでなく、東南アジアやアメリカ、ヨーロッパなどの主要な地域でも同サービスが利用できるようになりました。

参考:Alibaba Cloud Launches Global Blockchain as a Service

Alibabaのその他のブロックチェーンへの取り組み

Alibabaはこれまでにも、262件以上のブロックチェーンに関連する特許を出願しています。

この数は、同じく中国のTencent(80件)やBaidu(50件)を大きく上回る数値で、ブロックチェーンに関連した事業や開発に力を入れていることがわかります。

ここからは、そうしたAlibabaのBaaS以外のブロックチェーンへの取り組みをいくつか見ていきましょう。

参考:京东已申请近200件区块链专利BAT区块链专利数量稳居世界20强

Alipayのクロスボーダー送金

Alibaba子会社のAnt Financialが手がける決済サービスAlipayは、ブロックチェーンを使ったクロスボーダー送金の試験を行っています。

クロスボーダー送金の市場は、これまでSWIFT(国際銀行間通信協会)が中心となり行っていましたが、高額な送金手数料や長い送金時間が問題視されていました。2018年の6月に行って実験では、送金にかかった時間はわずか3秒だったそうです。

一方、中国の投資銀行である中国国際金融(CICC)は、Alipayのクロスボーダー送金を利用することで、フィリピン人労働者が年間約14億円のコストを削減できるという評価レポートを出しています。

参考:アリペイの国際送金サービス 年間14億円節約か|SWIFTに挑戦 リップルのライバルか

イスラエルのセキュリティ企業QEDITへの出資

Alibaba参加のAnt Financialは、イスラエルに拠点を構える企業QEDITに出資しています。

QEDITはゼロ知識証明を活用した、ブロックチェーンのセキュリティソリューションを開発しています。

ゼロ知識証明とは情報の詳細を明かさずに、その情報が正しいことを証明する技術のことで、ブロックチェーンと併用し既存のビジネスなどへの応用も期待されています。

たとえば、オランダの総合金融機関であるINGグループなどもゼロ知識証明を使ったブロックチェーン開発を行っており、実用化が進めば年収を公開しなくてもローンが組めたり、住所を公開しなくてもEU在住であることを証明できたりなど、さまざまなメリットが生まれます。

Ant Financialのゼネラルマネジャー兼副社長でもあるジョフ・ジャン氏は出資に関して、今後の事業拡大に伴い、ブロックチェーンに関連したサービスにおいて、プライバシー保護を徹底したい意向を示しています。

知的財産保護システムへのブロックチェーン導入

Alibabaはブロックチェーンを活用した、企業やブランドのデジタル資産の保護を行うシステムの構築も行っています。

同システムを通して、インターネット裁判所へ電子入金などを行うことができるようで、プロジェクトの責任者でもあるリー・シーハン氏は、2018年9月を目標に稼働できるようにしたいと述べています。

天猫の偽造品防止プロジェクト

中国内におけるB2Cの最大級ECサイトである天猫において、Alibabaは偽造品防止をブロックチェーンを利用して防止するプロジェクトを進めています。

国をまたいで輸出入される商品に対し、サプライチェーンの監視を行いデータの真贋性をブロックチェーンで担保する、というもので、以下のような流れで偽造品防止を行います。

① 出品企業はタグを通じて真正な製品であることを証明する

② 買い物をしたユーザーは、商品が到着後に、商品に同梱されているQRコードを読み込む

③QRコードをスキャンすると、工場での検査結果や品質調査の結果などが表示され、経由した地域や国が表示される

以下のサイトで、デモ画像が確認できます。

如何让进口商品拥有正品“身份证”?解析区块链技术在天猫国际商品溯源中的应用

まとめ

以上、Alibabaのブロックチェーンに関する取り組みについて解説してきました。

Alibabaと同じく海外を拠点に大規模なECサイトを展開するAmazonも、独自のBaaS (Amazon Blockchain Service等)を提供しています。
以下の記事でも簡単に紹介していますので、参考にしてください。
  

  
小売業者との結びつきが強いこうした企業が信頼性の高いトレーサビリティを提供することは、自社サービスの向上や事業拡大に繋がる可能性も高いといえます。

今後の動向からも、ますます目が離せません。

  

編集・追記:Hideyuki Hara

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